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小さな頃から、いつも隣にあった映画たち
― 毎熊さんは映画がお好きで、この世界に入られたということでしたが、小さい頃から映画をご覧になってたんですか?
毎熊 : 物心ついた時から、もうずっと映画が好きなんですよ。でもその理由がわからくて。
― 家族がお好きだったんですか?
毎熊 : いや、そこまででもなくて。僕が好きだから、たくさん観せてくれてたんですよね。よく映画館にも連れて行ってもらいましたし。あと、子供だったけれど、子供向けじゃない映画を観せてくれてたんです。『13日の金曜日』(1980)とか。
昴生 : それは、子供向けじゃないわ(笑)。
― 有名な殺人鬼・ジェイソンが登場するホラー映画ですね。
毎熊 : だから、最初に映画館で観た映画もアニメとかじゃなく、『ジュラシック・パーク』(1993)なんです。
― マイケル・クライトンによる小説をスティーヴン・スピルバーグ監督が映画化し、大ヒットとなった作品です。毎熊さんが、小学校1年生の時ですから、あの恐竜の描写などは結構ショッキングな体験だったのではないでしょうか。
毎熊 : 衝撃的でした。現実では絶対体験できないことですよね。その経験がずっと自分の中に残っているというのも、映画が好きになった理由だと思います。
昴生 : 僕も毎熊さんと一緒で、よくおばあちゃんに映画館へ連れて行ってもらってたんですよ。両親が共働きだったから、おばあちゃんの家にずっといたので。土日になったら、おばあちゃんが映画館に連れて行ってくれるんですよね。ほら、映画館だと僕ら静かに映画観てるじゃないですか。やっと寝れるって言って(笑)。
当時は入替制じゃなかったから、1回入ったらずっと観れるんです。だから、『もののけ姫』(1997)なんて、1日で5回くらい観ました。いや、ほんまに。亜生なんか、セリフ覚えてるし。
昴生 : 1日中、映画館で同じ作品観続けてることもありましたけど、それでも映画が好きでした。あの映画館の雰囲気が大好きで。あと、僕がまだ京都にいた時は、毎年大晦日に家族で映画館へ行くのが恒例で。
毎熊 : あー、僕も恒例でした。
昴生 : 『男はつらいよ』も年末年始に公開されてたんですよね。
― フジロックを主催するSMASH代表 日高正博さんに取材した際も、盆暮れに田舎へ帰ると、『男はつらいよ』を弟さんと映画館で観るのが恒例だったとおっしゃっていました。
昴生 : やっぱり、そうなんや! 僕は家族で『エクソシスト』(1974)とか『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』(1999)とか観に行きましたよ。なんで、大晦日にこれ観なあかんねんって思ったけど(笑)。
毎熊 : 懐かしい!
昴生 : 亜生と行った初めてのおつかいも、家の前にあるレンタルビデオショップだったんです。亜生と手を繋いで『サンドロット/僕らがいた夏』(1993)を借りに行きました。大好きな映画で、繰り返し観たことを覚えています。
― 『サンドロット/僕らがいた夏』は、草野球仲間の少年達の友情を描いた作品ですね。
昴生 : 今も休みの日に何するっていったら、映画。妻とのデートも映画館です。
毎熊 : おー! 今もですか?
昴生 : そう、今も! だから、やっぱり映画は特別で。僕の姿が、映画館のでかいスクリーンに映し出されるのが憧れで、夢なんです。毎熊さんが、羨ましい!
毎熊 : そうなんですか!
昴生 : 『ライオン・キング』(2019)で亜生がティモンの声を務めた時は、映画館で観てほんまに感動しました。最後のエンドロールで亜生の名前が流れた時、前の席のカップルが「亜生くんが声をやってたんだー」って聞こえたので、思わず「そうやねん、そうやねん。うちの弟です」って声をかけたくてたまらなくなって。それぐらい映画は、僕にとって特別な存在です。
昴生、毎熊克哉の「心の一本」の映画
― 最後に『男はつらいよ』シリーズの中で、一番好きな作品「#推し寅」を教えていただけませんか。
昴生 : なかなかなこと聞きますよね、ほんまに! 甲乙つけがたいに決まってるじゃないですか!!
