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発想を論理で締めあげる!
明和電機とSF映画の共通点とは?
会議ができるように並べられた事務机や、たくさんのファイルが綺麗に整頓されて並ぶ棚など、一見すると普通の一般企業のような室内。そこで目に飛び込んできたのは、音符やたまごの形をした電子楽器や、文庫のかたちをしたオカリナやウクレレ。つい触りたくなってしまう、おもちゃのように愉快な作品の数々が並んでいます。その不思議な組み合わせにワクワクしながら視線をめぐらせると、それらと一緒に、十数本のDVDを見つけました。
今回ご紹介するのは、アートユニット「明和電機」の代表取締役社長、土佐信道さんの仕事場に並ぶDVD棚です。明和電機とは、中小電機メーカーのスタイルを模した、土佐さんがプロデュースする芸術ユニット。
指パッチンでノッカーを動かし木魚を演奏する「パチモク」や、64個のスイッチが並んだ鯉のぼり型手動リズムマシン「コイ・ビート」、音符の形をした電子楽器「オタマトーン」など、これまで数多くの「ナンセンスマシーン」を開発しています。水色の作業着を着用し、それらを使って音楽を演奏するライブパフォーマンスは、日本のみならず、世界各国でも人気となり、アジアや北米、ヨーロッパなど、各国で展覧会やライブ活動を行なっています。
そんな明和電機を率いる土佐さんは、これまでどのような映画を観て、自身の活動に影響を受けてきたのでしょうか。
仕事の資料として職場に置いているというDVDたち。そのタイトルを眺めてみると、『宇宙戦争』(2005)や『第9地区』(2010)など、SF映画の名作たちが並んでいます。
「昔から、SF映画が好きですね。SFが面白いのは、嘘の話、フィクションでありながら、そこにサイエンスが裏付けされているところなんです。例えば、『ミクロの決死圏』(1966)という僕の好きな古いSF映画は、ある科学者が事故で脳内出血を起こしてしまい、政治的に重要な立場にあったので助けるべく医療チームを乗せた船をミクロ化して体内に注入させる、というストーリーなんです。結構むちゃくちゃですけど、でも、体内の細胞を幾何学模様で表現するなどアートのように魅せた美術や、物語上で起こるトラブルも人体の構造が裏付けされているなど、一つの世界観として説得力があるんです。ちゃんと物理的な法則や、論理や仕組みが作品の中に通底している。それがとても面白いし、僕の作るナンセンスマシーンと親和性があるような気がするんです」
明和電機の作るナンセンスマシーンは、日常的ではない、ナンセンスな発想が起点でありながら、機械という常識的な考えに基づいて作られています。非論理と論理がぶつかり合い、共鳴しているところが、明和電機とSF映画の共通点なのです。
「映画はすべてフィクションなんですけど、観ている間は、その嘘がバレないようにして欲しいんです。例えば、あるロボット映画では、日常的に使われている機械がロボットに変形するのですが、そこに物理的な法則は何もないんです。論理をすっ飛ばして、魔法のように変身してしまう。それは、僕にとってはSFではなくファンタジーなので、急に萎えてしまうんですね。その辺りの線引きは、人と映画を観るポイントが違うかもしれません」
SF映画の奥にある、設定や論理の徹底された積み重ね。手品の種明かしを知るような気持ちで、映画製作の裏側にも興味があるという土佐さんは、DVD以上に昔から集めてしまう、映画関連のあるコンテンツがありました。
「設定資料集やコンテ集、映画監督の伝記本など、SF映画のメイキングを記録した本が好きなんです。頭に浮かんだ荒唐無稽な個人的なアイデアを、監督がどうやって視覚化して他人に伝えていったのか、その泥臭い努力や人の作業の手垢を見ると勇気が湧くんです。明和電機でも、最初はアイデアを絵に描いて、それをチームの人間にわかるように落とし込んでいくという、同じ作業を僕がしているんですけど、“ナンセンスな発想をいかに現実化していくか”という、ある意味、周囲をダマすようなその段階が、詐欺師として自分も一番燃える部分です(笑)」
芸術だと言って逃げたくない
ストイックな姿勢は、あの映画から
