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大切な場所と、その記憶。きっと誰もが心の中に持っているはず。今回は、そんな記憶に触れるお散歩をしてきました。
2022年8月のとある日、まだ日差しが強い時間。お盆休み直前ということもあり若者たちで賑わう大阪・梅田を、私は歩いていました。
梅田といえば、大阪の中心地でオフィスや商業施設がずらりと立ち並ぶエリア。私にとっては特別な思い入れがある場所、というわけではありませんが、プライベートで訪れた今日は、街並みがいつもと違う表情をしているように感じます。しかし今日は、立っているだけで汗が噴き出してくるような猛暑日!
間もなく32年の歴史に幕を下ろす テアトル梅田
向かう先は、目を引く「LOFT」のロゴがパブリックアートのように街に溶け込んでいる、梅田ロフトの地下一階にあるミニシアター<テアトル梅田>。実はこのテアトル梅田、2022年9月30日をもって閉館することが決まっています。1990年4月19日にオープンして以来、32年間にわたり世界各国で話題となっているインディペンデント系作品から、国内作品まで、国籍やジャンルにとらわれず、実に多種多様な映画を上映し、幅広い層の映画ファンが訪れた大阪を代表するミニシアターです。
実は私、お恥ずかしながら、これまでに何度も前を通り過ぎたことがあるのに、足を踏み入れるのは今回が初めてでした。私が生まれる何年も前からこの場所にあるシアター。階段を降りるのも、なんだか恐縮してしまいました。
館内には、テアトル梅田の閉館までの時間を惜しむかのように、平日の昼間にもかかわらず多くの人で溢れていました。それぞれにこの場所との思い出があって、大切な記憶と触れ合っているのかな、なんて、ここに集まっている人たちに思いを馳せます。
そして今日のお目当ては、竹林亮監督の作品『14歳の栞』(2021)。こちらの作品、2021年3月に公開されてからずっと観たいと思っていたにもかかわらず、機会を逃し続けていたのですが…。何かの縁なのか、テアトル梅田で今作が上映最終日となる今日、やっと観ることができました。
ミニシアターならではのこぢんまりとした柔らかい雰囲気。「ああ、いいなあ」と、初めて来たはずなのに、なんだか懐かしい気持ちに。劇場内、まだ上映前の真っ白なスクリーンは静かで、訪れた人たちが話している声だけが聞こえています。“映画が大好きな人たちのための場所”な空間に、映画が始まる前からすっかり虜になってしまいました。
『14歳の栞』は、とある中学校の3学期を過ごす、2年6組の35人全員に密着した青春リアリティ映画。主人公もいなければ、ストーリーもどんでん返しもありません。創作ではなく、ただただ14歳を生きる彼ら彼女らの“今”を切り取った作品です。
35人それぞれの人生観や生き様、感情が切り取られ、描かれています。嫌でも浮かんでくる、私の14歳の記憶。楽しかったこと、嬉しかったこと、悲しかったこと、悔しかったこと、怒ったこと、なんでもなかったこと、好きだったあの人のことも。もう十数年も前のことで、今の今まで忘れていたはずの記憶が次から次へと「よっ」って顔を出してきます。もちろん、ずっとずっと忘れていたかった感情も。
目の前に映し出される、葛藤しながらも“今”を必死で生きている14歳たちに、心の中でずっと「ガンバレ」と呼びかけていました。大人になるって、そんなに悪いことじゃないよ、って。記憶の中で苦しむ14歳の自分にも、届いていればいいな、なんて思いながら。
レトロな街並み、中崎町エリアへ
映画を観終わって外に出たらすっかり日が暮れていて、感傷に浸る…なんてことはなく、18時を過ぎても、梅田の日差しは容赦なく肌を焦がしてきます。暑さに負けず、向かうは中崎町。中崎町は、テアトル梅田から歩いて7、8分ほどのところにあるレトロな街並みが人気のエリア。懐かしさ漂う雰囲気の中、カフェやブティックなどが点在しています。
14歳の頃の記憶を心に宿しながら、街を散策。どこに向かうともなく、ふらふらと歩きます。いつもは仕事の電話をしたり、チャットを返しながらスタスタと歩く大阪ですが、今日は、気ままに歩く自分を許してあげることに。中崎町って、そういう空気が流れているんですよね。
普段なら通り過ぎてしまうようなお店にも立ち寄ってみたり、路地に入ってみたり。自由っていいな、なんて。14歳の頃に比べると、行ける場所も使えるお金も増えて自由なはずなのに、毎日感じるこの不自由さはなんなんだろうな、なんて。一人で散歩していると、いろんな感情が湧いてきます。
それから流れるようにしてたどり着いたのが、<ナカザキカフェ>。カフェの営業時間が終わっているお店が多い中、ひっそりと電気が灯っているこのお店が妙に気になり、入ってみました。
緑が多く、清潔感漂う店内で私が通されたのは、窓際の席。席に座って、「店主の気まぐれおやつ」というメニューを発見し、内容も聞かず即注文しました。だってきっと、このお店の“今日の一番”に出会えると思いませんか?
しばらく待っていると、紅茶のアフォガードが運ばれてきました。紅茶とバニラアイスクリームの柔らかい甘さが、日々の疲れを癒してくれるよう。少しずつ暗くなっていく外を眺めながら、幸せな時間を過ごしました。
あと1ヶ月半ほどで、閉館してしまうテアトル梅田。私にとっては、14歳のあの頃の記憶を手繰り寄せることができた大切な場所となりました。それはきっと私だけではなく、32年の歴史の中で、数えきれない人たちにとってのかけがえのない場所、時間、空間となってきたのだと思います。
そしてそれは、2022年9月30日を過ぎた後も、それぞれの記憶の中で生き続けるはずです。甘いも苦いも混ざり合って。そう考えれば、名残惜しい気持ちもあるけれど、思っているよりも寂しいことではないのかも。そんなことを考えながら、夜を迎え始めた中崎町を後にしました。来たときよりも、気持ちを軽くして。
今回のさんぽコース
阪急各線「大阪梅田駅」茶屋町口 徒歩7分
大阪メトロ御堂筋線「梅田駅」徒歩12分)
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