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「私は天才タイプではない」
弱さと向き合い続けることで、前に進んできた
― 『ザ・ファブル』で木村さんが演じたヨウコは、酒豪で自分に近寄ってくる男性を酔い潰して楽しむという趣味があったり、周りを何時もジョークで盛り上げたり。衣装も派手という個性的なキャラクターでしたね。
木村 : 感情が豊かな人だったので、楽しんで演じさせてもらいました。藤森(慎吾)さんが演じるプレイボーイを酔い潰すシーンも、台本にないセリフをアドリブで言わせていただいたんです。そしたら、監督が面白がってくださって本編でも使ってくださいました。衣装も面白いですよね。主人公とともに大阪に潜入しているという役なので、大阪に馴染むようヨウコ自身が考えた“大阪風のファッション”なんです(笑)。
風貌だけでなく性格も、みなさんが私に抱いているイメージより、もっと破天荒で陽気な女性だなと感じたので、撮影現場でも積極的に自分から自分の殻を破っていかないと、と思っていましたね。
― 自分のイメージを、自ら壊していたということでしょうか?
木村 : そうです。例えば、私自身はお酒をあまり飲まないんですけど、現場では、あえて「やめとけばいいのにもう一杯だけ、と飲んじゃうんだよね」とかお酒の失敗談をみんなに話すこともありました。カメラが回っていない時も積極的に普段の自分を壊していかないと、スクリーンの中で「頑張って演じている」という感じになってしまうなと思ったんです。
あと、殺し屋という自分の稼業も理解して受け入れているヨウコの感じが、私は好きでしたね。
― 殺し屋である主人公・アキラと自分の生業を理解して、悲しい時や心配な時も、静かに彼の決断を見守るのが「かっこいい」と思いました。木村さんは、どのような人が「かっこいい」と感じますか?
木村 : 何かに行き詰まったり答えが出ないと感じたりした時、自分を信じて、失敗を怖がらずに前に進んでいける人がかっこいいなと思います。
― 周りに、そのような方はいらっしゃいますか?
木村 : 戸田恵梨香さんは、生き様がすごくかっこいいですね。一緒にご飯に行った時にいろいろお話したんですけど、経験してきたことの中から自分の軸を作り出して、それを信じて戦っている人だなと言葉の端々から感じました。歳は下ですが、芸歴は私よりも先輩ですし、女性としても憧れる存在です。
― ご自身はいかがですか?
木村 : 私も何かに行き詰まったり迷ったりした時、とりあえず進んでみる、ということが多いかもしれません。前に進まないで止まっている状況が嫌なので、批判されてもいいから行動にうつしますね。
でも最近は、「今は行く時じゃない」と冷静に考えられるようにもなりました。前は、もう少し突っ走っていたかなと思います。そこは大人になったかな(笑)。
― 歳を重ねて、冷静に周りを見ることができるようになったと。
木村 : プライベートでも、後輩とご飯に行くことが多くなりましたね。相談を受けるようになったのも、ここ数年の変化かもしれないです。それも大人になったんだなぁと思います(笑)。
― 相談されたら、どう応えることが多いですか。
木村 : 私もそれなりに現場を経験してきているので、本当は後輩に相談されたら的確なアドバイスをしてあげたいんですけど、うまく言葉にできないことも多くて。答えてあげられない自分を、もどかしく感じる時もあります。
でも、そういう時は相談してくれた後輩を連れて、自分の信頼する先輩のところに行くんです。一緒に悩みを伝えて、アドバイスを聞きながら「こういう時はそうやって伝えてあげればいいんだ」と、私も勉強になるので。
― なるほど! そういう悩みの解決方法もありますね。
木村 : 自分を信じて頼ってきてくれた人に対しては、責任を持って関わっていきたいんです。だから、私の力が及ばないところは先輩に力を借ります(笑)。
私は天才タイプではなくて、コツコツと積み上げることで這い上がってきた人間なので、人がどういう時につまずいたり立ち止まったりしてしまうのか、周りよりも理解できると思っていて。だから、自分の弱さに向き合うことの大切さは、後輩に伝えられるかもしれないと最近感じていますね。
木村文乃の「心の一本」の映画
― 木村さんご自身が、何かにつまずいたり辛いことがあった時、映画から元気をもらったりすることはありますか?
木村 : 実は、映画は好きなんですけど、うっかり映画の世界に入り込むと感情をもらいすぎてしまうことも多くて、辛いことがあった時は、逆に映画を観ないようにしています。映画を観て、さらに登場人物の辛い気持ちに引っ張られないように。
― 映画の世界に没入して観ているんですね。
木村 : この前も、みんなに勧められて『グリーンブック』(2019)を観に行ったんですが、登場人物に感情移入しすぎて、なかなか現実に戻って来られなくなったんです。映画を観るのに向いてないのかなって思うくらい、ほんと不器用というか(笑)。映画を観ると自分の不器用さを痛感します。
でも、『グッド・ウィル・ハンティング』(1998)は大好きです。
― 心に傷を抱えた青年(マット・デイモン)と、妻に先立たれた心理学者(ロビン・ウィリアムズ)の交流を描いたヒューマンドラマですね。当時まだ無名だったマット・デイモンが書いた脚本を映画化した作品です。どんなところが好きですか。
木村 : ひとことで言うと、「人嫌いが克服できる映画」ですね。昔から私はコミュニケーションが苦手で、できるだけ電話だったり人と会うことだったりを避けてしまいがちな性格なんです。
― 人付き合いが苦手だなんて、意外です。
木村 : なかなか周りに心を開けない方だと思います。でもこの映画は、まっすぐに信じた人だからこそ、辿り着くことができた結末を描いているので、「人は人と関わり合うことで生きていけるんだ」ということを思い出させてくれるんです。私も人と向き合うことから逃げずに、積極的に人と関わっていきたいと思えます。
― 人を信じるって、簡単なことではないですよね。
木村 : 現実では、信じたり努力したりした人が、必ずしも救われるとは限らないし、わかり合えないこともある。人生って、その繰り返しですよね。でも私は、「信じて努力した人にしか見えないものがある」と、どこかで思っているんです。
― 木村さんが人を「信じよう」と思う決め手は、何ですか?
木村 : 嘘がない人かな。でも、そうはいっても、人を信じることには臆病になってしまいますけどね。人を信じたら、その関係性に責任を持ちたいと思うので、信じる人は限られています。
― 木村さん自身も、嘘がない人のように感じます。
木村 : いえいえ、結構嘘つきですよ(笑)。でもそれは、人を落とし込めるような嘘ではなく、「今はそのタイミングじゃないから黙っておこう」とか、そういう「あえて本当のことを言わない」という嘘です。
― 周囲で「嘘がない」と思う人や、絶対的に信じているという人はいますか?
木村 : お仕事でご一緒した仲のいいプロデューサーの方が何人かいて、そういう自分の仕事を信じている作り手の方たちと会うと、そう思います。だから、ちょっと仕事に疲れたり、楽しさがわからなくなってしまったりした時、いつもパワーをもらえるんです。
年齢も近くて、こんなにエネルギッシュな人たちが「一緒に仕事しましょう」と言ってくれているんだったら、「私も腐ってられないな!」と仕事のことも人のことも信じる強さをもらえる方たちです。
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