PINTSCOPE(ピントスコープ) 心に一本の映画があれば PINTSCOPE(ピントスコープ) 心に一本の映画があれば

ペンギン酒店のお酒がすすむ「おつまみシネマ」vol.13

価値観の対立と調和について、お酒を飲みつつ考える。
『エイブのキッチンストーリー』で味わう家飲み時間

ペンギン酒店のお酒がすすむ「おつまみシネマ」
鹿児島の騎射場で、焼酎・日本酒・ワイン・果実酒・ウイスキー・ジン・クラフトビール…など300〜400種類のお酒を楽しむことができる居酒屋「ペンギン酒店」を営む岡田六平さんが、映画を通してお酒との出会いを教えてくれる連載「ペンギン酒店のお酒がすすむ おつまみシネマ」!
お酒に合うおつまみを選ぶように、今夜の一本(一杯)となる、お酒と映画の組み合わせを見つけてみませんか?
ペンギン酒店 店主
岡田六平
Roppei Okada
1978年生まれ、香川県出身。居酒屋店主。2019年3月、鹿児島市・騎射場に夫婦で居酒屋『ペンギン酒店』を開店。薩摩焼酎の蔵元や、個性的な酒屋、同業の飲食店と数々のコラボイベントを開催している。
大学卒業後、成城石井、ホットペッパー飲食営業の後、飲食店ではリゴレット、ポンデュガールで働く。
2014年、ソムリエの資格を取得した直後から世界一周の新婚旅行に出発。1年間、妻と2人で41ヶ国を回る。バックパッカーで旅をしながら、ホームステイを繰り返し、地元の料理を食べ、現地の食材で料理を作る。カリフォルニア、アルゼンチン、ウルグアイ、スペイン、フランス、イタリア、ハンガリーではワインの産地を巡り、チリの田舎にあるワイナリーでは一週間住み込みで働いた。
2015年の帰国後、生まれた息子たちは現在4歳と0歳。
日々、家族との時間をたいせつにしながら楽しく飲食店で働ける方法を夫婦ふたりで模索している。

既存のジャンルにおさまらないお酒

僕たちのお店、ペンギン酒店には、いろんなジャンルのお酒が、所狭しと並んでいます。
あまりにお酒の種類が多いので、
「なにかオススメしてほしいです」
と頼まれることも、よくあります。

そんな時には、

「いつもどんなジャンルのお酒を、よく飲んでますか?」

と、まず聞いています。

醸造酒なら、日本酒やビール、ワインなど。
蒸留酒なら、焼酎やウイスキー、ジンなど。
お酒にもいろんなジャンルがあります。

もともと、どこの国にも、お酒に関するルールがあって、日本でも、日本酒やビールと名乗るための、原材料や作り方が、それぞれ法律で決められています。

日本酒は米、米こうじ、水を主な原料として発酵させたもの。
ビールは麦芽、ホップ、水を主な原料として発酵させたもの。
それに加える副原料も細かく規定されています。

ただ、ここ最近、既存のジャンルに当てはまらないお酒が、どんどん出てきているんです。

日本酒っぽいけど、法律上は日本酒じゃない。
ビールっぽいけど、法律上はビールじゃない。
そんなジャンルを越えてくるお酒が、いくつもあります。

メディアでは、クラフト酒とか、クラフトビールと呼ばれているお酒たち。
どこか自由でおもしろいのですが、その中でも、僕のオススメするお酒がこちらです。

ペンギン酒店のお酒がすすむ「おつまみシネマ」vol.13
UNDERWATER(アンダーウォーター)
【アンダーウォーター(奈良醸造+油長酒造)/ ¥1,320 (税込)】

このお酒は、ビールを作っている奈良醸造と、日本酒を作っている油長酒造が、一緒に作っています。ビールの原料である麦芽に、日本酒の酵母と米麹を加え、日本酒の仕込み水といっしょに醸造されています。そして、ビールに必ず入っているホップは、まったく入れずに作られます。

アルコール度数は11度と、ビールにしては高めですが、日本酒の持つフルーティーな香りと、ビールのほろ苦くてドライな味わい、きめ細やかな炭酸が感じられます。

ビールと日本酒の間で、それぞれの個性が調和している、僕も大好きなお酒です。

ただ、このお酒の様に、二つの個性を見事に調和させるというのは、本当に難しいことだと思います。

12歳の料理好きな男の子、エイブが主人公の映画『エイブのキッチンストーリー』(2019)。
お母さんはイスラエルの人で、お父さんはパレスチナの人。
家族が住んでいるのは、ニューヨーク。
親戚同士が集まると、いつもイスラエル側とパレスチナ側で、言い争いになってしまいます。

エイブの家族のように、宗教や民族の歴史的背景の違いじゃなくても、それぞれの考え方や価値観の違いから、対立してしまう。これは、どんな人にも、起こり得ることです。
そんな時、自分だったらどう考え、行動するでしょうか。

料理好きのエイブは、ネットであるシェフを見つけます。世界各地の味を組み合わせて、全く新しい料理を作るブラジル人シェフのチコ。出てくる料理は、魅力的なビジュアルで、どれも美味しそう。

エイブはふと思いつきます。この夏休み、チコに料理を学んで、毎回言い争いになってしまう食卓を舞台に、自分の料理で家族をつなげたい。そして、夜中にこっそりと家を抜け出して、チコのところまで出かけていきます。

このシーンで出てくるのが「フュージョン fusion」という言葉。

映画の中では、別々のルーツを持つ料理を組み合わせて、融合するという意味で使われています。

ただ、気をつけないといけないのが、単に組み合わせるだけじゃダメ。
そこに、調和が生まれなければ、組み合わせる意味がない、ということ。

チコのキッチンで働き始めたエイブが、最初に作って持っていったのは、ラーメンタコスという料理。
チコはその料理を見ただけで、食べようとすることもなく、
調和のない組み合わせは「フュージョン fusion」じゃない、「コンフュージョン confusion」
つまりは、ただの混乱だと、エイブに伝えます。

