そんな自分にとって特別な、そして誰かに語りたい映画体験記。
新たな挑戦に向かうあなたの心に、ぴったりの一本が見つかるかもしれませんよ!
新生活ってわくわくする反面、不慣れな環境に立たされるという意味では、心細い日々のはじまりでもあります。そんなときに効くかもしれない、わたしなりの、映画を心のよりどころにする方法をおすすめしたいと思います。それは、映画を通じて自分の“ホームタウン”をつくることです。
2006年春、大学進学のために地元から上京し、武蔵境のマンションで一人暮らしをはじめました。しばらくして「憧れの東京に住んでるぞ!」という最初の興奮が落ち着くと、だんだんホームシックに。気力があまり湧かず、休日はほとんど外に出なくなっていきました。それと反比例するように、フランスの首都パリを舞台にした映画を観漁りはじめたのです。
パリの映画を観はじめたきっかけは、フランス文学科専攻だったから、という簡単なもの。さすがは東京で、TSUTAYAはもちろん、大学の図書館、日仏学院、ミニシアターなどフランス映画へのアクセスはたくさんあったから、往年の名画から今の作品までチェックできました。観たいものがありすぎて、DVDなら家で1日3本くらい平気で観ていたと思います。きっかけこそ、簡単なものでしたが、結局、ホームシックを脱してからも、大学院を卒業して社会人になるまでの6年、映画のパリを愛で続けました。
どうしてそんなにパリの映画にハマったのか。その理由を手っ取り早く説明できる映画が、『猫が行方不明』(1996年)。主人公は、パリでヘアメイクの仕事をして暮らしている、20代半ばの女性クロエ。彼女の飼い猫グリグリが行方不明になって見つかるまでの、ひと夏の物語です。
そう、とびきりシンプルな物語。でも引き込まれたのはまず、クロエが引っ込み思案で根暗なところ。ティーンの自分が感情移入しやすい主人公でした。彼女の几帳面さ、たとえば旅行に行く準備のTO DOリストを細かくつけるようなところは、日本人に近い感性かもしれません。
そんな人生にビクついているクロエが、愛猫グリグリが行方不明になったことから、とびきりユニークな面々とかかわらざるをえない状況になっていきます。ゲイの同居人、猫好きおばあちゃんたち、ちょっとドジなアルジェリア系移民の若者、スノッブな女性雑誌編集長、ドレッドがイケてるドラマー青年……。個性バリバリな人々からもみくちゃにされ、嵐のようなひと夏が過ぎて、最後にグリグリが意外な場所から見つかったとき、クロエは少し大人になっているのでした。
大学生当時、周りには自分と似たような同年代の人しかいませんでした。「東京でどんなあたらしい出会いがあるんだろう?」と期待してきたのに、東京に来てさえ地元の中高と変わりばえのしない没個性的な環境に、息が詰まりそうでした。だからこそ『猫が行方不明』などパリが舞台の映画で出会えた、登場人物がみんなどこかヘンテコな、多様性のある社会にどうしようもなく惹かれたのです。不安になるたび、傷つくたび、映画の中の誰もが自由で平等なパリに逃げ込みました。別に、それが本当のパリじゃなくてもよかったのです。ただ、自分が天国のように憧れるこの街が地球上のどこかに今も存在していると想像するだけで、心が満たされました。
はじめてのパリ旅行は、大学1年生の秋。それも含め、これまでに5回足を運んでいるのですが、想像以上に邪険に扱われたり、反対にとてもレアでおもしろい出会いがあったり、いろいろな経験をしました。正直、今の自分にとってパリは、天国とはいえません。それは、映画や旅行を通じていろんな街に興味が湧くようになったし、今も住み続けている東京で地に足をつけて生きたいと考えているから。でもやっぱりこうして『猫が行方不明』を観返せば、パリの映画をお守りのように観続けていた頃のことを思い出します。あの頃、パリはわたしの大切なホームでした。
- 介護の中、夢を捨てずにいられたのは、あいつの「ただいま」が希望に向かわせてくれたから。映画『大脱走』
- 眠れない夜に私を救ってくれたのは、70年前の名作ミュージカル映画だった 『雨に唄えば』
- ままならない家族への感情……それでも確かに愛してる。『シング・ストリート 未来へのうた』で描く私の夢
