先日、昔一緒に芝居をやってた友だちから電話があった。彼はこう言った。
「俺、役者やめようかな」
僕はなぜだかわからないけど、悔しくてしょうがなかった。
彼と最初に出会ったのは、4年前の芝居のワークショップだった。その時から、彼は面白くて、ものすごい熱意があった。稽古終わり2人でよくラーメンを食べながら、夢を語った。よく笑うやつだった。
彼は僕より1年早く、ある事務所に入り、すぐにCMに出演した。当時住んでいた4.5畳の部屋の小さいテレビに映る彼に僕は物凄く嫉妬した。同時に、それは希望の光だった。
そんな彼から電話があって、久しぶりに2人でお茶をすることにした。どうして役者を辞めたいのかと聞いたら、彼は「芸能界のこと、わけわかんなくなった」と言っていた。彼は話している間中、ずっと不安そうだった。時々見せる笑顔が、辛そうだった。
それから1時間くらい、懐かしい話をした。4年前、一緒にワークショップに通っていたメンバーの写真を見て、あの頃の思い出を話しながら、写っているメンバーのほとんどが役者を辞めていたことに気づいた。彼は僕のことを見て、「ヒロト、笑わなくなったね。」と言った。僕ら2人は、違っているようで、多分一緒なんだと思った。
渋谷を歩いていると、どこからかあいみょんの歌声が聞こえてきた。大きいスクリーンであいみょんが歌っていた。
あいみょんと初めて出会ったのは、2年前。渋谷のファミレスでご飯を食べながら、夢を語った。夢の様な夢だった。
この間、「あいみょんが紅白歌合戦に出る」というニュースを見た。
あいみょんは今、どんな夢を持っているのだろう。僕はあいみょんに連絡して、彼女の今の夢を聞いてみた。「先のわからないでかい夢を持つのも大事やけど、最近は明日のことを第一に考えたくてね。10年後よりも、明日生きてる確率の方が高いから。明日、また元気よく歌う、とかそんな小さい夢を持つようにしてる」と、あいみょんは言った。
最近、眠れない夜がずっと続いた。寝るのが怖かった。目を閉じると、感じたことないくらいの大きな不安が押し寄せてきて、体が震える。深夜3時。1人で公園に座り込む。昔の友だちに電話をして、不安を紛らわす。
ああ、また誰かに頼ってしまった。
悲しいくらい綺麗な朝日を見て、家に戻ると気づいたら眠ってる。やっと眠れたのに、携帯のアラームが僕の顔面を思いっきり引っ叩く。バイトの時間だ。そんな日々がずっと続いていた。
役者を辞めたいと言った彼も、僕も、きっと気付かないうちに自分を追い込んでいたのかもしれない。魂を削られていたのかもしれない。だから、あいみょんの言葉を聞いて、楽になった。そして自分には数え切れないほどの夢があることに気づけた。明日に存在する、夢を見つけられた。
映画『セント・オブ・ウーマン』の盲目の元軍人のフランクの世話係であるチャーリーが校内裁判にかけられる時に、世間体しか気にしない校長に向かって、フランクがチャーリーを想い言ったセリフがある。
「彼だけが、汚れのない魂を持ち続けている。俺は多くを見てきた。昔は見える目があった。ここの生徒より年若い少年たちが、腕をもぎ取られ、脚を吹き飛ばされた。だが誰よりも無残だったのは魂を潰された奴だ。潰れた魂に義足はつかない。」 僕はこの言葉が好きだ。どんな状況でも、僕は自分の魂を潰したくない。そして自分の好きな人が、魂を削られていたらフランクの様にその人を助けてあげたい。僕も今までたくさん助けてもらったから。
僕の父親は、僕が上京する時に僕に1枚の封筒を渡した。封筒にはこう書いてあった。
「つらたんになったら開けなさい」
辛くなったら開けろという意味だ。
僕は上京して、3年が経ったけど1度もその封筒を開けなかった。もちろん何度も辛い時はあった。(本当にお金が無かった時、僕は少しの期待を込めてその封筒を透かして見てみたけれどお金ではなかった)そして、その封筒を開けなかった僕は辛くないという事になる。父親もよく考えたもんだ。
この世界には、いろんな人がいろんな思いで夢と向き合っている。夢の大きさなんて関係ない。諦める。それも1つの方法だと思う。どんな風に生きようが自由なんだ。だけど、正直に言うと彼には役者を辞めてほしくない。彼といつか共演することが、僕の1つの夢でもあるから。