映画の言葉『母とわたしの３日間』心療内科の医師のセリフより

記憶というのは
生きていくための燃料のようなものです

By 心療内科の医師

『母とわたしの３日間』より

亡くなってからの休暇で一人娘の元にやってきたポクチャ（キム・ヘスク）。アメリカで華々しく暮らしているはずの娘・チンジュ（シン・ミナ）はなぜか故郷の田舎町にいて、かつて母が営んでいた定食屋を細々と続けていました。なぜ娘がこんなところにいるのか理解できずイラだつポクチャでしたが……。

『母とわたしの３日間』は、亡くなった人が天から与えられた「休暇」で会いたい人に会いに行くという、少しファンタジックな物語です。相手のすぐそばで3日間を過ごすことができますが、自分の姿は相手には見えていないし、相手に触れることも許されません。娘を幸せにするため懸命に頑張ってきたポクチャですが、ひとり田舎の食堂に暮らしながら悲しそうな表情を浮かべているチンジュのすぐそばで、ただ見つめることしかできません。

ポクチャは家庭料理の達人でした。チンジュも母譲りの料理上手で、お店に来る人々やソウルから訪ねてきた友人を喜ばせます。母オリジナルレシピを苦労して再現するなど、黙々と料理をすることで母ポクチャとの思い出をたどっていくチンジュ。そこには、ポクチャが知らなかったチンジュの複雑な想いがありました。

「記憶というのは 生きていくための燃料のようなものです」

これは、チンジュが訪れた心療内科の医師の言葉です。良い記憶は背中を押してくれるし、悪い記憶は足を怯ひるませます。母を失って立ち止まってしまったチンジュは、なによりも母を象徴する料理を作ることで、記憶という燃料をどんどん集めていっているようにも見えます。

美味しそうな湯気を上げる様々な家庭料理が印象的な本作ですが（どれも最高に美味しそう！）、私が「子どものころの記憶」として真っ先に思い浮かべるものも料理です。とはいえ、母の手料理ではありません。私が思い出すのは、誕生日に毎年連れて行ってもらったレストランのエビ料理。少しだけオシャレして、家族みんなで味わうちょっとした贅沢が無性にうれしかったなあ。こんな風に、食事に結びついた思い出を持つ人は少なくないのではないでしょうか？

ポクチャとチンジュの切なくも美味しそうな休暇の行方を、ぜひ劇場で見守ってあげてください。

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