目次
全作観ていると
寅さんを嫌いになった瞬間があった
― 今日は、テレビドラマ『恋はつづくよどこまでも』(以下『恋つづ』)の撮影以来、半年ぶりにお会いになったそうですね。
昴生 : そうなんです。
毎熊 : はい。
― 昴生さんが1986年生まれの34歳で、毎熊さんが1987年生まれの33歳。同世代ということで、共演以来とても仲良くなられたと伺いました。現場ではどんなお話をされていたんですか?
毎熊 : 大した話はひとつもしてなくて(笑)。
昴生 : そうそう、ほんまに(笑)。
毎熊 : 今日何食べる? とかのご飯の話(笑)。
昴生 : ドラマの中では、僕の役が毎熊さんの役を慕う関係だったので、普段もそういう感じでしたね。
毎熊 : …そうでしたか? 慕ってました?(笑)
昴生 : 違うんですよ! 毎熊さんが天然で! どうしても突っ込む感じになっちゃうんですよ(笑)。
昴生 : だって、みんなで話してたら、毎熊さん「あれ? 今何話してましたっけ?」って、すぐ話を見失うんです!
毎熊 : そういうところは……あります(笑)
― あるんですね(笑)
昴生 : あと、気づいたら「え? 毎熊さんだけ、違う話してない?」みたいな、一人だけ別の話してたりして…。
毎熊 : 紙一重で話が合うときと、合わない時がありますけど…『恋つづ』は、合わない率が高かったのかな…?(笑)
昴生 : ほんま高かった! 全員で毎熊さんの話に「え?」となって笑いあったり。なんか、懐かしいです。
― 『恋つづ』は2020年の1月〜3月の放送でしたので、ちょうど新型コロナウイルスで緊急事態宣言が東京に出る前の撮影だったんですね。
昴生 : そう。みんなと撮影スタジオまで一緒に向かうこともあって。撮影と撮影の時間が空いてる時は、楽屋に戻らないでスタジオの喫茶店に集まって喋って。そろそろ眠くなってきたなーってなったら。
毎熊 : 一回楽屋戻るかーと、寝に戻ったり。
― 部活の合宿みたいですね。
昴生 : めちゃくちゃ仲良くなりました。
毎熊 : こんなことあるんだなってぐらい。
昴生 : 僕は普段バラエティ番組や劇場で活動させていただいているので、ドラマはすごい緊張したんです。それをうまいこと和らげていただいて。ほんまに感謝してます。
毎熊 : それは逆もしかりです。
― 実は、お二人の取材を進めるにあたって、ちょうど昴生さんがお忙しい時期だったので、もし難しいとなったら別の方で…という案もあったのですが、毎熊さんから「昴生さんと対談したいです」とおっしゃっていただいて。
昴生 : え!? ほんまですか? 昴生がいいと!?
毎熊 : ハハハ…いやいやいや(笑)
昴生 : え……嬉しい…。もう、そういうとこあるんですよ〜。
毎熊 : ほら、昴生さんが『男はつらいよ』を好きだってことも知ってたから。
― 撮影現場でそういう話もされたんですか?
毎熊 : ちょうど僕がドラマ『少年寅次郎』で、寅さんの父親役を演じた後だったんです。
― 『少年寅次郎』は2019年10月からNHKで放送された、『男はつらいよ』の主人公・寅さんこと車寅次郎の少年時代を描いた連続ドラマですね。山田洋次監督が寅さんの少年時代を描いた『悪童 小説 寅次郎の告白』を、脚本家の岡田惠和さんが紡ぎドラマ化。寅さんの育ての母“車光子”を井上真央さんが、その夫であり寅さんの父である“車平造”を毎熊さんが演じています。
毎熊 : ドラマの話題になった時、昴生さんが『男はつらいよ』が好きだという話になって。その時はまだ作品を見てないということだったんですが、その後わざわざ「見ました!」と連絡をいただきました。本当に、『男はつらいよ』がお好きなんだなと。
昴生 : いや、めちゃくちゃ面白かったんですよ、『少年寅次郎』。一緒に撮影してる時は、まだ観てなかったので、どんな話かあえて深くは聞かなかったんです。『恋つづ』だと毎熊さん、優しくて穏やかな性格の役柄だったから、寅さんのお父さんの役をどんな感じで演じてるんだろうって想像ばっかりが膨らみました。
― 『少年寅次郎』で毎熊さんが演じる“車平造”は、家業に精を出す気もなく遊んでばかりのダメ親父ですね。寅次郎に辛くあたることもあって。
昴生 : 毎熊さん自身もシャイで照れ屋で優しいし、この破天荒な男の役を演じられるんだろうかと思っていたら……って、この話に入るのはまだ早かったですか?(笑)
― 全然大丈夫です(笑)。昴生さんは、『少年寅次郎』を見る前から、『男はつらいよ』がお好きだったということですが、何かきっかけがあったんですか?
