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窪田正孝さん、松田翔太さん、
兄のように導いてくれた二人の存在
― 今回、山本さんが演じられたのは人間ではなく、“喰種(グール)”という怪人でした。人間と変わらない風貌なのに、人を喰らわないと生きられない生物です。「赫子(かぐね)」という特殊能力を持っていることも特徴ですね。
山本 : その「赫子(かぐね)」という特殊能力を表現するための演技を探るのが、大変でしたがすごく楽しめました。私が演じた霧嶋董香(トーカ)は、人間だったら絶対死んでいるであろう傷を負っても戦いを続ける“喰種”だったので、想像を膨らまして演技をするのは新感覚でしたね。
― 山本さんが演じられたトーカは、「羽赫(うかく)」という肩あたりから羽のようにうねる武器を体内に保持していて、高速攻撃が可能です。アクションシーンは圧巻でした。
山本 : この作品以外でも、アクションは経験しているのですが、ワイヤーアクションは初めてで。
― アクション監督の横山誠さんが、山本さんは「ワイヤーアクション上手かった!」とツイートされていましたね。
山本 : 最初は自分の動きが制限されるから、思うように動けなかったんですけど、「自分の力をどのくらいワイヤーに任せていいか」「どのくらいの力を変えればバク転できるのか」などコツがつかめてくると、自分が本当に浮いているように演技できるので、面白かったですね。
― 山本さんは黒帯を持つ空手有段者ですが、その経験も活かされましたか?
山本 : 空手で鍛えた体幹が活かされたと思います。蹴りのアクションをするときは特に。
― 今も普段からジムで鍛えられているんですか?
山本 : いや、全然やりません(笑)
― キレキレのアクションを演じられていたので、鍛えられているのかと!
山本 : そう言って頂けると素直に嬉しいです。完成された作品を観ても、この演技でよかったのかとても不安だったので。ファンの方は、「トーカは山本舞香っぽい」と言ってくれるので、ありがたいんですけど、自分がその期待に応えられるかも不安にも感じていて。プレッシャーも感じていたんです。
でも、試写の上映が終わった時に、一緒に観ていた主演の窪田正孝さんが「頑張ったね、舞香」っておっしゃってくださって安心できました。
― 窪田さんは、この作品を撮影するにあたり、現場で率先して山本さんを「飲みに行こうよ」と誘ったり、現場で盛り上げてくれたりと、山本さんの居場所をつくってくれたそうですね。
山本 : 窪田さんは座長としてドスンと構えていて、周りをしっかり見ることができる方でした。映画『東京喰種』シリーズに、今作から参加した私を気遣ってくださって。月山習役を演じた松田翔太さんも、すごく現場を盛り上げてくださいました。でも、盛り上げるっていっても、「ウェ〜イ!」っていうバカ騒ぎではなくて、ボソッと面白いことを呟いて、周りが「ギャー!(笑)」って反応するっていう盛り上がりなんです。みんなから「習様」って呼ばれていました。
登場シーンを撮りきって、松田さんが現場に来なくなってしまった時、「習様ロス」がみんなに起きたぐらい(笑)。
― お二人が、それぞれの個性で、現場を盛り上げていたんですね。
山本 : だから、リラックスしてお芝居に臨めたと思います。先輩の俳優の方と一緒に演技する時、緊張して思うようにできないというのとは真逆の環境でした。お二人を兄のように慕わせて頂きました。沢山学ばせて頂いたし、ついていこうと思いましたね。それは、現場での振る舞い方だけでなく、演技についてもです。
お二人は、撮影の合間どれだけスタッフや共演者と話していたとしても、カメラが回ると、バチって切り替わるんです。本当に不思議。だって、窪田さん、いつもは優しいふんわりした雰囲気なのに、カネキになると声まで変わっている。月山役は絶対松田さんにしかできないと思うし。
― 松田さんも、カメラが回ると切り替わる感じですか?
