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そんな自分にとって特別な、そして誰かに語りたい映画体験記。
最近、忙しくて映画を観る時間がない…と嘆いているあなた。90分! 90分ならどうでしょう? ちょっと早起きしたり、ちょっとSNSを観る時間を削ってみたりすることで、90分ならば捻出できるのではないでしょうか!?
映画の中の時間を、愛おしく感じる
ステイホーム期間をきっかけに、韓国ドラマにすっかりはまってしまいました。怒涛の展開と、自粛のストレスを忘れるような景気のいい明るいムードに引き込まれ、気づくと4つの動画配信チャンネルを駆使して視聴するほどに…。ただ、1話が80分〜90分と長いので、深夜に観始めるとうっかり寝不足コース、ということもしばしばありました。
「この時間を使って映画を観れたんじゃないか…」。そんな一抹の後悔も覚え始めた頃、韓国ドラマ1話分の時間で今晩は映画を観てみようと再生したのが、『ビフォア・サンセット』(2004)です。
旅先の列車で出会ったフランスの大学生セリーヌと、アメリカの青年ジェシーが、目的地の途中であるウィーンで途中下車し、街を歩きながらのデートを楽しむ14時間ほどの様子を描いたのが、『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(ディスタンス)』(1995)。特別なドラマ展開はなく、恋愛観や死生観など、若い二人の思想が見え隠れする会話のみで見せていくこの映画の続編としてつくられたのが、この『ビフォア・サンセット』です。この後に続く『ビフォア・ミッドナイト』(2013)と三部作シリーズを成し、のちに『6才のボクが、大人になるまで。』(2014)で数々の賞を受賞するリチャード・リンクレイター監督の代表作になります。
映画は、前作で連絡先も交換せずにウィーンで別れた二人が、9年後にパリで再会するところから始まります。空白の9年間を埋めようと、話したいことが山程ある二人ですが、今回はジェシーがニューヨーク行きの飛行機に乗るというタイムリミットがあり、“夕暮れまでの85分”という限られた時間しかありません。そして、この映画の上映時間も81分、つまり二人の会話や感情の揺れ動きが、ほぼリアルタイムに近い時間感覚で描かれていくのです。
カフェに入り、公園を通ってセーヌ川沿いを歩き、観光客向けの遊覧船に乗る。道に迷いながら小さな路地を曲がったり、店員に注文や会計をしたり、そのすべての道のりが省略されずに描かれていく様子は、自分がその場にいるんじゃないかと錯覚するほど。本音に触れるのを避け、当たり障りのない会話を続けていたかと思えば、別れ際になって突然お互いの感情をぶつけ合うことも。スマートに見えて、実は等身大な二人の会話もやけにリアリティがあります。
この映画に流れる85分間には、恋のライバルが登場したり、事故にあって記憶喪失になったりという、韓国ドラマのような劇的な起伏は何もありません。ただ、ぎこちない会話を持て余すようにコーヒーカップの縁をなでたり、遊覧船の風で揺れる相手の髪を眺めたり、暮れていく街を見て別れを予感したり、忘れがたい一瞬一瞬を積み重ねている「時間」が流れています。そして、それを自分が体験しているかのように、愛おしく感じるのです。
ジェットコースターに乗っているような、非日常的な体験ができるのが韓国ドラマ。でも、その1話分と同じ長さで、物語に流れる「時間」にここまで没入できるのは、映画ならではの贅沢なのだと『ビフォア・サンセット』を観て思ったのでした。
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- 狂気を殺さない!愛してみる。生きていく『逆噴射家族』
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- 時代の寵児バンクシーの喜怒哀楽や煩悶を追体験!?観賞後スカッとするかしないかは自分次第… 『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』
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- 夢や希望、生きる意味を見失った時、再び立ち上がる力をくれた映画『ライムライト』
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