それぞれの料理が持つ香りや味わいが、組み合わさって調和することで、それまでの固定観念や歴史的背景を、軽やかに飛び越える、新しい料理が出来上がっていく。

それが「フュージョン fusion」であれば、ジャンルを超えて作られるお酒たちも、またフュージョンと呼ばれるのかもしれません。

余談ですが、もう一つ、お酒の世界で使われ始めている「インフュージョン infusion」という言葉があります。

果実やハーブ、スパイスなどをお酒に漬け込んで、香りや味わいをお酒に移すという技法です。

ペンギン酒店では、緑茶の茶葉をジンに漬け込んだり、ウーロン茶の茶葉をウイスキーに漬け込んだりしたものを、ソーダで割って、お茶ハイボールを作っています。

ペンギン酒店のお酒がすすむ「おつまみシネマ」vol.13
「インフュージョン中」の緑茶と烏龍茶

夏にピッタリの爽やかなお酒なので、おうちでも作れるように、レシピを書いておきますね。

◎「緑茶ジン」・「ウーロン茶ウイスキー」の作り方

材料
・緑茶orウーロン茶の茶葉 5g
・ジンorウイスキー 150ml
・ソーダ(炭酸水) 120ml
作り方
1.茶葉とお酒をグラスに入れてよくかき混ぜる
2.ラップをかけ、常温で24時間置いておく
3.茶こしなどで濾して、保存瓶などに入れ冷凍庫で保管
完成したお酒30mlに、ソーダを120ml注いで、軽く混ぜれば「お茶ハイボール」の出来上がりです。
ペンギン酒店のお酒がすすむ「おつまみシネマ」vol.13
緑茶とジンのハイボール

リズミカルなブラジル音楽にのって、次々と画面に出てくるフュージョン料理の数々。そのどれもが、固定概念を気持ちよくくつがえしてくれる魅力にあふれています。
バラバラになりかけている家族を調和させる、新しいフュージョン料理を、エイブは作ることができたのか。それは映画の最後までわかりませんが、間違いなくエイブの力で、家族の関係は変化していきます。

夏の夜、自分でインフュージョンした、お茶ハイボールを飲みながら、エイブの活躍を見守るのも、楽しいかもしれません。

あなたの「心の一本」にぴったりの
お酒を見つけてみませんか?
「お酒を飲みながら観たい」と思う映画をお送りください!
居酒屋「ペンギン酒店」と営む岡田六平さんが、あなたの選んだ(好きな)映画にぴったりなお酒をお答えします。
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PROFILE
ペンギン酒店 店主
岡田六平
Roppei Okada
1978年生まれ、香川県出身。居酒屋店主。2019年3月、鹿児島市・騎射場に夫婦で居酒屋『ペンギン酒店』を開店。薩摩焼酎の蔵元や、個性的な酒屋、同業の飲食店と数々のコラボイベントを開催している。
大学卒業後、成城石井、ホットペッパー飲食営業の後、飲食店ではリゴレット、ポンデュガールで働く。
2014年、ソムリエの資格を取得した直後から世界一周の新婚旅行に出発。1年間、妻と2人で41ヶ国を回る。バックパッカーで旅をしながら、ホームステイを繰り返し、地元の料理を食べ、現地の食材で料理を作る。カリフォルニア、アルゼンチン、ウルグアイ、スペイン、フランス、イタリア、ハンガリーではワインの産地を巡り、チリの田舎にあるワイナリーでは一週間住み込みで働いた。
2015年の帰国後、生まれた息子たちは現在4歳と0歳。
日々、家族との時間をたいせつにしながら楽しく飲食店で働ける方法を夫婦ふたりで模索している。
FEATURED FILM
監督・原案:フェルナンド・グロスタイン・アンドラーデ
脚本:ラミース・イサック、ジェイコブ・カデル
撮影監督:ブラスコ・ジュラート 『ニュー・シネマ・パラダイス』
美術監督:クラウディア・カラビ
出演:
エイブ:ノア・シュナップ 「ストレンジャー・シングス 未知の世界」
チコ:セウ・ジョルジ 『シティ・オブ・ゴッド』『ライフ・アクアティック』
レベッカ:ダグマーラ・ドミンスク『モンテ・クリスト伯』『エヴァの告白』
アミール:アリアン・モーイエド 「バグダッド動物園のベンガルタイガー(演劇)」
ベンジャミン:マーク・マーゴリス 『ノア 約束の舟』
エイダ:セーラム・マーフィー 「ストレンジャー・シングス」
サリム:トム・マーデロシアン 『ドンファン』「OZ/オズ」
アリ:ダニエル・オレスケス 「ブラックリスト(シーズン2)」

ブルーレイ: 5,280 円 (税込)
DVD: 4,180 円 (税込)
発売元・販売元: ポニーキャニオン
©2019 Spray Filmes S.A.
ブルックリン生まれのエイブは、イスラエル系の母とパレスチナ系の父を持つ。文化や宗教の違いから対立する家族に悩まされるなか、料理を作ることが唯一の 心の拠りどころだった。誰からも理解されないと感じていたある日、世界各地の味を掛け合わせて「フュージョン料理」を作るブラジル人シェフのチコと出会う。 フュージョン料理を自身の複雑な背景と重ね合わせたエイブは、自分にしか作れない料理で家族を一つにしようと決意する。果たしてエイブは、家族の絆を取り 戻すことができるのかー?
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