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『しあわせの絵の具』監督の取材で号泣!?
― 早速ですが、今日は、真保さんが宣伝担当した映画『しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス』の取材中に、号泣したという噂を聞きつけて取材にやってきました。いくらなんでも、「号泣」はないですよね…「泣いた」ぐらいですか?
真保 : いえ、号泣してしまいました(笑)。アシュリング・ウォルシュ監督に来日いただいたときのインタビューの現場ですね。
― 本当に、号泣だったんですね! よくあることなんですか?
真保 : いえ、そんなことはないです(笑)。ただそのときは取材の途中で部屋から出ちゃうほど泣いてしまい…….。
― 号泣!(笑)
真保 : はい。外にいたスタッフがビックリしていました(笑)。
― そんなに感動的なインタビューだったのですか?
真保 : 取材の中でインタビュアーの方が「映画の中で、すごく気になったシーンがふたつあった」とご質問されたんです。その監督の返答に、グッときてしまって…。
― それは、どんなシーンだったのでしょうか?
真保 : ひとつは、「モード(サリー・ホーキンス)が娘を遠くから見つめるシーン」と、もうひとつはラストの「エベレット(イーサン・ホーク)が缶の中から家政婦募集のメモを見つけるシーン」です。それぞれについて監督が「実は、脚本から変更を加えて撮影したシーンなんです」とお話されたんですね。
― 脚本どおりではなく、撮影を進める中で生まれたシーンということですね。
真保 : ひとつ目の「モードが(出産後すぐに引き離されてしまった)娘を遠くから見つめるシーン」は、脚本上だと、モードは娘にもっと近づくと書いてあったそうなのです。でも、そこに違和感をもった監督が、サリーに「彼女(モード)は、(出産以降会うことができなかった娘と初めて会うのに)そこまで行けると思う?」と聞いたら、サリーは「行けないと思う」と言ったそうなんです。監督も「私もそう思う」と同意し、生き別れた娘を遠くから見るだけに、変更したそうなんです。
― 繊細に情景をつくりあげたことがわかるエピソードですね。
真保 : そうなんです。そして、もうひとつの「エベレットが、缶の中から家政婦募集のメモを見つけるシーン」も、映画をつくりあげていく中で、できたシーンだったんです。この“メモ”は映画の序盤に出てきたものなんですね。
― モードとエベレットの夫婦が、出会うきっかけとなるメモですよね。エベレットが、家政婦募集のメモを掲示板に貼り、それをモードが見つけ家政婦として雇ってもらうためにエベレットの自宅を訪ねて行き、二人は出会います。
真保 : だけどそのメモって、本当はその後、使われる予定はなかったらしいんですよ。この映画は順撮り(最初のシーンから順番に撮影する方法)だったのですが、最後のシーンを撮るときに、監督はなんとなく取っておいたその“メモ”を思い出して、「あれを入れよう!」と閃いて撮影したそうなんです。
― そのメモがラストのシーンで出てくることで、二人が積み重ねた時間を、改めて感じることができますよね。監督が作品に登場する全てのものを、大切に思っていることがわかります。
真保 : そういう監督の作品への想いや熱を直接聞くことで……すいません、今も話していて、ちょっと涙がでそうに(笑)。それで取材が終わった後、またすぐに本編を観て、また号泣して(笑)。
― わかります…でも、泣きすぎです!(笑)。…なぜかわたしも映画を思い出して、もらい泣きを…。(お互いに涙を拭きながら)えっと、それは、映画の宣伝のための取材なので、公開前の話ですか?
真保 : そうです。公開の1ヶ月ちょっと前くらいかな。宣伝担当は、ある程度作品を客観的に見なきゃいけないと、基本的には思っているのですが…この作品は、ちょっと入り込みすぎちゃったかなという気がします(笑)。最初に観たときから「いい作品だな」と思っていたのですが、どっぷり入り込んだのは、やはりその監督のインタビューがあったからですね。
― その自分の感情に突き動かされたりしました?
真保 : とにかく、「もっともっといろんな人に観ていただきたい!」と思いました。なので、その前から著名人の方に映画を観ていただいて、感想コメントをいただいていたのですが、さらにいろんな方にお声がけしました。あとはわたしがSNSの公式アカウントの運営もやっているので、そこで海外のサリーのインタビュー動画などを引っ張ってきて、彼女たちがどんなふうに映画を撮ったのかなどを、できるだけ発信することもしました。
小規模な作品で宣伝予算もあまりないので、ひとつひとつは本当に地道な活動なんですけど、そこにいつも以上に「熱」があったと思います。
― 熱。
真保 : 「観てもらえば絶対に気に入ってもらえる」という確信を持ってやっていましたね。
『しあわせの絵の具』“熱”は面白いくらいに伝播する!
― 映画の力に確信を持ったということですが、実際そこからどんな宣伝を広げていったのですか?
