目次
好きなものを共有できる
仲間の心強さ
― 何かに夢中になったことがある人にとって、「恋愛研究会。」のメンバーは自分を重ねざるを得ない人物たちだったのではないでしょうか。松坂さんは“「オタ活」にどんどんのめり込んで行く松浦亜弥さんファンの劔樹人”、仲野さんは“プライドが高いひねくれ者で藤本美貴さんを推すコズミン”と、お二人とも個性的な役柄を演じられていました。
松坂 : 個性的な人しかいなかったですね。
仲野 : そうですね。個性が渋滞してました(笑)。
― 他にも、一見強面な風貌なのに石川梨華に心酔しているロビ(山中崇)、痛車など自分でオタクグッズを作る西野(若葉竜也)、ハロプロ全般を推し皆が集うオタク部屋の住人であるイトウ(コカドケンタロウ)、CDショップ店員のナカウチ(芹澤興人)、藤本美貴推しで唯一の彼女持ちアール(大下ヒロト)と、魅力的なキャラクターたちです。
松坂 : 「恋愛研究会。」は一見、変な人たちの集まりですよね(笑)。でも、それが妙に居心地が良くて。好きなものを共有できる仲間がいることの心強さというか、嬉しさみたいなものは現場でも感じました。毎日オフ会をしているみたいだなこれって、と思っていたんです。
実を言うと、中学一年生の時に同じ中学校の二つ上の学年に松浦亜弥さんがいたんですよ。
全員 : えー!
松坂 : だから、世代的にモーニング娘。やSPEEDを応援している人もいましたけど、同じ学校に松浦さんがいるのでみんな特別に意識していましたね。僕自身も、松浦先輩の活躍は遠巻きながら見ていたので、みんなが夢中になっていたあの頃を思い出しました。
仲野 : 桃李くんがこの役を演るのは、必然だったんですね。
松坂 : それは運命的なものを感じた。“松浦先輩”のTシャツを着ている自分っていうのが、変な感じもしたけれど。
仲野 : “松浦先輩”なんですね。
松坂 : そうなんだよ。ずっと“松浦先輩”って呼んでたから。
仲野 : 桃李くんにとって特別な人だということがわかります。
― “松浦亜弥さん推しの劔”に対し、“藤本美貴さん推しのコズミン”は、周りにいちゃもんをつけながらも、「恋愛研究会。」という居場所を大切に守っている人物でした。
仲野 : コズミンのようにアイドルに夢中になった経験って、自分にはあまりないと思っていたんですけど、思い返せば、小学生2年生の時に地元のCDショップへ初めて買いに行ったCDがプッチモニでした。母親と『ASAYAN』(※)を毎週欠かさず見ていたから、モーニング娘。がデビューの時から好きで、後藤真希さんを推していました。駄菓子屋で、お小遣いを握りしめてブロマイドを買ったりして。
松坂 : そうなんだ!
