そんな自分にとって特別な、そして誰かに語りたい映画体験記。
なかなか気軽に外出できない今だからこそ、映画で旅気分を味わってみてはいかがでしょうか?
思いっきりお出かけできる日の準備として、行きたい場所を映画でチェックしておくといいかもしれませんよ!
「あなたの好きなことはなんですか?」 そう問われると、私は間違いなく「お酒を飲むこと」と即答するでしょう。もちろん文章を書くことも大好きなのですが、やはり私にとっての最大の娯楽、それはお酒。関西在住の私は、暇さえあれば大阪の街へと繰り出し、飲み歩いているのです。曽根崎新地、裏なんば、天満…。大阪の街には、それはそれは美味しいお酒を提供してくれる場所がたくさんあります。しかし、ある映画との出会いによって、私の飲み歩き人生にキラキラとした大阪以外の新しい選択肢が舞い込んで来たのです。
映画『夜は短し歩けよ乙女』(2017)のヒロイン「黒髪の乙女」は、その清楚な見た目からは想像できないほどの大酒飲みで、「実は太平洋の海水がラムであれば良いのにと思うほど、私はラムを愛しています」と言っているほど。ちなみに私も、太平洋とまでは言わないですが、琵琶湖の水がビールであれば良いのにとは思っています(笑)。
映画の舞台は京都・先斗町界隈。大学のクラブの先輩のお祝い会だけでは「飲み足りない」と感じた「黒髪の乙女」は、お酒を好きなだけ飲むために、宴会終了後、ひとり京都の夜の街へと繰り出すのです。そこで「黒髪の乙女」は、タバコの煙で鯉のぼりを作り出す自称「天狗」男や、他人の宴会に潜り込んではタダ酒を煽る女性など様々な人に出会い、夜が伸びていくという不思議な体験を重ねていくのですが、それらを繋いでいくのがお酒。木屋町のバーにふらりと立ち寄った「黒髪の乙女」は、バーの常連さんから「偽電気ブラン」と呼ばれる幻の銘酒があることを教えてもらいます。偽電気ブラン…なんと素敵な響きなのでしょう。
電気ブランは、今ではコンビニでも販売されているポピュラーなお酒のひとつですが、その製造方法は長きに渡り秘密とされていたのだとか。それを再現しようとして作られたのが「偽電気ブラン」なのです。「黒髪の乙女」は、その偽電気ブランを求めて飲み歩きを続けるのですが、物語の中盤の時点で私は偽電気ブランの虜に。もちろん、物語上の架空のお酒。にもかかわらず、私も「黒髪の乙女」のように偽電気ブランを求めて京都・木屋町界隈を飲み歩きたい、そんな衝動に駆られました。
そうして誘惑されるがまま、私は京都・先斗町の夜へと駆け出しました。もちろん、私も「黒髪の乙女」になって。そうなんです、当時ロングヘアだった私は、この日のために髪をバッサリカットして、ショートヘアで挑んだのです。きっと私は、偽電気ブランだけでなく、物語の世界にも魅了されていたのでしょう。初めて訪れた京都・先斗町には、まだ私の知らなかった妖艶な世界が広がっていました。ハタチそこそこの小娘が、大人の仲間入りをしたような、そんなほろ苦さを感じる街だったのです。私はたった一夜にして、京都の街に取り憑かれてしまいました。
それ以来、四季に一度は飲み歩きのため、先斗町へと足を運んでいます。春は桜が美しく、夏は納涼床、秋は紅葉に冬は粉雪。季節ごとに表情を変える京都の街は、まだまだ私が知り得ない魅惑で溢れているのでしょう。私を極上のお酒と京都へと導いてくれた『夜は短し歩けよ乙女』は、私に素敵な大人の世界をひっそりと覗かせてくれた映画。乙女である私の夜は短いのです。今日もまた、私はお酒を求めてどこかの街へと繰り出すのでしょう。
↓原作本を読む!
