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何かしらの傷跡を残してほしい
― 加藤さんは、休みの日に映画館をはしごするほど、映画がお好きだそうですね。最近もtwitterで『チワワちゃん』と『サスペリア』を、はしごしたとつぶやかれてました。
加藤 : 最近は休みがあると映画館をはしごしています。劇場の椅子の感じとか香りとか、いろんな人たちと一緒に観るからお客さんの反応を共有できることとか、映画館のあの雰囲気が大好きで。去年出演した映画『ギャングース』で共演した渡辺大知くんもすごく映画を観ている方で、大知くんに「なんでそんなに忙しいのに映画観れてるの?」と聞いたら「寝る時間を削ってる」と言っていたんですよ。それをきっかけに、より観るようになりましたね。
― 映画はいつからお好きなんですか。
加藤 : 中学生からです。僕は静岡県出身なんですが、地元の七間町には以前、映画館がたくさんある通りがあって。今はもうどこも閉じちゃったんですけどね。中学生の頃は週末に通っていました。当時は、はしごはできないんですけど(笑)。そういう意味では今は贅沢しちゃってます。
その頃は、主に大作の洋画を観ていました。『スパイダーマン』とか『バイオハザード』とか『パイレーツ・オブ・カリビアン』とか『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』とか。
― 今はどんな映画がお好きですか?
加藤 : 今は韓国映画が好きです! すごくのめりこんで観られるんですよ。『母なる証明』(2009)がめっちゃもう…! 「やばいやばいやばいやばい!!」「どひゃー!」と思いながら観ていました(笑)。最後が、もう……ぜひ観てほしい(笑)。心がえぐられますよ!!
― 心がえぐられるんですね(笑)。
加藤 : 『オアシス』(2002)というラブストーリーもオススメです! 脳性麻痺を患った女性と刑務所から出所した青年の恋愛を描いた作品です。これもえぐられます!!
― (笑)。えぐられるのがお好きなんですか?
加藤 : そうですね(笑)。せっかく観るなら、何かしら傷跡を残してほしいという気持ちがあって。トラウマ級に傷を残してくれた作品には「ブラボー!」ってなります。
― 「傷を残してほしい」「えぐられたい」というのは、どういうことなのでしょうか。
加藤 : 心を動かしたいんですよね。映画を観て、心をトキメかしたい!
― 加藤さんにとって、「心をえぐられる」映画は、最大級に心が動いているということですね。普段も心を動かすことはあると思いますが、なぜ映画でも心を動かしたいのでしょう?
加藤 : 映画は、感性を豊かにしてもらいたいと思って観にいく訳ではないけれど、結果感性を刺激したり、人生経験になっていたりすることもある。そういう風に「カタチのないものを、お金を払っていただける」からだと思います。だから、映画鑑賞だけでなく、演劇鑑賞や読書も僕にとって特別です。
― では、加藤さんにとって一番「心がえぐられた映画」は、何ですか?
加藤 : ラース・フォン・トリアー監督の『ダンサー・イン・ザ・ダーク』(2000)です。何回も観てしまいます。初めて観たときは思わず拍手しちゃいました。以前、オールナイトでフィルム上映されたときにも観に行ったくらいで。もう、さいっこうです!
この作品はビョークさん演じる主人公が、つらい現実世界から離れ、妄想世界に入り込むシーンがミュージカル仕立てにはなっているんですが、現実のシーンはなんだかドキュメンタリーを観ているような感覚になるんですね。本当なのか嘘なのか、わからないような。
― 映画の中の世界が“本当なのか嘘なのか”わからないからこそ、余計に心が動かされるんですね。
加藤 : それからドキュメンタリーというものに興味が湧いて、ドキュメンタリー作品を観るようになったんですよ。最近では、ドキュメンタリーを観て役づくりもするようになりました。観客の皆さんに、僕が『ダンサー・イン・ザ・ダーク』の世界に入り込んだように、より作品の世界にのめり込んでもらいたくて。
昨年公開された映画『ギャングース』(2017)では、少年院あがりの少年・カズキ役を演じるために、少年院を追ったドキュメンタリーを観ました。
加藤 : ラース・フォン・トリアー監督は、現場の役者にもそれを求めていて「どんなときでも役として現場に存在していてほしい」っていう要望を出すそうです。だから現場は本当にしんどいと聞きます。
ラース・フォン・トリアー監督の『ドッグヴィル』(2003)という作品があるんですが、公開後にこの作品のメイキング『ドッグヴィルの告白』(2003)っていうドキュメンタリー作品も出たんですよ。告白ボックスみたいな場所で撮影中の役者さんたちが「もうしんどいです…」みたいなことを呟いていて…(笑)。だから、本当に撮影している間は、しんどかったんだろうなって。
― 現場がしんどかったとしても、加藤さんは『ダンサー・イン・ザ・ダーク』のビョークのようになって、誰かの心をえぐりたいと思っているんですね。
加藤 : ほんっとに、ビョークさん素晴らしいんですよね…本当に…。
最近、音楽で表現されている人たちの研ぎ澄まされた感性をすごいなって思うことが多くて。この間、『アリー/ スター誕生』(2018)という映画を観たんですが、あれも本当にレディー・ガガさんが素晴らしかったですし。それこそ『ギャングース』ではミュージシャンの方が多く出られていて。MIYAVIさんはもちろん、渡辺大知くんも黒猫チェルシーっていうミュージシャンですし、金子ノブアキさんもRIZE(ライズ)のドラマ―さんですし、般若さんもラッパーです。
― 映画を観たり、音楽家の方達を側で感じたりすることで、「感性を研ぎ澄ませるにはどうしたらいいか」そのヒントをつかめましたか?