仲野 : モーニング娘。のプロマイドと遊戯王カードを一緒に、ファイリングしてました。
松坂 : いいね(笑)。
仲野 : でも正直、その頃の記憶って忘れていたんですよ。この役をいただいてから思い出すことがたくさんあって。たとえば、劇中でハロプロのミュージカルをみんなで観るシーンがあるんですけど、実は小学生の時にお母さんに連れられて、初めて観に行ったミュージカルがその現場で。「あっそうだ、俺行ったわ」ってなりました。
松坂 : 現場でも言ってたね。
仲野 : だから、色々思い出せて楽しかったです。
― 意外でした。太賀さんは映画など硬派なカルチャーを好きなイメージが強かったので、アイドルもお好きだったとは。
仲野 : 僕も意外でした(笑)。忘れているものですね。でも、自分の原体験として色濃く残っていたので、今回のコズミン役もグッと入りやすかったです。
松坂 : 小学生の時に好きなものって、自分の中にずっと残るものだよね。
仲野 : あと、周りのみんなもモーニング娘。を歌って踊っていたから、今見ても「やっぱり可愛いな〜」って思いました。
松坂 : めちゃくちゃ可愛いし、オーラがすごいよね。
仲野 : そうですね。最近のアイドルグループももちろんすごいけれど、当時のハロプロの圧倒的な輝きも改めて感じます。
松坂 : 今のアイドルは「親しみやすさ」が大きな魅力のひとつだけれど、当時のハロプロは昭和のアイドルの方々のように、「手の届かない憧れの存在」が大きな魅力としてあったんじゃないかな。だから、握手会に当たるだけで「おお!」と興奮してしまう感じもわかります。
― 劇中でも、松坂さん演じる劔が松浦亜弥さんの握手会に当選し、意を決して行くシーンは見どころの一つでした。憧れの松浦さんに会える高揚が、スクリーン越しに伝わってきます。
松坂 : 僕もあのシーンは緊張しましたね。
一挙手一投足を追いかけるほど、
ふたりが夢中になったあの人。
― 「恋愛研究会。」の人々がハロプロに支えられたように、今の自分に影響を受けるほど夢中になった人はいらっしゃいますか?
仲野 : います。僕は銀杏BOYZの峯田和伸さんが、中学時代のカリスマ的存在でした。峯田さんの一挙手一投足を追いかけるように楽曲とかライブとか言動とか、ずっと注目していて。大好きなんです。
― どのようなところに惹かれたんですか?
仲野 : どんなところに惹かれてたんだろう…全部、ですけど…いろんなミュージシャンがいる中で、峯田さんはたとえ傷だらけになっても、むき出しだったし本気だったんですよね。その切実さに胸が打たれたんだと思います。
松坂 : ボロボロだったけど、カッコよかったよね。
仲野 : 一歩間違えたら引いちゃう人もいると思うんですよ。でも、峯田さんはボロボロだけど輝いていた。不思議な魅力ですよね。
― ああなりたい、と思うことはありましたか?
仲野 : 憧れはしたので、峯田さんのそういう精神が自分の中にあるかもしれないですけど、なれるとは想像もしたことがなかったですね。峯田の…峯田って言っちゃうけど(笑)。
松坂 : 友だちなの(笑)?
仲野 : ファンからしたら、峯田さんは“峯田”なんですよ。
松坂 : そうなんだね、好きなのが伝わってくるよ。
仲野 : “峯田”に夢中でしたね。
松坂 : 僕もそういう存在がいて、BUMP OF CHICKENの藤原基央さんがすごく好きでした。アルバムを買って聞いたり、ライブのDVDを何度も見返したり。ライブ途中のMCで全然喋らないんですけど、最後の最後にボソッと一言伝える感じがめちゃくちゃカッコよかったんですよね。藤原さんのような人を他に見たことがなかったので、僕にとってはカリスマ的存在で、BUMP OF CHICKENへ夢中になりました。
仲野 : どのくらいの時の楽曲が好きですか?
松坂 : 2000年代初頭の、楽曲なら「車輪の唄」が好きだった。当時はもっと暗い曲もあったんですよ。歌詞の意味が、一度“潜っていく”ような感覚になるというか。
仲野 : 潜っていく感覚、わかります。
松坂 : “潜ってる中の俺たち”みたいな。息を潜めて、自分の中に入り込んでいく感じが当時の僕にすごく響きました。
― 松坂さんも“潜りがちな”性格だったんですか?
松坂 : そうかもしれないですね。でも潜ることって決して後ろ向きなことではなくて、潜る人なりの“あがき方”みたいなものがあるんです。それを歌にしたりバンドという活動を通して表現したりしていたのがBUMP OF CHICKENで。同士と曲を作って、仲間で暴れている感じに僕は憧れていました。
だけど、「あんな風になりたい」とか「なれる」とは考えたこともなかったですね。藤原さんは唯一無二の存在だからその者にはなれないけれど、どこかで影響を受けているかもしれません。RADWIMPSさんとか米津玄師さんとか、BUMP OF CHICKENに憧れたとおっしゃっていますけど、みなさんそれぞれ独自の世界観を創りあげられていますよね。
― 人以外で、今の自分を形作っているものはありますか?
