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映画を観た日のアレコレ No.85

俳優・ミュージシャン
渡辺大知の映画日記
2023年9月5日

映画を観た日のアレコレ
なかなか思うように外に出かけられなかった時を経て、今どんな風に1日を過ごしていますか? 映画を観ていますか?
何を食べ、何を思い、どんな映画を観たのか。 誰かの“映画を観た一日”を覗いてみたら、どんな風景が見えるでしょう? 日常の中に溶け込む、映画のある風景を映し出す連載「映画を観た日のアレコレ」。
85回目は、俳優・ミュージシャン 渡辺大知さんの映画日記です。
日記の持ち主
俳優・ミュージシャン
渡辺大知
Daichi Watanabe
1990年8月8日、兵庫県出身。ロックバンド「黒猫チェルシー」(現在は活動休止中)のボーカルとして2010年にデビュー。『色即ぜねれいしょん』(09/田口トモロヲ監督)の主演で俳優デビューし、日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。14年には初監督作『モーターズ』でPFFアワード審査員特別賞を受賞。主な出演作に、『勝手にふるえてろ』(17/大九明子監督)、『寝ても覚めても』(18/濱口竜介監督)、『ギャングース』(18/入江悠監督)など。2024年度NHK大河ドラマ「光る君へ」に藤原行成役で出演。今後の待機作に、『正欲』(11月10日/岸善幸監督)、『市子』(12月8日/戸田彬弘監督)の公開が控えている。

2023年9月5日

今日は休み。
休みというのは最高だ。
なにをするのも自由。
そんな最高な日には映画が観たくなるものだ。

家で映画を観る時にはいくつかのパターンがある。

まずは、外に出たくない時だ。
なぜかわかんないけど、とにかく一歩も外に出たくない時がある。
そんな時は家で映画を観るのが最高だ。

休みの日、昼から外に出たい時には僕は基本的には映画館にいきたい派だ。
映画館という場所が好きだし、集中力を高められる。
でも家で観る映画というのも本当にオツだなぁだと思う。
まず、ダラダラお菓子とか食べながら観れるし、途中で止めることが出来るのが1番の醍醐味だ。
好きなところや、気になったところを何回も巻き戻して観れるから、勉強にもなる。

撮影の数日前とか、参考にしたい映画とかを家で一時停止しながらじっくり観る、というのは、仕事のふりをした僕の極上の楽しみだ。

でもなにより、街を歩いていて、とか、友達と話してて、急にある映画を思い出した時。
その映画について話したくてしょうがなくなると、無性に早く家に帰ってその映画を確認したくなることがある。
テレビを見てて、美味しそうなラーメンが映るとラーメンが食べたくなるみたいに。映画の舌になる、みたいな。

先日、友達と学校の近くを歩いていた時に、ふと「もう学校に勝手に入ったり出来なくなったもんね」という話になった。
たしか僕が小学生の頃は、土日とかは学校に関係ないひとも校庭で遊んだりしてしていたな、と思い出した。
「自転車の2人乗りももうダメだもんね」と誰かが言って、「じゃあ『キッズ・リターン』はもう撮れないねぇ」という話になった。
それから、「『キッズ・リターン』って、2人乗りってどういう体勢で乗ってたっけ?」と誰かが言って、「学校に向かってなんて言うんだっけ?」と、記憶テストみたいなことをして盛り上がった。

もうこうなったら『キッズ・リターン』を観るしかない。
そのシーンだけを観ることも出来るが、せっかくなので頭から観ることにする。

歳を重ねるにつれて、映画の観方が変わることはよくあるが、『キッズ・リターン』に関しては何度観ても初めて観た時の興奮に立ち返ることができる。

でも仕事を初めてから変わったことは、出演者が知り合いだったりすることだ。
初めて観たときには地球の裏側に住んでると思っていたような方たちと、今仕事をしたりしているのかと思うと不思議な気持ちになる。

大杉漣さんと1日だけ共演させていただいた時、『キッズ・リターン』の撮影について教えてもらったことを思い出した。
今までで1番緊張した撮影のうちのひとつだったそうだ。タクシーの後部座席に座るサラリーマンの役で、直前で役の設定だけを聞かされてあとは「いい感じに頼みます」とのことで、震えたという。
でもそれを楽しそうに話してくださったことを僕は忘れることが出来ない。

そして、宮藤官九郎さんが高校生役をやっていて、知ってるはずなのになぜか照れ臭いような気持ちになった。そういえば宮藤さんとは『キッズ・リターン』について話したことがない。どういう経緯で出演が決まったかも知らない。

先日宮藤さんの脚本・監督作品に初めて参加させていただいた。
仕事をする上では、知らないことがあるのもまたいいことかもしれない。

観終わって、映画を観ることは自分の中のいろんな記憶と結びつき、知らなかった自分に気づけたり、知らない誰かと誰かを結びつける力があるような、そんな気持ちになった。

『キッズ・リターン』は改めて観ても、本当に素晴らしい青春映画だった。

そして友達との会話の答え合わせは、忘れて観終えてしまったので、巻き戻して確認した。

渡辺大知の映画日記
BACK NUMBER
INFORMATION
『季節のない街』
原作:山本周五郎「季節のない街」
企画・監督・脚本:宮藤官九郎
出演:池松壮亮、仲野太賀、渡辺大知/三浦透子、濱田岳/増子直純、荒川良々、MEGUMI、高橋メアリージュン、⼜吉直樹、前田敦子、塚地武雅、YOUNG DAIS、大沢一菜、奥野瑛太、佐津川愛美/坂井真紀、片桐はいり、広岡由⾥子、LiLiCo、藤井隆、鶴見⾠吾、ベンガル、岩松了
監督:横浜聡子、渡辺直樹
音楽:大友良英
撮影:近藤龍人
美術:三ツ松けいこ
照明:尾下栄治
編集:宮島竜治、山田佑介
録音:山本タカアキ
衣裳:伊賀大介、立花文乃

ディズニープラス「スター」で全10話独占配信中
“ナニ”から12年―― この街には、“ナニ”で被災した人々が身を寄せる仮設住宅があった。
今もまだ、18世帯ものワケあり住人が暮らしていたが、月収12万超えると「即立退き」とあって、皆ギリギリの生活を送っていた。主人公の田中新助こと半助は、街で見たもの、聞いた話を報告するだけで「最大一万円!」もらえると軽い気持ちで、この街に潜入する。だが、半助こそ“ナニ”によって何もかも失い、ただ生きているだけの男だった。しかし、ギリギリの生活の中で、逞しく生きるワケあり住人らを観察するうち半助は次第に、この街の住人たちを好きになっていく。そんな中、仮設住宅が取り壊されるという噂が街に流れはじめるのだが……。
PROFILE
俳優・ミュージシャン
渡辺大知
Daichi Watanabe
1990年8月8日、兵庫県出身。ロックバンド「黒猫チェルシー」(現在は活動休止中)のボーカルとして2010年にデビュー。『色即ぜねれいしょん』(09/田口トモロヲ監督)の主演で俳優デビューし、日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。14年には初監督作『モーターズ』でPFFアワード審査員特別賞を受賞。主な出演作に、『勝手にふるえてろ』(17/大九明子監督)、『寝ても覚めても』(18/濱口竜介監督)、『ギャングース』(18/入江悠監督)など。2024年度NHK大河ドラマ「光る君へ」に藤原行成役で出演。今後の待機作に、『正欲』(11月10日/岸善幸監督)、『市子』(12月8日/戸田彬弘監督)の公開が控えている。
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