加藤 : ミュージシャンの方が、歌を歌うときにどう感情を込めるかを考えるように、どうやったらこの感情が“伝わるか”っていうのを考えることが重要なんじゃないかなと、今は思っていますね。
思いっきり表現するために
“人との距離感”は大切
― 一方で、『ダンサー・イン・ザ・ダーク』とベクトルが真逆に向いているコメディ作品にも、加藤さんは多く出演されています。コメディの作品は加藤さんにとってどのような存在ですか?
加藤 : 僕『スウィングガールズ』(2004)とか『ウォーターボーイズ』(2001)とかすごい好きなんですけど、「ああ! あるある!!」って登場人物に共感できるところが好きです。コメディ作品をつくる現場は、笑いに満ちている空気がすごく好きですね。「いいじゃん、それやろうよ!」って、アイデアを出しやすい雰囲気はコメディならではだなと思います。
― 最新作『翔んで埼玉』も、コメディ作品です。「埼玉」「千葉」「東京」など、リアルな地名が出てくるのに、役者は宝塚歌劇団や時代劇のような格好で、いたって真面目に演じられている。「私はなにを観ているんだろう」って何度も思いました(笑)。
加藤 : なりますよね(笑)。僕も台本をいただいて、正直「なにこれ!」ってなりましたし、映画でどうやるんだろうって思いました。でも完成した作品を観ると、お祭りな感じで、すごく爽快感もあって。それに、コメディ作品ではありますけど、ずっと虐げられていた“持たざる者”である埼玉県人たちが、“持てる者”である東京都民の悪に立ち向かうという……まあ、それが悪かどうかはわからないですけど(笑)、その構図にメッセージも込められていたと思います。
― コメディ作品でも、ドキュメンタリーのような作品でも、共通して加藤さんがものづくりをする上で大事にしていることはなんですか?
加藤 : 空気です。だから、よく周りの人にも「気つかい」って言われますね。すごく人に気を使うタイプだって。これは無意識でやっている部分もありますが…
― でも、そうやって気を使っていると、疲れたりしないですか?
加藤 : 人によっては、気疲れしちゃうときもありますよね…ハハハハ(笑)。ただ僕は顔に出ちゃうほうなので、嫌そうな顔とかしちゃう前に一旦距離を置いて、休憩してからまたっ…て。
一緒に何かをつくるとき、相手のことを「怖い」と思ってしまうと自分も思い切り表現できなくなるじゃないですか。だから、ものづくりをする上で人との適切な距離は大事かなと思います。できるだけ、作品ができあがったときに「よかったね」と言えるようにしたいという気持ちがすごくあるから。でも、プライベートでは仲いい子だけと会うって感じです(笑)。
― その気づかいというか優しさが、画面越しから滲み出ているように思います。
加藤 : 確かに、そういう役が多いのかもしれないです。『ギャングース』でも、人を殺して少年院に入った役ではありますが、やさしい心の持ち主でしたし。でも、そのとき感じたのは「そもそも人間は根っからの悪い奴はいないかもしれない」ということです。
だけど『ダークナイト』(2008)のジョーカーみたいな“悪の象徴”のような役は、いつかやってみたいですね。
― 優しさが消えた加藤さんが演じる悪役は、相当心をえぐると思います!パタリロを実写で演じられるほど、すでに印象深いキャラクターなのに!!
加藤 : 僕、昔、ドラマ『ごくせん』のオーディションを受けて落ちちゃったことがあるんですよね。でも、そのときに審査されていたプロデューサーさんが10年の時を経て、別の作品で呼んでくださったことがあって。その作品で、知らずにプロデューサーさんとお会いしたときに、「『ごくせん』受けてたよね」と言われたときには「えー!」と驚きました。
― 約10年の時を超えて印象に残っていたんですね!
加藤 : 『ごくせん』って不良の話なので、オーディションを受ける人はみんな用意された学ランを着崩していたんですが、僕はピッチリ襟を上までとめて「キューブ(加藤さんが所属する事務所)から参りました加藤諒です!」ってやっていたからですかね(笑)。