仲野 : やっぱり…映画になっちゃいますかね。
松坂 : そうだね…あと、最近はネットショッピングに助けられていますね。
仲野 : その角度ですか?(笑)今の自分を形作っているという意味ですか?
松坂 : うん。コロナ禍で、外出ができないからネットショッピングにめちゃくちゃ頼っていました。いろんなものを買いましたね。本とかDVDとか。
仲野 : そうなんですね。
松坂 : ネットで購入すると、「あなたへのおすすめ」「この商品を見た後に買っているのは?」と表示されるじゃないですか。自分の生活が何で形成されているかわかるなと思ったんですよね。
― 意外な切り口でした(笑)。生活の基盤となっているものを考えることで自分の興味や思考が、どこに向かっているのかわかるかもしれません。
松坂 : 最近買ったものだとNintendo SWITCHの「マリオカート ライブ ホームサーキット」。
仲野 : やっぱりゲームなんですね。
松坂 : 最新のやつ、知ってる? Switch本体がラジコンのようになっていて、自分の部屋でコースを作って走らせることができるの。
仲野 : 部屋にペットボトルが置いてあったら、それも障害になるってことですか?
松坂 : そうそう。自分でコースを作ることができるんだよ。リアルだし、性能も高くて感動しました。
仲野 : すごいおもしろそうですね。取材終わったらすぐに調べます。やっぱり、桃李くんはゲーム感度が高いですね。
松坂 : アンテナ張ってるからね。最新のゲームは、必ずチェックします。
仲野 : そういう視点だと、僕の場合はYouTubeですかね。見ない日はないです。よく見るのは、朝倉未来さんのチャンネル。スパーリングとかケンカ自慢とか、カッコいいんですよ。知ってます?
松坂 : 知ってるよ! リアルな『ファイト・クラブ』(1999)みたいなことが繰り広げられているよね。
― 朝倉未来さんは、総合格闘家の方ですね。YouTuberとしても、積極的に自身の練習風景などチャンネルに挙げられています。
仲野 : 登場する人が本気だから、その様が見ていて気持ちいいんですよね。あとは、オリエンタルラジオ・中田敦彦さんの『YouTube大学』。紹介するテーマもバラエティに富んでいて、睡眠やアンガーマネジメントについて、サスティナブルやビーガンなど。それを2倍速で見るのにハマっています。学べるだけでなく、話芸が素晴らしい。いつもニヤニヤしながら見てますね。
― 知識を増やしていきたい、知らない世界を広げていきたいといった気持ちからでしょうか?
仲野 : そういう気持ちはあります。だからいろんな情報をインプットするんだけど、そんなに蓄積はされてないかもしれない(笑)。アカデミックな知識が僕の頭の中を、右から左に流れていってますね。小さく蓄積はされているかもしれないけれど。
松坂 : そうだよ。そうやって勉強することで、どこかでつながっている可能性はあるよね。
松坂桃李と仲野太賀の
「心の一本」の映画
― 先ほど「人以外で、自分を形作ってるもの」を伺った際、仲野さんは「やっぱり…映画になっちゃうかな」とおっしゃっていましたが、最後に、おふたりが夢中になって何度も観返した映画を教えていただけますか? 映画好きなおふたりなので、一本に限らず思いついたものをいくつでも。
松坂 : 一番観返しているということで言えば、僕は『フォレスト・ガンプ/一期一会』(1994)です。
― 以前、インタビューした際も『フォレスト・ガンプ』を「年明けのタイミングで観る」とおっしゃっていましたね。
松坂 : 今も年に一度は必ず観ていますね。時々無性に観たくなる瞬間があるんですよ。
仲野 : 僕は新しい作品をいくつも観たい気持ちが強いので、観返すことは少ないんですけど、『ぐるりのこと。』(2008)は定期的に観ています。
― 『ぐるりのこと。』は橋口亮輔監督の作品で、生まれたばかりの子どもの死に直面した夫婦の10年を描いた物語です。
仲野 : 高校生の時に劇場で観て、すごく胸を打たれました。夫婦を軸に描かれていますが、人と人が寄り添うとはどういうことか、そして人の優しさを感じられる映画で。人間っていいなって改めて思った作品です。
松坂 : 高校生の時に、そういうことで悩んだの?
