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何をしてるときの自分が好き?
― 『さかなのこ』では、「おさかなが大好き」というミー坊の「好き」の思いに影響を受け、周りの人が少しずつ変化していきます。今作の主題歌である「夢のはなし」にも「わたしの『好き』に何が勝てると言うのだろう」という歌詞がありますね。のんさんは「夢のはなし」を聴いて、どんなことを感じましたか?
のん : 最初にエンディングがCHAIさんだって聞いたときからすごくワクワクしてたんです。映画が出来上がって、最後に「夢のはなし」が流れたとき、めちゃくちゃかっこいいと思いました。楽しい曲で歌詞もすごく素敵で、さかなクンの世界観ともちゃんとリンクしていますよね。
カナ : うれしい。『さかなのこ』も最高でした!
マナ : のんちゃんらしさが全開のミー坊が本当にかわいい! 素敵すぎて、何回観ても最後に泣いてしまいます。
カナ : 「ミー坊」の役をできるのは、のんちゃんしかいないと思う。
カナ : 本当に本当にすごくかわいかった。性別を超越した役を演じられるのも、のんちゃんしかいないと思う。素敵な映画の曲を担当できてうれしいです。
のん : わーい、やったー! ありがとうございます(笑)。私は以前からCHAIさんのファンで、曲はもちろん、アートワークも毎回ものすごく楽しみにしていて、いつもチェックしているんです!!
― 今日の衣装もとても素敵ですが、どのように決められたんですか?
カナ : ステージでも使ってたやつで。海っぽい「パジャマ」なんです。
― ミー坊にとっての魚のように、皆さんも「好きなもの」がたくさんあると思うのですが、「好きな私」は何をしているときの自分ですか?
のん : 高校生の頃から、演技をしているときの自分が一番好きです。映画やドラマのなかでは、登場人物のダメなところや悪いところも、すべて魅力的に映るというか。普段は隠しておきたくなる部分も、役を演じる上では全部面白く変換できるので。本当に気持ちいいです。
― のんさんは、俳優のみならず音楽活動もされています。歌っているときや、ギターを弾いているときのご自身はどうですか?
のん : めちゃくちゃ楽しいんですけど、私にとって音楽は、それを聴いてくれている人たちと一緒に作っているものだから「歌っているときの自分が好き」というよりかは、その空間が好きっていう感じですね。
― なるほど。オーディエンスと一緒に作っている感覚があるということですか。
のん : 演じているときとは感覚が違うかもしれない。歌っているときの自分もだいぶ気に入ってるんですけど(笑)。歌っているときは、おちゃらけてるところも全部カッコイイと思ってやっているところがあるんです。でも演技だとダメな部分もひっくるめて、全部の自分を好きになれる気がします。
マナ : 私もステージの上にいるときの自分が大好き。まさにパフォーマンスをしとる瞬間。私はミュージシャンなので、ステージの上やったら全部出せれるんです。だから大好きだね。
― ステージの上で出せない自分はない?
マナ : 出せない「自分」はないです。私はステージの上でも悲しいと思ったら泣くし、怒りたいと思ったら怒るし、楽しいと思ったら「楽しい!」って言うから。自分を好きでいられる瞬間です。
カナ : 私もマナと全く一緒で、ステージの上が一番「自分が自分らしくいられる」気がします。泣きわめきたいほど悲しい感情とか、それこそちょっとエロい感情だったりとか。日常生活では出さない感情もステージ上だったら表現できるから。
ユウキ : 私の場合は、さっきのんちゃんが言ったみたいに、ステージの上の自分は、気に入ってはいるけど、2人とは少し違うかな。
私は小さい頃から絵を描いたり、文章を書いたり、自分から出てくるアイデアで何かを作り出すのが好き。それを作っている瞬間も好きだし、出来上がったものを誰かに見せている瞬間も好き。作ってると自分が無になる感覚というか、溶けちゃうような感覚があるんです。
― でも、何かを作っているときは苦しいこともあるのでは?