山本 : 松田さんは、“切り替わる”というのではなく、「素なの?」っていうほど自然と役に入っていくんです。「松田さんって、月山なの?」っていうぐらい(笑)。
松田さんと私は『東京喰種 トーキョーグール【S】』から一緒に参加させて頂いたメンバーだったんですが、今作では月山という役が圧巻だった。作品を観た後、「負けた…」と嫉妬をしちゃうぐらい。もっと、勉強しなくちゃって強く思いましたね。だから、次作があるなら、トーカという役を山本舞香と一緒に成長させて、また挑めればと思います。
裏切られたり、人間不信になったりもした。
今、信頼できる人がいる喜び
― 窪田さんも松田さんも、山本さんのお兄さんのように現場で接してくれたということでしたが、山本さん自身もお二人のお兄さんがいらっしゃいますよね。
山本 : 家族は、自分が一番自然でいられる場所です。役者って、いろんな役柄を演じるので、たまに自分が何者かわからなくなる瞬間が本当にあって。お芝居への思いが高まるに連れて、その感覚も強くなったような気がします。
でも、親や兄弟の前では、素の自分でいられる。やっぱり、仕事関係の人の前では強く…いや、強がっちゃうわけではないけれど、「山本舞香」でいないとと思っちゃうかな。
― 今回演じられたトーカも“喰種”である自分を隠して、人間と一緒に生活している“自分”という存在に葛藤を感じていました。人間の友達・依子に対しても、「喰種」である自分から遠ざけるため、本心とは違う行動をとってしまいます。
山本 : 自分の感情を表に出せないというのは、なんか理解できるんです。あと、仲間を大事にするところも。依子を突き放してしまうのも、依子を「守りたい」と思ってのことだし。窪田さん演じるカネキのことも、同じ“喰種”として守りたい。私も、仲間は大切にするから。
― トーカに感情移入する観客も多くいると感じました。
山本 : そうですね。だから、先程は「負けた」と言いましたが、トーカと依子の関係が表すような、人間と喰種が心を通わすドラマシーンも、見どころだと思います。
― 山本さんにも、トーカにとっての依子のような存在はいらっしゃいますか?
山本 : はい、います。地元の鳥取で中学校に通ってた時からの女友達です。毎日連絡とってますね、ホント1日も欠かさずに(笑)。何かあったら、すぐ伝えるし、すぐ会いに行く。鳥取にも一緒に帰るんです。姉妹みたいな存在ですね。
― 山本さんは13歳で鳥取から上京されて、この仕事を始めた時、寂しくて泣いていたそうですね。その時からこれまでに、自分の居場所はできましたか?
山本 : 最初、家族以外の居場所がなかった私に、まずは所属する事務所やマネージャーが居場所をつくってくれました。そして、徐々に知り合いが増えてきて、友達ができて…と、9年という時間をかけて片手で余るぐらいには信頼の置ける存在ができました。
それは、いろんな経験、例えば裏切られたこともあったし、ないことを言いふらされたこともあったし、人間不信になったこともあった、それを経た私が、今心から信頼できる人なんです。
― 9年という経験を経てできた居場所なんですね。
山本 : 本当に色々あったから…(笑)。私は「友達とか、別にいらない」って言っちゃうような、ひねくれた性格なんです(笑)。でもこんな私でも、今すごく充実しています。だから、自分自身を変えるつもりはありません。私は私だし。
山本舞香の「心の一本」の映画
― 最後に、心の一本の映画を教えてください。
山本 : 『タイタニック』(1997)です! 小さい時に観た時も印象が強かったんだけれど、最近「そういえば、細かいストーリーは覚えてないな」と思って、改めて観直したんです。そしたら、号泣しちゃって(笑)。
山本 : こうやって色々経験して、いろんな人と関わって、自分の考え方が変わってきた中で、この作品を観ると、こんなに登場人物に感情移入できるんだと驚きました。…っていっても、まだ21歳ですけど。
― 映画を観ることで、自分自身の変化を感じられたのですね。どこに一番感情移入したんですか?
山本 : やっぱり、レオナルド・ディカプリオ演じるジャックが、愛するケイト・ウィンスレット演じるローズを助けるために、自分は凍るような寒さの海に浸かる側を選ぶラストのシーンかな。愛し合っている二人が、一人は死に、もう一人は生き残る…。これから、こういう作品は出てこないだろうし、リメイクもされないと思う。『タイタニック』っていうひとつのジャンルの映画ですよね。