― (笑)。では、一本を挙げていただく前に、好きなマドンナからお伺いするのはどうですか?
昴生 : えー! 1人ですか?
毎熊 : 1人か…。
昴生 : 5人ぐらい選ばせて欲しい!
昴生 : 僕は…吉永小百合さんもいいけれど…1人挙げるなら、伊藤蘭さんかな。
― 第26作『男はつらいよ 寅次郎かもめ歌』(1980)ですね。北海道奥尻島に住むテキヤ仲間シッピンの常の娘・すみれを伊藤蘭さんが演じています。定時制高校に通いたいというすみれの望みを叶えるため、寅さんは柴又へ連れて帰ります。
昴生 : 恋人というよりは、娘という視点ですみれを、寅さんは見ているように感じました。すみれを叱るシーンもあるので、そういう父親のような寅さんの一面も見れるし、何よりも本当に伊藤蘭さんが可愛かった。劇中ずっと可愛かった…。イカ加工場の登場シーンから「こんな可愛い人が田舎に!?」ってなるぐらい! 一度観ていただきたい。
毎熊 : 僕は…悩みますけど…木の実ナナさんですね。
― 第21作『男はつらいよ 寅次郎わが道をゆく』(1978)で踊り子・紅奈々子を演じています。圧巻のダンスシーンも披露されていますね。
昴生 : ナナさん、魔性感出てますよね。
毎熊 : 寅さんが一番出会っちゃいけないタイプの女性!
― (笑)。
毎熊 : 絶対寅さんと不釣り合い!っていう、他のシリーズとは一味違うマドンナ像が好きでした。
昴生 : 寅さんが理由をつけては、木の実ナナさん演じる奈々子の出演する劇場に通うところもよかったですね。……そうそう、そういう「このシーンがよかった!」っていうのもあるんですよ〜。
― お好きなシーンも是非教えてください!
昴生 : それで言うと、タコ社長(太宰久雄)が登場するシーンは毎回大好きで。
― 「タコ社長」はくるまやの裏手にある朝日印刷の経営者で、さくら(倍賞千恵子)の夫・博(前田吟)もそこで働いています。
昴生 : 「タコ社長、ここで出てきてくれ!」っていうところで、絶対出てきてくれるじゃないですか!?(笑) 例えば、みんなで「寅さんにこの話だけは絶対したらアカン、内緒にしよう」って言ってるところに、大声でその話をするタコ社長がやって来る。あれがたまらんのですわ!
― そこから、寅さんとタコ社長の大喧嘩が始まりますね。
昴生 : タコ社長もおばちゃん(三崎千恵子)も、さくらも博も、第1作から演じ手が変わってない。ずーっと一緒。それって、本当にすごいことですよね。
毎熊 : 新作の『男はつらいよ お帰り 寅さん』もみなさん一緒ですもんね。本当にすごいことです。
毎熊 : 僕は、好きなシーンでいうと、寅さんがテレビに映り込んでいるのを、くるまやの家族みんなで見つける場面が好きなんです。
昴生 : あ、好き。それわかる。最初に、さくらとかが見つけるんですよね。
― 第48作『男はつらいよ 寅次郎紅の花』(1995)にもありました。阪神淡路大震災の直前に神戸から連絡があって以来、音信不通になってた寅さんが、震災後の避難所をレポートしたテレビ番組でボランティアに励む姿を捉えられます。
毎熊 : 僕が一番印象に残ってるのは第3作。年越し蕎麦を食べながら、くるまやでみんなが年越しをしていると、テレビの中継にインタビューを受ける寅さんが映るんですよ。それで、インタビュアーに寅さんが「お子さんは?」って聞かれて「子供? 子供は…2人…3人になるか、な。俺に似て可愛いよ」って答える姿をみんなで見てる。
― 第3作『男はつらいよ フーテンの寅』(1970)ですね。それを観たおいちゃんが「なにが子供だよ。そんなものどこにいるんだい。バカだよ、あいつはホントにバカだよ」と涙ぐみます。
毎熊 : そうやって嘘をつかざるを得ない寅さんのことが、『少年寅次郎』を通して生い立ち含め理解できるから、もう泣けてくるんです。
「寅さんのバックボーンを含めて観る」という視点で、一本作品を推すならば、第2作『続 男はつらいよ』(1969)。寅さんが生みの親に会いに行くこの作品が、僕の「推し寅」かな。