- 嘘の中の紛れもない「リアル」。 いつまでも彼の踊る姿を観たいと思った 『リトル・ダンサー』
- 「どんな自分も愛してあげよう」 肩の力を抜くことができた『HOMESTAY(ホームステイ)』
- 映画って、こんなに自由でいいんだ。そんなことを気づかせてくれた『はなればなれに』
- 日々の選択を、愛ある方へ。自分を大切にするための映画『パパが遺した物語』
- 大丈夫。あなたが私を忘れても、私があなたを思い出すから 『43年後のアイ・ラブ・ユー』
- どうしたら色気を醸し出せるのか!?核心を隠すことで見えてくる、エロティックな世界『江戸川乱歩の陰獣』
- 幸せになるには、まず「幸せに気づく」こと。こんな2020年を希望にかえて締めくくる『食堂かたつむり』
- 仕事も休めばいい、恋もなんとだってなる。人生の舵は、自分が握っているのだ『嗤う分身』
- 号泣したワンシーンが、思いを届けるきっかけになる『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』
- 「私の人生、まんざらでもないのかも」見過ごしていた“当たり前”に魔法がかかる『顔たち、ところどころ』
- 東京という大きな「生き物」が、 人生の岐路に立つ人を静かにつつんでくれる『珈琲時光』
- 狂気を殺さない!愛してみる。生きていく『逆噴射家族』
- 動き出さない夜を積み重ねて、たどり着く場所がきっとある『ナイト・オン・ザ・プラネット』
- 時代の寵児バンクシーの喜怒哀楽や煩悶を追体験!?観賞後スカッとするかしないかは自分次第… 『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』
- 「帰省」を疑似体験。離れて暮らす父親の素っ気なくも確かな愛情『息子』
- 90分でパリの100年を駆け抜ける!物足りない“現在”を笑って肯定しよう!!『ミッドナイト・イン・パリ』
- 映画の物語よりも、そこに流れる「時間」に没入する 『ビフォア・サンセット』
- 慣れない「新しい生活」のなかでも、人生に思いきり「イエス!」と言おう!『イエスマン “YES”は人生のパスワード』
- 夢や希望、生きる意味を見失った時、再び立ち上がる力をくれた映画『ライムライト』
- 人の目ばかり気にする日々にさようなら。ありのままの自分が歩む、第二の人生。 『キッズ・リターン』
- 人に嫌われるのが怖くて、自分を隠してしまうことがあるけれど。素直になりたい『トランスアメリカ』
- 成功は、競争に勝つことではない。 「今を楽しむ」ことを、教えてくれた映画『きっと、うまくいく』
- それぞれの場所で頑張る人たちへ 「声をあげよう」と伝えたい。その声が、社会を変える力につながるから『わたしは、ダニエル・ブレイク』
- 僕が笑うのは、君を守るため。 笑顔はお守りになることを知った映画『君を忘れない』
- 心に留めておきたい、母との時間 『それでも恋するバルセロナ』
- 「今振り返っても、社会人生活で一番辛い日々でした」あのときの僕に“楽園”の見つけ方を教えてくれた映画『ザ・ビーチ』
- “今すぐ”でなくていい。 “いつか”「ここじゃないどこか」へ行くときのために。 『ゴーストワールド』
- 極上のお酒を求めて街歩き。まだ知らなかった魅惑の世界へ導いてくれた『夜は短し歩けよ乙女』
- マイナスの感情を含む挑戦のその先には、良い事が待っている。『舟を編む』
- 不安になるたび、傷つくたび 逃げ込んだ映画の中のパリ。 『猫が行方不明』
- いつもすぐにはうまくいかない。 自信がないときに寄り添ってくれる“甘酸っぱい母の味”『リトル・フォレスト冬・春』
- 大人になって新しい自分を知る。 だから挑戦はやめられない 『魔女の宅急便』
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- 振られ方に正解はあるのか!? 憧れの男から学ぶ、「かっこ悪くない」振られ方
- どうしようもない、でも諦めない中年が教えてくれた、情けない自分との別れ方。『俺はまだ本気出してないだけ』
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