PINTSCOPE(ピントスコープ) 心に一本の映画があれば PINTSCOPE(ピントスコープ) 心に一本の映画があれば

映画を観た日のアレコレ No.74

Bialystocks
甫木元 空の映画日記
2022年10月25日

映画を観た日のアレコレ
なかなか思うように外に出かけられなかった時を経て、今どんな風に1日を過ごしていますか? 映画を観ていますか?
何を食べ、何を思い、どんな映画を観たのか。 誰かの“映画を観た一日”を覗いてみたら、どんな風景が見えるでしょう? 日常の中に溶け込む、映画のある風景を映し出す連載「映画を観た日のアレコレ」。
74回目は、ミュージシャン Bialystocks 甫木元 空ほきもと そらさんの映画日記です。
日記の持ち主
ミュージシャン
甫木元 空
Sora Hokimoto
1992年、埼玉県生まれ。多摩美術大学映像演劇学科卒業。2016年青山真治・仙頭武則共同プロデュース、監督・脚本・音楽を務めた『はるねこ』で長編映画デビュー。第46回ロッテルダム国際映画祭コンペティション部門出品、ほかイタリア、ニューヨークなどの複数の映画祭に招待された。2019年にはバンド「Bialystocks」を結成。映画による表現をベースに、音楽制作などジャンルにとらわれない横断的な活動を続ける。現在、高知県四万十町在住。


Bialystocks(ビアリストックス)

2019 年、ボーカル甫木元空監督作品、青山真治プロデュースの映画『はるねこ』生演奏上映をきっかけに結成。 ソウルフルで伸びやかな歌声で歌われるフォーキーで温かみのあるメロディーと、ジャズをベースに持ちながら自由にジャンルを横断する楽器陣の組み合わせは、普遍的であると同時に先鋭的と評される。 2021 年 1st Album 『ビアリストックス』 発表。同年METROCKに出演が決定。収録曲「I Don’t Have a Pen」はNTTドコモが展開する「Quadratic Playground」のWEB CMソングに選出されている。 2022年1月には初の全国流通盤1st EP『Tide Pool』をリリース、同年4月には初のドラマ主題歌となるテレビ東京系ドラマ25「先生のおとりよせ」エンディングテーマ「差し色」を発表。2022年11月30日には、ポニーキャニオンIRORI Recordsからメジャー1stアルバムとなる『Quicksand』が発売となる。
Bialystocks公式サイト: https://bialystocks.com/
『Quicksand』特設サイト: https://quicksand.jp/

2022年10月25日

東京国際映画祭、丸の内ピカデリーにて青山真治監督『EUREKA ユリイカ』『エリ・エリ・レマ・サバクタニ』を観る。
ユリイカは今年三回目…?
初めて劇場で観たのは、5年前の東京国際映画祭だったか。
あの時は監督のトークもあった。2022年の今監督はこの世におらず、追悼青山真治とかかれている事に未だ困惑しながら映画館の席につく。

バスのエンジン音に驚きながら、改めて瞳の映画であることを噛み締め。
自分も訳が分からなくなったら自転車に乗って、兎にも角にも円を描いて動いてみようと思う。はたから見たら進んでいないただの空転でもいつもと違う何かと出会う事もあるはずだ。

上映の合間、タリーズコーヒーでコーヒーを注文。ボーッと映画のあれこれを思い出し想像するのは最高の楽しみ。幸福な余韻にひたっていたが、釜揚げしらすと水菜の瀬戸内レモンパスタ ~青唐辛子風味~に惹かれ列に並んでいたはずなのに、牛ひき肉の贅沢ボロネーゼを指さしてしまい気まずい空気が流れボロネーゼを注文。

次観る『エリ・エリ・レマ・サバクタニ』は映画館で観るのは学生の時以来か、もう10年近く前かもしれない。
地平線、水平線、人はみな何も言葉を残さず呆気なく突然死ぬ。映画は先日ユーロスペースで観た『書かれた顔』に通じる幸福なアクションの連続。静かな映画である事に驚愕する。

アスハラ演じる中原昌也の「死ね!」といって去っていく様、ずっと脳内で繰り返される。セリフをはくという事はこういう事かと思っていると死ねという言葉が引き金になりギャヴィン・ブライアーズ「Jesus’ Blood Never Failed Me Yet」ナンシー・シナトラ「The End」が勝手に頭の中でぼんやり再生される。