― 寅さんが中退した「葛飾商業」の恩師・坪内散歩(東野英治郎)と、その娘・夏子(佐藤オリエ)との懐かしい再会を果たす回ですね。
― 坪内先生のススメもあって寅さんは産みの母・お菊(ミヤコ蝶々)に会いに行きます。坪内先生、夏子、お菊、この3人は『少年寅次郎』にも登場するので、ドラマと繋がる話でもあります。
昴生 : この初期の『男はつらいよ』もいいですよね。
毎熊 : そう。僕らの世代がリアルタイムで知ってるのは、後期じゃないですか。だから、寅さんって、「ちょっと気のいい面白いオヤジ」っていうイメージだったんですよ。でも、改めて最初から観ると、全然イメージが変わって。
「顔で笑って心で泣いてってよ、そこが渡世人のつれぇところよ…」という有名なセリフがあるじゃないですか。
― はい。同じく第2作に出てくるセリフです。
毎熊 : 子供の頃には、そのセリフがどういう意味か理解できなかったんですけど、今は寅さんが笑えば笑うほど「切ねえなぁー」という気持ちになって、言葉が心に染みます。
昴生 : 『少年寅次郎』観るとね…余計切なくなるね…。そうやな…それを考えて『男はつらいよ』シリーズを観たら…すごく切ないわ! 毎熊さんのことちょっと嫌いになるもん! 「平造のせいで、寅さん、こんなことになってしまって」って…。
毎熊 : (笑)。やっぱりエピソード0を担わせていただくというのは、すごいことなんだなと改めて思います。
昴生 : 僕の「推し寅」は、第32作『男はつらいよ 口笛を吹く寅次郎』(1983)です。前半の、寅さんが住職に扮して法事を務める“喜劇シーン”も大好きなんですけど、最後の竹下景子さん演じる朋子が、柴又の駅で寅さんに自分の気持ち伝えようとするシーンもすごく胸を打ちますよね。
昴生 : 朋子が寅さんの着てるハンテンの袖を引っ張るんです。そしたら、寅さんはドギマギして、「好きな人の前でそんな顔したら絶対あかん!」っていう表情をするんですよ。でね、さくらも気をきかせて帰ればいいのに、ずっとホームに残ってて。「なんで、おるの? 空気読んでよ!」って(笑)。
毎熊 : (笑)。
昴生 : 寅さんも、朋子から気持ちをこれだけしっかり伝えられてるのに、「何で?」 っていう態度で…。自分の想う人と結ばれて幸せになればいいのに…何をそんなに恐れてるんだろうかと。朋子だけでなく、リリー(浅丘ルリ子)とだって結婚すればいいのに、何がそんなに…って、寅さんの心情を色々考えてしまいますよね(笑)。
…寅さんって、よく考えたら、自分の胸の内は明かさないんですよ。
毎熊 : うん。「俺には幸せにできねぇ」みたいな気持ちなんですかね。
昴生 : 博とか満男(吉岡秀隆)には、ああだこうだ指南するのに自分の本心は語らない。だから、観てる方は推測して読み取るしかない…。そんなところも、寅さんの魅力だったりするんですよね。
毎熊 : それはやっぱり、『少年寅次郎』で描かれた生い立ちが関係してくるのかなと思ってしまう。
昴生 : そうか…エピソード0がいろんなところで、リンクしてくるんですね。
― その『少年寅次郎』ですが、新たに『少年寅次郎スペシャル』として放送されます!
昴生 : スペシャル!? うそ!? いつ放送するんですか?
― 前後編で12/4と12/11に。
昴生 : 撮影は?
毎熊 : これからです!
昴生 : これ話した後だと、余計にプレッシャーがかかるんじゃないんですか…!?(笑)。
毎熊 : 本当に…頑張ります!
昴生 : えー、どこの話をやるんやろう? めちゃくちゃ楽しみです!
― 話はつきませんが…お時間になりましたので、今日は楽しい話をありがとうございました。
昴生 : え? オールナイト取材じゃないんですか?
毎熊 : オールナイト!?
昴生 : 今度は、オールナイトで『男はつらいよ』語りましょう!