昴生 : 何がきっかけかな? 小さい時から何となく観てたんで、これというきっかけはないんです。でも、何作か観てて「好きやなー」とは思っていたけれど、シリーズ全作は観ていなかったし、その時はハマるというほどではなかったんですよ。
― 『男はつらいよ』は1969年に第1作が公開されてから、28年間にわたって49本が製作されたシリーズ作品です。2019年には新作『男はつらいよ お帰り 寅さん』(2019)が公開され、50作になっていますね。
昴生 : いつか全部観たいな…と思っていたら、今年の4月に緊急事態宣言が出て仕事が休みになって。「今や!」と思って、全作一気に観ました。
― それは第1作から順に?
昴生 : いや、ジュリー(沢田研二)さんが出演している作品を最初に観たんです。
― マドンナを田中裕子さんが務める第30作『男はつらいよ 花も嵐も寅次郎』(1982)ですね。
昴生 : 僕、この作品を鮮烈に覚えているんですよ。それは、母がジュリーをめっちゃ好きだったから。多分、繰り返し観たんでしょうね。それで、まずこの作品を初めに観たんです。そしたら、やっぱり面白くて。それで、これは第1作から順に観ようと思って、一気に観ました。
― ドラマ『少年寅次郎』で、寅次郎の生みの親“お菊”を演じた山田真歩さんも、第17作『寅次郎 夕焼け小焼け』(1976)をきっかけに全作鑑賞されたそうです。そのことを「山登り」に例えていました。
毎熊 : あー、ドラマの撮影現場で言ってましたね!
昴生 : いや、わかる。シリーズ全作観ていると、“起伏”が出てくるんですよ。例えば、途中で寅さんのこと嫌いになった瞬間があって。
― 寅さんを嫌いになったんですか?
昴生 : そう。2、3回。
毎熊 : (笑)。
昴生 : 「何やねん! 定職にもつかずフラフラしてるくせに、柴又の家に帰ってきては家族の悪口言うたりして!」って、めちゃくちゃ腹たって。
― 寅さんは、放浪の旅暮らしの中、テキヤで生計をたてているフーテンです。毎回、旅から東京、葛飾柴又の門前にある老舗の草団子屋「くるまや」に帰ってきては、ひと騒動起こし、旅に戻るということを繰り返しています。
昴生 : メロン(※)とか言ってる場合じゃないでとか思ってたんですけど、なんかその気持ちがだんだん愛に変わってきて…寅さんをいつの間にか愛してしまってるんですよね…。今思うと、腹がたったのも愛の裏返しというか。
昴生 : だんだんシリーズが最後に近づいてくると寂しくなってきて。後半から、話の中心が満男に変わってくるじゃないですか。もちろん、それも面白いんだけれど、やっぱり寅さんの恋路も観たい。
― 満男は、寅さんの妹・さくらの息子で、甥にあたりますね。第42作より、新作にも出演された後藤久美子さんが満男の初恋の相手・泉として登場し、満男と泉の恋路も描かれます。リリーは、新作を含めると6作にわたって『男はつらいよ』シリーズに出演した、浅丘ルリ子さん演じるマドンナです。
昴生 : 僕らは知ってるわけじゃないですか、第48作の出演を最後に渥美清さんが亡くなることを。あと何作で終わりか…そう思っていたら、第48作でリリーが登場する!
毎熊 : しかも撮影場所は、映画『男はつらいよ』が生み出されるきっかけとなったテレビドラマの最終回の舞台、奄美大島!
