PINTSCOPE(ピントスコープ) 心に一本の映画があれば PINTSCOPE(ピントスコープ) 心に一本の映画があれば

映画館を考える vol.02

墨田区菊川のミニシアター・Strangerの「映画について語り合う交流会」を取材しました!

「映画を観る」と一口に言っても、「観る作品を選ぶ」「映画館に行く」「観たあと、映画について誰かと話す」と、人それぞれの「映画を観る」がそこにはあります。
これまでみなさんの映画体験を集める中で、またコロナ禍で映画館に行けなくなったり誰かと一緒に映画を観れなくなったりした期間を経て、より鮮明にそのことが見えるようになりました。そしてより一層、多種多様な映画体験の中にあるものを見つめた上で、映画と人をつないでいきたいという思いが強くなりました。
そこでPINTSCOPEでは、人それぞれの「映画を観る」を因数分解し、改めて「“映画を観る”って何?」「“映画を観る場”の可能性は?」を考えてみたいと思っています。連載「映画館を考える」第2回は、墨田区菊川のカフェ併設型ミニシアターStrangerの「映画について語り合う交流会」にお伺いしてきました。そこから見えた、「映画を観る」と「映画館」とは?

「知る、観る、論じる、語り合う、繋がる」映画館 Stranger

Strangerは、墨田区の都営新宿線菊川駅から徒歩25秒にある、ミニシアターです。
近くを流れる大横川のほとりからは、スカイツリーが見えます。大通りから一歩入ると、緑道や静かな住宅街も現れます。

たまたま通りがかった手作りキムチ屋さん「キムチパントリー」からは「いつもありがとう!」という声が聞こえます。その声とおいしそうなキムチの匂いに誘われてお店にお邪魔し「今日は、向かいのStrangerの取材で、この街に初めてきているんです」とお話ししていると、「これ美味しいから持って行って!」とユッケジャンカップラーメンを持たせてくれた店主さん。

そんな、馴染みのチェーン店や立ち飲み屋、ピザ屋さんなどが並ぶ通りの一角に、ミニシアター「Stranger」がありました。

2022年9月に誕生したStrangerは、2024年2月1日より、前代表のアート&サイエンス株式会社 岡村忠征さんより引き継ぐ形で、ナカチカ株式会社から、映画館の劇場勤務や非劇場映画配給営業の経験を経て、劇場営業を中心に担当していた更谷伽奈子さんが新社長に就任し、運営組織を一新しました。

前代表・岡村さんは、「映画館・カフェに定期的に通っていただく方々を広げていくには地道な根強い活動が必要」と覚悟を持ってStrangerを設立。しかし、3年目を迎える前に、「5年先、10年先を考えたとき、このままの状況では、事業継続は困難である」と考え、映画事業を行い、映画館運営のノウハウも豊富なナカチカ株式会社へ運営を引き継ぐことを決断したそうです。

最初は2年で終焉を迎えても良いという気持ちもあったそうですが、運営していくうちに考えが変わり「映画館という事業は、文化施設として公共性の高い事業である以上、一度始めたからにはできる限り存続できるようにすることが責務の一つである」という考えにいたったと語っています。(「Strangerの運営移管のお知らせ」より)

20代の新社長 更谷さんを迎え、新たに生まれ変わるミニシアター・Strangerに注目していたPINTSCOPE編集部は、Strangerで「映画について語り合う交流会」が開かれることを知りました。

新社長 更谷伽奈子さん

地域に寄り添う役割を担う映画館・Strangerとして、「映画について語り合う交流会」は地域住民が参加し映画館を考える、初の試みだそうです。そこで、「どのような仕掛けで映画と人と街を盛り上げていくのか?」をぜひ取材したい! と思い、今回参加させていただきました。

東京東エリア唯一のミニシアターであるStrangerは、「知る、観る、論じる、語り合う、繋がる」というリアルな体験を軸に、地域に寄り添う映画館、そして文化発信の拠点としての発展を目指した映画館です。

上映される作品のラインナップ編成も、そのコンセプトをもとに更谷社長が新たに組み、また監督やキャストと短編映画を観て語り合う取り組み「Tiny Space Theater」やアーティストの個展「Tiny Space Gallery」、劇場で収録を行いX Spaceでも配信する「Tiny Space Radio」など、 “Tiny”でアットホームな映画館から発信する新たな企画も行っています。


地域住民が、映画館に集まって、映画館を考える

今回、「映画について語り合う交流会」を主催したのは、「すみだパークシネマフェスティバル実行委員会」の細田侑さん。

墨田区生まれ育った細田さんに、今回の会について伺うと
「昔はこの辺りに、もっと映画館はたくさんあったがなくなってしまったんです。そんなときにStrangerができて、いつか関わりたいと思っていました。まだまだこれからですが、地域に根ざした映画館を盛り上げ、映画館をそれぞれが自己実現ができる場にしたいんです」
と語ってくださいました。

その思いから、更谷さんに自ら企画を持ち込み、提案。今回の企画が実現したそうです。

イベントは、6月12日の18時半からスタート。参加者は、併設カフェでビールや自家製レモネードなどのドリンクやタコスといったフードをオーダーし、カフェスペースに集まります。

主催の細田さんを中心に、更谷社長も参加し、みんなで「乾杯〜!」からスタート。まずは一人一人自己紹介。

Strangerの近所に住む地元の人もいれば、墨田区にある友人のお店を時々手伝いに来ている縁で知った人、誘われて友人と、Instagramを見て一人でなど参加したきっかけも、様々。また、年間900本映画を観ている映画ファンから、最近映画を観るようになったという映画ファン、「Strangerの映画のラインナップが好き」で、これまでの上映作品を全て観ているというStrangerファンまで、それぞれの「きっかけ」でこの会に集まっていることがわかりました。

