目次
政治家は、市民の一人なのか?
市民を従わせる支配者なのか?
●『はりぼて』(2020)
「なぜ、あなたは政治家になりたいのですか?」
私が選挙にあたって投票先を決める際に、候補者に問いかけたい一番のイシューです。
選挙公報に載っているそれぞれの公約を眺めてみます。スローガンやビジョンはわかるものの、政治家になった動機までは正直よくわかりません。でもだからといって、私は演説に行って直接声を聞くことなどはせずに、「まあいいか」で終わらせてしまっています。
『はりぼて』は、富山県のローカル放送局・チューリップテレビが、市議会のドンたちの不正に立ち向かおうとする様子を、同局の若手記者が自ら映画化した政治ドキュメンタリー。今作で、議員報酬の値上げを訴えていた市議が政務活動費の不正を追及され、「遊ぶ金が欲しかった」と言ってしまう姿を見ていると、「この人はなぜ政治家になったんだろうな…」と素直に不思議に思いました。
やっぱり権力が欲しかったんですかね。それとも、最初は志があったけれど、だんだんその居心地の良さに麻痺してしまい、「市民を従わせる支配者」になってしまったんですかね。不正をしているのに、報酬を値上げしている時に心は痛まなかったんですかね。
メディアは権力を監視することが重要な役割ですが、市民である私も、「権力が何に使われているのか」しっかり知らなければならない。選挙はそれを知る良いきっかけのひとつなので、候補者が権力を使って何をやろうとしているのか、何をやってきたのかを理解した上で、投票に臨みたいと思います。
(小原明子)
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市民の言葉が、引き出されるまで
●『ボストン市庁舎』(2020)
ある人が語る言葉を、みんなが聞いている。 ある人はうなずいたり、ある人はその言葉に続けて自分の思いや経験を語ったり。言葉から言葉が引き出される。そして、場は熟成していく。
『ボストン市庁舎』を観ていると、私も市民の一人としてスクリーンに映し出される場を共有しているような感覚を得ました。誰かの語る自身のストーリーや悩みにウンウンとうなずき、「次は私の番!」と自分も語りたくなる衝動がわいてしまうほどに。
多様な人たちが集まって、ともに生きるならば、言葉は語り尽くされなければならないのだと今作を観て思います。超能力者ではないのだから、人の気持ちや考えが自然と伝わるなんてことは起こりうるはずなんですよね。「空気」を読んで、「空気」で場の合意をとるなんて、よく考えるととても怖いことです。
でも、人から言葉を引き出すためには「場」を生み出すことが必要なことも、今作でよく理解できました。そして、高い志と大きな労力が必要なことも。
みんなが安心して語り合え、意見を言える時間や参加できる場は「贅沢」なものではないはず。「当たり前」のこととして享受できる社会にするために、市民の一人として、市民の代表を選びたいと思います。
(小原明子)
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不正を当たり前にしない。
そんな議員を選びたい
●『なぜ君は総理大臣になれないのか』 (2020)
衆議院議員・小川淳也さんの17年間を追ったドキュメンタリー。2003年、総務省でエリート街道まっしぐらだった32歳の小川さんは、思うところあって政治家に転身。民主党から出馬し、衆議院議員として初当選します。
当時から、小川さんの言葉はまっすぐです。「政治っていうのは、勝った51がどれだけ残りの49を背負うかということ。勝った51が勝った51のために政治してるんですよ、今」など、共感の嵐……。
その後、2010年に民主党へ政権交代するも、2012年には自民党へ政権交代、さらに民主党の分裂と、波乱が続きます。
小川さんはずっと理想や情熱を捨てない。というか、捨てられないようです。自民党に近い政治ジャーナリストの田﨑史郎さんから「今さら手練手管は無理でしょ?」と問われ、「そういう意欲と才能がない」と答える小川さん。
政治家の才能とは、なんなのでしょう。ピンチをのらりくらり切り抜ける狡猾さなのか、よりよい社会を目指す熱意なのか、それとも……。長いものに巻かれることができない小川さんの苦悩を、カメラは淡々と映し出していきます。
小川さんの理想は、日本を北欧並みの超福祉国家にすること。それを実現するためには「税金を何に、どう使っているか」という透明性を担保しなければなりません。
最近、「“コロナ予備費”の9割=14兆円超が使途不明」というニュースが出ました。つまり、今の日本に透明性なんてありません。でもそれを当たり前と思いたくない。当たり前にしない議員を選びたいです。だから、選挙に行きましょ!
