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ヒーロー像は時代を映す鏡なのかもしれません。
「舞う」ような美しいアクション
― 綾瀬さん演じる主人公・小曾根百合は、少年・慎太(羽村仁成)とともに帝国陸軍に立ち向かう「S&W M1917 リボルバー」の名手と謳われた元諜報員(スパイ)です。「戦いに行くにも身だしなみは大事だ」という劇中の台詞のとおり、ドレスを着て戦うアクションがとても印象的でした。
― 衣裳のテーマは「フラッパーガール+大人の色気」だったそうですね。
綾瀬 : 純白のドレスで、腕を露わにして戦いに挑むという、かっこいい女性ですよね。これまで何度もアクションシーンを演じてきましたが、ドレスを纏ってのアクションは初めてでした。
― 激しいアクションシーンがいくつも繰り広げられていましたが、怪我は大丈夫でしたか?
綾瀬 : どんなアクションでも怪我はつきものなんですけど、今回は肌が出ている分、擦り傷は多かったかもしれないですね。普通は肌が見えない衣裳を着て、その下に肘あて・膝あてをつけるんです。
でも今回はドレスだったので、つけないで撮影するのは初めての経験でした。でも逆に、その傷やあざを利用して、メイクさんが「見せる傷」として表現してくださったんです。怪我をしない、かつワンピースとブーツでも可能なアクションということで試行錯誤しながら進めていきました。
― 武術を極めた女性の美しい所作や男女の力の差に注意を払ってアクションを練られたそうですね。小曾根百合がドレスをまくって腿から銃を抜く仕草も、今回の衣装ならではの美しい見せ場でした。
― 衣裳デザイン・監修を『万引き家族』(2018)や『マスカレード・ホテル』(2019)などを手掛けられた黒澤和子さんのチームが務められています。
綾瀬 : アクションのなかでドレスがどう見えるのか、よく考えたデザインになっていますよね。
劇中、霧の中で「舞」を踊っているような動きを見せるアクションシーンがあったんです。そこでは、舞を指導してくださる先生も加わり、アクションと舞をミックスさせた、しなやかで斬新なアクションになりました。
― 綾瀬さんは、これまでの出演作でも、殺陣・乗馬・ワイヤーアクションなど、様々なアクションに取り組んでこられていましたが、アクションをする上で、綾瀬さんが心がけていることはあるんでしょうか。
綾瀬 : うーん、そうですね……。「形」だけではなく「心」でアクションをすることですかね。それだけで見え方が大きく変わってくるなっていつも思います。
― 「心でアクションをする」ですか。
綾瀬 : アクションを、ただ「斬る」とか「蹴る」という「動作」にしてしまうと、すごく嘘っぽく見えてしまうんです。でも、「殺意」を持ってアクションに臨むと、その殺気が姿にあらわれるというか、スクリーンに映ると思っていて。
掛け合う相手の役者さんに怪我をさせてはいけないけど、「殺してやる」ぐらいの気持ちで臨んでいるので、演じているときは相当凶暴です(笑)。そのバランスを考えながら取り組みました。
― 行定監督も「アクションはコミュニケーション」という意識で本作に向き合ったとおっしゃっていましたね。
綾瀬 : 練習でも撮影してもらい、キレを出すためにはどこを磨けばいいか、嘘っぽく見えてしまうところは何が足りないのかを研究しました。
でも、何度試しても気持ちが入れられないときもあって。そういうときはやっぱり画が成り立たないんです。わずかな違いなんですけどね。だから、修正できるポイントは細かくピックアップして、納得するまで練習して。苦労しましたけど、その挑戦にワクワクしたのを覚えています。
自分自身で自分を救える。
綾瀬はるかにとってのかっこいい女性像
― 本作のフライヤーには「男がつくった不完全な世界を、一人の女が終わらせる。」というコピーが載っています。紀伊宗之プロデューサーは、『緋牡丹博徒』(1968~1972)を例に挙げ「この時代ならではのダークヒロインを誕生させたかった」とおっしゃっています。
― 主人公・小曾根百合は、奈加(シシド・カフカ)や琴子(古川琴音) と共に闘いますね。
綾瀬 : 特に奈加とはバディみたいに、どこかで通じ合ってる感じがあります。三人は、家族感もあって、いいですよね。
― 綾瀬さんは、大河ファンタジー『精霊の守り人』のバルサや『劇場版 奥様は取り扱い注意』の菜美、『レジェンド&バタフライ』の濃姫など、これまで多くの“闘う女性”を演じてきましたが、今作の小曾根百合は、どのような女性だと感じましたか?
