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芯の強さ、所作の美しさ。
ずっと、昔の日本映画に登場するような女性に憧れていた
― 『居眠り磐音』は、江戸時代が舞台の作品です。南さんにとっては初めての時代劇への挑戦だったそうですね。現代ではない、生活も慣習も全く異なる時代の女性を演じたことで、ご自身の中で何か発見はありましたか?
南 : スクリーンを通して初めて自分を観た時、「ゆっくり、綺麗に柔らかく動いてる!」とびっくりしました。話し方もゆったりしていて、自分じゃないようで少し感動したんです。
― 言葉遣いや動きなど普段とは全く違っていたと思うのですが、どういうところが大変でしたか?
南 : 時代の生活風景に沿った所作指導を受けたのですが、まず基本となる姿勢から大変でした。この時代の人々の動きは“動作を急がず、ゆとりをもって”と教えていただき、それを実践すると、普段意識していない筋肉を使うんです。普段は背筋を伸ばすことも意識していなかったですし、身体も硬い方なので、それだけで筋肉痛になってしまって(笑)。
― その時代の人々の所作を教わったことで、その後の自分に変化はありましたか。
南 : 食事のシーンがあったので、ご飯を食べる時の所作も教えていただいたんですけど、姿勢も含めて、それは今でも自分の生活の中に自然と残っているような気がします。
あと、時代劇のセットや着物という衣裳での演技だったからか、特有の空気感というものがありました。他では体験できない緊張感で、それもまた普段と違って背筋が伸びる理由でした。
― 現場は時代劇特有の緊張感で満たされていたんですね。南さん演じる坂崎伊代は、松坂桃李さん演じる主人公・坂崎磐音の妹役です。父役に石丸謙二郎さん、母役に財前直見さんなど錚々たる面々の中で、堂々と演じられていました。
南 : みなさんがお芝居に取り組まれている姿勢は、本当に刺激になりました。あと、松坂さんがとても優しくしてくださって。寒い時期の撮影だったのですが、ご自身のカイロを貸してくださることもありました。松坂さんが現場のみなさんに接する姿や、移動中も台本に真剣に向き合ってる姿が深く印象に残っています。私もこの現場でのみなさんの姿を見て、より真剣に演技と向き合うようになりました。
― 今の時代だったら、携帯やSNSですぐに意思の疎通が取れるようなことも、些細なことから誤解が生まれてしまう。離れている者同士がすぐに通じることができない、それ故に起きた悲劇が映画では描かれていました。
南 : 観ていて、すごく…もどかしかったですね。今だったら、すぐに本心を伝えることができるのにって。でも、その一方で、携帯やSNSで人と繋がったり、何かを共有したり、ということが私は得意ではないので、手紙で想いを伝えたり、自分の大切な小物に気持ちを込めたり、そういう時間をかけた心の交わし方は素敵だなって思いました。
私は、もともと、昔の日本映画に出てくるような女性に憧れていたんです。所作や言葉遣いが丁寧だし、芯がまっすぐで、強くてかっこいいというイメージがあって。だから、今回演じることができたのは、嬉しい経験でした。
― 今作に登場する女性たちも、磐音の許嫁・小林奈緒(芳根京子)、両替商の女中・おこん(木村文乃)など、みな芯があり、それぞれの道を強く生きる姿が印象的でした。ところで、憧れている女優さんはいらっしゃいますか。
南 : 女優の二階堂ふみさんが好きです。『蜜のあわれ』(2016)という二階堂さんが主演を務められている映画がすごく好きで。2年ぐらい前に初めて観たんですけど…
― 14歳の時ですか!? 老作家と、金魚から人間の姿に変貌する少女の暮らしを描いた、幻想的な文学ドラマですよね。
南 : リアリティのない、不思議な世界観の映画が好きで。現実と非現実の間をふわふわしているような。その中でも、二階堂ふみさんの存在が強く印象に残っています。でも、この作品を観る前から二階堂さんのことは大好きでした。
雰囲気とか、素敵ですよね。二階堂さんの演技を観ていると惹き込まれます。女優としても憧れますが、一人の女性としても。佇まいや言葉遣いも含めて、ああいう女性になりたいって思ってるんです。
妄想から広がる世界が、
私を支え、自分の軸となっている!
