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「どんなことを想像してもいい」と教えてくれた高熱を出すほどの衝撃作
入口には、水色のネオンライトに包まれた神棚に提灯。いきなりその空間だけ異空間と繋がっているような雰囲気です。奥には、熊手やひょっとこのお面と一緒に、特撮ヒーローのフィギュアやファミコンのカセットが並んでいるのが見えます。懐かしさと新しさが混在したような空間には作業机やパソコンも並び、仕事場のようであり遊び部屋のようにも感じます。
ここは、今回DVD棚を紹介してくれる、イラストレーター・たかくらかずきさんが所属するフリーランス集団「空中」の仕事場です。
たかくらさんは、スーパーファミコンなどのゲーム画面を思い出すようなピクセルアートのイラストを中心に、NHK Eテレの教育番組の映像コンテンツ制作、映画や舞台のアートディレクションなど、さまざまなジャンルで活動をしています。ここのオフィスは、他にもフリーランスの編集者や映像作家、CGデザイナーなど数人で共有していて、それぞれが制作した作品や、趣味で置いている小物などが混在して並んでいるそうです。この空間は、たかくらさんが自分で思うようにつくりあげたスペース。パソコンデスクの上の棚に、DVDが収められていました。
「普段は、家のプロジェクターに映して映画を観ることが多いです。ネット配信のチャンネルにも3つ加入しているので、そこからその時観たい作品を探して観るのも好きですね。特にディズニー・チャンネルは、昔の短編アニメーション映画『骸骨の踊り』(1929)のような、ディズニーのフィルム時代の実験的な作品も観ることができるので、重宝しています」
手塚治虫の実験アニメーション作品集、ミシェル・ゴンドリー監督やジョナサン・グレイザー監督が手がけたミュージックビデオ集、イギリスのコメディグループ、モンティ・パイソンのDVD-BOXなど、映画だけではなく、様々なジャンルの映像作品が並ぶたかくらさんのDVD棚。そんな中でも目を引くのは、テリー・ギリアム監督の映画が多く揃っていることです。
「小学生の時、テレビで『未来世紀ブラジル』(1985)が放映されているのを家族で観たんです。管理主義社会を描いたディストピア映画ですけど、キャラクター造形が強烈だったり、悪夢のような映像が続いたり、あまりにも強烈なイマジネーションを目の当たりにして、ショックで高熱を出してしばらく寝込みました(笑)。その頃から、そういう“バッドな映画”が、つまり人間が持つイマジネーションを際限なく描いた映画が好きなんです。子どもながらに“いいことだけじゃなくて、悪いことも想像していいんだ”と思えて。想像力って、悪い方に引っ張られてしまうことも多いけど、その中にも美しさや綺麗なものが潜んでいるし、そうやってイマジネーションを自由に広げてもいいんだということを、『未来世紀ブラジル』を観て感じたんです」
美しい悪夢のような映画体験に洗礼を受けた、たかくらさんは、その後もSF映画などを中心に、“現実のようでいて現実ではない”イマジネーションの世界に惹かれて映画を観続けていきます。高校時代にはミシェル・ゴンドリーやスパイク・ジョーンズのようなミュージックビデオの映像作家に魅了され、自分でもミュージックビデオを監督したいという思いから、東京造形大学の映画専攻領域に入学しました。
「映画専攻で出会った人たちは洋画よりも邦画を好きで、役者の演技や脚本について話したい人が多かったけど、僕はそういうことにはあまり興味がなかったんです。映画ってどうしてもキャラクターやドラマの部分で語られることが多いですけど、僕はわりと映画を“タイムラインのある絵画”のように捉えていて、イメージの美しさとか動きの面白さに注目するのが好きです。だから、映画専攻の友人と映画について話すよりも、絵画学科に所属する人たちと、美術や映像にインパクトのあるカルト映画、例えばアレハンドロ・ホドロフスキーやケン・ラッセルの監督作、について話すのが好きでしたね
当初は学科の課題で映像作品も撮っていたたかくらさんですが、次第に一人で自由に世界観を構築することができるアニメーションや絵画の方へと、関心が移っていきました。在学中は、Photoshopや日本画の画材などを使って制作した絵で個展を開き、手応えを得て、大学院では日本画を学ぶことになります。
「映像と絵画の勉強をしているうちに、Photoshopでの絵画や短いアニメーション作品という表現にたどり着きました。日本画と並行してデジタル表現をするうち、画面を構成する粒子と、その解像度に興味が映り、ピクセルアートを作り始めました。昔からスーパーファミコンなどのレトロなグラフィックも好きだったし、現実離れしていたり、悪夢のような世界観のイメージを作っても、ピクセル表現だと解像度が下がるので和らぐのもいいなと思いました。そうして、ピクセルアートとデジタル表示を組み合わせた今の表現方法にたどり着いたんです。」