(川口ミリ)
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「“政治に興味ない”と言うのは
最も政治的な行動です」
●『れいわ一揆』 (2019)
選挙のイメージがくつがえされるドキュメンタリー。舞台は2019年夏の前回参院選。主人公はれいわ新撰組から出馬した、女性装の東大教授・安冨歩さん。
安冨さんは、予定調和ではない自由な選挙スタイルを展開。全国各地で、自身が愛する馬を連れ(“出馬”だけに……)、音楽を奏で、シャボン玉を飛ばし、銀座でフラッシュモブを行いながら、「子どもが生きやすい社会を」と訴え続けます。
結果は落選。でもその演説の端々には、哲学的な気づきがあふれていました。たとえば、「“政治に興味ない”と言うのは、最も政治的な行動です」。それは、今行われている政治を黙認するということだから。皮肉にも先日、自民党の副総裁が「政治に関心を持たなくても生きていけるというのはいい国です」と発言していましたが(苦笑)。
劇中には、安冨さん以外の同党候補者の姿も捉えられています。重度障がいの当事者であり、今も参議院議員として活躍している木村英子さんと舩後靖彦さん。
そして、落選してしまったものの、演説の力強さがすさまじい、元派遣労働者でシングルマザーの渡辺てる子さん。彼女はどうしているのだろうと検索したところ、今年4月から練馬区議会議員として、ガンガン働いていました。市民が政治に関心を持つ国がいい国だ!
(川口ミリ)
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「いない」存在にならないために
●『共犯者たち』(2018)
選挙の時期になるといつも思い出すのが、韓国のドキュメンタリー映画『共犯者たち』です。
『共犯者たち』は、韓国の李明博(イ・ミョンバク)と朴槿恵(パク・クネ)政権による、約9年間にわたるメディアへの介入や、政権批判を抑え込むための言論弾圧の実態を告発する作品で、韓国の公営放送局MBCの名物ジャーナリストであり、自身も政権によって不当解雇されたチェ・スンホ氏が監督を務めています。
国家から送り込まれた経営陣によって、懲戒処分を受けたジャーナリストは9年間で約300人。自分の結婚式前夜に地検へと連行される人や、職を失う不安から家族に抗議活動を反対され涙する人。それでも、言論の自由や自身の尊厳のために、個人が次々と不当解雇に声を挙げ、ストライキとして大きな熱の塊になっていく様は、「自分たちはここにいる」「存在を蔑ろにするな」という主張そのものでした。
抗議を続ける人がインタビューで答えていた、「沈黙しないことに意味がある」という言葉。疑問や怒りを声に出さず黙ってしまうことは、最初から「いない」ことと同じになってしまう。この映画に映し出された韓国の姿は、決して他人事ではない。「私はここにいる」という声を挙げるため、政治のことを考え、今回も投票に行きます。
(安達友絵)
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DON’T DESPAIR.
ORGANIZE. AND VOTE.
●『レボリューション -米国議会に挑んだ女性たち-』(2019)
トランプ政権下の2018年。米国議会議員候補として中間選挙に出馬した、女性の新人民主党員4人の姿を捉えたドキュメンタリー。
それぞれの信念で立候補した4人。ニューヨーク州の、大学在学中に父を亡くしウェイトレスをして家族を養ってきた経験から、貧困層の役に立ちたいと願うアレクサンドリア・オカシオ=コルテス(AOC)。ウェストバージニア州の、企業による水質汚染の改善を訴えるポーラ・ジーン・スウェアレンジン。ミズーリ州の、警官による黒人少年の射殺事件をきっかけに立ち上がったコーリ・ブッシュ。ネバダ州の、国民皆保険を目指すエイミー・ヴィレラ。
そしてAOCが見事、地域のボスであるクローリー議員に大差をつけて勝利。今も32歳の若手下院議員として、絶大な人気と信頼を誇っています。
賃金の問題をはじめ、ジェンダー不平等が実際にある中で、日本でも当事者である女性がもっと議会に増えてほしいです。でも同時に、女性議員だからいいということではなくて。何より信念を持った、市民に誠実な政治家を選びたい。
最近、米国で連邦最高裁判所が「中絶は憲法で認められた女性の権利」だとした1973年の判決を覆したことを受け、シンガーのキャロル・キングさんがSNSで「DON’T DESPAIR. ORGANIZE. AND VOTE.(絶望せず、一丸となり、投票しよう)」と発信していました。誠実な政治家がしっかり働けるように、私たち有権者が投票しサポートすることが大事なのだと、この映画を観て改めて思いました。
(川口ミリ)
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