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わかり合うことは難しいけれど、 伝えることを諦めたくない

黒木華 インタビュー

わかり合うことは難しいけれど、
伝えることを諦めたくない

人間関係に悩む多くの現代人にとって、コミュニケーションは永遠のテーマです。「この人との関係をずっと大切にしたい」。そう思えば思うほど、肝心なことが聞けなかったり、余計なことを言ってしまったり。自分や他者の本音と向き合えず、つまずいてしまう失敗を、誰もが経験しているのではないでしょうか。
2015年に始まり、これまで数々の良作を発掘してきた企画コンテスト「TSUTAYA CREATORS’ PROGRAM FILM」。2018年の準グランプリに輝き、今年作品化された堀江貴大監督の『先生、私の隣に座っていただけませんか?』(2021年9月10日公開)で描かれているのは、ある夫婦のこじれた関係性です。漫画家・佐和子の最新作は、「不倫」がテーマ。不貞を働いていた夫の俊夫は、その現実に酷似した内容に戦慄し、徐々に追い詰められていきます。
黒木華さんが演じる主人公の佐和子は、“復讐”ともとれる遠回りな方法で夫と向かい合おうとします。「実はコミュニケーションは得意ではないんです」と話す黒木さんに、人や自分の本音と向き合う上で大切にしていること、また繰り返し観ている大好きな映画について伺いました。
黒木華インタビューPINTSCOPE

本音に向き合うのは怖いけど…

本作では、結婚5年目の俊夫と佐和子という漫画家夫婦の、不倫をめぐるユーモラスでスリリングなやりとりが描かれています。夫の不倫を疑う佐和子は、創作中の漫画に現実を投影し気持ちを吐露しながらも、なかなか夫に本音をぶつけようとしません。黒木さんご自身は、そういう佐和子のコミュニケーションに共感できましたか。

黒木…どうでしょう…そういう状況になったことがないので、なんとも言えませんが、浮気するならバレないようにやってほしいですよね。私だったら、「浮気していますか?」と聞いちゃうかもしれません。 

あとは、どれぐらい好きかにもよります。その人のことがものすごく好きで、関係性が終わることが怖いと思ったら聞けないかもしれないです。恋愛におけるコミュニケーションは、本当に難しいですね…。

誰かを好きになって関係性を築く、というのは本当に難しいです。

黒木華

黒木だからこそ、みんな悩むんだと思います。関係性を築くことにおいても、コミュニケーションが得意な方ではないので、きちんと話し合うことを大切にしていきたいという思いがあります。

どういったところで、コミュニケーションが得意ではないと思われるんでしょう。

黒木人と話すのがあまり得意ではないんです。私をよく知っている親や友達だと、交わす言葉が少なくても理解をしてくれますが、あまり親交が深くない人と話すときは、私の思っていることを伝えても、相手が解釈することは、私と全く同じとは限りません。

育ってきた環境や経験してきたことが異なる「自分」と「他人」とでは、同じ言葉や表現でも受け取り方は少しずつ違ってきますよね。

黒木「自分の気持ちを伝えること」「相手を理解していくこと」は、ものすごく難しいと思います。

『先生、私の隣に座っていただけませんか?』
©2021『先生、私の隣に座っていただけませんか?』 製作委員会

今作で堀江貴大監督は、「遠回りなコミュニケーション」や「まわりくどい夫婦喧嘩」といったものを描きたかったとおっしゃっていました。夫の俊夫は八方美人だけれど、本音は言わない人物。一方、佐和子も母親から投げかけられる「思っていることは口にしないと…」というセリフどおり、あまり自分の気持ちを口に出すことはありません。

黒木佐和子は、自分の感情を表に出すのがあまり得意ではない、どちらかというと不器用な人だなと思いながら演じていました。不器用だけれど、佐和子の「心は動いた?」というセリフのように、俊夫さんの心を動かしたい気持ちが行動の核にあるのかなと思っていたんです。それを忘れないようにしていました。

佐和子の核に、俊夫の「心を動かす」っていうことがあるんですね。

黒木はい。まわりくどい方法ですが、佐和子は言葉よりも二人の共通項である漫画を通して、俊夫さんに自分の気持ちを訴えかけている気がします。

©2021『先生、私の隣に座っていただけませんか?』 製作委員会

「心を動かしたい」からこそ、「言葉」ではなく二人の共通項である「漫画」で訴えかけた。しかし、本音をぶつけないことによって生じるすれ違いは避けられませんでした。

黒木二人が「噛み合わない」よう、「間」や「相手を見て話す・話さない」なども意識していました。

二人のやりとりについて、俊夫役の柄本佑さんとは話し合われたのでしょうか。

黒木特に佑さんとは話していませんが、撮影中、佑さんは常にほどよい距離感でいてくださったので、「きっと俊夫さんはこういう人なんだろうな」と自然に感じられました。私が微妙に間を変えて芝居をしても、それに合わせてくださるので、ものすごく演じやすくて楽しかったです。

お互いにとって「ほどよい距離感」を保つのが、一番難しいですよね。

黒木私自身も距離感をほどよくとりたいタイプなので、ある程度距離をとりながら、だんだん近づいていくようにしています。

黒木華

自分も相手も否定しない

先ほど「関係性が終わるのが怖いと思ったら、本音をぶつけられないかもしれない」というお話がありましたが、逆に黒木さんが「関係性を終わらせたい」となるのは、どういうときだと思いますか?

