山内彰馬との出会いは、2017年11月27日だった。当時、山内君はShout it Outというバンドを組んでいた。
僕のInstagramに酔っ払った山内君からメッセージが届いた。
「あなたの出演してる映画、あみこを見ました。一度ご飯でも食べませんか。大好きです。」という内容だった。
ラブレターだった。
僕も、前々から山内君の事は知っていたので、彼に負けないくらいの熱いメッセージで返信した。
それから、僕らは本当によく遊ぶようになった。
僕が20歳の誕生日を迎えてすぐ、山内君がお酒をご馳走してくれた。 この時、初めて山内君とお酒を飲んだのだが、衝撃だった。酒癖が悪い。悪すぎる。時間なんて気にしない。1度飲むと言い出したら止まんない。 山内君は酔っ払った僕を見て「どこまでも行こうや」と叫んだ。 とんでもないやつと出会ってしまった。 ふと、iPhoneで自分の表情を確認すると、僕は笑っていた。 山内君は、ポケットからボロボロになった山田詠美さんの小説『ぼくは勉強ができない』を取り出し、最後のページに何かを書いて、「誕生日プレゼントね」と僕に渡した。 カッコよかった。今を全力で生きてる彼が羨ましかった。
2019年2月。僕は上京後、2回目の引っ越しをした。4月から弟が上京して一緒に住むので、6畳一間の部屋を抜け出す必要があった。
どうして弟が来るまで、まだ2ヶ月もあるのに家を契約したのかというと、その間、山内君と一緒に住みたかったからだ。
彼はちょうど付き合っていた彼女と別れて家をなくしていた。一体どうやって生活していたのだろうか。酔っ払ってダンボールの上で寝てたら死にかけたらしい。
僕らは2ヶ月間、色んな話をした。
ある時、山内君が「もしも世界から〈ヘイト〉の気持ちがなくなったら、その後に生まれる子供は〈ヘイト〉を知らないまま育つの最高じゃない?」と僕に聞いた。
「だけど、〈ヘイト〉の気持ちこそ、愛を知れるきっかけなんじゃないかな。」と僕は言った。
そこから僕らは1時間、その事について話した。
酒に酔ってしまった僕らを止める事が出来るのは、2人共が納得する事。それだけだった。
彼はいつだって僕と対等に話してくれた。
僕は正直、この2ヶ月間で、山内君のダメなところを100個くらい見つけた気がする。
部屋を掃除しない。洗い物をしない。鍵を無くす。すぐ二郎ラーメンに連れて行く。僕が満腹な時にでも無理やり二郎ラーメンに連れて行く。だけど、そんな事も全てこの人への愛という感情の中に含まれてしまうのだ。
おっと。恥ずかしい事を言ってしまった。
こんな事を伝えると、いつも山内君は恥ずかしそうに「もういいて」と言っていた。
最近、『素晴らしき哉、人生!』(1946年)という映画を観た。主人公ジョージには夢があった。しかし、急死してしまった父親が経営していた住宅ローンの会社を継ぐ。そして、メアリーと結婚して、4人の子供に恵まれる。
ある時、町中の人が世界恐慌でお金に困っていた。そんな時、ジョージはメアリーとの新婚旅行のお金を町中の人に分けてあげていた。優しい人だと思った。自分の幸せを、我慢してでも他人を助けてあげるような人は、この世界にはあまりいない。
そんなある日、叔父であるビリーのミスで会社のお金が無くなってしまう。絶望したジョージは川に飛び込み自殺をしようとするが、1人の老人が現れる。老人はジョージに向かい「私は君の守護天使だ」と言う。ジョージはそんな言葉を信じずに、「生まれて来なければ良かった」と言う。
天使は、ジョージにもしもジョージがこの世界に生まれてなかった時の世界を見させた。
愛する人も、友人も、家族も。全員が自分の事を全く知らない。そんな世界を見たジョージは元の世界に戻りたいと願った。そして、元の世界に戻ったジョージは、お金が無くなってしまった事など、どうでもよくなり、街中を走った。全ての人にメリークリスマスと叫びながら走った。
家に帰ると、前にジョージが助けた人達が何人も家に押し寄せてきた。
そして、困っているジョージにお金を分けてあげるのだ。
「友のある者は敗残者ではない。」
天使がジョージに最後に残した言葉だった。
山内君は、まさに僕のジョージだった。
こんなにも愛で溢れてる人を僕は見た事がない。そして山内君は僕に沢山の愛を分けてくれた。
僕にとっての挑戦。それは出会った全ての人を愛する事。時間を愛する事。好きな事を死ぬまでやり続ける事。
山内君がくれた『ぼくは勉強ができない』をやっと読んだ。
「俺は俺、お前はお前、蹴落し合って最後にいい景色見ような」
最後のページに書いてあった言葉だ。
ある日の深夜3時。眠れないので、2人で自転車を走らせた。
行く場所も決めてなかった僕らは、好きな道をただひたすら選んだ。どこにだって行けた。
「月でも行ってみる?」
「いいな、じゃあ先についたら勝ちな」
その次の日、山内君は引っ越し先を決めた。
最後で最初の夜になった。