目次
マスクをつけた怪物の原点は
『悪魔のいけにえ』のレザーフェイス!!
― 今日はお忙しい中、お集まりいただきまして…
大久保 : (インタビュアーの話を聞かずに)『悪魔のいけにえ』公開40周年記念版の特典映像、観ましたか?
西川 : 4種類も入っているんですよね! あれ、5種類だっけ?(※実際は4種類)
― あの〜…勝手に話を始めないでください!…では、気を取り直して…大久保さんと西川さんは、映画『悪魔のいけにえ』を観て衝撃を受けて以来、ホラー映画をこよなく愛してしまったお二人と伺いました。早速ホラー映画の話をされているので、お互い面識があるとお見かけしましたが、仕事でご一緒されることがあるんですか?
西川 : はい。大久保さんから、雑誌で掲載する新作DVDの紹介をして頂くため、定期的にお会いしています。でも、そんな時も大久保さんとはホラー映画の話ばっかりしちゃうんですよ。この前も、1時間の打ち合わせ中、「20分仕事の話+40分ホラー映画の話」でした。
大久保 : そーそー。
― この仕事効率化の昨今に…素晴らしいです!!(拍手)
西川 : しかし、なんでまたサムギョプサルなんですか?
― 「おじさん二人が話してる写真が載っていても面白くない」ということで、盛れるものは盛っておこうと思いまして…『悪魔のいけにえ』の前日譚が語られる映画『レザーフェイス–悪魔のいけにえ』(2017)で、殺人鬼たちが飼育している豚に死体を食べさせるシーンがあるので、とりあえず豚肉を食べていただこうかと。で、“サムギョプサル”、そして“ハロウィングッズ”。
西川 : ……悪趣味ですね…(笑)。
大久保 : カラオケで若者が「ハニートーストを食べながらハロウィン」、ならいいですけど、「おじさんがサムギョプサルでハロウィン」はどうなんですか…?
カメラマン : はい、カメラ見て楽しそうにしてくださいー
大久保 : やはりマスクはいいですねー。実は、今日僕のホラー映画マスクコレクションを持ってきました!
― そうなんですか! ならば、言ってくださいよー。そのマスクで撮影すればよかったじゃないですか。
大久保 : かぶってみましょうか? まずは…これ!
― 『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』(2017)ですね! スティーブン・キング原作の映画で、そこに登場する殺人ピエロ・ペニーワイズ。マスクが精巧につくられているので、怖いですね…!!
西川 : これは、映画版じゃなくて、アメリカで放送されたテレビ版の方ですか?
大久保 : そうです! さすがですねー。その違いがですね…。
― 映画版とテレビ版の違いの説明は後にして、次のマスクをどうぞ!
大久保 : そう? 次のマスクも、よくできているんですよー、ほら!
西川 : 『スクリーム』(1996)ですね!
― 『エルム街の悪夢』(1984)のウェス・クレイヴン監督が、ホラー映画のパターンを逆手に取った演出を仕掛けて、大ヒットしたホラー映画ですね。
大久保 : こういうマスクをつけた怪物の原点が…
西川 : 『悪魔のいけにえ』のレザーフェイス。
― 『悪魔のいけにえ』に登場するチェーンソーを持った殺人鬼ですね。人の顔の皮を剥いでつくった仮面をかぶっているという。
大久保 : (袋をゴソゴソ)これですねー。
西川 : おー! すごく精巧なレザーフェイスのフィギュア!!
― この一連のホラー映画グッズが、大久保さんのコレクションの一部なんですね。あの……このマスクやフィギュアは、家に飾ってあるんですか…?
大久保 : もちろん! 私の秘密の部屋があって、そこに飾っているんですねー。
― そうですよね…玄関には飾れないですよね…。素朴な疑問なんですが…これを見て、どうするんですか…?
大久保 : どうするも何もないんですよ! これを飾って自分の側に置いておきたいというだけです。
西川 : わかります!やっぱり、大久保さんのマスクコレクションは、『悪魔のいけにえ』に登場するレザーフェイスが発端なんですか?