黒木質問に答えてくれない、会話する時間をつくってくれないなど、ちゃんと会話ができなくなったときです。お互い忙しいときはあると思いますが、時間をつくることは可能だと思うんです。会話をすることを放棄した時点で、修復は難しいのではないでしょうか。

恋愛って「惹かれ合って」始まりますけど、「わかり合う」のは難しいですよね。

黒木華

黒木わかり合うことは、本当に難しい。だからこそ、思っていることは伝えると決めていますが、嫌われたくないので、実際のところはあまり言えないですね。だけど、言わないと関係性が進まないと、この映画から学ぶことができました。

自分の本音も、相手の本音も、向き合うのはしんどいことです。黒木さんは、自分の本音を自覚して相手に伝えるのは得意ですか。

黒木私の場合は整理するのに時間がかかるので、あまり得意ではないです。

では、喧嘩とかになってしまうと…

黒木喧嘩をしたときは言葉がすぐに出てこなくなり、黙ってしまいます(笑)。時間がたてば「ここが嫌だったんだな」とわかるので、それを伝えることができるんですが。

黒木華

その方が落ち着いて話せそうですよね。

黒木そうですね。しっかり自分のなかで気持ちを整理してから伝えるという方法が、私には合っていると思います。

自分の大事な人とわかり合うなかで、黒木さんが大切にされていることはありますか。

黒木否定をせず、相手を受け入れるということです。性格は人によって違うものですし、自分と異なる思いや考えを抱く人がいたとしても、それを受け入れることで、自分もとらわれずにいられるような気がします。

相手の考えを受け入れるということは、自分を自由にすることでもあると。

黒木華

黒木昔はもっと人に嫌われるのが怖くて、周りからどう思われているかということばかり気にしていました。でもそうやって人の目ばかり気にしていると、自分の好きなものや嫌いなものがわからなくなってくるんです。それであるとき、親から「死なないから大丈夫」と声をかけてもらいました。

この言葉がすごく好きで、考え方が変わるきっかけになりました。人にどう思われても「死なないから大丈夫」、そう思えるようになったんです。もし失敗してしまったとしても、それはそのときに謝ればいい。そうやって物事を、今よりもう少し楽観してもいいんだと教えてもらったことは、私の人生にとって大きいかもしれないですね。

黒木華

黒木華の「心の一本」の映画

お互いの本音に向き合い「心を動かす」ために、佐和子は夫婦の共通項である漫画を用いましたが、黒木さんは自分の気持ちと向き合うときに、どんな方法をとられますか。

黒木映画を観に行くなど、自分の好きなことをします。向き合っていることだけに集中してしまうと、周りが見えなくなってしまうので、一度他を向いてから、そこに戻るようにしているんです。やはり余裕を持つことが何事においても大切だと思います。

映画館には、一人で行かれるんですか。

黒木はい、一人で行くことが多いです。映画館に並んでいるフライヤーを見て、面白そうな作品をピックアップしてはまた観に行ったり。最近は「A24」の作品が好きで、よく観ています。

「A24」は、『ミナリ』(2020)や『ミッドサマー』(2019)を手がける気鋭の映画スタジオです。大学では、映画学科を専攻されていたんですよね。

黒木華

黒木はい。授業でも映画を観る機会があったので、古いものから新しいもの、学生がつくる自主映画まで、たくさん観ていました。四条の京都シネマにも友だちとよく通いましたね。舞台挨拶が多く行われる劇場で、とても良い映画館なんです。

黒木さんが映画を好きになるきっかけとなった作品は?

黒木『リリイ・シュシュのすべて』(2001)です。高校生のときに初めて観たんですが、とても衝撃を受けました。

『リリイ・シュシュのすべて』は、市原隼人さんや蒼井優さん出演の、岩井俊二監督を代表する作品の一つです。監督ご自身がインターネット掲示板で発表した同名小説をもとに制作され、公開当時大きな話題となりました。

黒木岩井さんとは『リップヴァンウィンクルの花嫁』(2016)でもご一緒させていただきましたし、そういう意味でも、私のなかでずっと特別な作品で、何度も繰り返し観ています。

時を経て観ることで、感じ方は違うものですか。

黒木学生の頃は自分に重ね合わせ過ぎて、頭を抱えてしまうぐらい打ちのめされたんですが、大人になってからは「このシーン良いな」、「このときの表情がすごい」などと、自分と距離をとって観られるようになりました。

他にも繰り返しご覧になっている映画はありますか?

