目次
作品に真正面から向き合い、
細かく細かく準備を重ねていく
― ホラー映画初出演ということですが、『女優霊』(1996)『怪談』(2007)『クロユリ団地』(2013)などと、ホラー映画の可能性を切り拓いてきた中田秀夫監督との作品づくりはいかがでしたか?
亀梨 : 中田監督へ完全に身を委ねて、ついていったという感覚ですね。作品づくりに関わったことで、ホラー映画は、観客のことを常に感じながらつくりあげていく作品なんだと学びました。
― 今作について、「主人公目線でお客さんが怖いことを一緒に体験して、乗り越えていくお話でもある」と秋田周平プロデューサーも語っていますね。
亀梨 : でも、中田監督の「怖いのとおもしろいのは紙一重だ」という言葉どおり、「怖い!」という感情を湧き起こさせるだけの作品ではなかったので、時に「これは観客にとって“怖い”なのか? “おもしろい”なのか?」と戸惑うシーンもあって(笑)。
― 「怖い!」と「おもしろい!」の波がジェットコースターのように訪れる新感覚を味わいました。
亀梨 : 例えば、僕が演じるヤマメに、事故物件を紹介する不動産屋・横水役の江口のりこさんとの掛け合いなどは、「果たしてこれで合ってるのか!?」と思いながら演じていました(笑)。
― 中田監督はそのためにも「登場人物達の人間ドラマはしっかり描きたかった」とおっしゃっていますが、ヤマメと元相方・中井大佐(瀬戸康史)、ヤマメのファンでありサポーターでもある小坂梓(奈緒)の三人が、「自分の目指すこと」と「周りから求められること」の狭間でもがく青春群像劇も見所のひとつです。
亀梨 : ホラーやドラマなどといった複合的な今作の魅力を伝えるためには、より人物にリアリティを持たせる必要があると感じました。その上で、僕が演じた、“関西弁を駆使する10年間鳴かず飛ばずの売れない芸人”を続けてきた「ヤマメ」という役は、「亀梨和也」というイメージを重ねにくい人物だと思ったんです。
― 世間での「亀梨和也」のイメージということですね。
亀梨 : 僕は、役者以外の仕事にたくさん携わらせていただいている方だと思うので、「亀梨和也」というイメージが強くあると思います。だから、劇中の早い段階でそれを取っ払うことが、今回の僕のテーマでもありました。
亀梨 : 芸人さんのライブを観に行かせていただいたり、実際に普段若手芸人さんが食べたり飲んだりしているご飯屋さんに、自分が若手芸人という設定でその場に居させてもらったりと、関西弁も含めた細かい部分を、実際に体験することで自分に落とし込んでいったんです。そこに、自分が知りうる限りの「芸で身を立てる者」としてのリアリティも加味して、役に反映させていきました。
― 中田監督は、亀梨さんは作品づくりにおいて、アイデアをたくさん出してくれたとおっしゃっていました。
亀梨 : 冒頭の瀬戸くんとのコントシーンは、絵(視覚)として「このコンビは迷走している」ということを見せたかったので、結果的に女性の格好をさせていただきました。その髪型や衣裳も含めてアイデアを伝えましたね。「大丈夫か? この人たち」と観客に思ってもらえる方法を探したんです。
台本も決定稿の前から読ませていただいていたので…映画の台本というのは何度も修正を重ねて決定まで辿りつくのですが、その過程の台本ということです。その度に「僕はこの稿の、このシーンやセリフが好きだ」ということを伝えて、コミュニケーションをとらせていただきました。それは、アイデアというより、台本を読んだ感覚を共有させていただいたという感じです。
― 亀梨さんは、映画やドラマなどのものづくりにおいて、毎回そのように準備を重ねていくのでしょうか?
