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PINTSCOPE MEETUP第2弾「心の一本の映画」お話し会

山田尚子監督×福富優樹さん(Homecomings)トークイベント! 参加者の皆さんの「心に残る一本」の映画体験を集めました。

山田尚子監督、Homecomings福富優樹さんトークイベント 参加者の皆さんの「心に残る一本」の映画体験を集めました。
PINTSCOPEにて第2回となるトークイベントを、ゲストに山田尚子さんとHomecomingsの福富優樹さんをお迎えし、2024年5月19日(土)に開催いたしました。
イベントでは、山田監督と福富さんだけでなく、参加してくださった皆さまの「心に残る一本」の映画体験をお話しいただく、お話し会を催しました。
お話し会では、事前に募集したエピソードの全てをご紹介できませんでしたので、こちらにまとめて公開いたします。大変素敵なエピソードばかりでしたので、ぜひご覧くださいませ。
(PINTSCOPE編集部で厳選し、掲載させていただいております)
エピソードをお寄せくださった皆さま、貴重な体験をお伝えいただき、ありがとうございました。

参加者の皆さまの「心に残る一本」の映画体験

『ライムライト』(1952)
大学3年の時に午前十時の映画祭で上映されていたチャップリンの『ライムライト』を父と一緒に地元の映画館で観ました。
ラストシーンのチャップリン扮するカルヴェロの舞台シーンは劇場で観たことで、緊張感が伝わり、観終わった後は一緒に行った父と泣いて、近くのファミレスで映画の話を沢山しました。
大学生最後の年になる時に観たので、映画に関わる仕事につきたくて次の日に映画館のバイトに応募して受かりました。就職は映画とは関係ない仕事につきましたが、『ライムライト』を観た時の感動が忘れられず、1年前にアニメの制作会社に入り、いつか劇場作品を作るために毎日奮闘しています。自分の将来の指針になった大切な一本です。 
『夜明けのすべて』(2024)
「すごく良い映画だったから一緒にどう?」と珍しく妻がすすめてくれたので、2ヶ月前の晴れた休日に2人で観に行きました。
PMS(月経前症候群)を抱える藤沢さんとパニック障害を抱える山添くん。それぞれ人知れず苦しんで気の合わなかった2人が、恋ではないけれど次第に助け合うようになる物語。
あなたの力になれたらうれしいし、あなたが助けてくれたらうれしい。 けれどあなたの好きなように生きていいからね、というような関係性で、Homecomingsさんの「i care」という曲のようなとても素敵なケアの形だと思いました。
それぞれの思いで彼らを見守る周囲の人達もいて、物語全体のそっと寄り添うような優しさに温かい気持ちになり、何度も涙がこぼれました。 自分も生きづらさを抱えながら過ごしていますが、もう少し人に心を開いてみようかな、という気持ちにさせてくれました。
家に帰ってからも妻と映画の感想を語り合いました。 自分たちにとって何か大事なものを共有できた気がします。 
『バタフライ・エフェクト』(2004)
大学生の頃に部屋で一人で、深夜までなんとなく眠れずにダラダラと寝転びながらテレビを観ていたときに、地上波で流れていた映画です。当時は作品のことを全く知らなかったので、何も考えずにぼーっと観ていたのですが、ストーリーのあまりの面白さに段々と引き込まれてしまったのを覚えています。 やはり、予期せず出会った作品というのは記憶に残りやすいのでしょうか。
その後勢いのままTSUTAYAに直行し、さらにビターなディレクターズカット版エンドを観たことも懐かしい思い出です。 
『ソナチネ』(1993)
沖縄の美しい景色や空気感の伝わる撮影、常に漂う死の予感が相まって、映画の中の世界に引き込まれるような魅力にやられてしまい、最初はビデオで見たのですが、その後都内で上映があるたびに劇場に観に行くような一本になりました。空気感を確かめたくて昨年那覇にも行ったのですが、メインとなった石垣島にもいつか行きたいと思っています。 
『ブレードランナー』(1982)
10年くらい前の夜、父と自宅で見て、次の日に1人で見返してしまいました。強く印象に残ったのは、背景です。巡回するライト、水面の反射光、乗り物、雨、スモーク、何かの装置といった「動く要素」が絶えず画面を埋め尽くしており、どこかフルアニメーションに似た魅力を感じました。 
