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『ジョーカー』も『悪魔のいけにえ』も、美しい
― 成海さんは子役時代から活躍され、当時から多くの映画ドラマなどに出演されていますが、ホラー作品の『まだらの少女』(2005年)にも出演されていますね。成海さんはヘビ女化する少女の役で、今作と同じく特殊メイクにも挑戦されています。
成海 : 懐かしいですね! 観ました? …観てくださったんですか!? 私演じる京子が、ヘビ女に変わっていくシーン、(ジェスチャーを交えて)こうやって壁に顔を引っ込めるんですが、その度にどんどん変貌していく様が面白いですよね。演じていた当時は小学生だったので、とにかく必死で演じていたのですが、今観直したらこういう作品だったのかと気づくことがあります。特に、あのシーンが一番印象的で(笑)。
― 成海さんは普段からホラー映画をご覧になりますか?
成海 : 疲れて家に帰ってきた夜に観たくなるのが『悪魔のいけにえ』(1974)なんです。もう何度も繰り返し観ている作品ですね。
― ええ! 疲れた時に、ホラー映画の金字塔『悪魔のいけにえ』を観たくなるんですか(笑)!? 旅行中の若者たちが立ち寄った一軒家に、実は殺人一家が住んでいて、次々に殺されていくという『悪魔のいけにえ』ですよね?
成海 : そうです(笑)。『悪魔のいけにえ』はホラー映画ですが、怖いというか……めちゃくちゃな面白さがあるなと。レザーフェイス(人の顔の皮を剥いでつくった仮面をかぶっている人物)を含めた一家が若者たちを殺していくわけですが、彼らは何ひとつ悪いことしてないですからね…ただ家を訪ねただけなのに…。
― 確かに、若者たちは帰郷のためテキサスへ向かう道中、ヒッチハイカーを車に乗せてあげただけなのに…。その人が、実は殺人一家の一人で…(泣)。
成海 : その一人が車に乗ってきたシーンから、「なんだこれは……」という狂った空気が感じられて好きです。あと、末っ子のレザーフェイスがちょっとドジっ子なところもたまらなくて。でも、私は一生テキサスには行きたくないですね(笑) 。
― レザーフェイスは、大男で圧倒的に強いのに、武器のチェーンソーでうっかり自分の足を切っちゃったりもします(笑)。
成海 : そうですそうです。いつも観てる時に「なにヘマしてんだよ!」って思っちゃいます(笑)。観るたびに印象が変わる作品ですね。
― 今回出演された『ゴーストマスター』は、作品のテーマとして『スペースバンパイア』(1985)を象徴する映画としてあげていますが、『悪魔のいけにえ』と同じトビー・フーパ―監督の作品です。今作の舞台は、キラキラ映画を撮る予定が、血みどろのホラー映画を撮ることになってしまう撮影現場ですが(笑)、脚本を最初に読んだ時の感想はいかがでしたか?
成海 : 「なんだかよくわかんないけど面白いな」と思いました(笑)。 脚本の中に、ジャンル映画への愛と尊敬が詰められたネタがたくさんあるので、初見で笑いながら読んでいましたね。どんな映像になるのかはまったくイメージできなかったんですけど(笑)、やってみようという気にはすぐになりました。
― 製作陣が今作をキャスティングするにあたり、まず考えたのは「この企画を面白がってくれそうな方にお願いしよう」ということだったそうです。成海さんはまさに理想通りだったわけですね。
成海 : 初めて今作のヤング ポール監督とお会いして、お話しした時に映画の話もしました。「B級作品で好きなものはありますか?」と聞かれたので、『バスケット・ケース』(1982)が大好きだと答えました。
― 『バスケット・ケース』ですか!? 子どもの頃に無理やり切り離された結合双生児の弟が、兄をバスケット・ケースに入れて旅をしながら復讐をしていくというカルト・ホラー作品ですよね? お好きなんですか?