大久保 : そうですねー。『悪魔のいけにえ』を初めて観たのが、小学校高学年の頃だったんですよ。テレビで観ましたね。『木曜洋画劇場』(テレビ東京系列。1968—2009年)だったかな。もう、あのレザーフェイスが衝撃で。あの背上がった感じと、ムッとした雰囲気と、そしてあの人の皮を剥いでつくった仮面をかぶった顔。殺人鬼のマスクの下に隠されている顔は、一体どういう顔なんだろうって、それから興味をそそられるようになりました。
西川 : その後に映画『13日の金曜日』(1980)に登場する、ホッケーマスクをかぶった殺人鬼・ジェイソンなど、仮面をかぶった殺人鬼が登場するホラー映画が続くようになりますからね。
西川 : よく、ジェイソンがチェーンソーをもっているイメージを抱かれていますが、ジェイソンが持っているのは“ナタ”なんですよね。ジェイソンの方がキャッチーだから市民権を得ているけれど、そのエピソードからもわかるように根底にあるのはレザーフェイスです。
大久保 : ジェイソンというと、僕は今在籍している部署の前は、映画関連のグッズ商品の企画制作を担当していました。いわゆる映画館で販売する商品ですね。その時に『フレディVSジェイソン』(2003)の商品を担当する機会があったんですよ。僕が好きなホラー映画だったので、もう色々と考えましたね。それで、つくったのがこれ!
― うわー、すごいよくできていますね! 大久保さんは『悪魔のいけにえ』と出会ってからホラー映画にハマり、そしてマスクコレクション、最終的にそれが精度の高い仕事に繋がるという…
西川 : ちょっと、すいません! これ、どこに許諾を取るんですか?
― うまくまとめようとしているのに、割り込んでこないでください! それ聞いてどうするつもりですか!?
西川 : いや、何かに反映させようと思って…仕事とか…。
大久保 : これはねー、売れましたねー。
西川 : これは売れますよ! 映画観た後、これが映画館の売店にあったら絶対買うでしょ!!
― それは「ホラー映画に出てくる殺人鬼をやってみたい!」という願望から来るんですかね?
西川・大久保 : いや、それはない。
大久保 : いち傍観者でいたいんですよね。被害者にもなりたくないし。
西川 : 安全なところから観ていたいんですよね。
大久保 : 要するに、好奇心ですかね。
ホラー映画は、“いま一番新しい表現”を
目撃できる場所
― 先ほど、大久保さんが『悪魔のいけにえ』を初めて観たのは、小学校高学年の頃とおっしゃっていましたが、西川さんが初めて観たのはいつ頃でしたか?
西川 : 高校生の時だったかな。ゾンビ三部作といわれている映画【『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』(1968)『ゾンビ』(1978)『死霊のえじき』(1985)】とかを、友達とキャーキャー言いながら観ていた時期だったんですよね。そこから、『ハロウィン』(1978)とか『死霊のはらわた』(1981)とか、70〜80年代に活躍した監督のホラー映画をどんどん辿っていったところ、『悪魔のいけにえ』に行き着いたわけです。
― ホラー映画の名作を辿っていった中で、『悪魔のいけにえ』と出会ったんですね。西川さんにとって、どんな衝撃だったんですか?