ある一人の参加者から「友達が少なく、映画を語る友達はさらに少ない」と語られると、共感の声があがりました。映画を通して誰かと繋がれる場所やコミュニティが求められていることも感じます。

「『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』 を父親と観にいったのが、初めての映画館体験」「子供のころに学校はあまり行っていなかったけど、母親と映画館に行っていた」など、自然と映画体験の話で盛り上がり、徐々に熱を帯びてくるお話し会。
そして、本日のメインテーマである「Strangerで実現したいこと」へ。参加者の映画館に対する思いも交えながら、ざっくばらんに話すことで出てきたアイディアを、付箋に書き留めていきます。

「ラーメンが出てくる映画知りませんか? それとラーメンをうまく掛け合わせて何かできないか?」
「映画を観た後、落ち着いて味わいたいから瞑想するのもいい」
「映画館にもっと家で観るような自由さがあってもいいな」
「近所の映画館はレイトショーが貸切状態なので、子供と一緒に観に行くと、子供が自由に過ごすことができる」
「パンフレットを持ち寄る会をしたい」
「北海道には古民家を再生し、市民みんなで運営している映画館がある」
「映画を観た後にポーカーとか陶芸やるのもいいね」
「銭湯が出てくる映画を観て、足湯につかるのはどうか」

と、「なるほど!」な意見やアイディアが飛び交います。

参加者の一人、墨田区京島にある銭湯「電気湯」オーナーの大久保勝仁さんが、「映画館のカフェスペースにパイプを設置して…」と提案すると、社長が「来週やります?」とその場でアイデアが採用される一幕も。

予定終了時刻の20時を過ぎても、話しは尽きませんが、この日は映画の上映のため一旦おひらきに。しかし、その後もロビースペースに残って、名残惜しそうに立ち話をする参加者の姿があり、会の可能性をより感じました。

「めちゃくちゃ盛り上がりましたね。みんな参加型を求めているんだと思いました。墨田区には表現者も多く住んでいる。Strangerが地域の文化発信の拠点となっていけば」と交流会を終えた更谷社長が語ってくださいました。今後も、細田さん主催のもと、月に1回は実施していく予定だそうです。

参加者にプレゼントされた
Stranger Sticker

参加してみて感じる、人と人との距離が近い、毎日通いたくなる映画館とは?

今回の参加者には、「Strangerのカフェでモーニングをして、そのままカフェで仕事をし、映画を観て家に帰る」という人もいました。

Strangerに併設されているカフェでは「映画を2時間観ても味が落ちずに楽しめる」ブレンドコーヒーを開発したほか、季節によって変わるブレンドもあるそう。また、群馬県にある自家焙煎ファクトリーSHIKISHIMA COFFEE FACTORYのオリジナルブレンドが味わえ、カフェのみ利用するお客様も多いそうです。

「映画について語り合う交流会」は、途中退出OKなので、自分のタイミングで参加しやすいのもいいなと感じました。参加者からの「知らない人と映画館で集まって、こうやって話す機会は初めて。楽しかった」という声もあり、帰りに参加者同士ハグをしてる人も見かけられました。

更谷社長に、「なぜ今は『アバウト・タイム』をかけてるんですか?」「なぜ今『ミッド・サマー』なんですか?」という上映作品選びについての質問も投げかけられ、普段あまり交流することがない「映画館を運営する人」と「映画を観る人」の距離が近くなる場でもあるんだなと感じました。

「みんな自由を求めているんだなぁ」という参加者のつぶやきを聞き、映画や映画館の楽しみ方をもっと自由に考え語り合ってもいいんだなと感じられる時間に。

「皆さんのアイディアを、あとはどう実現していくか」と語る更谷社長。今後どんな企画が行われるのか、どんな映画館に進化していくのかが楽しみです。今回のご縁を機に、映画を観に、コーヒーを飲みに、イベントに参加しに、自分にあった楽しみ方で、今後もStrangerでのひとときを味わいたいと思います。

街のミニシアターには、映画を観に行くだけではもったいない、沢山の楽しみ方が用意されています。映画館のスタッフたちが、映画を楽しんでもらいたい、映画を好きになってもらいたいと創意工夫した、独自の企画や空間づくりにはそれぞれの映画館の個性が表れています。

あなたの住む街や近くに、まだ行ったことのないミニシアターがあったら足を運んでみて、その空間をぜひ味わってください!

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Strangerでは、7月18日(木)まではホン・サンス特集を上映中、そして7月19日(金)〜8月8日(木) はジョン・ヒューストン特集も実施予定だそうです! 今後のラインナップは、こちらからもご覧いただけます。

6/28(金)〜7/18(木) ホン・サンス特集のポスター
ホン・サンス監督の日本劇場公開最新作『WALK UP』公開を記念し、
日本未公開の作品を含む珠玉の5作品をセレクト。
7/5(金)から上映予定 『パスト ライブス/再会』
カフェスペースの雑誌。
周辺地域が取り上げられているページには、付箋が貼ってあります。
『PERFECT DAYS』ロケ地となった
墨田区の銭湯「電気湯」とStrangerのコラボステッカー

INFORMATION
Stranger
住所:〒130-0024 東京都墨田区菊川3-7-1 菊川会館ビル
TEL:080-5295-0597

◆都営新宿線 菊川駅 A4出口 徒歩1分
◆半蔵門線 都営大江戸線 清澄白河駅 徒歩13分
公式サイト: https://stranger.jp/
公式Instagram: @stranger.tokyo
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