ユリイカの冒頭「大津波がくる。いつかきっと……みんないなくなる」と言っていた梢を演じた宮﨑あおいは、時をへてエリ・エリ・レマ・サバクタニではハナという役を演じていた。
「覚えている。忘れない。全てが幻だとしても。あなたも私も、音楽の様に幻だから。だから覚えている。忘れない。もうすぐ冬がくる。」
ラスト、ハナが呟く様に言ったセリフが青山さんからの手紙に思え、なんとも言えない気持ちになり足早に映画館をあとにする。
急に寒くなった夜の丸の内。劇中の筒井康隆と戸田昌宏が歌う「東京節」を「東京の中枢は丸の内~」と鼻歌で歌いながら帰ったら青山さんの日記を見返してみようと思った。のこされた物を繰り返し、繰り返し、見続ける。
空転しているように見えるかもしれないが、それが残された者のできる数少ない事に今は思える。

Bialystocks 甫木元 空の映画日記

◎「青山さんの日記」はこちら


宝ヶ池の沈まぬ亀 ある映画作家の日記 2016‒2020(単行本)

BACK NUMBER
INFORMATION
『はだかのゆめ』
監督・脚本・編集:甫木元 空
出演:青木 柚、唯野未歩子、前野健太、甫木元尊英
プロデューサー:仙頭武則、飯塚香織
撮影:米倉 伸
照明:平谷里紗
現場録音:川上拓也
音響:菊池信之
助監督:滝野弘仁
音楽:Bialystocks
製作:ポニーキャニオン
配給:boid / VOICE OF GHOST

11月25日(金)より渋谷シネクイントほか全国順次公開
公式サイト: https://hadakanoyume.com/
© PONY CANYON
四国山脈に囲まれた高知県、四万十川のほとりに暮らす一家の人々。祖父の住む家で余命を送る決意をした母、それに寄り添う息子ノロ。嘘が真で闊歩する現世を憂うノロマなノロは、近づく母の死を受け入れられず徘徊している――。土地に刻まれた時間の痕跡と、幽かな生と確かな死。これは若くして両親を亡くし、高知県で祖父と暮らす監督自身の現在を半ば投影した、親子3代にわたる時間と、その時間の境界線を飛び越えた触れ合いの、そしてそれでも触れることのできない残酷な距離の物語である。
PROFILE
ミュージシャン
甫木元 空
Sora Hokimoto
1992年、埼玉県生まれ。多摩美術大学映像演劇学科卒業。2016年青山真治・仙頭武則共同プロデュース、監督・脚本・音楽を務めた『はるねこ』で長編映画デビュー。第46回ロッテルダム国際映画祭コンペティション部門出品、ほかイタリア、ニューヨークなどの複数の映画祭に招待された。2019年にはバンド「Bialystocks」を結成。映画による表現をベースに、音楽制作などジャンルにとらわれない横断的な活動を続ける。現在、高知県四万十町在住。


Bialystocks(ビアリストックス)

2019 年、ボーカル甫木元空監督作品、青山真治プロデュースの映画『はるねこ』生演奏上映をきっかけに結成。 ソウルフルで伸びやかな歌声で歌われるフォーキーで温かみのあるメロディーと、ジャズをベースに持ちながら自由にジャンルを横断する楽器陣の組み合わせは、普遍的であると同時に先鋭的と評される。 2021 年 1st Album 『ビアリストックス』 発表。同年METROCKに出演が決定。収録曲「I Don't Have a Pen」はNTTドコモが展開する「Quadratic Playground」のWEB CMソングに選出されている。 2022年1月には初の全国流通盤1st EP『Tide Pool』をリリース、同年4月には初のドラマ主題歌となるテレビ東京系ドラマ25「先生のおとりよせ」エンディングテーマ「差し色」を発表。2022年11月30日には、ポニーキャニオンIRORI Recordsからメジャー1stアルバムとなる『Quicksand』が発売となる。
Bialystocks公式サイト: https://bialystocks.com/
『Quicksand』特設サイト: https://quicksand.jp/
シェアする