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なにげない瞬間が、愛おしい記憶となる
― 今作でみなさんは、「卒業」という別れを迎えるなかで、自身の内に秘めた思いをなんとか形にしようとする少女たちを演じられました。それぞれの登場人物が高校生活を通して大切な時間を過ごした場所——調理室や体育館、図書室、通学路、屋上など——が映し出されますが、みなさんにとっての学校生活で記憶に残る場所はどこですか?
河合 : 私が通っていた高校には地下があって、そこのロッカーの近くにちょっとしたスペースがあって、ダンスの練習をしていたんです。「そういうことやっていたな…」って、今思い出しました。地下のロッカーだから「地下ロ(ちかろ)」って呼んでて(笑)。
― その場所から思い起こされるのは、いい思い出ですか? それとも、あまり思い出したくない?
河合 : いい思い出ですね。でも今思い返すと、楽しい思い出なのに「冷たい」イメージがあって、地下の暗くてひんやりした感じとかからだと思うんですけど。結構、匂いも覚えていますね。
小野 : それで言うと、私は木の香りがする木工教室を思い出しました。うちの学校はちょっと変わっていて、木を彫ったりする工芸の授業があったんです。その授業は本校舎の外れに、ちょこんとある小さな木の家みたいな別校舎でやるんですけど、その教室が好きでしたね。
木の温もりもあるし、すっごくアロマの香りもする場所で。授業以外はそこに入れないんですけど、校舎のまわりに授業で作ったイスがいっぱい並んでいて、そこに座って友だちと話している時間がすごく楽しくって。
― そういう何気ない時間が今作でもたくさん描かれていましたね。階段の踊り場で友人と内緒話をしたり、一緒に食べたお弁当のフラグピックを集めたり。
小野 : そういえば、あの頃、休憩時間になると木の校舎のまわりでお弁当を食べたりして、ときどきイチョウの木の隙間から日が当るととても気持ちよかったり…こうやって当時をじっくり思い出す機会ってあまりないので、今すごくエモいです(笑)。
― 私も今作を観たあと、十数年ぶりに卒業式のビデオを引っ張り出し、見直しました。
一同 : (笑)。
中井 : 私は中学のときにバスケ部だったんですけど、体育館がすごく落ち着く場所でした。
― 中井さんが演じられた作田にとっては、図書室がそういう場所でしたね。
中井 : 中学2年か3年のときにクラスの人とあんまり会いたくなくて、授業には出ず、放課後、部活だけ出ていた時期があったんです。そのときは他の先生に見つからないよう、帽子をかぶってこっそり体育館に行って、顧問の先生に「すみません、内緒にしてください」ってお願いして、部活をして。
今となってはそれもいい思い出ですね。許してくれた顧問の先生も懐が深かったなって思います。
小宮山 : 私は、放送室ですね。中学の3年間はずっと放送委員で、当番の日は4時間目の授業が終わったらすぐに給食を持って放送室に行くんです。放送が始まるまでの間に、他の委員のみんなと一緒に小さい放送室内で給食を食べるんですけど、その時間が大好きで。
教室にいるクラスメイトよりも早く給食が食べられるうれしさもあるし、しかも仲の良い人たちと一緒に食べられるんですよね。
河合 : 私も(放送委員)やってた。
小宮山 : ええ、本当ですか!
河合 : 今、「給食を放送室に持って行く」のを、ものすごく思い出しました。特別感があるんですよね(笑)。
過ぎ去った時間も、自分の中にある
― 監督・脚本を手掛けた中川駿監督は、「卒業という受け入れたくないけど受け入れなきゃいけない“別れ”を踏まえて成長していく女の子たちの話にしようと思いました」とおっしゃっています。みなさんが、今作を通して思い出した、登場人物たちのように悩んだり迷ったりしたこと、またはうまくいかなかったこと、うまくいったことなどはありますか。
小野 : 私は、うまくいかないことの方が多かったからなあ…。なんだろう…?
