そんな自分にとって特別な、そして誰かに語りたい映画体験記。
リスタートを切りたい、一度整理したい、というあなたの心にぴったりの一本が見つかるかもしれませんよ!
10数年前、僕はなんとなく大学を卒業して、なんとなく会社員になりました。そんな調子だから仕事なんて楽しめるはずもなく、「つまんねーな」とブツブツ文句を言う毎日。
ただ、そんな日々がつまらなくとも生活に慣れてしまえば、会社からは毎月の給料が保証されるし、有休だってある。だから平日は心を無にして仕事をこなし(こなせていたかはわかりませんが)、休日はその鬱憤を晴らすかのように全力で楽しんでいました。そして、その反動から日曜の夜は憂鬱でしかたがなくなるという…。そんな生活にズブズブとハマりながら、気付けば僕は30代に突入していました。
「お前の人生、それでいいの?」。
気付かないふりをしていたけど、その問いは僕の心をジワジワと浸食していき、それはいつしか自分が受けとめられないほど大きな苦しみとなっていたようです。
しばらくして、僕は心と体を壊しました。
ちょうどその頃出会ったのが、福田雄一監督の映画『俺はまだ本気出してないだけ』(2013年)です。堤真一さん演じる42歳のバツイチ、子持ちの主人公・大黒シズオは「自分の人生に後悔したくない」「本当の自分を見つける」と言い放ち会社を辞めたものの、その後はテレビゲームに興じるなど堕落した生活を送っていました。そんなある日、シズオは突然「漫画家になる!」と宣言。家族から反対されたり、世間から冷ややかな目で見られたり。しかし、そんな逆風をもろともせず、シズオは夢に向かって突っ走ります。
福田監督が繰り出す笑いの刺客に、僕は何度も翻弄されながら、時折シズオが放つまるで人生を達観したような言葉——「40(歳)そこらで大人ぶってちゃいかんよ」「将来なんて考えたら今をちゃんと生きれないぞ」「ピンチはチャンスだって言葉があるじゃない」—— が心に突き刺さり、もがきながらも未来を切り開こうとするシズオの姿がまぶしくて、羨ましくて…でも一方で、そんな勇気もない自分の不甲斐なさを感じている自分もいて…。笑っているのに悔し涙が出る映画体験はこれが初めてでした。
それから数年後、僕はまるでシズオの人生をなぞるかのように、後先を考えず会社を辞め、誰にも聞かれていないのに「半年間は好きなことしかやらない」とまわりに宣言。ひたすら好きな場所に行き、好きな人に会い、好きな時間を過ごしました。時には将来の不安から、ひたすら動画サイトを見て現実逃避する日もあったけど、そんな生活を続ける中で、ひょんなことからライターの面白さと出会い、今はこうして文章を書く職業に就いています。
先日、ふとこの映画を観返すと当時グラグラと揺さぶられた感情はどこへやら、終始シズオの言動を素直にゲラゲラと笑っている自分に気付きました。その時、もしかしたらシズオは、「自分にはできるはずがない」と“なんとなく”を続けてきた人生との別れ方を僕に教えてくれたのかもしれないと、ふと感じました。
ありがとうシズオ。
俺はもう本気出してます。
- 介護の中、夢を捨てずにいられたのは、あいつの「ただいま」が希望に向かわせてくれたから。映画『大脱走』
- 眠れない夜に私を救ってくれたのは、70年前の名作ミュージカル映画だった 『雨に唄えば』
- ままならない家族への感情……それでも確かに愛してる。『シング・ストリート 未来へのうた』で描く私の夢
- 嘘の中の紛れもない「リアル」。 いつまでも彼の踊る姿を観たいと思った 『リトル・ダンサー』
- 「どんな自分も愛してあげよう」 肩の力を抜くことができた『HOMESTAY(ホームステイ)』
- 映画って、こんなに自由でいいんだ。そんなことを気づかせてくれた『はなればなれに』
- 日々の選択を、愛ある方へ。自分を大切にするための映画『パパが遺した物語』