ユウキ : 苦しいときもある。でも、そしたらやめる。苦しいときって、多分あたまで考えているから苦しいんだと思う。こう見せなきゃとか、評価されなきゃとか、売れなきゃとか。そういうことを考えてると苦しいから。そういう感情を全部取っ払って、ただの自分のままの表現ができているときが一番心地いいし、そういうときの自分が一番好きかもしれない。
ユナ : 私はドラマーだから、やっぱりドラムを叩いている瞬間の自分がすごく好きですね。『さかなのこ』のミー坊と同様、私の場合はドラムが好きで、「いろいろ選択した結果、いま私はここにいる」みたいな感覚があるんです。
ビートのグルーヴに魂が動かされて、身体が勝手に動いてしまうというか。自分でプレイしながら自分のビートに自分が酔うというか。グルーヴの中でゆらめいている感じがすごい好き。自分が自分のドラムにノれた瞬間が一番楽しい!
「セルフラブ」で取り戻す!
自分の中の「好き」を大切に
― ユウキさんが本作の主題歌である「夢のはなし」に寄せて、コメントされていた「夢に見るほど好きなことこそ、夢で終わらせてたまるか!」という言葉がとても印象的でした。「夢に見るほど好きなことを夢で終わらせない」ために、日ごろから皆さんが意識されてることは何ですか?
のん : 「観る人」のことを考える、ということかもしれないです。自分は映画を観ている人にどんな衝撃を与えたいのか、どういう風に演じれば面白がってもらえるのか、みたいなことをちゃんと考えてやった上で、実際のお客さんのリアクションを自分で見るのが楽しいです。
― 演じている瞬間は、観ている人のことを意識しないで、自分から出てくる感情をすべて出してお芝居しながらも、客観的にちゃんと観てくれる人のことも考えられる、「俯瞰する視点」を持った自分も必要ということですね。
のん : 映画って、面白い発明もしなきゃいけないんだけど、「常人ではない」人の感覚を面白がってもらうだけじゃなくて、「それがどう面白いのか」っていうことも、観客に伝えなきゃいけないと思うんですよね。人は共感できるときに感情が動くと思うから。
のん : 観客のなかにある、どういう感情を動かせば、お芝居や作品に引き込めるんだろう? って常に考えるようにしているんです。そういうことを考えていると、私はすごく集中力が増してきます。だからきっと、主観と客観の両方大事なんだと思います。
― CHAIさんたちも、受け手のことを考えて、楽曲を作ったり、ステージ上でパフォーマンスしたりされていますか?
マナ : うーむ、どうだろう……?
― CHAIさんは、自分がコンプレックスに感じているような部分も、すごくポジティブに変換した上で、作品に昇華させていらっしゃいます。それは、どんな風に伝えればいいか、を考えていらっしゃるのかなと。
マナ : それこそ私たちは音楽が大好きでこのバンドを始めたわけだけど、その根っこの部分には「コンプレックス」があったということもあります。
だからこそ、「自分たちが人からずっと言われたかった言葉を歌詞にする」っていうことは、最初から意識していたような気がします。CHAIがコンセプトとして掲げている「コンプレックスはアートなり」とか、「NEOかわいい」という言葉も、コンプレックスがあるおかげで生まれたと言えるんです。
― つまりは、「コンプレックス」をポジティブに変換することで、世の中の「かわいい」の基準をアップデートされた、と。
マナ : そう。「NEOかわいい」は、世の中で「かわいい」と言われている人の範囲が狭いから、「他の人たちにはなんで褒める言葉がないの?」っていう疑問のなかで生まれた言葉なんです。
だから、お客さんのことももちろんすごい大好きだけど、作ってるときにお客さんのことを考えるというよりかは、自分は本当は何を言われたいかっていうのが、共感につながるんじゃないかなぁって思うんです。
― 常に「自分」が出発点というか。
マナ : そうですね。自分が何を伝えたいか。何を聞いてもらいたいか、何を見せたいか。で、どういう風に思ってもらえるか。もちろん受け取る側のことも考えはするけど、必ずしもそこが起点ではないかも。
― CHAIさんは自分のことを大事にするという意味での、「セルフラブの大切さ」もテーマにされています。「セルフラブ」のためにやっていることはありますか? 例えば、みんなで弱音を吐いたり、愚痴を言い合ったりするとか。「自分が言われたかった言葉」を、お互いに掛け合うとか。
マナ : たしかに、ネガティブな感情を吐き出すことも大事!
