目次
ホラー映画との出会い
― 今作を拝見して、小さい頃にホラー好きの父親に連れられて、夏休みにホラー映画を観に行ったことを思い出しました。私自身怖いものが大好きというタイプではなかったので、幼心に「なんでこんな怖いものをわざわざ観に行かないといけないのかな」と思っていて。
白濱 : めちゃくちゃわかります。
清水 : まっとうな反応です。
― 当時は「学校の怪談」が流行って、ドラマや映画になっていたので、よく観たのですが…
白濱 : あー! やっていましたね。
清水 : はいはい、流行っていましたよね。
― はい。その影響で学校のトイレが怖くなってしまって。友だちに付いてきてもらっていたのを思い出しました。
白濱 : わかります。当時の感じですよね。
清水 : うらやましいです。その感覚が、もう僕にはないから(笑)。
― (笑)。お二人にも幼い頃を思い出していただきたいのですが、お二人は幼い頃からホラーに親しんでいたんですか。
白濱 : 僕は子どものときから、怖いものが割と平気でした。もちろん怖いんですけど、興味の方が勝ってしまうタイプで。清水監督の『呪怨』(2003)も、小学生の時に親がレンタルしてきたのを、姉と観ました。
― 小学生ですでにご覧になっていたんですね。
白濱 : 『リング』(1998)や『仄暗い水の底から』(2002)も、「怖い!」って言いながら観ていましたね。
― 学校で友だちと怖い話をすることもありましたか。
白濱 : 大好きでした。肝試しが大好き(笑)。夏休みに夜の学校に泊まる行事があったんですよ。同級生みんなで学校に泊まって教室で雑魚寝するんですけど、それが楽しくて。
清水 : めっちゃ楽しそうだな。
白濱 : 理科室行こうぜ! とか言って(笑)。途中でみんな逃げて誰もついて来なくなるんですけど、それでも頑張って理科室まで行こうとしたり。
清水 : 行った証拠を取ってこないとダメ、とかね。
― すごく健全に“ホラー”を楽しんでいたんですね。
白濱 : 僕が小さかった頃って、夏になるとテレビでホラーを特集していたり、小学校の高学年の頃には「ほんとにあった怖い話」のレギュラー放送が始まったりして、身の回りにホラーがあふれていて、幽霊がカジュアルな存在だったんですよ。
ホラー映画も、一つの趣味のような感覚で観ていましたね。
清水 : 僕は怖い話を集めた児童書や漫画、小説は好きだったんですけど、読んだり見たりすると最後、寝られなくなってしまうような、神経質な子どもでした。眠れずに布団に潜っていろんなことを想像してしまうのが、怖かったんです。
それで布団の中で「どうしよう、寝られない…」ってなったときに、「幽霊は布団なんかに隠れても入って来られるんじゃ…?」と想像したのが『呪怨』につながっています。そんな子どもだったので、なんでみんなわざわざ、ホラー映画なんて怖いものを観るんだろうと思っていました。
白濱 : いまやホラー映画を代表する監督なのに(笑)!