仲野 : そういうわけじゃないんですけど、あの当時は邦画を食い入るように観てました。掘れば掘るほど、日本には素敵な映画がたくさんあるんだと気づくようになりましたね。
松坂 : 僕はアニメーション作品も好きなんですが、『おおかみこどもの雨と雪』(2012)は繰り返し観ますね。観終わった後に、プレゼントをもらったように感じられる映画なんです。
最終的に主人公のふたりがそれぞれの選択をするんですけど、差別がある社会も含め、「どんな在り方でもいいんだよ」というフラットな世界線が描かれているところに感動します。自然を目一杯感じられる作画も癒されるので、「何かいいアニメ作品がないか」と聞かれたら絶対にこの作品をお勧めしています。
仲野 : アニメーションつながりだと、最近観た作品で『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』(2020)にはめちゃくちゃ感動しました。
松坂 : おお、京都アニメーションの新作だ! やっぱり面白いんだ?
仲野 : めちゃくちゃ良かったです。ジブリや有名なアニメ作家さんの作品以外だと、正直僕はほとんどアニメ作品を観なかったんですね。漫画も読まないからあまり詳しくないこともあって、僕のような保守的な人間だと、アニメはどれから観ていいのかわからない。でも、今アニメーションの力ってすごいし、勉強しようと友人に連れて行ってもらったんです。
― 『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』は、元軍人である女性が手紙の代筆業を通じて愛を知っていく、京都アニメーション制作の物語です。アニメシリーズの集大成として、劇場版が公開されました。
仲野 : 僕はアニメシリーズを一切観ていなかったのに、今年一番泣いちゃいました。たくさん邦画を観た一年だったんですけど、その圧倒的な表現力の高さに胸が震えて。「アニメーションってここまで来てるの!? 嘘でしょ!」と思いました。
松坂 : 京アニの作品はすごいよ。作画の力が桁違いだから。しばらく作品を作れなかったことで、時間はかかったけれど評判がめちゃくちゃ高いよね。
仲野 : アニメファンからはすごく尊敬を受けている制作会社だということを聞いて。
― 京都アニメーションは、京都府宇治市にあるアニメ制作会社です。劇場版アニメでは『涼宮ハルヒの消失』(2009)、『けいおん!』(2011)、『聲の形』(2016)、『リズと青い鳥』(2018)などを手がけています。
仲野 : 作者の熱量と作画の美しさ、何より脚本の素晴らしさに心から感動しました。登場人物の表情も、「これを俺たちはやりたいんだ! 」と役者としては嫉妬してしまう模範解答のような表現で。
松坂 : その表情をされたら、僕らは勝てないよね。
仲野 : 勝てないですね。
松坂 : 勝てないよね。わかる。アニメの可能性はそこにある。
仲野 : あそこまでアニメで表現できたら、僕らがいる実写の世界は奇跡とか事件とか予測不可能なものが映っていないと映画として勝てないんじゃないかとさえ思いました。作品の良し悪しは勝ち負けじゃないけれど、実写として何をしたいのか考えさせられるほど、素晴らしい作品でしたね。普段アニメーションを観ない人でも、この作品はぜひ観て欲しいです。
※ASAYAN …小室哲哉やつんく♂などのプロデュースで、モーニング娘。など数多くのアーティストやタレントを輩出した「夢のオーディションバラエティー」番組。
◎『あの頃。』原作