カナ : 私は、自分を整えてエネルギーを生み出せる状態を保つために、ヨガとか瞑想をしています。気力が充実していないと伝えたいことも伝えられなくなってしまうから、完璧じゃなくても、ある程度自分が整った状態でステージに立ちたいという気持ちがあるんです。
ユウキ : 私の場合は「自分に嘘をつかない」ってことかなぁ。笑いたくないときには笑わないし、楽しいときには思いっきり楽しむ。
ユウキ : 余計な愛想笑いはしないで、なるべく素のままの自分でいれば、きっと他人を攻撃することにはつながらないと思うから。日々どんな些細なことでも自分が何かを選択するときは、常に自分の感情が喜ぶ方を選ぶようにしています。
― 「どんな些細なことでも」というのは、 たとえば「今日の夕飯、何食べようかな?」みたいなことでしょうか。
ユウキ : そうそう! 「こっちの方が安いけど、いま食べたいのはこっちだから、こっちを選ぶ」とか。いちいち自分の心の声をおざなりにしないでちゃんと聞く。そういう日々の積み重ねによって、何か大きい決断をするときでも迷わずに決められる。周りの声に惑わされたり、混乱させられたりしないように、日常生活においてそれを一番意識するようにしてます。
― とても素敵な心掛けですね。
ユナ : 生きていると日々いろんな情報がどんどん入ってきて、自分が本当にやりたいこととか、自分が楽しいと感じることが何だったのか、わからなくなる瞬間があるんですよね。「あれをやらなきゃ」とか「あれをやるべき」とか、それだけで頭がいっぱいになってしまうことが多くて。
そういうときは、自分の感覚を取り戻すためにも、自分が大好きなドラムがキーになっている音楽を聴いたりするようにしています。自分の中にある「好き」を常に意識して、ブレずにそこに向かっていく、ということですね。
のんとCHAIの「心の一本」の映画
― 今のユナさんのお話と繋がると思うのですが、皆さんが自分を取り戻すために繰り返し観たり、時々思い出したり、お守りにしているような、「心の一本」の映画をぜひ教えてください。
のん : 私は『ズートピア』(2016)!
― 「人間が存在したことのない、動物たちだけが暮らす‟楽園“」を描いたディズニーのファンタジー・アドベンチャー作品ですね。「よりよい世界をつくるために警察官になりたい」という子どもの頃からの夢を叶えた主人公のウサギのジュディを中心とした、様々な個性を持つズートピアの住人たちを描いています。
のん : 私はキツネのニックというキャラが特にお気に入りで、嫌味な悪いヤツなんだけど、実はすごく傷ついているっていうところに親しみを感じるんです。他にも、フラッシュという、免許センターで働くナマケモノも好き。みんな早く証明書が欲しいのに、フラッシュは全然早く動けない。それがなんとも言えず、すごく面白いんです。
めちゃくちゃ動きが速い動物もいれば、ゴッドファーザーみたいなネズミも出てくるし。そういう慌ただしくて、楽しい映画が好きなんです。「絶対に最後はみんな救われるはず!」って分かってるから、安心して観られるというか。元気がないときとか、エネルギーを補給したいなぁっていうときに観ますね。
カナ : その感覚、私もめちゃくちゃわかる!