- 大丈夫。あなたが私を忘れても、私があなたを思い出すから 『43年後のアイ・ラブ・ユー』
- どうしたら色気を醸し出せるのか!?核心を隠すことで見えてくる、エロティックな世界『江戸川乱歩の陰獣』
- 幸せになるには、まず「幸せに気づく」こと。こんな2020年を希望にかえて締めくくる『食堂かたつむり』
- 仕事も休めばいい、恋もなんとだってなる。人生の舵は、自分が握っているのだ『嗤う分身』
- 号泣したワンシーンが、思いを届けるきっかけになる『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』
- 「私の人生、まんざらでもないのかも」見過ごしていた“当たり前”に魔法がかかる『顔たち、ところどころ』
- 東京という大きな「生き物」が、 人生の岐路に立つ人を静かにつつんでくれる『珈琲時光』
- 狂気を殺さない!愛してみる。生きていく『逆噴射家族』
- 動き出さない夜を積み重ねて、たどり着く場所がきっとある『ナイト・オン・ザ・プラネット』
- 時代の寵児バンクシーの喜怒哀楽や煩悶を追体験!?観賞後スカッとするかしないかは自分次第… 『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』
- 「帰省」を疑似体験。離れて暮らす父親の素っ気なくも確かな愛情『息子』
- 90分でパリの100年を駆け抜ける!物足りない“現在”を笑って肯定しよう!!『ミッドナイト・イン・パリ』
- 映画の物語よりも、そこに流れる「時間」に没入する 『ビフォア・サンセット』
- 慣れない「新しい生活」のなかでも、人生に思いきり「イエス!」と言おう!『イエスマン “YES”は人生のパスワード』
- 夢や希望、生きる意味を見失った時、再び立ち上がる力をくれた映画『ライムライト』
- 人の目ばかり気にする日々にさようなら。ありのままの自分が歩む、第二の人生。 『キッズ・リターン』
- 人に嫌われるのが怖くて、自分を隠してしまうことがあるけれど。素直になりたい『トランスアメリカ』
- 成功は、競争に勝つことではない。 「今を楽しむ」ことを、教えてくれた映画『きっと、うまくいく』
- それぞれの場所で頑張る人たちへ 「声をあげよう」と伝えたい。その声が、社会を変える力につながるから『わたしは、ダニエル・ブレイク』
- 僕が笑うのは、君を守るため。 笑顔はお守りになることを知った映画『君を忘れない』
- 心に留めておきたい、母との時間 『それでも恋するバルセロナ』
- 「今振り返っても、社会人生活で一番辛い日々でした」あのときの僕に“楽園”の見つけ方を教えてくれた映画『ザ・ビーチ』
- “今すぐ”でなくていい。 “いつか”「ここじゃないどこか」へ行くときのために。 『ゴーストワールド』
- 極上のお酒を求めて街歩き。まだ知らなかった魅惑の世界へ導いてくれた『夜は短し歩けよ乙女』
- マイナスの感情を含む挑戦のその先には、良い事が待っている。『舟を編む』
- 不安になるたび、傷つくたび 逃げ込んだ映画の中のパリ。 『猫が行方不明』
- いつもすぐにはうまくいかない。 自信がないときに寄り添ってくれる“甘酸っぱい母の味”『リトル・フォレスト冬・春』
- 大人になって新しい自分を知る。 だから挑戦はやめられない 『魔女の宅急便』
- ティーンエイジャーだった「あの頃」を呼び覚ます、ユーミン『冬の終わり』と映画『つぐみ』
- 振られ方に正解はあるのか!? 憧れの男から学ぶ、「かっこ悪くない」振られ方
- どうしようもない、でも諦めない中年が教えてくれた、情けない自分との別れ方。『俺はまだ本気出してないだけ』
- 母娘の葛藤を通して、あの頃を生き直させてくれた映画『レディ・バード』
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