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「なんかようわからんけど、
そっちに行きたい!」
― 桐谷さんが歌われた『嘘八百 なにわ夢の陣』の主題歌「夢のまた夢」は、今作の監督を務めた武正晴さんからのオファーだったそうですね。
桐谷 : 自分が俳優として出演していない作品で、主題歌のオファーを受けるのは初めてで、しかもそれを武さんからいただけたということが、嬉しかったですね。
― 桐谷さんの映画デビュー作である『ゲロッパ!』(2003)や『パッチギ!』(2004)など、井筒和幸監督作品の助監督をされていた武監督と出会い、現場を共にされています。
桐谷 : 歌が完成したあとに、「なんで僕だったんですか?」って、武監督に聞いてみたんです。そしたら、昨年の京都国際映画賞の授賞式のことを話してくださって。
― 2021年の京都国際映画賞で、桐谷さんは「三船敏郎賞」を、武監督は「牧野省三賞」をそれぞれ受賞されて、授賞式で同じ舞台に上がっていらっしゃいました。
桐谷 : 20年前に撮影現場でご一緒した『ゲロッパ!』のときは、武さんは助監督で、僕は初めての映画出演でした。「そんな二人が、三船敏郎賞とかもらっちゃうんだね!」「感慨深いね」と、授賞式の舞台袖で話したんです(笑)。
その出来事が大きかった、とおっしゃっていて。あと、「健太の歌って、空を飛んでる感じがするんだよね」って武さんに言われました。今作に「鳳凰」という鳥のモチーフが出てくるじゃないですか。
― 小池則夫(中井貴一)と野田佐輔(佐々木蔵之介)の“骨董”コンビが追うお宝は、太閤秀吉の幻の宝、「鳳凰」の銘がついたうつわでした。「鳳凰」とは、中国の神話に由来する伝説の鳥ですが、武監督はそこから桐谷さんの声を連想されたんですね。
桐谷 : そうみたいです。鳥みたいなイメージなんだよ、だから、主題歌をどうしようかという話になったのときに、「あっ」と僕の顔が浮かんだとおっしゃっていました。
― 映画のエンディングで流れる「夢のまた夢」は、桐谷さんの伸びやかな声と、「いつだって僕らは夢の中」「初めての旅を生きてるんだ」など、今作のテーマに通じる歌詞が印象的でした。桐谷さんは今回、作詞も手がけています。
桐谷 : 最初に、武さんが「こういう歌にしたい」という想いを、すごく情熱的に伝えてくださったそうなんです。俺はその場にいなかったんですけど、俺の話もしてくださったそうで。で、「あとは健太にまかせるから」と。
だから、「自分が作詞したいな」という想いが最初からありました。せっかく武さんが熱い想いを伝えてくれたのに、その想いを伝聞して誰かにお願いするのも、なんか違うよなぁという気がして。
― どのように映画のテーマを歌詞にしていったのでしょうか?
桐谷 : 完成した本編の映像があったので、観させていただいて。あとは武さんの想いを聞いたときに、僕なりに解釈したイメージがあったんです。言葉というよりも、「光が差し込んでくる感じ」とか、イメージがいくつか頭にあって。そうしたら、あるとき、寝起きにぱっとフレーズが浮かんできて。
― どんなフレーズが浮かんできたんですか?
桐谷 : なんだろう。順番とか関係なく、めちゃめちゃ沢山浮かんできたから(笑)。それをマネージャーさんに送って、一緒に字数を合わせたりしながら、詞を形にしていきました。
もちろん作品は観させていただきましたけど、そこに合わせようと考えすぎると、感じて書くよりも、考えて絞り出すように書くようになってしまうし。でも、今作に登場する、秀吉の辞世の句の「夢のまた夢」というフレーズは、「その感じはわかるなぁ」と思うところがあったので、歌詞にしました。
― 秀吉が最後に残した「露と落ち 露と消へにし わが身かな なにわのことも 夢のまた夢」という句ですね。百姓から天下人に上り詰めた秀吉のこの句は、「夢の中で夢を見ているかのような、なんとも儚い生涯だった」ということを意味しています。
桐谷 : 人生って、確かに夢みたいなところがあるよなと思って、自分が経験したことも含めて。この映画って、いい大人が、めっちゃ「夢とロマン」を追いかけてる話じゃないですか。
桐谷 : 僕にとっては、「映画づくりや歌をうたうこと」がそういう存在だし、ワクワクするとか楽しいとか、「なんかようわからんけど、そっち行きたい!」みたいな、そういう想いが生きるうえで大切だなと思うんです。
― もともと桐谷さんの中にあった想いと、この映画のテーマが重なったと。
桐谷 : はい。自分にも、そういう感覚は常にあるので。だから、歌も「忘れてなんてないさ」というフレーズから始まるんですけど。「ずっと“夢を感じている”」、という想いで。この映画を観て、自分の中から出てきたことを歌にしたので、映画と僕が手はつないでいる気がします。
プレッシャーとかは全然なくて、自分のやれることをやれたなと。作曲のキヨサク君や編曲もSPECIAL OTHERSさんだったり、いろんな縁がつながり、一緒につくらせていただきました。いい感じに、風に乗れた感じがあります。
― 武監督とのご縁も含め、これまで桐谷さんが積み上げてきた役者や歌手としての活動、人とのつながり、感じてきた想いなどが、「夢のまた夢」という曲には含まれているんですね。
桐谷 : そうですね。だから、この話を武さんとすると、20年前の話が出てくるんですよね。
「今日めっちゃ楽しいな!」
の連続が、未来を変えていく
― 先ほど、「人生は夢のようなもの」とおっしゃっていましたが、桐谷さんには、夢やロマンを追い求める今作の登場人物たちの姿は、どう映りましたか?