『きょうのできごと a day on the plane』(2003)
大学時代に友人宅で見ました。深夜の三国志や散髪のシーン、買い出しのシーンでの電話のやりとりが印象に残っています。夜いいなあ、日常っていいんだなあと感じたことを覚えています。また、この映画をきっかけに原作の柴崎友香さんのことを知り、大ファンになりました。
『ひらいて』(2021)
大学一年生の時に一人で劇場へ観に行きました。高校生の恋愛を描いた作品ですが、主人公である愛ちゃんの「好きな人の”好きな人”を奪う」という行動がどんどんエスカレートしていく様子はあまりに衝撃的で、愛ちゃんの行動力に振り落とされないようについて行く感覚で観ていました。
ですが、私自身が高校生活を離れて間もないタイミングで観たこともあり、愛ちゃんの自分の感情のままに行動してしまう大胆さや、自分以外のことがどうでもいいように思えてきてしまう中高生時代特有の不安定な精神状態に、不思議と共感できたことが当時の私の中で非常に衝撃的でした。 見たあとしばらくは、しこりのように心にこの作品が残り続けたことを覚えています。
私にとってこの映画は、不安定な中高生時代を過ごした自分を包み込んでくれるような作品だと感じています。 あらすじの通りこの作品では複雑な恋愛模様が描かれていますが、あの時の自分を解放してくれるような爽快さもある大好きな映画です。 
『かもめ食堂』(2005)
初めてこの作品を観たのは社会人2、3年目くらいの頃でした。仕事の忙しさに疲れ、なんとなく気分転換をしたくて近所のTSUTAYAでDVDを手に取ったのが、この作品に出合ったきっかけです。
ラブロマンスやミステリー、アクション作品のように目まぐるしく大きな出来事が巻き起こるわけではなく、フィンランドで食堂を営む日々が穏やかに描かれていて、そのどこか淡々ともした温かい空気が仕事で疲れた心に染みました。作品に出てくる料理もとっても美味しそうで、鑑賞後、おにぎりと肉じゃがが食べたくなって、スーパーに走った記憶があります。
いつか作品の舞台になったフィンランドにも行ってみたい!とロケ地巡り(聖地巡礼)を決意して、その旅費を稼ぐことを仕事の励みにし、初・海外一人旅まで実現することができました。 今でも折りにふれて作品を観ては、作品はもちろん実際のフィンランドの空気も思い出し、ほっと和ませてもらっている、私にとって大切で思い出深い心の一本です。 
『ショーシャンクの空に』(1994)
高校生のときに、映画好きの友人に影響を受けたのがきっかけです。それまで実写の作品になんとなく苦手意識があって、でもその子がすごく楽しそうに映画を見ているときの話をしてくれるので、わたしだって…!と(映画そのものというよりかは、映画をみている人への憧れが大きかったのでは…)。
たまたまテレビのバラエティ番組で紹介されていて面白そうだと思い、実家のリビングでひとりで見ました。希望に向かう二人の姿とその出会いにほんとにどうしようもないほどの充実感をもらって、すごくびっくりしました。映画ってこんなに面白いんだと気付かせてくれた大事な作品です。 
『窓ぎわのトットちゃん』(2023)
友人に勧められてクリスマスに1人で観に行きました。 理由は、戦争、差別など人々が目を背けてしまうような要素を、真っすぐに目をそらずに描いてくださったこと。そしてトットちゃんや小林先生のかっこ良く、大切な所を描いてくださったことです。
小林先生の「みんな一緒だよ、みんな一緒にやるんだよ」と言う言葉や振る舞い。決してファシズム的なものではなく、障害があっても、人と違う個性を持っていても、一緒に、助け合いながらやることを常に教えてくれていたこと。 トットちゃんは、泰明ちゃんの身体を悪ガキにからかわれたシーンで「そんなこと無いわよ!」と怒るシーンや、小林先生は、大石先生が高橋くんとの接し方は傷つけることに繋がると叱ったシーンなど、人々が無意識に持ってしまう差別的なまなざしや、尊厳を傷つけてしまう振る舞いに「違う」とメッセージを込めてくださったこと、そう考えてくださるクリエイターの人たちがいることに何よりも勇気付けられました。