昴生 : 運命的なものを感じるよな…。全部観終わった後、この気持ちを誰かと分かち合いたくなって、SNSで『男はつらいよ』のクイズを僕に出してくれって募集したんですよ。
男はつらいよ全48作品、見ました。
— ミキ 昴生 兄 (@mikikouseiani) April 25, 2020
笑って泣ける日本が誇る最高の映画でした。
好きな人、クイズください。あっしが答えます。
昴生 : そしたら、みんな結構難しい問題を出してきて!
毎熊 : (笑)どんな問題が出たの?
昴生 : 寅さんが中退した学校といえば?
毎熊 : 知らない!
昴生 : 葛飾商業やねんて。
毎熊 : それは難しい!
― 松竹映画『男はつらいよ』公式サイトの車寅次郎紹介ページにも載っています!
昴生 : 色んな方がクイズを出してくれて、『男はつらいよ』にはたくさんのファンがいることを実感しましたね。
家族のように、寅さんを想う
― 毎熊さんは、その多くの人に愛されている『男はつらいよ』の主人公・寅さんの父親を、ドラマ『少年寅次郎』で演じることが決まった時、どんなお気持ちだったんですか?
昴生 : それ聞きたい!
毎熊 : 最初は実感がなかったです、あまりにも有名な人物の父親役だったので。でも、撮影が近づくにつれて、「これはまずいことになったぞ…」と。
― だんだんプレッシャーが。
毎熊 : そうなんです。
― 『少年寅次郎』には、『男はつらいよ』でおなじみのさくらやおいちゃんの車竜造、おばちゃんの車つね、御前様などが登場しますが、毎熊さんと井上真央さん演じる寅さんの両親は『男はつらいよ』では描かれていません。なおさら演じるのが難しかったのではないでしょうか。
毎熊 : 「僕が演じる平造の影響を受けて、車寅次郎がいる」ってことを考えたんです。だから、役のヒントは寅さんにあると思いながら作品を観ていましたね。とにかく家にいるときは『男はつらいよ』をずっと流してました。観客として観る、というより、その世界に入るというのに近かったと思います。
― 昴生さんは『少年寅次郎』をご覧になっていかがでしたか?
昴生 : こんなに優しい毎熊さんが、卑劣なお父さんを演じることできるのかなと心配してたんですけど……見事に演じてました、卑劣さを!
一同 : (笑)!
昴生 : でも、冷たい中に愛情も垣間見えて。あー、寅さんの父親ってこんな感じなんだろうなっていう破天荒さでしたね。
毎熊 : 役柄とその関係性も考えて、最初は少年期の寅次郎を演じる藤原君と撮影以外でも話さないほうがいいかと思ってたんです。でも、「お父ちゃん、お父ちゃん」と言って楽屋に遊びに来てくれるんですよ。
昴生 : そりゃ、無視したら鬼やわ〜。
毎熊 : いや、本当に可愛くて。だから、撮影が終わって改めて『男はつらいよ』を観ると、「俺のせいで息子が…」と他人事として観れないというか、どうしても私情が入ってしまいます(笑)。
昴生 : それはわかる。出演してなくても、寅さんのことを他人事としては見れない。「寅さんにそんな気を使わんでええ!」と、どうしても思ってしまう!
昴生 : だって、寅さんがくるまやに帰ってきたら「今までどこにいたの!?」って叱責してもいいぐらいなのに、おいちゃんもおばちゃんもさくらも、「2階に布団ひいて休むか?」って。寅さんも「おう、わかった」って…。
わかったじゃあらへん! 家の手伝いをさせたらいいねん!! みんな、寅さんを甘やかしすぎなんですよ〜。
毎熊 : (笑)
― (笑)。寅さんじゃなくて、くるまやの家族の視点でご覧になってるんですね。
昴生 : そうです、僕が寅さんみたいなタイプじゃないからというのもあるかもしれません。どちらかというと、亜生が寅さんタイプというか。
毎熊 : あー、なんかわかる感じがします。
昴生 : 亜生の機嫌で家の空気が変わりますからね。
毎熊 : そうなんですか?