真保 : この映画は本当にいろんな方が気に入って、手を貸してくださったんですよ。例えば、本作を上映してくださったBunkamuraさんは、モード・ルイスの家をイメージした家のファサードを制作するのに協力してくださいました。
― 家ですか! 映画の公式SNSにも載っていました!! 映画に登場した夫婦が暮らした家をイメージした装飾ですね。それは、仕事で「お願いします」「わかりました」じゃできないような気がするんですが…。
真保 : 実は、「モードの家を再現するようなことができたら良いですね」と言ってくださったのは、Bunkamuraさんなんです。Bunkamuraの番組編成の方がこの作品をすごく気に入ってくださったので、ご協力いただける熱量もすごく高くて。それで、今回装飾を制作してくださった“Reclaimed Works”さんという、普段は輸入古材を使って家具をつくっていらっしゃる会社を紹介してくださいました。
― Bunkamuraさんがご紹介してくださったんですか。
真保 : そうなんです。そしたら、Reclaimed Worksさんも映画を気に入ってくださって、「面白いそうだからやってみます」と。
― 熱が伝播していますね。
真保 : しかも、Reclaimed Worksさんは映画を観て、イーサン・ホークの衣裳が当時のアンティーク生地を使ってつくられたものだということも気付いて「女性だけじゃなくて男性にも響く映画だと思うから、そういうことも発信していった方がいいよ」とアドバイスもくださって! そこから、「この映画はアンティークなどが好きな人にも気に入ってもらえるのではないか」と思い、その人たちに映画がつながるよう、デザイナーの森本千絵さんやミナ ペルホネンの皆川明さんなどにコメントをいただいたりもしました。
― そういう宣伝活動は、いつもやられていることなんですか?
真保 : そうですね。だから私が監督の話に感銘を受けてからやったことも、いつもと変わらないと言えば変わらないんですよ。ただ自分の気持ちの入り方が、自分でも「おいおい、入りすぎだぞ」って思うくらいだったっていう(笑)。
― そのパワーに、周りの人がいつも以上に巻き込まれていったのかもしれませんね(笑)。カナダ大使館でも映画展も開催されましたよね。
真保 : やってました! あー、思い出すといろいろやってますね(笑)。大使館の方は、「映画の舞台であるノバスコシア州に興味を持ってくれるかもしれないから」ということで、すごくよくしてくださって。最終的には会期も延長して開催していただいたんですよ。
― みんなが本当に作品を広めようと、のっていたんですね。今回の宣伝では、特に困ったことはなかったんじゃないですか?
真保 : でも、ミュージアムグッズの輸入は大変でした…。モード・ルイスの原画がとてもかわいくて、グッズにしたら人気が出て話題になるだろうと考えたんです。日本未発売だったので、カナダでモード・ルイスの常設展をしている美術館から輸入しようと! ただ、予想以上に、輸送費がかかったり、税関の問題があったりと、いろいろ大変でした。
― すごくお金も時間もかかりそうですね。
真保 : ただそれも、カナダ大使館の方に、カナダで日本を広める活動をやられている団体の方をご紹介いただいて。その方々に相談していたら、最終的に日本の貨物会社のカナダ支社の方をご紹介頂き、美術館からの輸送や税関手続きなど全て助けていただきました。
― …え、なんで!?
真保 : なんかすごく熱い方々で(笑)。
― でも普通、あまり自分たちと関係のないプロジェクトに対して、そこまでしませんよね!?(笑)
真保 : (笑)。「日本とカナダの架け橋になりたい」っていう思いが、強い団体の方だったんですよ。最初は「僕たちがトランクに詰めてグッズを持って行きましょうか」とお声がけくださったくらいでしたから。
― ……“わらしべ長者”みたいですね…。
真保 : 本当に、最初のアイデアの段階では「できるのかな、これ?」みたいなものばかりだったんですけどね。助けてくれる方がそれぞれの場所にいて、できたという感じです。
― いい作品をもっと広めたいという“熱”が、たくさんの人を巻き込んでいったんですね。
真保 : 本当にそうだと思います。私だけじゃなくて、みんながこの作品を好きになってくれました。そして、みんながこの作品を多くの人に届けたいと思ってくださった。嬉しかったです。いろんな人が助けてくださったり、手伝ってくださったりしたのは、本当にこの作品に力があったからだと思います。
― 公開されてからは、上映劇場がじわじわ広がっていったように見えたのですが、実際にはどうでしたか?
真保 : はい、じわじわと広がってくれました。いろんな劇場で上映していただくことができましたし、各地の劇場の方もSNSですごく推してくださって。観てくれたお客さんが満足してくださってるのも、すごくわかりましたしね。
― 思っていた以上に広がったということですか。
真保 : そうですね…でも、昔のミニシアター全盛期だったら……みたいなこともちょっと思うんですよ。
― 「もっと観てもらえたのに」ということですか?
真保 : そう。本当に誰が観ても、いい映画だと思う作品なんじゃないかなと思うので、もっともっといろんな人に観てもらいたい……。
― すごい…。これだけ話題になっても、「もっともっと」と思うんですね! さすがです! 今日はありがとうございました。