清水 : とてもじゃないけどホラー映画なんて観たくないっていう感じでした(笑)。でも中学2年生くらいのときにビデオテープが普及し始めて、権利の安い海外のホラー映画やポルノ映画がどんどん日本に入ってくるようになったんです。
それで友だちに「おまえ、映画が好きなくせにホラー映画をバカにすんなよ。観た方がいいよ」と言われて、「マジかよ、なんでこんな怖いものをわざわざ観んの」って思いながらも、少しずつ観るようになって楽しみ方を知り、慣れていったんですよね。
― それまでよりも、ホラー映画を観る機会が増えたんですね。
清水 : 機会が増えたどころかホラー映画初体験でした。で、映画の幅を知り、映画の世界全般に憧れるようになっていきました。その頃は金曜ロードショーや日曜洋画劇場で、夜9時から結構エゲつないものもやっていて。『13日の金曜日』シリーズ(1980)なんかは若者向けに作られていて、刺激的な怖い場面もあれば、ちょっとエッチなシーンも観られたりして(笑)、当たり前のようにハマっていきました。
清水 : 弟と2人で「またやるぞ、観よう!」って言って。で、少し成長すると…描写の派手な作り物の刺激だけでない、心理的に訴えかけ、余韻を引き摺る怖さや感動を欲するようになって、映画偏差値や鑑賞眼も上がっていった気がしています。
― 世代もありますが、監督と白濱さんとではホラー映画との出会いが違っていて面白いです。監督は、怖さの余韻がすごく続くタイプなんですね。
清水 : そうですね、僕は想像もお酒も引きずっちゃうタイプなので(笑)。
― 「余韻を残す、想像をさせる」ということが、怖さの本質なのでしょうか。
清水 : ホラー映画で本当に怖いのって、観たあとの余韻じゃないですか。観たあと家に帰ってから、お風呂やトイレ、寝る前の一人の時間に、怖かったシーンを思い出してしまったりして。
怖がりだったから、そういうときに映画の描写を思い出して、その思い出したところからさらに発展してオリジナルの展開を自分で妄想しちゃったりしていました。それがもう怖くて。僕は“お土産”って言ってるんですけど、ホラーも含めて映画は“お土産”たる余韻の長引きが強い方が面白しいし、名作が多いんです。
― 想像して、怖さをより膨らませていたんですね。
清水 : でもやっぱり怖いものに興味はあったんですよ。ガキ大将でもあったので、夏祭りでは率先して友だちを集めて肝試しをしたりして。ルールを決めて演出して、「あそこのお墓まで行ってタッチして証拠にこれ持ってくる」って指示を出すんですけど、指示を出している側は行っていないことに誰も気がつかない(笑)。
白濱 : たしかに!
清水 : 仕掛ける側だと楽しいってことにも気がついて。だから映画監督をやっているのかもしれないですね。
日常を丁寧に描くことで、
”異様な怖さ”が浮き彫りになる
― 白濱さんはホラー映画がお好きで、普段からよくご覧になっていると伺いましたが、今回実際にホラー映画に出演してみていかがでしたか。
白濱 : 本当に楽しんで、ワクワクしながら撮影していました! あと脚本読んだときに、「これはホラー映画ファンの方にも喜んでもらえる作品になるな」と思いました。
― どういうところにそう感じたのでしょうか。
白濱 : なんですかね…「セーラー服を着たおかっぱの女子中学生の幽霊」って、意外と最近なかったよなと思って。すごく久しぶりで、逆に新鮮に感じるなと。もしかしたらいまの子たちって、「トイレの花子さん」みたいな、僕らが育ってきたときに観てきた“怖いもの”に触れていないのかもしれないなと思いました。
白濱 : それも含めて、「平成感」のある怖さというか、少しジトっとした感じを脚本のプロットから感じていたので、楽しみでしたね。
清水 : 出ていただいた方にそう言っていただけるのは、嬉しいですね。しかも、亜嵐君がホラー映画を好きで結構観ていると聞いていて、現場でも「楽しみです!」と言ってもらっていたので、作り手としてはプレッシャーも相まって、初号試写が一番緊張しました(笑)。
― ハードルが上がりますよね。
清水 : 今回はGENERATIONSのみなさんに本人役で出てもらって、LDHの実際のリハーサルルームも使わせてもらったりしたので、それもまた緊張しましたね。
清水 : でもそうすることで、彼らの日常風景を自然に、リアルに感じてもらうことができました。そうやって日常風景がリアルに感じられないと、怖さも引き立ってこないので。そこはメンバーの皆さんに自然にやってもらえて良かったですね。
― その“怖さ”に関して、清水監督はこれまで、『呪怨』をはじめ『輪廻』(2005)『犬鳴村』(2020)など、たくさんのホラー映画を創ってこられていますが、「ジャンプスケア(※)よりも、ゾクっと来るような怖さを大切にしている」と仰っているのを拝見しました。