昴生 : そうなんですよ。だから、そうは言ってもくるまやの家族の気持ちはわかるんです。なんで寅さんのことをみんな許せるかというたら、やっぱり家族だから。僕も弟と一緒に仕事してますけど、亜生のこと全部わかってるんで、どんなことしても許せるんですよ。その気持ちとやっぱり似てるなって。
昴生 : 車家という家族は、父親がいて母親がいて子供がいるという、いわゆる「普通の家族の形」ではないから、とも思います。今も昔も、家族の形はそれぞれに違うし、血縁だけじゃないし。
― 寅次郎とさくらは異母兄弟で、二人を育てた父母が亡くなってからは、おいちゃんとおばちゃんがさくらを育てます。そのエピソード0が『少年寅次郎』で描かれていますね。
昴生 : だからこそ、より強く繋がっているんじゃないんですかね。
毎熊 : それは僕も演じていて感じました。くるまやの中にいると、心が豊かになった気がするんですよ。今だったら僕が演じた平造も寅さんも、なかなか許されにくい生き方じゃないですか。
昴生 : 平造は愛人との子供を、妻に育てさせてるんですからね。自分は働きもせず育児もせず。
毎熊 : でも、「家族」という今よりも広い意味を持った器で、ちゃんと受け入れてもらってる。育ての母の光子も愛を持って、寅を育てている。
昴生 : 家族を裏切ることもあるけど、最後の最後、味方はそこしかいないですもんね。僕も、亜生と妻とおとんとおかん。最低限、この4人が笑ってくれるなら、自分の存在はそれでいいなと思ってるんです。
色々他人の声が届きやすい世の中だけど、他人にどう言われようと4人が満足してくれたらそれでいい。生き方としては、芸人やってる僕も寅さんと同じだと思います。
― それは、どういうところがですか?
昴生 : 今でこそ、この仕事でご飯食べられるようになりましたが、つい5年ぐらい前までは食べれませんでしたから。家族の期待を裏切ってきたわけで。
でも、寅さんなんか、ずっと裏切り続けてますからね。そこで寅さんが素晴らしいのは自分の生き方に「後ろめたさ」がないっていう。僕は、やっぱりずっと家族に対して後ろめたかったから。
昴生 : 大学出してもらってるのにというのもあったし、弟を誘って一緒にやってるというのもあったし。それやのに、なかなか芽が出なくて、親孝行もできてないのは…って。でも、寅さんからは全く感じないですよね、後ろめたさ!(笑) 「フーテンの寅」とか名乗り方もかっこよすぎるんですよ!
毎熊 : (笑)。実際、かっこいいんですよね。寅さんという一人の男の生き方を見たとき、かっこをつけるところは、つけた方がいいんだなと思わされるんです。自分にもそういう理想の「かっこよさ」ってあるんですけど、この1年を振り返っても、なかなか思うようには生きられてない。
― 毎熊さんは、映画がお好きで、映画の道に進むため上京されたと伺いました。
毎熊 : 映画の世界で生きていこうと目指してきましたが、やっぱり別の仕事に就くことを考えたこともありましたし、家族にも「大丈夫かな?」と心配されていたと思います。だから、自分で選んだ道をずっと選び通すという難しさはすごいわかります。
毎熊 : 寅さんも「幸せな生活」を選ぶ道もあったと思うんですよ。でも、自分の美学が許せなかったんじゃないかな。それを最後まで変わらず貫き通すというのは、憧れでもあります。
昴生 : …僕は、寅さん変わっても良かったと思いますよ!
毎熊 : (笑)。
昴生 : 何度かあったでしょ! 想い人と結ばれるチャンス。意気地なしなんですよね…。家族をつくることに対しての怯えがあるんかな…。結局、一人が好きなんでしょうけど。
毎熊 : 僕は、寅さん見てると、じいちゃん思い出すんですよ。じいちゃん子だったんで。じいちゃんに会いたくなりますね。
― どんなおじいちゃんだったんですか?
毎熊 : ちょっとワルな感じでかっこよかったんです。
昴生 : あの世代の方にしかない雰囲気ってありますよね。物言いとかも、歯に衣着せぬ感じで。くるまやのみんなも結構ストレートに伝えてますし。気を使うのは、寅さんが帰ってきたときだけ(笑)。そういう存在がね、周りにいていいと思うんですよ。人の心に入ってきては去っていく、寅さんみたいな人がおったらなと、ふと思う時があります。
…僕、こうも考えてしまうんです。もし、寅さんが現代におって、僕の周りにおったら、僕は寅さんのことを許せるんかなって。こういう人の存在を煙たがったりせーへんかなって。自分の心の許容範囲どのくらいなんやろうと。
…やっぱり全作観てると、色んな感情で寅さんのこと観てしまいますね。