小宮山 : 中学のときにテニス部だったんですけど、途中から芸能活動を始めたので、毎週、仕事とかレッスンで宮城県から新幹線で東京に行く生活になったんです。最初の頃はホームシックとか、学校と部活と仕事の両立で頭がこんがらがってしまって…。
いつもはすっごく元気なのに、どんどん顔が暗くなっていったみたいで、そんな私に気付いてテニス部の後輩が元気づけようとしてくれたことがあったのを思い出しました。
― 小宮山さんは今作で、軽音楽の部長・神田を演じられましたが、彼女にも慕ってくれる部活の後輩がいましたね。
小宮山 : 私は実際には部長ではなかったんですけど、神田を演じるなかで、そのテニス部の後輩を思い出したんです。私が学校から一人で帰ろうとしていると、「莉渚先輩、一緒に帰りましょう!」って言ってくれるんですよ。それがうれしくて。
後輩の明るい声を聞いたら、私の悩みなんてどうでもいいやって思えちゃう。それくらいありがたい存在だったし、心の支えでしたね。
― 中井さんが演じられた作田も、図書室を管理している坂口先生(藤原季節)の存在が心の拠り所になっていましたね。
中井 : 私の役について聞いたとき、「そういえば先生って、自分にとってあまりいい印象がないな」って思ったんです。授業に出てなかった時期に、担任の先生が「悩んでいることがあったら私に何でも言ってね」「私がいるから大丈夫」という手紙を家まで届けてくれて。
小野 : いい先生だね。
中井 : でも当時の私はそれがめっちゃ嫌だったんです。「『GTO』(※)かよ!」って。
一同 : (笑)。
中井 : 今思えば私のことを親身に考えてくれてたんだと理解できるんですけど、当時は、そういう面も含めて「大人」のことを毛嫌いしていました。でも坂口先生みたいな先生がいたらカッコいいですよね(笑)。
小野 : 結婚してるところがまたニクいんだよね(笑)。
中井 : (笑)。最近、やっと「大人」を理解できるようになって。今は、学校に行けなかった「あの頃」がつらいとも思わなくなったし、経験として捉えられるようにもなりました。今回の役を通して自分が大人になったとも感じましたね。
小野 : 私も、思い出した! この流れで話すのもあれなんですけど(笑)…。高校時代、学校は好きですけど、授業はあんまり得意じゃなくて。どうしても眠くなっちゃうんですよ。
― わかります(笑)。
小野 : でもあるとき勉強のできる友だちに影響されて、「私もちょっと頭が良くなりたい!」「テストで良い点が取りたい!」と思って、授業中はちゃんと集中してノートを取ろうとか、試験前に一夜漬けするタイプだったけど計画性を持って勉強しようとか、友だちをまねて真面目に取り組んでたんです。でも結局1カ月も続かなかったという記憶がよみがえってきました(笑)。
― それも、わかります(笑)。誰かを真似てうまくいかなかった経験がある人は多いのではないでしょうか。
小野 : あと高校時代はダンス部だったんですけど、発表会で誰よりもいいポジションで踊りたいとか、誰よりもうまく踊りたいっていう、「誰よりも」っていう欲があって。だから、そのためにはどうすればいいかってことを毎日考えてました。
誰よりも練習するとか、できる限りのことを一生懸命やっていたんですけど、努力が全部実るわけじゃない現実を前に、悩んだ時期もありましたね。もっと輝きたいけど輝けない、みたいな、そういう「うまくいかなさ」というか。
― 小野さんが演じられたバスケ部の部長・後藤も、高校卒業後に上京する自分と地元にとどまる彼氏の寺田(宇佐卓真)との関係性の「うまくいかなさ」に揺れる役でしたね。
小野 : 仕事を始めたので、途中で辞めてしまったんですけど、自分が輝ける場所がないとつらいから、その判断はよかったと今思いますね。
河合 : 実は私、演じたまなみと同じように高校の卒業式で答辞を読んだんです。
小野 : 答辞読むって、すごいね!
― 河合さんが演じた料理部の部長・山城まなみは、専門学校へ進むため、他より受験が終わるのが早いという理由で先生に依頼され、答辞を読むことになりますね。
河合 : でも私、脚本を読んでもそのことを思い出さなくて。撮影する中で「そういえば私も答辞読んだな」って気が付きました。そういう大きなことでも、時間が経つと意外と忘れるものなんですよね。
私が高校時代に読んだ答辞の文章がまだパソコンに残っていたので、撮影前に読み返していたら、まなみと同じように先生とやりとりをしながら作ったことも思い出しました。
― 他にも忘れていたけど、思い出したことなどありましたか? どんな学生生活だったとか。
河合 : 結構やりたい放題でしたね(笑)。でも、やりたいこと全部に手を出してしまうから、案の定パンクして他の子に迷惑をかけてしまうことが多かったかもしれません。
自分がまいた種だから、どうにかやるしかないと乗りきっていたけど、「なんでやるって言っちゃったんだろう…」って自己嫌悪に陥ってしまったり。思い起こせば、うまくいかないことの方が多かったかもしれないですね。
河合優実、小野莉奈、小宮山莉渚、中井友望の「心の一本」の映画
― みなさん毎日お忙しいかと思いますが、最近ご覧になった映画はありますか?
