PINTSCOPE(ピントスコープ) 心に一本の映画があれば PINTSCOPE(ピントスコープ) 心に一本の映画があれば

映画を観た日のアレコレ No.31

漫画家
押切蓮介の映画日記
2021年1月8日

映画を観た日のアレコレ
なかなか思うように外に出かけられない今、どんな風に1日を過ごしていますか? 映画を観ていますか?
何を食べ、何を思い、どんな映画を観たのか。
誰かの“映画を観た一日”を覗いてみたら、どんな風景が見えるでしょう?
日常の中に溶け込む、映画のある風景を映し出す連載「映画を観た日のアレコレ」。
31回目は、漫画家 押切蓮介さんの映画日記です。
日記の持ち主
漫画家
押切蓮介
Rensuke Oshikiri
漫画家。
代表作『ハイスコアガール』『ミスミソウ』等。

2021年1月8日

今日も今日とて漫画のネームが思うように進まなかった。
世間では1都3県に緊急事態宣言が発令され、去年の夏のように再び家から出られない状況が繰り返されることとなった。
追い打ちをかけるように、去年から突如発症した突発性難聴によって引き起こされる耳鳴りがけたたましく自分の両耳に襲い掛かる。
そんな気がおかしくなるこの状況を助けてくれる一本の映画が存在する。
『JAWS/ジョーズ』だ。僕が生まれて初めて観た映画…金曜ロードショーで放送していたこの映画を5歳の年で視聴してから人生が変わったのだ。落書き帳に描かれる絵の大半はジョーズのシーンであり、人間が貪り食われる様子をこれでもかと描き続けてきた。

それ以来、この歳に至ってもなお『ジョーズ』への執着は色あせない。
知り合いの幼き息子、娘と自分が一緒に『ジョーズ』を観る権利を5万円で譲ってくれないかと懇願するも、幼稚園生である己の愛息子、愛娘に得体の知れないクソ漫画家と一緒に視聴を許す親は今まで存在しなかった。
自分と同じ道を辿らせたいという切なる願いは未だかなえられず…。
そのような神聖な儀式を願うほど、自分はこの映画を愛しているのだ。

緊急事態宣言が発令された最中、単行本の発売を控えた作品も未だ発売日が決まらずにいた。
気落ちする中でネームを編み出すことは至難の技であった。
そんな時は『ジョーズ』を観ることにしている。
去年はNetflixでこの『ジョーズ』もクリック一つで視聴することが可能であったが今は取り扱っていない。
しかし安心出来る…何故なら僕は『ジョーズ』のDVDを持っているからだ。
それだけではない、Blu-ray版も持ち合わせている。
更に言うとVHS版まで持っている。
よほどのことが無い限り、僕から『ジョーズ』が取り上げられることは無い。
なので、いつでも『ジョーズ』の視聴が可能となるのだ。

視聴が開始されると、前回最後に観たシーンから再生される。
人生でもっとも回数を重ねて観ている映画なので、セリフや音楽が頭の中で記憶されている。
無音であろうと、脳内で音声が自動再生されるくらいだ。

一通り満足するとネームに打ち込むのだが、やはり『ジョーズ』を観ただけのことはある。
ペンが思いのままで進むのだ。
原稿を描く時にこの『ジョーズ』を流しながら描くと線が龍と化し、瞬時にしてペン入れが終わる。

風呂に入り、母親が仕事部屋に食事を持ってきてくれた。
もっぱら食事をする時は映画を流す。
何の映画を流すか…。
悩みどころではある…。
そうだ…!! いい映画を思いついた…!!

そう、『ジョーズ』だ。

僕は瞬時にして『ジョーズ』を観ながら夕食にありつく。
今日はネギの肉巻きと大根の漬物…なめこの味噌汁に納豆と御飯。
母の料理と『ジョーズ』…最高の組み合わせだ。
『ジョーズ』を観たその日に「たまにはジョーズを観ようかな」と思って視聴することもある。
更には『ジョーズ』を観ている最中でも『ジョーズ』を観ようかと思う時がある。
煙草を吸っている時に煙草が吸いたいなあと思う時がある。
そんな感じのことが『ジョーズ』にもあるのだ。

これから自宅で過ごす時間が更に増えるだろう…。
家で暇をもてあそぶことになるやもしれない。
しかし僕は安心している。
家に存在するこの『ジョーズ』のDVDとBlu-rayとVHSがある限り無敵だからだ。

落ち込んだ時、何を観る…? そう『ジョーズ』だ。
眠れない時、何を流す…?『ジョーズ』に決まっている。
『ジョーズ』『ジョーズ』『ジョーズ』
ジョジョジョジョジョーズ ジョジョジョーズ。

今夜もまた不朽の名作映画、『ジョーズ』が僕の一日を支え、人生を共に歩んでくれる。
明日は何の映画を観よう…?

『ジョーズ』だ。

BACK NUMBER
FEATURED FILM
監督:スティーブン・スピルバーグ
出演 : ロイ・シャイダー、ロバート・ショウ、リチャード・ドレイファス
当時弱冠27歳のスピルバーグ監督が獰猛な鮫と人類の息詰まる闘いを歯切れの良いサスペンス演出でダイナミックに描く。ジョン・ウィリアムズの不気味なテーマ曲も恐怖度満点。公開時、海に出かける人が激減した不朽のパニック・アクション!
PROFILE
漫画家
押切蓮介
Rensuke Oshikiri
漫画家。
代表作『ハイスコアガール』『ミスミソウ』等。
シェアする