目次
図々しくていい、芯が温かければ。
そんな家族って希望だと思う。
― 『家族はつらいよ』シリーズも3作目で、平田家の面々もさらに遠慮をしない関係になった気がします。あつかましさが増しているような。家族っていい意味で、図々しさを出せる場所なんだなと。
蒼井 : 平田家の人たちって、図々しいですよね。たいがいひどいこと言い合っていますし、実際にはあまりいない家族だと思うんです。当初は末っ子の嫁、という立場でおとなしかった憲子も、今作では旦那の実家に来てすぐに焼きそばを食べたり、第一ボタンを外していたりと、作品を重ねるごとに次第に図々しくなってきました(笑)。でも平田家は、観ていて「これでいいんだ」と気持ちが楽になるというか、希望だと思うんですよね。最低だけど最高な家族である理由は、根っこがものすごく温かいからだなって。だから私は、山田監督の映画が好きなんだよなと映画を観ながら思いました。今回が一番好きですね。大人の色気がある、ヨーロッパ映画のように感じました。
妻夫木 : あまり無理することなく、だからといってお互いを気にしないわけではなく、平田家のように家族は凸凹のままでいいと思うんですよね。『家族はつらいよ2』(2017年)のときも感じたのですが、「家族ってこれでいいんだ」と改めて思いました。究極まで溝が深くなってしまったら取り返しはつかないかもしれないけれど、何かあったらあったで真摯に自分の想いを相手に伝えれば届くはずです。完璧な家族なんていないので、凸凹のままでいいと考えるようになりましたね。
― 劇中での皆さんの会話もテンポよく、家族としての図々しさが笑って泣けるいい物語になっていると感じました。今作での、そうした平田家のあけすけな会話の中で、お好きなセリフはありますでしょうか?
妻夫木 : うーん、難しいですね……喜劇的な言い回しという点から選ぶと平田家の母・富子(吉行和子)が「このまま転んだらお墓に入っちゃうわ」という台詞が好きですね。この台詞はちょっとシリアスな言葉なのに、吉行さんがのんびりした口調で言うのでおもしろいんです(笑)。富子というキャラクターのボキャブラリーがにじみ出ているセリフだなあ、と思いましたね。
蒼井 : セリフというよりもシーンになってしまうのですが、今回のお義兄さん(西村雅彦)のシーンはどれも素敵で印象に残りました。〔今作は、堅物で不器用な性格のお義兄さんの気遣いのない言葉によって、妻・史枝(夏川結衣)の不満が爆発し、家を出てしまうという騒動から始まります。〕
なんか……ちゃんと目の前のことに向き合おうとしている人の会話って素敵だなと思ったんですよね。あと、お義姉さん(中嶋朋子)が西村さんを追いかけて「お兄ちゃん!」と言うシーンも好きですね。
妻夫木 : あー! 中嶋さんは「お兄ちゃん」が一番似合う人だね。
蒼井 : あのひと言だけで、ふたりの幼少期までが見えてくるように感じたんだよね。
妻夫木 : 僕もシーンで言うと、兄役の西村さんに向かって弟の僕が忠告することで、大喧嘩に発展するシーンがあるんです。その場では物別れに終わるのですが、騒動がおさまった後に「礼を言うのは嫌だけど……」と僕に言うんです。その「……」がすごくよかったですね。それで、現場にいたみんなが西村さんの芝居に感動して、思わず泣いてしまったんですよ。
蒼井 : 私なんか顔が映ってなくてニットの端が映っているかどうかなのに、泣いてしまいました。
妻夫木 : 橋爪さん(平田家の父・周造役)以外、みんな泣いていたね(笑)。
蒼井 : 血も涙もない人だからね(笑)。
― そうだったんですか。思わず泣いてしまうのは初めてのことでしたか?