成海 : 大好きなんですよ(笑) 。
― 成海さんは、他にどんな映画が好きなのか気になります(笑)。
成海 : 最近だと、昨日『ジョーカー』(2019)を観に行きました。すごく良くて、色々なことを思いましたね。
― ヴェネチア国際映画祭で金獅子賞を獲得し、世界的現象となっている作品です。
成海 : 俳優として、主演のホアキン・フェニックスの演技に「彼みたいな役者は他にいないよなあ」と感じる部分もあったし、「アメリカってすごい!」とこんな作品が生み出されたことへ純粋に驚いた部分もありました。私は落ち込んだときはとことん落ち込み、敢えてくよくよすることを選択するタイプではあるんですが、『ジョーカー』のような作品を観ると、シンプルに「がんばろう」と思えます。
― 一番印象に残ったシーンをあげるなら?
成海 : ホアキン・フェニックス演じるアーサーが、初めて人を殺すところです。…でもあのシーンも良かった、アーサーがジョーカーとして覚醒するところ。あそこは、もう…(拍手をしながら)パチパチパチという感じで。あと、ラストで街が燃えているシーンは、彼の笑顔も含めてすごく美しかったです。
― 「モンスターをただのモンスターとして扱うんじゃなくて、モンスターなりの理由というか、そうなってしまった哀しさみたいなことも描かれるべき」とヤング・ポール監督も語っていますが、『ジョーカー』にも通じる部分がある気がします。
成海 : そうですね。先ほどお話ししたレザーフェイスもそうですが、モンスターの悲哀というか、モンスターに共感してしまう感覚はありますよね。そういえば、『ジョーカー』で美しいと感じたように、『悪魔のいけにえ』も美しい映画だなあと思います。
「普通」から逸脱した中にある美しさ
― 先ほど『悪魔のいけにえ』は何度も観るとおっしゃっていましたが、他にも繰り返し観る作品はありますか?
成海 : 『アイズ・ワイド・シャット』(1999)や『ファイト・クラブ』(1999)は繰り返し観ていますね。特に、『ファイト・クラブ』はラストのビルが崩れるシーンが圧巻で! そのシーンを観ると、毎回「美しい……」と惚れ惚れしてしまいます。
― 今なお高い人気を誇る名作の2作ですね。『アイズ・ワイド・シャット』は、激しい性描写が話題となったスタンリー・キューブリック監督の遺作で、『ファイト・クラブ』はデヴィッド・フィンチャー監督による衝撃作です。やはり「美しい…」と成海さんの心を揺さぶる作品がお好きなんですかね?
成海 : 両作ともなんだか妙に惹かれる作品なんですよね…。ラース・フォン・トリアー監督もウェス・アンダーソン監督も好きなんですけど…なんですかね? 私の中の何かが盛り上がるというか。
― ラース・フォン・トリアー監督は、加藤諒さんも「心がえぐられる大好きな映画」として『ダンサー・イン・ザ・ダーク』(2000)をあげられていました。ウェス・アンダーソン監督は『グランド・ブダペスト・ホテル』(2014)に見られるような、独自の美術演出や色彩感覚などが特徴的ですね。
成海 : 確かにウェス・アンダーソン監督の作品はそういった特徴がありますが、私は作品が持つ完璧さを美しいと感じて惹かれるわけではないんです。なんだろう……何に私は惹かれているんですかね?
― 「美しい」という感覚について、「AがBに思い切りジャンプする瞬間が美しい」「バラバラだったいろんな要素がひとつにガット結びつく瞬間が美しい気がした」とヤング・ポール監督は語っていました。
成海 : 私は、どうなんだろう…汚いものこそ美しいといいますか…。
成海 : そういえば、今回特殊メイクを手がけてくださった百武朋さんが、私の特殊メイクも「ビューティーにしちゃお! パール入れちゃお!」と可愛く仕上げてくださったんです。あれで? と思われるかもしれないんですけど(笑)。
― 確かに、皆さん異形の姿に変化して行きますが、ラストシーンではそういう姿も含めて神々しい美しさがありました。
成海 : あのラストシーンは、演じている私と三浦貴大さんのふたりで口に電球を咥えて向かい合っていたんです。だから、演じている方は「私たちは何をやっているんだ?」という感じでした(笑)。でも、クレイジーな現場でしたが、それが楽しかったです。
― 成海さんは、非現実的というか、特徴的というか、普通から逸脱したところに惹かれるのかもしれないですね。
成海 : そうかもしれない。私は、この役者という仕事が大好きなんですが、それはそこに繋がるのかもしれませんね。