この作品を観て「こんな時代を繰り返さないためにどうしたらいいんだと思う?」というメッセージを感じ取りました。 私は「隣人を助ける、支えあう」ことがクリエイターが作って下さったこの作品へのアンサーになると考えました。 小林先生がトットちゃんに「君は本当にいい子なんだよ」と言葉をかけたように。 トットちゃんが泰明ちゃんを木に登るのを手伝ったように。 叱られて泣いていたトットちゃんを泰明ちゃんがリトミックで励ましたように。 トットちゃんが落ち込む小林先生に「この学校の先生になる!」と言ったように。 人と人が支え合うこと、それをすることにも自分の世界を広げることにも繋がると強く確信させてくださる作品でした。 
『未知との遭遇』(1977)
当時中学生1年で一人で見ました。この作品を見なければ今の仕事はしていなかったと思います。
周りでは同年公開の『スター・ウォーズ』の方が人気がありましたが、自分はこの作品の映像の力に惹かれました。当時最新の技術で作られた架空の世界と現実世界の合成空間が持つ臨場感と説得力に圧倒され、その時自覚はしていませんでしたが後々考えるとその後自分自身が映像に関わる大きなきっかけになっていたと思います。 
『絞死刑』(1968)
パートナーと大阪の再上映にて鑑賞。ひとつにはシンプルに個人的な価値観や趣味と合致したから。そして、普段映画について互いに冷静に話し合えるパートナーと喧嘩になってしまった数少ない作品だから。 
『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』(1988)
中学生の時のことですが、長期休みで過ごしていた祖父母の家で退屈を紛らわすためにみたのが出会いでした。のめりこんで、遠出でもしない限り本当に毎日一回みていたのではないかと思います。
それからもう20年以上たちますが、折を見てこの作品を鑑賞することが自分自身の定点観測のようになっています。住む場所、自身の立場、一緒に観る、語る仲間も変わっていく中で、作品の印象や搭乗人物の見え方が移り変わっていく、そのこと自体が楽しみになっています。 
『アトムの足音が聞こえる』(2010)
大学在学中に音響メディアに対する興味を抱き、他大学の図書館で本作を初めて観ました。 当時は就活を目前に控えていた時期でもあり、様々な職業のプロフェッショナルが持つ視座についても興味があったのですが、本作のメインキャストである大野松雄は、作中において〈プロフェッショナル〉を次の2つの言葉で定義します。
①いつでもアマチュアに戻れること
②手を抜いた仕事でも、相手にそれを悟られないこと
(※セリフの正確な引用ではないです。)
この言葉にはいい意味での「こだわらなさ」、ひいてはこだわらない結果として様々な選択肢や技法を編み出し、それをワークスごとの環境的制約(予算面やメンタル面等)に落とし込んで表現する姿勢を感じ取ったのですが、この考えがすんなりと腑に落ち、今も明に暗に私自身の仕事観に影響を与えているので「心の一本の映画」として挙げさせていただきます。 
『マスク』(1994)
初めて観たのは子供の頃ですが、テレビの金曜ロードショーだったと思います。マスクを着けると変身して、ものすごいパワーを手に入れる姿に憧れました。ミュージカルパートも楽しくてかっこよく、また山寺宏一さんの吹き替えも本当に大好きで、何回観ても笑えるし、元気をもらってます。 大人になった今でも(今だからこそ?)あんなマスクがあったら絶対欲しいなと思います(笑)。 
『パーフェクトブルー』(1998)
同監督作品の『東京ゴッドファーザーズ』に惹かれて興味を持ち、1人でDVDを借りて鑑賞した。今敏ワールド全開で観ているだけなのにまるでアトラクションに乗っているかのような初めての体験だった。頭の中をグチャグチャにされながら置いて行かれないように終始しがみつきながら観た作品で今でも衝撃が忘れられない。 
『遠い空の向こうに』(1999)
高校時代に、約300名の高校1学年で課外実習として鑑賞した映画です。
映画の舞台は1957年のアメリカの炭鉱の町。物語は、冴えない高校生がロケットの打ち上げに触発され、自分もロケットを作ろうと奮闘する姿を描いています。時代が変わりつつある炭鉱町での成長物語がシンプルに描かれており、ロケットが飛び立つ姿は、田舎町や既成概念から飛び立つ主人公の姿と重なって見え、非常に魅力的です。 また、主人公の兄は運動が得意で、スポーツの奨学金を得て大学進学が決まっており、家族から大きな期待を寄せられており、一方で、主人公は特に得意なことがなく、炭鉱で働くことが既定路線となっており、家族からの期待もそれほど高くありません。