清水 : 自分がホラー映画を苦手だった頃のことを考えても、「ジャンプスケア」は大事なんですよ。「ギャーッ」ってなるところは印象に残るので、それで観てくださる方も覚えてくれていたりするし、「もう一回観ようかな」にもつながるし。
だから大事なんですけど、作る側にまわると「ジャンプスケア」ってすごくシンプルで単純な怖がらせ方なので、あまり上質な感じがしないんですよね。ぶっちゃけ特別なセンス無くても、どんな監督にでも作れるありきたりな手法な気がして。
― 観ていると派手な演出に感じるので、「シンプルで単純なもの」というのは意外です。
清水 : たとえば、誰かの視点が近づいて、音楽で盛り上げて、恐る恐る振り向いたら……友だちでした、みたいなこけおどしのシーン。よくありますけど、友だちならもうちょい遠くから声かけろよ! とか、他愛ない突っ込み入れたくなっちゃうし、わざとらし過ぎるのが恥ずかしい(笑)。
― 普通に名前を呼びますよね。
清水 : 冷静に突っ込んじゃう部分があって。だから「何も起こっていない日常のはずなのに、この異様な空気感は何だろう…」って怖さの方が、僕は好きなんですよね。派手なものを観すぎて、飽きてきた頃に『シャイニング』(1980)に出会ったのも、大きいのかもしれない。
― 『シャイニング』はスティーブン・キングの小説をスタンリー・キューブリック監督が映画化した名作ホラーですね。
清水 : この異様な怖さはなんだろうと感じたり、その監督にしか作れないものが出ている映画が好きなんでしょうね。でもやっぱりジャンプスケアも大切なものだし、バランスが大事だと思います。
白濱 : 確かに『シャイニング』は、“ビックリ!”というよりは“空気感”が怖いですよね。
― “怖さ”について加えてお聞きしたいのですが、今作を拝見しながら、人はやっぱり怖いと思ってもその怖さの正体を確認しないと安心できないんだなと感じました。劇中でもメンバーのみなさんそれぞれが、少女やその家族の霊に遭遇するシーンがあって、その度に「絶対に怖い! もう逃げて!」と思っていたんですけど(笑)。
白濱 : でもやっぱり、自分の目で見ないと…ですよね?
― そうなんですよね。自分だったとしても確認してしまうなと思って。そんな、「確認したい、見たい」という人の気持ちも大切にされているんじゃないかなと思いました。
清水 : これまで何度か、「暗闇で物音がするのを、なんでわざわざ怖いのに確認しに行くんですかね。まあいっか、ホラーだし」と出演者の方に言われたことがあって。それは僕、「ちょっと時間下さい」ってなりましたね。
白濱 : (笑)。良かった、そういうことがなくて。
清水 : その気持ちで演じたら、お客さんにもバレますよね。観客にもスタッフや共演者にも映画作品そのものにも失礼過ぎる。キャスティング変えようかと思う位ショックだったし、こんな人がプロでやっているって事に呆れました。
だからそうじゃなくて、「怖いからこそ確認しなきゃ安心できない」って方向に心情をもっていって欲しいんですと説得したことはあります。演じてもらう上で大事なのって、そこじゃないですか。もちろん前提として、お客さんはホラー映画だと知っていて観にきてくださるんですけど、だからこそ、リアリティを感じてもらわないといけないので。
― 「確認したい」っていう説得力は、めちゃくちゃありました。
白濱 : どうしても確認したくなっちゃうんですよね。
清水 : 亜嵐君はもともとホラーが好きで、カジュアルに理科室に行くくらいだから(笑)。
白濱 : だから僕、お化け屋敷も大好きなんですよ(笑)。めっちゃ怖がりますけど、怖い雰囲気が好きなんですよね。追いかけられたら全力で逃げます。
清水 : それが羨ましいよ! 俺は職業病なのか? 冷静に対応し過ぎてしまう。
白濱亜嵐と清水崇の「心の一本」のホラー映画
― お話を伺っていると、お二人とも本当にホラー映画が好きで、たくさん観ていらっしゃることがわかります。
白濱 : いやー、もう観たくて観たくて。ホラー映画が出るペースって、なんでこんな遅いんですかね。いつも楽しみにしているのに。「新作」を紹介するコーナーに新しいホラーが出てきたら、速攻でスクショしますもん。
清水 : 僕なんかより観ているかもしれない(笑)。
― お二人が印象に残っているホラー作品や、ホラー映画のビギナーにもおすすめの作品などあったらお一つ教えていただけますか。
白濱 : 最近、インドネシアの『悪魔の奴隷』(2017)って映画を観たんですけど、マジで怖かったです。
清水 : どういう話なの?