桐谷 : 「ずっとやりたいことやって、生きていければいいな」、と僕も思ってます(笑)。それが「夢とロマン」につながるんですけど、その感覚を持っていれば、自分が想像してなかったような面白いこともどんどん起こるし、自分が思い描くよりも面白い未来に変わっていくというか。
僕は、この映画の後半で、みんなが普通の会話しているようなシーンで、なんか泣けてきたんですよね。僕にしかわからない想いもあるかもしれないんですけど…いろんなことが込み上げてきて。
― それは、どんな想いですか?
桐谷 : 僕と武さんとの関係であったりとか、「役者って面白い職業やなー」「面白いことやってるなー」と感じられたりしたこととか…。「映画っていいな」って思ったんですよね。
自分の中にある「キラキラしてる感覚」って、めっちゃ大事にしたいなと改めて思いました。
― 自分の原動力につながるような感覚、ということですね。
桐谷 : そこを常に見といてあげたら、「どこにあったか、わからなくなってしまう」ということになりにくい気がしますね。映画を観て、思い出して再確認してもいですし。本当に大切なのって、「今やな」って思うんですよね。今日とかね。
夢は決めすぎてしまうと、「まだや」「今日もまだ叶ってない」って、日々がその連続になってしまうと思うんですよね。
― 夢に向かうことよりも、「叶っていない」という事実の方が前に立ちはだかってしまう。
桐谷 : それって、すごくもったいないなと思って。それよりは、今日を楽しく過ごすことの方を優先したい。
楽しくない気分になることもあるけど、絶対それでも前に向かって進んではいるから。だから、常に「ずっと夢の中におる」みたいな感覚はありますよね。
― 「夢の途中」よりも、「夢の中にいる」という考え方の方が、ポジティブでいられる気がします。
桐谷 : 「今日」をとにかく達成していけば叶う、っていうかね。夢の連続になるというか。おっきな光として夢が見えてるのはいいけど、「今日なんかめっちゃ楽しいな!」みたいな日が続いていくことで、未来が変わっていく感じがします。
桐谷健太の「心の一本」の映画
― 桐谷さんは、子どもの頃に映画館でアドベンチャー映画の名作『グーニーズ』(1985)を観て、「映画の中に行きたい」と思ったことが、役者を目指すきっかけになったそうですね。
桐谷 : 『グーニーズ』、今も観ますよ! もちろん、感じ方は変わってきてますけど。僕は10代、20代の頃に観た映画をもう一度観ることが多いんです。不思議なところで泣けたりもするし。子どもの頃に憧れたあの感覚というのは、いまだにきっと持ち続けていて。だから、この仕事を続けているとも思うんですよ。
― 「子どもの頃に映画を観て憧れた、あの感覚」
桐谷 : あのとき感じた何かに、いまだに憧れ続けてしまってるというか。子どもの頃は単純に「かっこいい!」「この中に入りたい」って感じで、でも子どもだからどうしたらいいかわからないじゃないですか。今はこうして映画に役者として携わって、出たりもして……。うん。だから、ほんとにこれからやなと思ってます。これから面白いなって。
― これからが人生、面白いなと。
桐谷 : 自分が映画に出させていただいたり、今回のように主題歌を歌わせていただいたりすると、「うわーありがたい!」みたいな気持ちに改めてなると同時に、「更にいいものを見せたろ!」って思うんです。僕自身にも見せたい。自分を発見したい。
― 役者としてのこれからに、ご自身が何より期待しているんですね。
桐谷 : 役者としてもそうだし、自分自身としても。最近常々思います。「こっからやな」「まだまだいけるぞ」って。
― 最後に、桐谷さんの「心の一本」の映画についてもお聞きしたいのですが、自分が今も「夢の中にいる」と実感できるような、自分を支えているような作品はありますか?
桐谷 : 映画の一本系って、難しいですよね(笑)。
― 最近ご覧になって心に刺さった映画、などでもいいのですが。
桐谷 : なんだろう…。あ、でもふと時間があるときにがっつり集中して観ようとなるのは、『ゴッドファーザー』(1972)だったりするんです。
― アメリカのマフィアの内幕とそのファミリーの盛衰を、全三部作に渡ってバイオレンスと深い人間ドラマで描いた、フランシス・フォード・コッポラ監督の名作ですね。
桐谷 : いやー、ああいう映画に出たいですねー(笑)。
― 観たいです…!
桐谷 : 年齢も重ねてきたし。純度の高さというか、重厚感もあって、演技の静かなぶつかり合いの感じ、いいですよね。好きな映画はいっぱいありますけど、『ゴッドファーザー』は、始まってから終わるまで、なんだろう、全くの無駄がないというか。こんなに3時間ずっと釘付けにさせられるかね! っていうくらい。画角とかカメラワークも見ちゃうんですけど、芝居も含めて全て、磁力がすごいから。
― 隅々まで研ぎ澄まされていて、惹きつけられます。
桐谷 : なんかね! 魅力と狂気が、ぐわーっと入り混じってるあの感じ。改めて観て、「やっぱりいいわ〜」「映画ってすげ〜」っていう想いでいっぱいになるというか。ああいう映画に出たいなと思いますね。