西川 : とにかく圧倒されました。他のホラー映画と比べても、『悪魔のいけにえ』はいたってシンプルな物語でできている。それなのに、今まで観た中で最も狂気じみていたんです。低予算でつくられた作品なので、役者も無名な人を使っている。それなのに、他とは一線を画していると感じました。
― どういうところが、一線を画していると感じたのでしょうか。
西川 : ホラー映画なのに、すごく美しいんですよね。ラストシーンで、レザーフェイスが朝焼けの中、チェーンソーを振り回すところがあるのですが、このシーンが美しくて。僕の好きなシーンのひとつです。この映画の芸術性が評価されて、マスターフィルムがニューヨーク近代美術館に永久保存されたというのも納得です。
― ホラー映画なのに、美術館にフィルムが保存されているんですね。
西川 : あとは、低予算で製作されているので、通常映画で使われる35mmフィルムではなく、サイズが一回り小さくて安価な16mmフィルムで撮られているんです。だから、画像が荒くてザラザラしている。それもまたかえって良くて。
大久保 : ドキュメンタリーっぽい感じの雰囲気があるんですよね。あと、BGMが使われていないから余計にそう感じる。それがまた、鑑賞者を“見てはいけないものを見ている”という気持ちにさせる。それがすごく好奇心を掻き立てるんです。
僕が観たのは子どもの頃で、当時、心霊とかTVの「あなたの知らない世界」とか、そういうものに興味があり、その流れの中で『悪魔のいけにえ』を観ました。だから、インパクトが凄まじかった。と同時に、「もっと深く観たい」「ホラー映画を深く知りたい」と思ったんです。
― なるほど。『悪魔のいけにえ』を観たことで、深くホラー映画を観ていきたいという興味が湧いたんですね。
大久保 : そうです! だから、それからは、ずっとホラー映画を観続けていますね。もう、相当な数を観ていると思います。
西川 : 僕は映画を扱った雑誌の編集をしているので、新作映画が公開される前に、宣伝媒体向けに行われるマスコミ試写を主に観に行きます。そこでも、ホラー映画優先でスケジュールを組みますからね。まずは、ホラー映画を観る日程を決めて、その後にアクション映画などの予定を入れていきます。「○月○日は○時からは、このホラー映画か〜!」みたいな。
― ホラー映画鑑賞の予定を見て、ワクワクが止まらないと(笑)。
西川 : “新しいものが観れるんじゃないか”って、ワクワクするんですよね。『悪魔のいけにえ』でトビー・フーパー監督が映画界に出てきたように、無名の監督がホラー映画で新しい物語や演出を試して、「世に出てやろう!」「この作品を世に問うてやろう!」と意気込んでいる。その気迫を映画から感じることができるんです。予算がなくても、情熱と愛と気合いで、すごい映画が生まれるんだというのを、高校生からホラー映画を見続けてきた僕は、いくつもいくつも目の当たりにしてきた。ホラー映画に期待するのは、そこなんです。
― ホラー映画は、新しい才能が出てきやすい場所ということですか。
西川 : マーベル・コミックの作品を原作としたマーベル・スタジオが製作した映画の監督も、ホラー映画から世に出てきた監督が多いですしね。そういう意味でも、60年代後半から70年代に出てきたホラー映画、その中でも『悪魔のいけにえ』は、その後につながるホラー映画の雛形をつくった作品。算数における足し算、引き算のようなもの。
大久保 : そうです。『悪魔のいけにえ』のような衝撃を求めて、いまもホラー映画を観続けています。そして、ホラー映画のつくり手も、より新しい表現を模索し続けている。最近だと、例えば『イット・フォローズ』(2014)『ゲット・アウト』(2017)とかが新しいホラー映画として話題になりました。
大久保 : もう少し前だと、フランスで多くの才能ある監督が出てきて。それがフレンチホラーというジャンルを築きました。その代表的な監督が…。
西川 : アレクサンドル・アジャ
大久保 : この監督が撮った『ハイテンション』(2003)という素晴らしく面白い。巧妙なシナリオですね。最近では、『ルイの9番目の人生』(2016)という映画を撮っています。
大久保 : なぜ、フレンチホラーというジャンルができたかというと、フランスは残虐な表現に対する規制が、他の国に比べて厳しくなかった。それも芸術表現のひとつだという認識があるから。
― ホラー映画は規制の中で、何ができるかというチャレンジ要素のある表現でもあると。
大久保 : フランスは、チャレンジングなことができやすい環境だったと思うんです。最初に話が出た『悪魔のいけにえ』の前日譚の物語である映画『レザーフェイス–悪魔のいけにえ』の監督、ジュリアン・モーリー&アレクサンドル・バスティロも、フレンチホラーのつくり手です。彼らが世に出て来るきっかけとなった『屋敷女』(2007)というサスペンス映画が、これまた素晴らしい!
西川 : まだ観てないんですよー。
大久保 : DVDお貸ししますよ!
― ホラー映画の話をしているお二人は、幸せそうですね…(笑)。私、ホラー映画はとても苦手なんですが、ちょっと観てみようかなという気持ちになりました。
西川 : ホラー映画って、いろいろ観ていると多少の怖さは麻痺してくるので、演出や独創性に注目して楽しむことができるんです。
大久保 : だって、遊園地で行くお化け屋敷や絶叫マシーンもそうですよね!? 怖いのをあえて楽しむという。あとですね、みんなに知ってもらいたいことがあるんです。…それはですね…映画はジャンルを問わず描かれていることは、ひとつなんですよ。
― え!? どうしたんですか、突然…。一応聞いておきましょう。ジャンル問わず映画で描かれるテーマは、いったい何なんですか?