妻夫木 : 完成した作品を観てホロリとすることはあっても、芝居の中で思わず泣いてしまうことはなかったですね。恐らく、ここまで危機的な状況は平田家にこれまでなかったんです。免許証を取り上げたり離婚を言い出したりと喜劇中心だったけど、今作のように兄嫁が家を出て行くのは結構シリアスです。そういう物語の中で、今回はきちんと互いの思いを言って、心から喧嘩できて、家族の深さを確かめられるいい機会になったと思います。だから、西村さんの芝居でぐっときたのかな。
蒼井 : その後の橋爪さんの「もういい、もういい」というセリフもよかったよね。友人同士では使いづらい言葉だけれど、深い関係にある身内だからこそ言えるいいセリフだなと思いました。
言葉は、相手と自分の関係性を
見つめなおすキッカケになる。
― 今作でも、印象的な台詞や行間が散りばめられていることがわかりました。妻夫木聡さんは『東京家族』から、蒼井優さんは『おとうと』から山田組に参加されていますが、台詞の言葉以外に、山田組の現場で言われて印象に残っている言葉はありますか?
妻夫木 : 本読みで山田監督から「血の通った芝居にしたい」と言われたことは印象に残っていますね。喜劇だからこそ笑いを届けるだけでなく、真剣に取り組むこと。誰しもが日常で感じることが題材なので、笑えてホロリとくるような、そんな物語にするには大事なことだなと思っています。
蒼井 : 私は、監督が打ち上げで話してくださった、初めて監督をした日の話を覚えていますね。クランクイン前、緊張して眠れなかったそうで、先輩の監督のお宅に伺って「明日から自分はどうすればいいか、アドバイスをください」とお願いしたら、「現場の人間を信じることも、監督の才能のひとつだ」と言われたそうなんです。それは俳優にも言えることだし、映画の現場に携わる人たちみんなが大事にしなければいけないことだなと思います。
― 「仲間を信じてゆだねる」ことは、チームで動くこと全般に当てはまる言葉かもしれませんね。そういった言葉によって、演技や現場での振る舞いが変わることはあるのでしょうか?
妻夫木 : 大きく変わることはないですが、自分が相手をどう思っているのか、人との関係性を言葉によって見つめ直すことは多いかもしれませんね。
蒼井 : 現場にいて迷いが出そうなとき、たとえば現場での居方に対して根を張れていないと感じるときなどは、山田監督のおっしゃった言葉のように先輩からもらった言葉によって助けてもらうこともありますね。
妻夫木 : 僕の場合は自分を追い込んじゃう癖があるので、迷うときはとことん迷うことも多いですけどね。この現場に関してはないですけど。
蒼井 : 『家族はつらいよ』のスタッフ、キャストに関してはもう全然壁がないですね。「先輩だった!」と後で気がつくくらい、壁がないです。でもそれは、安心できる妻夫木くんという存在が突破口となって、山田組に入れたからだと思いますね。
妻夫木聡と蒼井優の「心の一本」の映画
― 最後に、大切にされている映画を教えていただけますか。
(二人、いろいろな映画の候補をあげて悩みながら)
妻夫木 : 他のインタビューでも話すことが多いんですが、やっぱり『シコふんじゃった。』(1991)が自分の基盤だと思います。全然映画を知らないころから、唯一好きな日本映画だったんです。ダメな人間が這い上がっていく、日本人の汗臭さ、泥臭さが描かれていて、僕もなにか頑張れば一歩でもステップアップできるんじゃないかという思いを奮い立たせてくれる映画ですね。あとは自分の出演作でいうなら、『ウォーターボーイズ』(2001)ですかね。
蒼井 : 私は『顔』(2000)や『双生児 -GEMINI-』(1956)ですね。ジブリ作品とか劇場版の『ドラえもん』しか観ない家だったので、この2本を観て「こんなにおもしろい分野を私は知らなかった!」と、日本映画にハマり始めたんですよ。それから、岩井俊二監督の映画も好きになっていって……なんか、そのときの映画に夢みた瞬間の感覚はいいものですよね。それにしても、一本は難しい(笑)。死ぬ前に観たい映画とかもインタビューで聞かれるけど、難しくて答えられないですもん。
妻夫木 : まず、やりたいことが多すぎて、死ぬ前に映画観るかどうかが怪しいですよね(笑)。