白濱 : 家族のなかで起こる物語で、シリーズで二作あります。パート2の『呪餐 悪魔の奴隷』(2023)ではパート1『悪魔の奴隷』の家を脱出した家族が、みんなで都市部のマンションに引っ越すんですけど、そのマンションのなかでまたいろんなことが起こるんです。それこそビックリ系もありつつ、空気感も怖い作品でしたね。
清水 : 絶対観よう。
白濱 : パッケージは少しB級感があるんですけど全然そんなことなくて、映像も綺麗なんです。
― すごく怖そうですが、ビギナーでも大丈夫ですか…?
白濱 : カジュアルな怖さもあるので、大丈夫かな…?(笑)。でも僕この作品を観たあと、久しぶりに「夜に一人でいるのは無理かも…」と思いましたね。
清水 : それはすごく観たいなあ。
― 清水監督はいかがですか。
清水 : いやもういきなり亜嵐君からコアな2本が出てきたから。1本だって言ってるのに(笑)。
白濱 : いや、シリーズですからね!(笑)
清水 : 僕はなんだろう…ビギナー向けではないかもしれないけど、去年観た『MEN 同じ顔の男たち』(2022)は、印象に残っています。
― 『ミッドサマー』(2019)『ヘレディタリー/継承』(2018)を手掛けた「A24」が、『エクス・マキナ』(2015)の鬼才アレックス・ガーランド監督とタッグを組んだ作品ですね。
白濱 : それ、監督に現場で教えてもらって観ました。めちゃくちゃ気持ち悪かったです。
清水 : 気持ち悪かったよね(笑)。あと最近だと『イノセンツ』(2023)も良かったです。
― 『わたしは最悪。』(2021)で米アカデミー賞®脚本賞にノミネートされた鬼才エスキル・フォクトの日本劇場上映初となる最新作ですね。大友克洋の傑作漫画「童夢」からインスピレーションを得ていて、不穏な予兆と驚きに満ちたサイキックな描写が話題を呼んでいます。
清水 : 今年一番期待していたホラー映画で、物語はほぼ4人の子どもの視点で進むんです。巨大マンモス団地に引っ越してきた、人種の違う5歳から9歳くらいの男の子と女の子の4人の子どもが知り合って、近くの森で遊んだりする…という話なんですけど、善悪のまだはっきりつかない子どもが持つ、ちょっとしたいたずらぐらいの悪意が、だんだんエスカレートして取り返しのつかないことになっていくんです。
白濱 : うわ、絶対に観たい。
清水 : 今回の『ミンナのウタ』でも、中学生の女の子が、純粋に自分のやりたいことや知りたい気持ちの暴走と、それを止めなきゃって理性との間にいて、そんな彼女が物語の怖さの核になるんですよね。
そういった「純粋ゆえの残酷さ」であったり、「純粋ゆえの悪」みたいなところは、『イノセンツ』と『ミンナのウタ』で通じるテーマだと思います。