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揺らいでいる自分を
真っ直ぐに受け止める。
― 映画やドラマ、CMへのご出演が絶え間なく続き、お忙しい毎日を送られていると思います。そんな中でも、自炊をされていると伺いました。
有村 : 今でも余裕があるときは、できるだけお弁当をつくって現場に持って行くようにはしています。お弁当といっても、簡単にお野菜とタンパク質を入れるぐらいです。
― それは、体調を整えるためですか?
有村 : そうですね。映画やドラマなどの撮影に入るときは、作品に集中したいので、あまりお腹いっぱいにしたくないんです。だから、あえて軽く食べられるものを自分で持っていくことはあります。スケジュールの都合で充分に睡眠がとれないときも多いですが、時間のあるときは30〜40分ランニングをしたり、ジムに行ったりもしています。
― ハードスケジュールの中で、それをこなすのは大変ですね。結構タフな方ですか?
有村 : タフな方だとは思います。だけど、『ひよっこ』が終わってからは、前より疲れを感じやすくなって。「なんかすぐ疲れるな〜」みたいな(笑)。
― (笑)。『ひよっこ』では、長期間に渡って主演を務められました。そのことで「初めて、自分ではなく周りに目が向いた」と以前インタビューでおっしゃっていたのが、印象的でした。
有村 : どの作品においても、関わっていくうちに、作品への想いや一緒につくりあげている皆さんへの想いが、どんどん募っていくというのはあります。でも『ひよっこ』は、1年ぐらいスタッフや出演者と撮影を共にしたので…。そういうこともあって「こんなに一生懸命ドラマをつくっている皆さんが、幸せになってほしい」と、すごく思いました。
― 長期間に渡って主演として、多くの人と作品をつくりあげた経験が、今回の映画『かぞくいろ―RAILWAYS わたしたちの出発―』でも活かされていますか?
有村 : うーん…、『かぞくいろ』の時は、結構悩んでいたので…。
― 悩んでいたのですか? ご自身のことで?
有村 : そうですね…自分自身のことで。現場では晶と一緒に、すごく気持ちが揺らいでいました。
― 有村さんは『かぞくいろ』で、夫・修平(青木崇高)を突然亡くし、夫の連れ子の母親として生きていくことを決意する25歳の女性・晶演じています。有村さんご自身も役柄と同じ25歳ですね。
有村 : ちょうど25歳の誕生日を『かぞくいろ』の現場で迎えたんですが、実は25歳になる直前が、何年かぶりにわたしがすごく悩んでいる時期で。
晶という役も、夫が突然亡くなって、血の繋がらない子どもと家を追い出されて、気づいたら夫の実家である鹿児島にいて…と、どんどん流れていく時間を必死で飲み込もうとしています。でもふとしたときに心が折れそうになることもあって、でも頑張らなきゃいけなくて…と葛藤する役ですよね。わたしも役に影響されたのか、たまたまなのか、ちょうど揺らいでいて…。
― その悩みは、解決されたんでしょうか。
有村 : まだ、撮影が終わってからそんなに期間が経ってないので、自分の中でも消化しきれてないんですよね。もしかしたら、1年後くらいにわかるのかもしれない。でも、そんなに悩むこともないので、貴重な時間だったなと思います。
― 晶と有村さんは似ていますか?
有村 : わたしには多分、晶ほどの強さはないと思います。晶って本当に強いというか…。突然あのような境遇に置かれて、本当は毎晩泣いてもおかしくないのに。守りたい人がそばにいることで、こんなに強くなれるんだって思いました。似てるところ? 負けず嫌いなところですかね(笑)、自分に対して。
― もし、有村さんが晶のように、血の繋がらない亡くなった夫の子どもを、育てなくてはいけない境遇に置かれたら、できると思います?
有村 : そうですね……多分、できると思います。守りたい。自分が好きになった人、大切な人が大切にしているものは全力で大切にしたいと思います。自分も同じように愛情を持って接したいと思うので、そこはちゃんと覚悟を持って、いられるんじゃないかなと思います。
「変わりたい。変わらなきゃ」
覚悟を決めた人生の転機。
― 劇中で晶は、義父・節夫(國村隼)の職業でもある“鉄道運転士”になることを決心します。反対する節夫を「このままじゃだめだってわかってます。変わりたいんです」と説得するシーンが、晶の人生のターニングポイントだったと思うのですが、有村さんにも「変わりたい。変わらなきゃ」と思った人生の転機はありましたか?
有村 : …思い浮かぶのは、役者という仕事を始めて4年目の、20歳になった瞬間ですね。19歳から20歳になる1年という間に、仕事について、自分の中で落ち込んだり悩んだりするようなことがものすごく多かったんです。自分の芝居を変えることができなくて、何かあともう一つつかめれば変われるかもしれないのに、それがわからない…。だから20歳になったとき、「この節目をきっかけに変わることができないんだったら、もうこの仕事をやめた方がいい」と覚悟しました。その瞬間ですね。
― 20歳という節目に「変わりたい。変わらなきゃ」と思ったんですね。
有村 : 当時のマネージャーから「そんな芝居をするなら役者をやめなさい」とはっきり言われたんです。その言葉をきっかけに、「役者の仕事がしたくて兵庫から上京してきたんだから、そう簡単には帰らないぞ」という仕事に対する自分の情熱を再確認して、なんとか停滞している状況を乗り越えたという感じです。自分が好きで始めた仕事なので。
― 役者という仕事がお好きなんですね。
有村 : はい。「向いてないな」って何度も思ってきたし、今でも思うことあるけど…、やっぱり好きです。
― 有村さんは悩んだとき、どういう方法で解決されるんですか?