ナンセンスな発想と、論理や仕組みが同居した、明和電機のナンセンスマシーン。明和電機というユニット名や、中小電機メーカーを模した作業着スタイルなどの原点は、土佐さんの実家が電気部品工場であったことに由来しています。
「小さい頃は絵描きになりたかったんです。でも一方で、父親がエンジニアということもあり、論理的に何かを作り上げる脳も持っていました。そこで、アーティスト的な視点を、最後にエンジニアの論理的な思考で締め上げる、“ナンセンスマシーン”というかたちに辿り着いたんです。先ほどの、SF映画にも通じる部分ですね」
そんな土佐さんが、クリエイターとして最も影響を受けたSF映画を一本選ぶとしたら、何になるのでしょうか? 名作SF映画が並ぶ棚の中から出してくれたのは、遺伝子操作によって、人類が「優勢」と「劣勢」の二種類に分けられ、管理されていく未来を描いた『ガタカ』(1998)でした。
「静かで暗くて、“未来に憧れてワクワクするようなSF映画”とは違うんですけど大好きなんです。特に僕が惹かれたのは、自分自身に厳しく、ストイックな主人公の姿。宇宙飛行士になりたいという強い意志を持つ主人公が、遺伝子的に自分が『劣勢』であることを周囲に隠しながら、徹底的に鍛えて優勢な人たちに劣らないような知力と体力を身につけていくんです。僕の作るナンセンスマシーンも、芸術表現だと言ってしまえば何でもありなんですが、どこかリアルな世界と繋がれるものを持たないと、見る人は理解できないし、構造としても弱くなってしまう。だから、最後に論理や仕組みで、妥協なく徹底的に締め上げるんです。そういう、“自分に厳しく”という姿勢は、『ガタカ』の主人公から影響を受けているかもしれませんね」
アポロの月面着陸以前に壮大な宇宙の姿を描いた『2001年宇宙の旅』(1968)や、管理社会や行動を制限される未来・ディストピアを描いた『ガタカ』など、時代とともに移り変わってきた、映画の中に登場する未来の姿。そんなDVDが並ぶ棚を眺めながら、「今は、昔よりも未来が描きにくい時代なのかもしれませんね」と、土佐さんは言います。
「戦後は、機械がユートピアを作るんだという夢を持っていたり、1969年の大阪万博の時は未来学が流行って、みんなが未来に対して熱量を持っていたりしましたよね。でも、2001年を超えても人類は木星に行かないし、映画の中で達成したいろんな未来が、いつまで経っても叶わない。大阪万博のテーマが“進歩と調和”でしたが、今はみんな、調和だけ気にして、進歩は諦めてしまった気がします。自分の身の丈に合った幸せを現状維持できればいいやと。未来を必要としなくなってしまったのかなって」
SNSやスマートフォンから流行が発信され、動画や共感の数で情報が広がっていく今、土佐さんが明和電機の活動の中で大切にしていることのひとつが、手で物に触れたり、道具を使ったりなど、五感に訴えるものにすることです。秋葉原にある老舗の電気部品販売ビル「ラジオデパート」内に、明和電機の公式ショップと、電気や機械の仕組みを使ったユニークな商品を制作するクリエイターの出店スペース「ラジオスーパー」をオープンし、夏には「超!技能訓練所」として、ワークショップを開催しました。
「手や道具で物に触れるというのは、皮膚感覚も含めてひとつのエンターテイメントだと思うんです。自分の手を使うことで、物が動いたり光が灯ったり音が鳴ったり。スマホから発信する流行は、同時に何万人も見ていたり、一瞬で違う国に発信できたりと、その画面の向こう側は広いけど、五感に訴えてこないですよね。そういう時代を受けて、SF映画も仮想空間やバーチャルリアリティのようなものが多くなっていますけど、僕は、機械や科学でまだまだ楽しめると思って活動しているし、テクノロジーの可能性に期待している人間の姿を、SF映画という分野でこれからももっと見たいですね」
ユニークな発想と論理的な思考で作られた、明和電機のナンセンスマシーン。それらに触れると、スマートフォンを指先でスライドするだけの毎日では忘れていた、手で物を動かすワクワクした気持ちや、道具や機械への憧れを思い出させてくれます。それはレトロなものへの原点回帰ではなく、SF映画の中にみんなが夢見ていた、機械や科学、未来への憧れに続いているような気がするのです。
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