この状況は、高校が野球強豪校で、野球部以外の部活や学力がいまいちだったため、肩身が狭いと感じていた自分に重なりました。 この映画に影響を受けた同級生の中には、海外の大学に留学し、大学で研究の道を歩んだ者や、ロケットを開発する企業に就職した者もいました。私自身も研究者・教育者としての道を歩んでいます。 ありきたりかもしれませんが、夢を追いかけることの大切さと、それに向かって努力することの素晴らしさを教えてくれました。 
『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』(2014)
アニメ会社にいた時にシネマカリテで観て。その後、辞めて実家で無職だった時に何度も繰り返し観ました。主人公の女の子が自らの苦境を音楽によって乗り越えられないかともがくのですが、そこに当時の心境がちょうど重なっていたのかもしれません。
好きな場面は音楽の家庭教師として友達のいない女の子とオリジナルソングを作るところです。なんてことない一日の出来事をモチーフに、本当はこんなに簡単なことなのかもしれない、自分にもできそうかもしれないと思わせてくれてとても好きな映画です。 
『メッセージ』(2016)
当時仲良くしていた映画好きの女性からオススメされて観ました。地球外生命体とのコミュニケーションの過程を「言語」をテーマに極めて丁寧かつ学術的要素も絡めながら描いたSF映画の傑作ですが、見どころはやはり映画の終局にかけて現れる「過酷な未来を予知した上で、人はその未来を選択できるのか」というヒューマン・ドラマに収束していくドラマティックな展開にあるかなと。
この映画をオススメしてくれた女性に密かに好意を寄せていた私は、映画の展開にかこつけて、「もし別れる未来が分かっていて、その人と付き合うことができるか」と邪な質問を投げかけてみたら、とても真っ直ぐな瞳で「その時間を慈しむと思う」と表裏のない素直を笑顔を浮かべて即答されてしまって、なんて素敵な答えなんだろうと、当時どうしようもなく惹かれました。 今でもその答えが忘れられなくて、心の一本になっています。その女性が現在の妻です、と言えればよかったですが、結局その人と付き合うことはできませんでした。(というオチで…。) 
『スター☆トゥインクルプリキュア 星のうたに想いをこめて』(2019)
ひとりで公開初日の夜に観に行きました。テーマの奥深さ、ストーリーの完成度、音楽の天才的な使い方に震えました。その後も劇場で何度も鑑賞し、作品の舞台である沖縄にも足を運び、もはや自分の人生の一部になっています。自分にとってとても大切な作品の一つです。 
『オアシス』(2002)
大学生の頃、早稲田松竹でふらっと一人で見ました。あまり映画で感動しても泣いたことがなかったのですが、まともにスクリーンが見えなくなるくらい涙が溢れてきて自分でも驚き、そのまま次の上映も観て帰りました。(当時は、完全入れ替え制じゃなかったので) 
『デカローグ』(1998)
「十戒」をモチーフにポーランドの団地に暮らす人々を描いた全10篇の作品。
出会ったのは大学生の時、図書館で。「カッコいい題名(ある運命に関する物語、ある選択に関する物語…等)だな…いや(10時間超は)長いなあ…!」と思いつつも逆に気になって全巻手にとった事をよく覚えています。 確か作品制作の資料集めが目的だったのですがそっちのけでのめり込んで一気に鑑賞してしまいました。
ごく普通の人々の小さなお話ですがそこには人が生きていく中で生じる全て、人生が収められていたのです。 感情を過剰に煽ることのない淡々とした語り口で、日々の暮らしの小さな喜びも時に間違いを犯してしまう弱ささえ、ひとつもこぼさずカメラは捉えていく。 そんなキェシロフスキのまなざしは決して甘いものではないけれど、誠実で、人間への愛情と肯定で溢れているように感じます。
「誰の人生でも探求する価値があり、秘密と夢があると私は信じているんだ。」という言葉と共に、自分のこと他人のことを大事に思う心を失いかけた時に見返す、お守りのような一本です。 
『トイ・ストーリー』(1995)