亀梨 : 映画とドラマでは、関わり方が変わってきます。もちろん、作品にもよるのですが、映画は一本の作品を一人の監督がつくりあげていくので、軸が監督にあります。ドラマは、連続ドラマの場合、10本前後の作品を、回によって監督が変わることもあるし、スケジュール上、前話の完パケ(収録した映像が編集され放送できる状態にあるもの)を次の監督が見られない状態で撮影に入らないといけないこともある。
だから、演じる役者がその役について、つくりあげなければいけない責任はその分大きいと考えています。ドラマの方が構築していく最初の段階で、意見やアイデアをしっかり伝えるかもしれませんね。
― そういう意味でも、中田監督に身をゆだねる部分が多かったと。
亀梨 : 正直、今回オファーをいただいた時、引き受けるかどうかすごく悩んだんです。ホラー映画は、人の「生死」を描く作品でもあると思ったので、自身がそこに向き合えるのか自問自答しました。
― 中田監督はSNSで「畢竟(ひっきょう)、『事故物件』とは前住者がどう生き、どうなくなったかの記憶的痕跡を現住者がどう感じるかなのだろうと。」とおっしゃっていますね。「生死」の痕跡を描いている作品でもあると。
亀梨 : これまでの自分の人生もそこに対してはしっかり向き合ってきたつもりなので、今作でも描かれている「生死」にちゃんと敬意を持って臨めるか、そのための心の準備ができるか不安がありました。
でも、やはりそこに挑もうと思ったのは、中田監督作品への信頼と、以前僕が出演させていただいた『PとJK』(2017)からの松竹さんとの繋がりがあって、その流れが僕の中にあったからなんです。
15年前は怖いもの知らずだった。
今は「その先」を見据えて、作品と向き合える
― コロナ禍で撮影ができなくなり、テレビでは多くの過去の名作が放送されました。その中のひとつ『野ブタ。をプロデュース』は大変話題になりましたね。亀梨さん演じる修二が「自分らしさ」に気づいていく姿が印象的なドラマですが、15年前の当時と比べると、ご自身のものづくりへの向き合い方に変化はありましたか?
亀梨 : 「準備する時間」でいえば、大きく変わりましたね。当時は、忙しくて物理的に時間がなかったということもありますが、その時間がとれなくても怖くなかったです。今は、お芝居に限らず、何事においても準備して臨まないと、怖くて怖くて仕方がないです(笑)。
あの頃は、瞬発力と怖いもの知らずのエネルギーで突破していたんでしょうね。でも、今の感覚で、ものづくりに携わっていたら、辛くて辞めていたかもしれません。その先にあるものにまで、目を向けられていなかったので。
― 経験を積んできた今だからこそ、見えるようになったものがあるということでしょうか?
亀梨 : 15年前は、まだ「売れたい」「かっこよく見せたい」という思いの方が強かったので、そのためだけに「準備をしなきゃ」というマインドになっていたら、辛かったと思う。それぞれの仕事への向き合い方や、やりがいがわかるようになった今だからこそ、なぜそれが自分にとって必要なのかが理解できるようになりました。
― 今作では、ヤマメが「自分のやりたいこと」が本来何であったかを見つめ直す姿も描かれています。「芸で身を立てる者」としてのリアリティ、とおっしゃっていましたが、そこには亀梨さんの人生の変化も落とし込まれているのですね。
亀梨 : 彼の純粋さが、それぞれの行動に繋がっているように見せる、ということは心がけていました。周りから求められることや、自分で達成したいことに向かっていく姿を、自分勝手、ではなく、一生懸命、の先にあるものとして捉えてもらえるように。
― では最後に、自分を見つめ直すことができる「心の一本の映画」を教えてください。
亀梨 : なんだろう…一本となると難しいですね…。自分を見つめられる…レオナルド・ディカプリオ主演の『バスケットボール・ダイアリーズ』(1995)です。
― バスケットボールに夢中だったディカプリオ演じる主人公たちが、あることをきっかけに、麻薬に手を染め、破滅の道へと進み、またそこから立ち上がっていく姿を描いた作品です。
亀梨 : ジャニーズ事務所に入る前、中学生になる前ぐらいに観た作品です。兄がこの映画のVHSを持っていたんですよ。
「ディカプリオかっこいい!」と洋画の世界に憧れを持ちました。と同時に、ドラッグの怖さももちろんですが、人間の怖さを強烈に感じました。でもその印象が、強く焼きついているからこそ、いまだにすごく自分の中に残っていて、ふと観返したくなるんです。人との繋がりや弱さについて考えるきっかけになった映画ですね。