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5人姉妹の末っ子で、カトリーヌ・ドヌーヴ好きな“おませな子供”
― 突然ですが、南さんは5人姉妹の末っ子と伺いました。姉が4人もいる人は珍しいと思うのですが、どのような幼少期を過ごされたのですか。
南 : そうなんです。姉が四人もいたので、すごくませていた子供でしたね。当時は姉に連れられて映画を観に行っていたので、洋画しか観ていなかったんです。だから、子供のときに好きだった女優はカトリーヌ・ドヌーヴやオードリー・ヘプバーンでした。
― いくつのときですか!?
南 : 小学生のときです。そんな小学生だったので、周りとは話が合いませんでした。「ドヌーヴって何?」って言われて(笑)。
― 5人姉妹だと、喧嘩なんかも激しそうですね。
南 : 私を含めて5人いるので、いろいろな組み合わせで喧嘩ができるんですよね。たとえば、すぐ上の四女と喧嘩をしても三女が助けてくれたり、次女に助けを求めたり。あとは対立するときも助け合うときも、1対1だけではなくて、2対1になったり、3対2になったりと、5人もいるのでいろんな組み合わせができたんです。そういうところがすごく良かったですね。
― 5人いると、1対1で敵対することは、その分少ないかもしれないですね。
南 : そうですね。ただ、私は末っ子だった分、姉のちょっとした理不尽さは感じていました。「お姉ちゃんは得しているな」って思っていましたし。そういう部分は、今回出演した『オー・ルーシー!』の役づくりに生きているかもしれないですね。本作は、寺島しのぶさん演じる43歳・独り身の節子の人生が、あるキッカケから動いていくという映画なのですが、私は節子の姉・綾子を演じました。この姉妹は二人な分、一旦糸が絡み合ってしまうと、なかなかほどけなくなってしまうんではないかなと思います。節子と綾子それぞれが、それぞれの悩みを持っているけれど、ミドルエイジになってもお互いに歩み寄れない。ねじれた鎖をほどけないまま、綾子の娘・美花を探しにカリフォルニアへ旅立つことになります。でも、二人とも欠落した部分を持ち合わせていたから、コメディーとしても見せられたところはありました。
― 寺島しのぶさんとの喧嘩のシーンは、思わず笑ってしまいました。本当の兄妹喧嘩のように凄まじくて。
南 : そういえば、予告編を見た友達が「姉妹に見える!」って連絡してきてくれたんです。しのぶちゃんとは舞台で1度共演したことがあったんですけど、映画は初めてでした。私としては、とてもやりやすい相手でしたね。姉妹で喧嘩する場面なんて、ちょっと段取りを決めて、あとはぶっつけ本番。二人ともかなりエキサイトして、段取りとはちがう声が出たり、違う手がプラスされたり(笑)。そういう意味では、組み合うことがすごく楽しい相手だったので、とても信頼できる共演者でした。役では激しい関係なんですけど。
異文化の風を感じる現場でうけた、新たな刺激。
― 今作は日米合作ということで、ロサンゼルスでの撮影はスタッフも現地の方で行ったそうですね。また平栁敦子監督も高校生のときに渡米されて以降、アメリカを拠点に生活・活動されている方ですね。
南 : 平栁監督は、はっきり言葉を伝える方でした。曖昧な表現っていうのがあまりないんです。だから、私が「このシーンはこういう感じでやってみたいんですけど、どうですか?」って伝えても「ああ、それね。このシーンでその表現はなくていいです」ってはっきり、ばっさり言うんですよ。でも、それが私は心地よかったです。その方が監督のシーンの捉え方やイメージすることがダイレクトに伝わってくるので、監督の白黒はっきりした物言いは好きでしたね。
― 平栁監督とは現場でどのようなコミュニケーションをとられたんですか。
南 : 娘の恋人・ジョン(ジョシュ・ハートネット)と私がコーヒーショップで娘の話をしている結構シリアスなシーンの撮影の最中、モニター前で「クックック……」って監督が肩を振るわせているんです。「泣いていたのかな?」と思ってそのことを聞くと、「泣いているんじゃないのよ、笑ってたの」って(笑)。「あーそうですか!」って感じで。そういう自分が感じたことをダイレクトにその場で表現する、本当に率直で無邪気な監督だったので、その分とても撮影が楽しかったですね。
― ロスでの撮影で、日本と違って驚かれたことはありましたか。
南 : 助監督が監督に平気で「このシーンは何時までに撮らないと間に合わないですよ!」って言うんです。日本だと「監督が撮りたい絵をなんとかサポートしなきゃ」と、助監督を始めとした監督のまわりにいる我々が現場を盛り上げていく感覚なんですけど、アメリカでは個人個人が独立して役割を全うしているという印象を受けました。あと、印象に残っているのはジョシュとのお芝居。彼との演技のキャッチボールは楽しかったですね。
― 先ほど、監督が笑っていたというジョシュ・ハートネットさんと南さんのシーンは印象的でした。今回、ハリウッドスターの地位を確立したあと、私生活を優先しハリウッドから少し離れていたジョシュ・ハートネットさんは、この脚本に惚れ込み、出演オファーを快諾したそうですね。近年、彼は新人監督によるインディペンデント映画に積極的に出演していると聞きました。
南 : 彼と演技を共にして、より一層、彼が繊細な心の持ち主だということを感じとることができました。同じシーンをカメラを切り返して何回も撮ったりするんですけど、その時々でジョシュの新鮮な感情がふわっと現れる。そうすると私も変わるし、またジョシュも変わってくる。そういう意味でも新鮮な現場でした。
― 南さんにとって、異文化な環境でのものづくりは、新たな刺激となったことがわかりました。
南 : 今回は、日本の撮影が終わったらすぐロスで、スケジュール的には余裕がなかったんです。けれど、現地の風とか気候とか、行かないと感じられないことがたくさんありました。節子も綾子もそんな楽しい旅の始まりではなかったんだけれども、ロードムービーなのでそれぞれに旅の終わりを迎えることはできました。ラストは心が温まる、私の好きなシーンなんです。それぞれの役柄で、いろんな人生を感じられる映画になっていると思います。
あと、わたし女性監督と撮影するのは初めてだったんですよ。そこもすごく新鮮でした。この先、どんどん女性監督が進出して、女性監督と仕事する機会が増えればいいなって思いましたね。