― 女優というお仕事は、いつから目指していたのでしょうか?
南 : 小さい頃からずっと女優さんになりたかったんです。子どもの頃から、「自分が動物になったらどんな感じだろう」とか、よく妄想をしていて。自分とは違う誰かになってみたい、という願望が強かったので、いろんな人格を演じられる女優さんに憧れていました。
― 「自分とは違う誰かになってみたい」という願望があったんですか。
南 : 昔から想像したり妄想したりするのが好きでした。癖だったと言ってもいいぐらいです。こんなことがあったらいいな、という自分の憧れや、キラキラした妄想を、映画の世界を通じて広げるのが楽しかったし、そういう時間が自分を支えてくれていました。だから、現実で上手くいかないことがあると、妄想したり、映画を観たり。
― 映画や女優が、南さんの“妄想力”を高める一番身近な入口となったんですね。
南 : 中学の時に、周囲とうまく噛み合わなくて、家に閉じこもってしまった時期があったんですけど、そういう時にそばにいてくれたのが映画だったんです。
― では映画を観るときは、登場人物の誰かに感情移入して、没入する感じでしょうか。
南 : それが役に入り込みはしないのですが(笑)、同じ映画を繰り返し観るという没入の仕方はします。好きな仕草が描かれているシーンや、少しでも腑に落ちないシーンがあると何度も観ますね。なんとなくわかったつもりでいるのが嫌な性格で。
― より深く知るために、繰り返し観るんですね。映画以外のことに関しても、そうですか?
南 : 好きなことに関しては、納得するまでやるタイプですね。
― 最近はお仕事でお忙しいと思うのですが、映画を観る時間はありますか?
南 : 結構観ています! 最近、映画館で観て一番好きだったのは『グリーンブック』(2019)。映画館以外でも、家でも家族みんなでDVDなどでよく観ます。家族みんな映画が大好きなので。何を観るか最初に選ぶんですけど、その時間が長引いて、いつもなかなか観始められないんです(笑)。
― その時間も楽しそうですね。最近、家族で何かご覧になりましたか?
南 : 一昨日は、兄がずっと観たがっていた『ヴェノム』(2018)を観て、昨日『インターステラー』(2014)も観ました! 「これは、どういう意味があったんだろう?」と疑問に思うところがいくつかあったので、この作品も何度も観ると思います。
― お聞きしていると、幅広く映画を観ていますね。苦手なジャンルは特にないですか?
南 : 苦手ではないけど、一番「うわ!」と強烈だったのは、『時計じかけのオレンジ』(1972)です。いい意味でトラウマ映画というか…今でも夢に出てきてうなされます。小学生の頃に観たんですけど、家族で観たので、なんともいえない空気になりました(笑)。でも、画面からどうしても目を離すことができなかった、印象深い映画です。
― 先程、憧れの女性像についてお聞きしましたが、これまで観てきた映画の登場人物で、印象に残っている憧れの女性はいますか?
南 : かっこいいなと思ったのは、『アメリ』(2001)の主人公です。かわいいだけじゃなくて、ちょっとずる賢いところもあるし、妄想が好きというのも「わかる!」と共感できて。自分の妄想や想像した世界をまっすぐに信じているところも、かっこいいなと思います。あの映画を観て、自分の女性の捉え方が大きく変わりました。
― 南さんが憧れる、そして演じてみたい“女性”とはどういうものでしょう。
南 : なんだろう…グレてみたい…!? グレたことがないので(笑)。ただ悪ぶってるわけじゃなくて、自分の考えを軸に持っていて、そこからぶれない女性ですかね。
― 『居眠り磐音』に登場する女性や二階堂ふみさん、アメリなど、確かにみな自分の考えを軸に、ぶれない強さを持っていますね。
南 : というのも、実は私の母がそうなんです…(笑)。母を身近に見て育っているので、そう思うのかもしれません。
― お母様が憧れの女性でしたか!
南 : 母は自分の正義というか、正しいと思うものがはっきりとある人で。強さがあって、ぶれない軸がある。そういう女性がかっこいいと思います。私の軸は、映画を観ることや、そこから妄想を広げるということなので、これからもたくさんの素敵な表現にふれて、ぶれない軸を持つ強い女性になりたいです。