大久保 : …「愛」なんですよ。
一同 : ほーー。
大久保 : その「愛」の見せ方が、それぞれの映画によって異なるだけなんです。
― でも…ホラー映画が「愛」…ですか?
西川 : 偏った愛とか、歪んだ愛、あとは親に愛を与えられずに育った人はどうなるか、愛が存在しない家族とは、などですよ。わかります、大久保さん!
― 確かに、殺人鬼・レザーフェイスがかぶっているあのマスクも『レザーフェイス–悪魔のいけにえ』を観ると、愛からきていることがわかりますね。
大久保 : だから、ホラー映画を固定観念で嫌悪しないで、より多くの人に観てもらえたらなって。
こんな非日常を体験できるのは、
ホラー映画しかない!
大久保 : 僕は、最近、昔観た映画を観直しているんですよ。小学生の頃に観て面白かった映画を、人生経験を重ねた今の僕が観たら、いったいどう感じるんだろうと興味が湧いて。
試してみると、やっぱり「なんだこりゃ!全然面白くない」「子どもだから楽しめたんだな」という作品が結構多い。でも、その中で『悪魔のいけにえ』は、最初に観た時の衝撃そのままに光り輝いているんです。
― 経験を重ねて、時を超えても、尚衝撃的な作品なんですね。
西川 : 映画も日々進化して、複雑化している。観ている自分もいろんな映画を観続けてきているから、より複雑な作品を求めているところがある。そんな中でこの映画を観ると、シンプルな構造ゆえ、原点に立ち返るような気持ちになるんです。
大久保 : そうですね。初めて観た小学生の時からずっと、ホラー映画は僕の好奇心を最大限に掻き立ててくれるものなんですよ。
西川 : 映画って、ホラー映画もそうですが、自分が人生を歩んでいたら絶対経験できないような“非日常”が全部詰まっている。映画を意識的に好きになった小学生の頃から、今までずっと好きでいられるのは、映画そのものにその力がまだある、そしてその魅力が自分の中でも途絶えていないからだと思います。だから、こういう形で仕事にできるのは、すごく幸せなことだって感じますね。
大久保 : 僕も就職活動するとき、勤め先として映画以外考えられなかったですね。それで今、このように映画に仕事で関われているのは、本当に幸せだと思います。
― お二人ともホラー映画を、ひいては映画を、とても愛していらっしゃるんですね。最後に、お二人が『悪魔のいけにえ』をプレゼントするなら、誰に送りますか?
大久保 : 僕は、息子ですね。三人息子がいるんですけど、みんな怖がりなんですよ。次男は高校二年生ですが、ホラー映画を一緒に観ようと誘っても、「あー無理無理無理無理!」と言って、のっけからダメ。でも、そんな次男が昨日『レザーフェイス–悪魔のいけにえ』を僕が観ていたら、横で一緒に観ていましたね。
― おー、そしたらそろそろ一緒に息子さんと、ホラー映画を楽しめるかもですね。
西川 : 僕は誰だろうな…。ホラー映画を食わず嫌いな人って多いと思うのですが、「絶対イヤ!」と言っている人に無理矢理送っても、観てくれないだろうし…。妻も観ないだろうなー。
― 西川さんのパートナーは、映画はお好きなんですか?
西川 : 映画は大好きなんですけどね。ホラー映画はダメみたいで。でも、昨日この対談があるので改めて『悪魔のいけにえ』を見直すという話を妻にしていたら、「絶対観ないけど」という前置き付きで、「どこが面白いの?」って聞いてきたんですよ。
― !? 興味が湧き始めているではありませんか!
西川 : (笑)。いつかどこかのタイミングで一緒に観られるといいな。
― 是非、このタイミングで一緒に観て、後日譚を聞かせてください! 今日はありがとうござ…。
大久保 : ちょっと、待ってくださいよ! 僕の持ってきたコレクションを、まだ全部披露してないんですよー!!
― あとは、お二人で続けてください!
(ハロウィンの夜はこうして更けていくのであった…。)