- 介護の中、夢を捨てずにいられたのは、あいつの「ただいま」が希望に向かわせてくれたから。映画『大脱走』
- 眠れない夜に私を救ってくれたのは、70年前の名作ミュージカル映画だった 『雨に唄えば』
- ままならない家族への感情……それでも確かに愛してる。『シング・ストリート 未来へのうた』で描く私の夢
- 嘘の中の紛れもない「リアル」。 いつまでも彼の踊る姿を観たいと思った 『リトル・ダンサー』
- 「どんな自分も愛してあげよう」 肩の力を抜くことができた『HOMESTAY(ホームステイ)』
- 映画って、こんなに自由でいいんだ。そんなことを気づかせてくれた『はなればなれに』
- 日々の選択を、愛ある方へ。自分を大切にするための映画『パパが遺した物語』
- 大丈夫。あなたが私を忘れても、私があなたを思い出すから 『43年後のアイ・ラブ・ユー』
- どうしたら色気を醸し出せるのか!?核心を隠すことで見えてくる、エロティックな世界『江戸川乱歩の陰獣』
- 幸せになるには、まず「幸せに気づく」こと。こんな2020年を希望にかえて締めくくる『食堂かたつむり』
- 仕事も休めばいい、恋もなんとだってなる。人生の舵は、自分が握っているのだ『嗤う分身』
- 号泣したワンシーンが、思いを届けるきっかけになる『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』
- 「私の人生、まんざらでもないのかも」見過ごしていた“当たり前”に魔法がかかる『顔たち、ところどころ』
- 東京という大きな「生き物」が、 人生の岐路に立つ人を静かにつつんでくれる『珈琲時光』
- 狂気を殺さない!愛してみる。生きていく『逆噴射家族』
- 動き出さない夜を積み重ねて、たどり着く場所がきっとある『ナイト・オン・ザ・プラネット』
- 時代の寵児バンクシーの喜怒哀楽や煩悶を追体験!?観賞後スカッとするかしないかは自分次第… 『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』
- 「帰省」を疑似体験。離れて暮らす父親の素っ気なくも確かな愛情『息子』
- 90分でパリの100年を駆け抜ける!物足りない“現在”を笑って肯定しよう!!『ミッドナイト・イン・パリ』
- 映画の物語よりも、そこに流れる「時間」に没入する 『ビフォア・サンセット』
- 慣れない「新しい生活」のなかでも、人生に思いきり「イエス!」と言おう!『イエスマン “YES”は人生のパスワード』
- 夢や希望、生きる意味を見失った時、再び立ち上がる力をくれた映画『ライムライト』
- 人の目ばかり気にする日々にさようなら。ありのままの自分が歩む、第二の人生。 『キッズ・リターン』
- 人に嫌われるのが怖くて、自分を隠してしまうことがあるけれど。素直になりたい『トランスアメリカ』
- 成功は、競争に勝つことではない。 「今を楽しむ」ことを、教えてくれた映画『きっと、うまくいく』
- それぞれの場所で頑張る人たちへ 「声をあげよう」と伝えたい。その声が、社会を変える力につながるから『わたしは、ダニエル・ブレイク』
- 僕が笑うのは、君を守るため。 笑顔はお守りになることを知った映画『君を忘れない』
- 心に留めておきたい、母との時間 『それでも恋するバルセロナ』
- 「今振り返っても、社会人生活で一番辛い日々でした」あのときの僕に“楽園”の見つけ方を教えてくれた映画『ザ・ビーチ』
- “今すぐ”でなくていい。 “いつか”「ここじゃないどこか」へ行くときのために。 『ゴーストワールド』
- 極上のお酒を求めて街歩き。まだ知らなかった魅惑の世界へ導いてくれた『夜は短し歩けよ乙女』
- マイナスの感情を含む挑戦のその先には、良い事が待っている。『舟を編む』
- 不安になるたび、傷つくたび 逃げ込んだ映画の中のパリ。 『猫が行方不明』
- いつもすぐにはうまくいかない。 自信がないときに寄り添ってくれる“甘酸っぱい母の味”『リトル・フォレスト冬・春』
- 大人になって新しい自分を知る。 だから挑戦はやめられない 『魔女の宅急便』
- ティーンエイジャーだった「あの頃」を呼び覚ます、ユーミン『冬の終わり』と映画『つぐみ』
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- どうしようもない、でも諦めない中年が教えてくれた、情けない自分との別れ方。『俺はまだ本気出してないだけ』
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