マナ : 私は『セックス・アンド・ザ・シティ』(2008)! 登場人物たちがみんな、人間らしい、人間クサいところをさらけ出していて。そういう「人間」の汚いところ、できてないところ、足りてないところを見ると逆に、「あぁ、人間ってめっちゃいいわ!」って、安心するんです。彼女たちの言葉や行動に、勇気がもらえてワクワクするところも大好き。
― 『セックス・アンド・ザ・シティ』は、ドラマ『セックス・アンド・ザ・シティ』(1998〜2004)を映画化した作品で、ニューヨークに住む30代の女性4人の仕事や恋愛事情をコミカルに描いたドラマシリーズは当時日本でも社会現象になりました。2021年には続編となるドラマ『AND JUST LIKE THAT/セックス・アンド・ザ・シティ新章』(2021〜2022)の配信が始まりましたね。
カナ : 私は『Mr.インクレディブル』(2004)ですね。子どもの頃からずっと観ているというのもあって、落ち込んだときにあのインクレディブル一家を観ると、自分自身の原点に戻れるんです。観るたびに「あぁ、私こういう人になりたかったんだ!」「あ、これ、なんか好き!」「めっちゃ好き‼︎」という気持ちが湧き上がります。
― ピクサーの長編アニメーション第6作目となる作品ですね。元スーパーヒーローのMr.インクレディブルと、スーパーパワーを持つ妻と3人の子どもからなるインクレディブル一家が、元ヒーローたちが行方不明になるという事件に巻き込まれていきます。2018年には続編の『インクレディブル・ファミリー』が公開されました。
カナ : それこそセリフも全部覚えてしまうぐらいまで観てるんですけど(笑)、何回観てもワクワクする。まさにこの映画を観ると「自分を取り戻せる」感じがします!
ユウキ : 私は『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』(2019)と、『ダンボ』(1941)ですね。
『ブックスマート』は、頭が良くないとダメ、勉強だけできれば良いと思ってたけど、実は大事なのはそこじゃないんだってことと、同級生たちを勝手に誤解していたことに気付いていく主人公を見て、「そういう思い込みって、自分自身で作り出してるものなんだ」って、自覚しました。妄想が膨らんでどんどん暴走しちゃうかわいい高校生たちを観ているだけでも元気が出ます。
ユウキ : 『ダンボ』はキャッチーで、ハッピーで、サイケな、突き抜けた発想で表現される世界に圧倒されました。定期的に吸収したくて、繰り返し観ています(笑)。
ユナ : 私は『アバウト・タイム ~愛おしい時間について~』(2013)がすごい好きです。それまでは『ハリーポッター』シリーズや『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズのようなファンタジー、アドベンチャー作品が大好きでよく観ていたので、ヒューマン・恋愛がテーマの作品を観たのは『アバウト・タイム』が初めてだったんです。
ユナ : タイムトラベルの能力を持った主人公のティムがその能力を使いながら、恋愛や家族についてなどの過去の問題点を解決していくお話なのですが、それの過程を見ていて「幸せとはなんぞや」とすごく考えさせられました。
自分も時間を大事にしよう、いま本当にやりたいことをやろうと。初めて観たときのその衝撃が忘れられなくて、ある意味私にとってお守り的な映画になっているんです。
― 皆さんが、もし『アバウト・タイム』の主人公のように過去にタイムスリップできるとしたら、悩んでいたあの頃の自分に、どんな言葉をかけてあげたいですか?
マナ : 「そのままでいて!」「悩みなさい!」って(笑)。
のん : 私は、”あの頃”の自分にCHAIさんの「N.E.O.」を聴かせてあげたい!
CHAI : え〜うれしい! ありがとう。めちゃめちゃうれしい!
のん : CHAIさんが「N.E.O.」を出したときは本当に衝撃だったんです。「かわいい」の考え方を新しく定義付けていましたよね。「これからの<かわいい>はいっぱいあるんだ!」っていうメッセージがたくさん詰まっている曲だと思ったから。「自分なんか…」と思っていた若い頃の自分に聴かせてあげたい。それで自信をつけてもらいたいなって。
CHAI : うれしい! のんちゃんありがとう!!
ユウキ : それで言ったら、私は『さかなのこ』を観せたい。さかなクンの半生もそうだし、のんちゃんが演じるミー坊を見たら、「好きなことを貫くことは素晴らしいことなんだ!」「それでいいんや!」って思わせてもらえて、すごく希望が持てると思う。
ユナ : この前、私たちのライブも観に来てくださってましたよね。今回、のんちゃんとご一緒できて本当に嬉しかったです。
ユウキ : 本当に! 私たちの夢がひとつが叶いました!!
◎『さかなのこ』原作
さかなクンの一魚一会 ~まいにち夢中な人生!~ 単行本(ソフトカバー)
◎CHAI「N.E.O.」