綾瀬 : 今回演じた小曾根百合さんは、ただ強いだけではなく、過去の“ある出来事”が原因で「悲しみ」を知っている女性です。
― 小曾根百合は、特殊な戦闘能力を持ち、東南アジアを中心に50人以上を殺害した元スパイという過去を持つ、謎めいた面もありました。
綾瀬 : その経験から、命を奪い合う戦争が無意味だってことをわかっている。だからこそ、身をもって戦いに挑んでるんだと思うんです。
百合は、何かを守るために自分を犠牲にしてでも前を向ける強さがある人。痛みを知ってるからこそ、人に優しくできる。「大人」ですよね。「おりゃー!」っていう勢いだけじゃない人。
― 「痛みを知っている」という点で、アクション表現に変化は?
綾瀬 : 戦争を起こそうとする国の上層部に対して、銃を持って戦うけど、致命傷となる急所はわざと外していく。人を殺さないって決めて戦うところは、これまでのアクションと違う点だと思います。
― 銃を撃った後「殺してない」という百合の台詞もありましたね。
綾瀬 : 憎しみからではなく、「無意味なのよ あなたたち」ってことを知らしめるためのアクションであり、戦い。だから、戦いと距離をとって俯瞰しているというか。 余裕を持って戦ってる人ですよね。腕も露わにして、挑んでるし(笑)。
― 「史上最強のダークヒロイン」の理由はそこにあると。
綾瀬 : 百合は、自身の悲しい過去や苦しんだ時期も、受け入れている。「生きていかなきゃいけない」って、人生で「生きる選択」をしていく人だなと思います。
日々の出来事でも、捉え方によって前向きにも後ろ向きにもなることって色々あると思うんです。でも、物事に対して、最終的な意味付けをするのは自分自身。だとしたら、ポジティブに進めるための捉え方をしたいし、それができる人は、やっぱりかっこいいなって。
― 怖さや悲しさ、苦しさも受け入れて、それでも前に進むことを選べるかっこよさがあると。
綾瀬 : うんうん。ちゃんと自分自身で、自分を救えるっていうか。それができる人って、かっこいいですよね。
綾瀬はるかの「心の一本」の映画
― 最後に、綾瀬さんの「心の一本」の映画をお伺いできればと思うのですが、普段、映画を観るときは、作品をどんな風に選んでますか。
綾瀬 : そうですね…好きな俳優さんだったり、監督さんだったりから作品を選ぶことが多いです。その人の出演作や監督作を一気に全部観ることもあって。「この俳優さん好きだな」って思うと、「他にどんな役やってんだろう?」と興味がわいてくるんです。
そういえば、少し前にマ・ドンソクにハマりました!
― マ・ドンソクですか! 『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2016)や『悪人伝』(2019)などに出演する韓国の俳優で、最近ではマーベル・スタジオが製作する『エターナルズ』(2021)主演キャラクターの一人としても抜擢されました。
綾瀬 : 『悪人伝』はアクションがすごかったですよね。私は、やっぱりアクションが好きなのかもしれないです(笑)。『犯罪都市』(2017)も大好きです!
マ・ドンソク演じるマ・ソクトが、「いい人」なので安心して観れる。すごく「怖い人」の役も多いので(笑)。
― マ・ドンソクは、『悪人伝』では暴力団組長、『犯罪都市』では強力班(強行犯係)の刑事を演じていましたね。
綾瀬 : 『罠』(2015)は、「観なければよかった」と後悔するくらい怖かったです…。一緒に観た母は、観た後、熱出してました(笑)。
― それでは最後に、綾瀬さんの「心の一本」の映画を教えてください。
綾瀬 : これまでジャンルを問わず、いろんな映画を観てきたんですけど、キャメロン・ディアスさんの出演作品を全制覇した時に「やっぱりラブコメっていいな」って思ったんです。コロナ禍は、ラブコメばっかり観てましたね。
その時に観た『ホリデイ』(2006)が、すごく好きな作品で。
― 『ホリデイ』は、アイリス(キャメロン・ディアス)とアマンダ(ケイト・ウィンスレット)が、休暇中に、ロンドンとロサンゼルスにあるお互いの家を交換する“ホーム・エクスチェンジ”をテーマにしたラブコメディですね。
綾瀬 : 「ラブコメ映画」は、例えば「一人で生きていく不安を抱えている人」が主人公だったり、誰でも感じたことのある感情が表現されていて、登場人物に自分を投影できることが多いですよね。あと、笑って泣けて、最後はハッピーエンドっていうのは、やっぱりいいなって。日常にちょっと彩りを与えてくれる感じが好きです。
あ、この前は『ミーン・ガールズ』(2004)も観ましたよ!
綾瀬 : おすすめの恋愛映画があれば、ぜひ教えてください。最近、いいのありましたか?