スーパーファミコンなどの90年代を思い出すレトロで懐かしい雰囲気の中に、妖怪や神仏などを連想させる日本の古典的な要素や、SF映画のような未来を思わせる世界観など、さまざまなジャンルが融合している、たかくらさんのイラストレーション。イマジネーションを表現する方法は、映画から多大な影響をうけているといいます。
「テリー・ギリアム監督の映画って、最新のCG技術を使っていてもどこか手触りや皮膚感覚が伝わってくるんですよね。たとえば、ふわふわしていて気持ちよさそうとか、煙が立ち込めていて身体にまとわりついてくるとか、そういう皮膚感覚に訴えてくるような表現が、ギリアムの映画にはいつもある。そういうアナログの感覚は、デジタル表現の中で僕も大事にしたいと思っています。それと、彼はハリウッド監督でもあるので、作家性とポップさのバランスがすごくいいんです。ポップス界のカルトですね(笑)。作家性が強くて前例のない世界観や映像を作っているんだけど、エンタテイメント作品としても高く評価されている。そのバランス感覚も尊敬しているし、そのように作品を作りたいと思っています。」
映画から見つけた「違和感」を
自分の表現に取り入れる
大学院を卒業後、ピクセルアートやデジタル表現という作風を中心に、劇団のアートディレクションや雑誌のイラスト、オリジナルゲームコンテンツの制作など、幅広いジャンルで創作活動をしているたかくらさん。最近では、10代前半の両親を亡くした4人の子どもたちが主人公を務める、映画『ウィーアーリトルゾンビーズ』(2019)で、オープニング映像のアニメーションを担当されました。そして、現在NHK Eテレの教育番組『シャキーン!』や『マリーの知っとこ!ジャポン』などの映像コンテンツ、日本科学未来館のシンボルでもある巨大な地球“ジオ・コスモス”に投影するプログラムなど、子ども向けのコンテンツを数多く制作しています。
「大学時代から、自分が憧れていたミシェル・ゴンドリーのような実験的なミュージックビデオを撮りたいという思いがありました。でも、日本の広告や映像業界は“こういう雰囲気にしてください”と参照作品を提示されることが多くて、ヒット作などの前例を踏襲していく傾向があるんですよね。だから、新しい表現は作りにくい。一方で、教育分野のクリエイティブは教育上のリファレンスはあるものの、表現の方法は前例のないものも面白がってくれるんです。大人になると、これは怖いものだとか倫理的に良くないとかでコンテンツを判断してしまうけど、僕が小学生の時『未来世紀ブラジル』に洗礼を受けたように、そういう価値観が出来上がる前の子どもは、奇妙な映像や初めて見るような表現でも、純粋に楽しむんですよね。そんな実験的な表現をする場として、教育という場に最近は希望を感じているんです。何より自分が子供の心のままで作品を作れる気がしています。」
実験的な表現を目指しながらも、「文化は歴史の上にあるものなので、文脈のないただ新しいだけのものには魅力を感じない。」と冷静に分析するたかくらさん。それでも、自分にしかできない表現を探っていきたい。そんな時にインスピレーションを受けているのも、この棚に並ぶような、自分の好きな映画だといいます。
「神話や伝統芸能が好きなので、全くの空想よりもそういった現実にあるものからテーマを引っ張ってくることが多いんですけど、そういう時も、本物と比べるとどこか少し違和感がある、つまり“既視感がバグる”表現を目指しています。例えば、『セサミストリート』シリーズで有名な人形師のジム・ヘンソンが監督をした『ダーククリスタル』(1982)は、出てくるキャラクターが、可愛いというよりもちょっと気持ち悪いんです。犬よりも大きくて人間よりも小さい、というサイズ感の人形なんですけど、それが動くと、一見、馴染みのあるフォルムなんだけど、よく見るとサイズも特徴も犬や人間や爬虫類から少しずれていて、すごく奇妙で印象に残る。そういう既視感と違和感が混ざるような感覚は映画からヒントをもらうことが多いですし、自分の表現でも大事にしていきたいです」
懐かしいようで新しい。和風のようでいて西洋的。馴染みやすさの中にも、どこか不思議な“違和感”を残す、たかくらさんのイラストレーション。子ども時代、美しい悪夢のような映画に魅了されたたかくらさんのように、たかくらさんが作り出すイメージから想像力を広げる子どもたちが、きっといるはずです。
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