小さい頃から家族みんなで観ている大好きな作品です。仲間との友情、おもちゃへの愛情、本当に心温まる映画で、自分の人格を形成しているものの一つです。 
『ヤンヤン 夏の想い出』(2000)
何度観ても発見がある。早稲田松竹で久々に鑑賞する機会があり、「劇中の看護婦/看護師の新聞紙面の読み上げは偶然目に入った記事なのか、一字一句が決まった台詞なのか」今まで考えたことがなかったと気づかされた。 
『リンダ リンダ リンダ』(2005)
私は韓国人で、主人公のソンも韓国人の留学生なので見てると「あるある~」となるのが多かったです。またオーディオコメンタリーで撮影当時に監督が住んでた町がちょうど私が今住んでる町だったのでびっくりしました。今も住んでますけど(笑)。 
『おもひでぽろぽろ』(1991)
一人で観たことも、友人や家族と観たこともある作品です。特に思い出深いのが、高畑勲監督の訃報が流れた日のことです。ニュースが出てしばらく経たないうちに後輩から『おもひでぽろぽろ』を観ましょうとLINEが来て、他用なく作品鑑賞のためだけに大学に行きました。サークルの部室の小さなテレビで観ましたが、高畑監督がこの世にいないことがなかなか受け入れられず、観賞にも身が入らなかったことを覚えています。それからも折に触れ観かえし、その度に新たな発見があります。自分にとって本当に大切な一本です。 
『そばかす』(2022)
当時バイトしていた映画館の先輩に勧められ、退勤後1人でふらっと小劇場へ観に行きました。
人に恋愛感情を抱かない女性主人公が周囲から理解されず、時に心無い一言で傷つき、それでも「自分らしさ」を受け入れて生きていく彼女の姿に心が震え、当時映画館でボロボロに泣きました。
両親や親戚など、他の世代の大人に恋愛や結婚について聞かれることが私自身もとても苦手であり、今は興味が無いと伝えてもそれを信じて貰えないことへの悔しさや息苦しさを彼女程ではないけれど感じることがあります。日常的に抱いていたそんな気持ちを丸裸にされたことと、それでもそのままでいいんだよと包み込んでくれるような優しさをこの作品からは感じられるため、今でも少し心が弱く自分らしく生きることが分からなくなった時に見返します。
また、個人的に音楽が出てくる作品には強く惹かれるのですが、この作品も主人公がチェリストを目指していたという過去があり、チェロの演奏シーンが非常に印象深く心に残っています。私の心の一本です。 
『マスク』(1994)
初めて見たのは幼稚園児のときで、親が借りてきたレンタルDVDで家族と一緒に観ました。初めて字幕と吹き替えの楽しさを知った作品で、また、バカバカしい内容もやりきったらカッコよくなってしまうんだと衝撃を受けた作品でした。今でもよく観ていますが、大人になったら大人になったでキャメロン・ディアスの色気がいかに凄まじいものかに気づくなど発見が多い作品です。
アニメ業界で働いてるなかでどんな作品を作りたいのか聞かれて悩む時期がありましたが、『マスク』の持つバカバカしさは忘れたくないと今は思っています。 
『花束みたいな恋をした』(2021)
脚本家の坂元裕二さんが好きで一人で映画館に観に行きました。その後、劇中内のように出会った人と偶然終電を逃して夜通し歩く機会があり、その経験とセットで心に残っている作品です。 
『海がきこえる』(1993)
中学時代からの親友と数年ぶりに会う約束をした際に、再上映が行われていたので事前購入して観に行きました。自分の世代とは30年ほど違うはずなのに『海がきこえる』の無さそうでどこかにありそうな青春ドラマに、すっかり中学時代のことが思い出されてしまいました。その後の友人との食事にて思い出話に花を咲かせ、まさに映画終盤で高校時代を思い返す主人公とシンクロしたような気分となりました。つい1ヶ月前に観た作品であるにも関わらず、『海がきこえる』は私の人生を振り返る時に、必ず出てくるだろう心の一本となりました。 

「心に残る一本」の映画体験をお寄せくださった皆さま、貴重な体験をお伝えいただき、ありがとうございました。

山田尚子監督と福富優樹さんの「心の一本」の映画は、イベントのアーカイブ配信でご覧になれます。ぜひ、お二人の映画体験を味わってみてください。

みんなの映画体験集めました!
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