有村 : 悩んだら、自分で考えて、自分で答えを出すタイプだと思います。自分の気持ちを整理するために、ノートをつけることもあります。17歳でデビューした当時、自分の気持ちを言葉にするのが苦手だったので、当時のマネージャーに「思っていることを書き出してみたら?」と勧められたんです。17歳〜20歳くらいまでは毎日書いていました。
― 今回の現場でも、ノートはつけていましたか?
有村 : 撮影の多くが九州だったので、荷物になるから持って行っていきませんでした。今は“日常的に”というよりは、ときどき“思い立ったときに”書いています。そういえばいつの間にか、作品や役柄のことをまとめるのに使うくらいで、あまり自分の気持ちは書かなくなりましたね。それは多分、書かなくても自分の気持ちの整理がつきやすくなったからだと思います。
― 晶は、夫の連れ子・駿也(歸山竜成)の担任のゆり先生(桜庭みなみ)と親しくなりますね。二人は不思議な関係です。ただの先生と保護者の関係とも言い切れない。でも友だちでもないし、親友でもない。お互いに抱えているものがあり、さりげなく支え合っている間柄です。有村さんは悩んだとき、友人でなくても、晶にとっての“ゆり先生”のような間柄の方に相談することはありますか?
有村 : 地元・神戸の友だちもそうだし、わたしの数少ない役者友だちもみんなそうです。(高畑)充希とか、佐久間由衣ちゃん、高良(健吾)くんとか、そのあたりの人たち(笑)。
― その方たちに言葉をかけてもらうことで、励まされることも?
有村 : たくさんありますね。たとえば充希は、年齢的にも経歴的にも先輩なんですが、わたしが何か悩んでいることをぽろっと言ったりすると、「気にしすぎー!」「マジメすぎー!」と、そういうことを言ってくれます。
わたし自身、感情の波が少ないフラットな性格で、基本的にのんびりマイペースに生きている人間です。だから一緒にいる人も、やわらかい雰囲気で、自分とペースが合う人といる方が落ち着きますね。
有村さんが、やさしい世界観に引き込まれた映画。 そして「わたしもこんな出演作に出会いたい!」と燃えた映画。
― 先ほど、一緒にいる人は“やわらかい雰囲気の人”が多いとおっしゃっていましたが、あるインタビューでは「やわらかい気持ちになれる映画が好き」とも。“やわらかい”が、お好きなんですね。
有村 : そうですね(笑)。あまり刺激が強い映画は観ません、観ると疲れちゃいますから。ジャンルでいえば、ドラマやコメディが好きですね。洋画邦画は問わず観ます。
― では、有村さんを“やわらかい気持ち”にさせてくれる映画といえば?
有村 : 『ピース オブ ケイク』(2015年)が好きでした。やさしく流れる時間の中で、日常や恋模様を描き出した作品です。これといって大事件が起きるわけではないけれど、それぞれの登場人物の感情がきちんと表現されていて、観ながら心の底から「ああ、おもしろいな」と思えました。あとは、『そこのみにて光輝く』(2014年)も好きですし。
― 『そこのみにて光輝く』は、やわらかいというイメージとは、少し遠い作品だと思うのですが。
有村 : あの作品が好きな理由は「やわらかい雰囲気」とはまた別にあって、池脇千鶴さんが大好きだからなんです。『ジョゼと虎と魚たち』(2003年)はもちろんのこと、本当に素敵な役者さんだと思っていて。
色気もあるし、声も素敵だし、表現方法も多彩。そもそも池脇さんが観たくて『そこのみにて光輝く』を観たといってもいいほどなんですが、やっぱり抜群の存在感でいらして、惚れ惚れとしてしまいました。
― ご自分が出演していない作品で、いい映画に出会ったときって、やっぱり何か触発されるものなんですか?
有村 : 「うらやましい!!」って思います。
― 「わたしも出たい!」と?
有村 : ごくシンプルに「うらやましいなぁ。なんでわたし出ていないんだろう?」って、ちょっと悔しい(笑)。でももっと本当のことを言えば、その映画自体に出たいというより、わたしにとっての“いい作品”に出会いたいってことなんですよね。日々「いい作品に出会えたら」「素敵な監督さん、役者さんたちと出会って作品をつくれたら」って思ってばかりいるんです。
今回の『かぞくいろ』のような“映画らしい映画”に参加させてもらえるというのは、役者として、本当にうれしいことだと思ってます。この作品を手がけた監督に、本当に感謝ですね。