そんな自分にとって特別な、そして誰かに語りたい映画体験記。
2020年の夏は全国的に猛暑がつづき、9月も厳しい残暑となりそう…。この1ヶ月厳しい暑さに耐えてきた身体が、悲鳴をあげ始めている人も多いのでは?
8月の暑い盛りに生まれたからか、楽しい思い出の多い夏が、私は大好きです。外で飲むビールは格別だし、フェスやキャンプなどの好きなイベントも満載。少し涼しくなった夕方に散歩をするのも気持ちがよく、避暑地への旅行も最高です。
しかし今年は、例年と様相の異なる夏を迎えることになりました。なかなか収束しないウイルスを前に、あらゆる楽しみが延期、または中止に。最前線で仕事してくださっている医療従事者の方々のことを思えば当然なのですが、仕方のないこととわかっていても、心のなかで(もしくは実際に)ため息をついた人も少なくないでしょう。私もそんな一人です。
さらに追い打ちをかけるように、大好きな友人の台湾移住が決まり、気分はさらに急降下。仕事もうだつがあがらず、一人西日の差すアパートでこれからのことを悶々と考えると、楽しいはずの夏が憂鬱なものに思えてきて、私は今年の暑さにすっかり嫌気がさしていました。
そんな鬱々とした気分を吹き飛ばし、前を向く元気をくれたのが、映画『イエスマン “YES”は人生のパスワード』(2008)です。
主人公は銀行員のカール。離婚をきっかけに何事にも後ろ向きになり、友達や周囲からのあらゆる誘いや提案に「ノー」「パス」と答える無気力な日々を送っていました。そんな彼はひょんなことからとあるセミナーに参加し、そこで「人生を切り拓くためのルールは全てに“イエス”と答えること」と教えられます。
ホームレスを車に乗せて携帯電話を貸したり、融資を担当している銀行ではどんな融資相談にも応じたり、隣に住むおばあさんの怪しい相談にのったり。それまでであれば「ノー」と答えていたような事柄の全てに「イエス」と言うカールは、当然あらゆる面倒に巻き込まれていきます。気になった習い事には片っ端から挑戦し、様々な社交の場に顔を出すので、当然そのぶん出費も凄そう。それでも、周囲に影響されながら狭量な自分の世界を抜け出した彼は、素晴らしい女性に出会ったり、普段やらないようなこと・後回しにしていたことにチャレンジしたりして、人生を劇的に変化させていくのです。
たとえいまがどんなに苦しくても、小さな頭の中だけで自分の可能性を限定せず、いろいろなことに挑戦していこう。慣れない「新しい生活」のなかでも、たくさん楽しいことに出会って、人生に思いきり「イエス!」と言おう! そんな爽やかな気持ちにさせてくれた『イエスマン “YES”は人生のパスワード」は、“暑いだけの夏”と腐っていた私にとって、最高に暑さを吹き飛ばしてくる映画となりました。
余談ですが、緊急事態宣言が解除されて初めて訪れた映画館では、久しぶりに劇場で映画を観られる歓びに震え、泣きそうになりました。もちろん、深夜に冷房の効いた自室で、灯りを落として画面にひきこまれていくのも最高の時間です。まだまだ厳しい暑さが続きますが、私たちには映画と、映画館があります。涼しくてワクワクする暗闇で、ぜひ暑さ吹き飛ぶひと時を過ごしてみてください。
- 介護の中、夢を捨てずにいられたのは、あいつの「ただいま」が希望に向かわせてくれたから。映画『大脱走』
- 眠れない夜に私を救ってくれたのは、70年前の名作ミュージカル映画だった 『雨に唄えば』
- ままならない家族への感情……それでも確かに愛してる。『シング・ストリート 未来へのうた』で描く私の夢
- 嘘の中の紛れもない「リアル」。 いつまでも彼の踊る姿を観たいと思った 『リトル・ダンサー』
- 「どんな自分も愛してあげよう」 肩の力を抜くことができた『HOMESTAY(ホームステイ)』
- 映画って、こんなに自由でいいんだ。そんなことを気づかせてくれた『はなればなれに』