黒木『ジュマンジ』(1995)は好きで、子供の頃からずっと観ています。

ロビン・ウィリアムズが主演の『ジュマンジ』は、ゲーム盤で起こる出来事が現実にもリンクしていくという、奇抜な展開で人気を博したアドベンチャー映画です。

黒木あとはジャッキー・チェン出演の作品も好きですし、『シザーハンズ』(1990)や『ダンサー・イン・ザ・ダーク』(2000)、ミシェル・ゴンドリー監督の作品も、『風の谷のナウシカ』(1984)も大好きです。そのときの気分に合わせていろいろ観ています。

では、最後に「自分の本心を伝える」ということで、「佐和子にすすめたい!」と思うような一本があったら教えてもらえますでしょうか。

黒木『エターナル・サンシャイン』(2004)は、いかがでしょう。

ミシェル・ゴンドリー監督の大ヒット作ですね。喧嘩した恋人クレメンタイン(ケイト・ウィンスレット)が記憶を消してしまったことを知ったジョエル(ジム・キャリー)は、その理由を知るため自分も記憶を消していきます。

黒木お互い二人の記憶をどんどん消していくのですが、最後にはやっぱり二人が話し合うと言いますか、お互いの嫌なところも認め合う映画なんです。「記憶」というイマジネーションの世界もあるので、佐和子の創作にも役立つのではないかなと思います。

黒木華

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INFORMATION
『先生、私の隣に座っていただけませんか? 』
9月10日(金)より新宿ピカデリー他全国公開
出演:黒木華 柄本佑/金子大地 奈緒/風吹ジュン
脚本・監督:堀江貴大
劇中漫画:アラタアキ 鳥飼茜
音楽:渡邊琢磨
主題歌:「プラスティック・ラブ」performed by eill
配給:ハピネットファントム・スタジオ
©2021『先生、私の隣に座っていただけませんか?』 製作委員会
漫画家・佐和子の新作漫画のテーマは・・・「不倫」
そこには、自分たちとよく似た夫婦の姿が描かれ、佐和子の担当編集者・千佳と不倫をしていた俊夫は、「もしかしたらバレたかもしれない!」と精神的に追い詰められていく。さらに物語は、佐和子と自動車教習所の若い先生との淡い恋へ急展開。この漫画は、完全な創作?ただの妄想?それとも俊夫の不貞に対する、佐和子流の復讐なのか!?恐怖と嫉妬に震える俊夫は、やがて現実と漫画の境界が曖昧になっていく・・・
PROFILE
俳優
黒木華
Haru Kuroki
1990年3月14日生まれ、大阪府出身。
2010年、NODA・MAP番外公演「表に出ろいっ!」のヒロインオーディションに合格し本格的にデビュー。2011年に『東京オアシス』(松本佳奈・中村佳代監督)で映画デビュー。『シャニダールの花』(13/石井岳龍監督)で映画初主演を務める。山田洋次監督『小さいおうち』(14)では、第64回ベルリン国際映画祭で銀熊賞(最優秀女優賞)を受賞。『浅田家!』(20/中野量太監督)で日本アカデミー賞最優秀助演女優賞を受賞。そのほかの主な出演作に映画『母と暮せば』(15/山田洋次監督)、『リップヴァンウィンクルの花嫁』(16/岩井俊二監督)、『日日是好日』(18/大森立嗣監督)、『ビブリア古書堂の事件手帖』(18/三島有紀子監督)、『甘いお酒でうがい』(20/大九明子監督)、『星の子』(20/大森立嗣監督)、ドラマ「リーガルハイ」(13/CX)、連続テレビ小説「花子とアン」(14/NHK)、「天皇の料理番」(15/TBS)、「重版出来!」(16/TBS)、「みをつくし料理帖」(17/NHK)、大河ドラマ「西郷どん」(18/NHK)、「獣になれない私たち」(18/NTV)、「凪のお暇」(19/TBS)、「イチケイのカラス」(21/CX)、舞台「書く女」(16/永井愛演出)、「お勢登場」(17/倉持裕演出)、「ハムレット」(19/サイモン・ゴドウィン演出)、「ウェンディ&ピーターパン」(21/ジョナサン・マンビィ演出)などがある。ドラマ「僕の姉ちゃん」が9月24日よりAmazon Prime Videoにて全話一挙配信予定。
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