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既存のジャンルにおさまらないお酒
僕たちのお店、ペンギン酒店には、いろんなジャンルのお酒が、所狭しと並んでいます。
あまりにお酒の種類が多いので、
「なにかオススメしてほしいです」
と頼まれることも、よくあります。
そんな時には、
「いつもどんなジャンルのお酒を、よく飲んでますか?」
と、まず聞いています。
醸造酒なら、日本酒やビール、ワインなど。
蒸留酒なら、焼酎やウイスキー、ジンなど。
お酒にもいろんなジャンルがあります。
もともと、どこの国にも、お酒に関するルールがあって、日本でも、日本酒やビールと名乗るための、原材料や作り方が、それぞれ法律で決められています。
日本酒は米、米こうじ、水を主な原料として発酵させたもの。
ビールは麦芽、ホップ、水を主な原料として発酵させたもの。
それに加える副原料も細かく規定されています。
ただ、ここ最近、既存のジャンルに当てはまらないお酒が、どんどん出てきているんです。
日本酒っぽいけど、法律上は日本酒じゃない。
ビールっぽいけど、法律上はビールじゃない。
そんなジャンルを越えてくるお酒が、いくつもあります。
メディアでは、クラフト酒とか、クラフトビールと呼ばれているお酒たち。
どこか自由でおもしろいのですが、その中でも、僕のオススメするお酒がこちらです。
このお酒は、ビールを作っている奈良醸造と、日本酒を作っている油長酒造が、一緒に作っています。ビールの原料である麦芽に、日本酒の酵母と米麹を加え、日本酒の仕込み水といっしょに醸造されています。そして、ビールに必ず入っているホップは、まったく入れずに作られます。
アルコール度数は11度と、ビールにしては高めですが、日本酒の持つフルーティーな香りと、ビールのほろ苦くてドライな味わい、きめ細やかな炭酸が感じられます。
ビールと日本酒の間で、それぞれの個性が調和している、僕も大好きなお酒です。
ただ、このお酒の様に、二つの個性を見事に調和させるというのは、本当に難しいことだと思います。
12歳の料理好きな男の子、エイブが主人公の映画『エイブのキッチンストーリー』(2019)。
お母さんはイスラエルの人で、お父さんはパレスチナの人。
家族が住んでいるのは、ニューヨーク。
親戚同士が集まると、いつもイスラエル側とパレスチナ側で、言い争いになってしまいます。
エイブの家族のように、宗教や民族の歴史的背景の違いじゃなくても、それぞれの考え方や価値観の違いから、対立してしまう。これは、どんな人にも、起こり得ることです。
そんな時、自分だったらどう考え、行動するでしょうか。
料理好きのエイブは、ネットであるシェフを見つけます。世界各地の味を組み合わせて、全く新しい料理を作るブラジル人シェフのチコ。出てくる料理は、魅力的なビジュアルで、どれも美味しそう。
エイブはふと思いつきます。この夏休み、チコに料理を学んで、毎回言い争いになってしまう食卓を舞台に、自分の料理で家族をつなげたい。そして、夜中にこっそりと家を抜け出して、チコのところまで出かけていきます。
このシーンで出てくるのが「フュージョン fusion」という言葉。
映画の中では、別々のルーツを持つ料理を組み合わせて、融合するという意味で使われています。
ただ、気をつけないといけないのが、単に組み合わせるだけじゃダメ。
そこに、調和が生まれなければ、組み合わせる意味がない、ということ。
チコのキッチンで働き始めたエイブが、最初に作って持っていったのは、ラーメンタコスという料理。
チコはその料理を見ただけで、食べようとすることもなく、
調和のない組み合わせは「フュージョン fusion」じゃない、「コンフュージョン confusion」
つまりは、ただの混乱だと、エイブに伝えます。
それぞれの料理が持つ香りや味わいが、組み合わさって調和することで、それまでの固定観念や歴史的背景を、軽やかに飛び越える、新しい料理が出来上がっていく。
それが「フュージョン fusion」であれば、ジャンルを超えて作られるお酒たちも、またフュージョンと呼ばれるのかもしれません。
余談ですが、もう一つ、お酒の世界で使われ始めている「インフュージョン infusion」という言葉があります。
果実やハーブ、スパイスなどをお酒に漬け込んで、香りや味わいをお酒に移すという技法です。
ペンギン酒店では、緑茶の茶葉をジンに漬け込んだり、ウーロン茶の茶葉をウイスキーに漬け込んだりしたものを、ソーダで割って、お茶ハイボールを作っています。
夏にピッタリの爽やかなお酒なので、おうちでも作れるように、レシピを書いておきますね。
◎「緑茶ジン」・「ウーロン茶ウイスキー」の作り方
・ジンorウイスキー 150ml
・ソーダ(炭酸水) 120ml
2.ラップをかけ、常温で24時間置いておく
3.茶こしなどで濾して、保存瓶などに入れ冷凍庫で保管
リズミカルなブラジル音楽にのって、次々と画面に出てくるフュージョン料理の数々。そのどれもが、固定概念を気持ちよくくつがえしてくれる魅力にあふれています。
バラバラになりかけている家族を調和させる、新しいフュージョン料理を、エイブは作ることができたのか。それは映画の最後までわかりませんが、間違いなくエイブの力で、家族の関係は変化していきます。
夏の夜、自分でインフュージョンした、お茶ハイボールを飲みながら、エイブの活躍を見守るのも、楽しいかもしれません。
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- 辛口の日本酒を、映画『男はつらいよ ぼくの伯父さん』で味わう家飲み時間
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ありがとうございました。
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