- 日々の選択を、愛ある方へ。自分を大切にするための映画『パパが遺した物語』
- 大丈夫。あなたが私を忘れても、私があなたを思い出すから 『43年後のアイ・ラブ・ユー』
- どうしたら色気を醸し出せるのか!?核心を隠すことで見えてくる、エロティックな世界『江戸川乱歩の陰獣』
- 幸せになるには、まず「幸せに気づく」こと。こんな2020年を希望にかえて締めくくる『食堂かたつむり』
- 仕事も休めばいい、恋もなんとだってなる。人生の舵は、自分が握っているのだ『嗤う分身』
- 号泣したワンシーンが、思いを届けるきっかけになる『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』
- 「私の人生、まんざらでもないのかも」見過ごしていた“当たり前”に魔法がかかる『顔たち、ところどころ』
- 東京という大きな「生き物」が、 人生の岐路に立つ人を静かにつつんでくれる『珈琲時光』
- 狂気を殺さない!愛してみる。生きていく『逆噴射家族』
- 動き出さない夜を積み重ねて、たどり着く場所がきっとある『ナイト・オン・ザ・プラネット』
- 時代の寵児バンクシーの喜怒哀楽や煩悶を追体験!?観賞後スカッとするかしないかは自分次第… 『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』
- 「帰省」を疑似体験。離れて暮らす父親の素っ気なくも確かな愛情『息子』
- 90分でパリの100年を駆け抜ける!物足りない“現在”を笑って肯定しよう!!『ミッドナイト・イン・パリ』
- 映画の物語よりも、そこに流れる「時間」に没入する 『ビフォア・サンセット』
- 慣れない「新しい生活」のなかでも、人生に思いきり「イエス!」と言おう!『イエスマン “YES”は人生のパスワード』
- 夢や希望、生きる意味を見失った時、再び立ち上がる力をくれた映画『ライムライト』
- 人の目ばかり気にする日々にさようなら。ありのままの自分が歩む、第二の人生。 『キッズ・リターン』
- 人に嫌われるのが怖くて、自分を隠してしまうことがあるけれど。素直になりたい『トランスアメリカ』
- 成功は、競争に勝つことではない。 「今を楽しむ」ことを、教えてくれた映画『きっと、うまくいく』
- それぞれの場所で頑張る人たちへ 「声をあげよう」と伝えたい。その声が、社会を変える力につながるから『わたしは、ダニエル・ブレイク』
- 僕が笑うのは、君を守るため。 笑顔はお守りになることを知った映画『君を忘れない』
- 心に留めておきたい、母との時間 『それでも恋するバルセロナ』
- 「今振り返っても、社会人生活で一番辛い日々でした」あのときの僕に“楽園”の見つけ方を教えてくれた映画『ザ・ビーチ』
- “今すぐ”でなくていい。 “いつか”「ここじゃないどこか」へ行くときのために。 『ゴーストワールド』
- 極上のお酒を求めて街歩き。まだ知らなかった魅惑の世界へ導いてくれた『夜は短し歩けよ乙女』
- マイナスの感情を含む挑戦のその先には、良い事が待っている。『舟を編む』
- 不安になるたび、傷つくたび 逃げ込んだ映画の中のパリ。 『猫が行方不明』
- いつもすぐにはうまくいかない。 自信がないときに寄り添ってくれる“甘酸っぱい母の味”『リトル・フォレスト冬・春』
- 大人になって新しい自分を知る。 だから挑戦はやめられない 『魔女の宅急便』
- ティーンエイジャーだった「あの頃」を呼び覚ます、ユーミン『冬の終わり』と映画『つぐみ』
- 振られ方に正解はあるのか!? 憧れの男から学ぶ、「かっこ悪くない」振られ方
- どうしようもない、でも諦めない中年が教えてくれた、情けない自分との別れ方。『俺はまだ本気出してないだけ』
- 母娘の葛藤を通して、あの頃を生き直させてくれた映画『レディ・バード』