河合 : 私は『秘密の森の、その向こう』(2021)ですね。
小野 : 私はダイアナ妃の…『スペンサー ダイアナの決意』(2021)です。
小宮山 : 昔の映画になるんですけど『アメリ』(2001)を観ました。
中井 : 私は『セイント・フランシス』(2019)です。
― みなさん、忙しいお仕事の合間をぬって話題作や名作をご覧になっているんですね。今作『少女は卒業しない』では、中井さん演じる作田がお守りのように大切にする図書館で借りた一冊の本が登場しますが、最後にその一冊ようにみなさんにとって「心の一本」のように大切にしている映画があれば教えてください。
中井 : 私は『サバカン SABAKAN』(2022)ですね。
― 『サバカン SABAKAN』は1980年代の長崎を舞台に、イルカを見るために冒険に出る2人の少年のひと夏の経験と、それぞれの家族との愛情に満ちた日々を描いた青春映画ですね。映画初挑戦の子役の二人を主役に抜擢し、尾野真千子、竹原ピストル、草彅剛らが脇を固めます。
中井 : 少年にしかできないような経験や気持ちが描かれていて、すごく好きな映画でした。観たばかりですけど、もう1回観たい作品ですね。
小野 : 私は『チャーリーとチョコレート工場』(2005)かな。
― 『チャーリーとチョコレート工場』は、謎めくチョコレート工場の経営者をジョニー・デップが演じたファンタジー・アドベンチャーですね。チョコレート工場の見学を特別に許された5人の子どもたちが工場の中で体験する驚きの世界を、ティム・バートン監督ならではの強烈なビジュアルとブラックユーモアを用いて描いた作品です。
小野 : 小学生のとき、クリスマスになると親には内緒で深夜2時くらいから姉弟だけでこっそりパーティーを開いていたんです。パーティー当日は、なかなかお姉ちゃんが起きないから一生懸命起こしたり、音が鳴らないように静かにしながら昼間に作っておいたお菓子やこの映画に出てくるチョコレートを用意したり。
親が起きたらそこでお開きっていうドキドキ感もありながら、夜中にそういうことをすることがとても楽しかったですね。パーティーの準備が整うとテレビで『チャーリーとチョコレート工場』を流し観しながらみんなでお菓子を食べて、その後にプレゼント交換をするんですよ。
― なんだか映画のワンシーンみたいですね。
小野 : その記憶がまだ残っているから、今でもこの映画を観るとあの頃の楽しい時間を思い出しますし、この映画は家族の大切さも教えてくれる作品でもあるので、いろんな部分で私の心に刻まれている映画だと思います。
今だと現実逃避したい日に観ることもあって、落ち込んでいるときって深い話というよりちょっと非日常的な世界観でありながらも何かを教えてくれるような作品をふと観たくなるんですよね。
小宮山 : 私は小学生のときに観た『映画クレヨンしんちゃん ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん』(2014)がすごく好きで。私の記憶の中で初めて家族全員で観に行った映画でした。
― 『映画クレヨンしんちゃん ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん』は臼井儀人の漫画『クレヨンしんちゃん』を原作とするTVアニメの劇場版第22作目ですね。謎の組織の陰謀によってロボットになってしまった父・ひろしと、しんのすけたちの野原一家が、家族と日本のために組織に立ち向かう姿を描いた作品です。
小宮山 : しんのすけにとっては、ロボットになってしまったお父さんも本物のお父さんもどっちも大切なお父さんなのに、「なんでどちらかを選ばないといけないの!」って心が苦しくなって泣いてしまったり、感動して涙をこらえられない場面もあったりして、映画を観ながら親の前で初めて涙を流すという経験もしました。
観終わって「面白かったし感動する映画だったね」って家族で共有し合えるのも初めてだったから、今でもこの作品は心の中に残っていて。これを観たおかげでより家族がまとまった感じもしますし、DVDを買って車で観たりするくらい家族にとって大切な映画ですね。
― 小宮山さんだけではなく、家族の「心の一本」なんですね。
河合 : 私は、心の支えってことでいうと『はちどり』(2020)が思い浮かびました。
― 『はちどり』は1990年代の韓国を舞台に、男性優位の社会の中で理不尽な思いをさせられながら孤独に生きる14歳の少女の揺れ動く思いや、家族や周囲の人々との関わりを繊細に描いた青春ドラマです。キム・ボラ監督の長編映画監督デビュー作ですね。
河合 : 主人公・ウニの心の支えとなる漢文塾の先生から「つらいときは自分の指を見て、1本1本動かして」って言われるシーンがあるんです。
中井 : 私も、1週間前に観て、そのシーンめっちゃ覚えてます。
河合 : それで先生は「何もできないようでも、指は動かせる」と言ってウニを励ますんですけど、そのシーンをすごく覚えていて。それを観てからは、どこにも頼りどころがなくて万策尽きたときには私も指を数えようって思うくらい、そのシーンが私の心の拠り所になっていますね。
※『GTO』元暴走族の教師が学校にはびこる様々な問題を体当たりで解決していく、藤沢とおるの学園漫画。テレビアニメ化と、反町隆史主演でドラマ化もされている。
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