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優しさは与えること。
自分から向き合っていくこと
― 『旅猫リポート』では、主人公の悟が旅の中で、胸に秘めていた自分の本音を、大切な人たちにまっすぐに伝えていく姿が印象に残りました。福士さん自身は、悟のように本音を周囲に伝えていく方ですか? それとも胸に秘める方でしょうか?
福士 : 以前は胸に秘めるタイプでした。あまりにも自分のことを言わないので、それで周囲の人に心配されるくらい。役者の仕事を始めてからも、自分が人にどう見られているのか、ということを気にしていた時期がしばらくあったんです。でも最近は、あまり自分の中で考えすぎないで、ひとまず相手に伝えてみようと思うようになりました。
― 本音を出せるようになったのは、何かきっかけがあったのでしょうか?
福士 : その方が自然に生きられるし、心が豊かになるなと感じたんです。ここ数年で、いろんな分野の人に会う機会が増えたので、その影響もあるかもしれません。お互いにリスペクトを持ちながら、それぞれの立ち位置で話をしていく中で、役者としての自分が明確にわかってきたりして。そこから、自分の話もしていこうと思えるようになりました。
― 他の分野というのは、どういうお仕事の方たちですか?
福士 : 本当に色々です。みなさんクリエイティブな仕事をしている方たちなので、視点の違いも面白いんです。例えば、「宇宙」というテーマで話していても、科学者の方は宇宙のことをデータや数字で捉えているし、アート関係の方は表現のモチーフとして見ている。でも自分は、宇宙をテーマにしたらどんな物語が生まれて、どんな登場人物が描けるかなと、やっぱり映画やドラマを軸に考えているんです。
― 違う場所で活躍する人との関わりから、俳優という仕事を客観的に捉えることができたんですね。
福士 : いろんな視点から意見を聞くことができるのは、面白いです。仕事は違っても、自分と重ねられたり、深い部分で共鳴しあえたりすると、その人に対して「本音を伝えよう」と思うようになります。
― 共鳴しあえると、それが心を開くきっかけになるのでしょうか?
福士 : はい。自分は、人間関係の中で、時間の積み重ねをそこまで重視していないのかもしれません。それよりも、密度と深さかなと。誰でも自分の深い部分って、そんなに簡単に人には見せないじゃないですか。誰にでも見せていたら、みんなに入ってこられてしまうので。それでも、「そんな一面があったの?」とか「そこまで考えてたんだ」という部分を相手が見せてくれると、衝撃を受けます。自分も真剣に向き合おう、と思うんです。
― 胸に秘めて見守るだけではなく、そうして本音でぶつかることの「優しさ」が、『旅猫リポート』にもあったような気がします。福士さん自身は、どういう人が「優しい人」だと考えていますか?
福士 : 一概に言い表すのは難しいですが…でも、優しい人って、自分は「与える人」のことかなと思います。悟もそうです。与えるって、「見守る」とか「励ます」とかよりも能動的ですし、変わってほしいとか、そういう気持ちが含まれている気がするので。優しさというのは、自分から向かっていくものかなと思います。
― 福士さん自身も、与えていく人ですか?
福士 : そういう意味では…自分自身はあまり優しくないかもしれません(笑)。声をかけるとか話を聞くとか、そういう表面的な優しさはあるのかもしれませんが、与える、までは到達していないと思います。…あ、でも強いて言うなら、自分は昔から動物には無条件で100%与えます! 以前犬を飼っていたときから、動物にはとことん優しくします。
一生追いつかなくてもいい。
自分の道を照らしてくれる、衝撃の出会い
― 共鳴、というお話が先程ありましたが、お仕事やプライベートの中で、福士さんが深い部分で共鳴することができた相手や、印象に残る出会いはありましたか?
福士 : 早乙女太一さんです。共演をきっかけに、一緒に殺陣の稽古をしたりご飯に行ったりさせて頂いているんですが…お会いしたことあります? いい意味で、変な人じゃないですか(笑)。浮世離れしていることが似合っちゃうというか。一緒にいると、恐怖を感じるぐらい!
― 恐怖…! それは興味深い表現です(笑)。固定概念を、いい意味で崩してくれる存在なのでしょうか?
福士 : そうです。彼の前にいると、自分の発言を一個一個気にしてしまうんです。見透かされている気がして(笑)。でもその中でも、自分の本音を伝えたいということは意識しています。彼は、正直で素直で、ピュアなんです。生き方が本当に面白くて、他にああいう人はいないと思います。でも太一くんの場合は、リスペクトが大きすぎるので、共鳴とはまた違いますね。
― 憧れや目標、ともまた違いますか?
福士 : なんでしょう。一生追いつかなくていいとも思います。自分の生きていく道を照らしてくれる、先生や師匠のような存在です。
― 福士さんにとって、大切な出会いのひとつですね。「出会い」というテーマでもうひとつお聞きしたいのですが、福士さんにとって、大切な映画との出会いはありますか?
福士 : 映画…ここで名前を挙げなくてもいいくらいの大スターですが、ジョニー・デップが好きなんです。すごく個性的なキャラクターを演じることが多いですが、どの作品でもその世界に馴染んでいて、奇抜な役柄の中でも、そのギャップをうまく利用して、悲しみとか切なさみたいな、人間らしい感情を見せるところが魅力的だと思います。
― 福士さんも、ジョニー・デップのように奇抜なキャラクターを演じてみたいという思いはありますか?
福士 : 彼ほど強烈な役はまだ演じたことはないですが、ドラマで二重人格を演じたり、知性のある悪役を演じたりした時は面白かったです。そういう、浮世離れしたキャラクターが、ふとした時に見せる人間味ってぐっとくるし、それを表現することに興味があります。
― ジョニー・デップの出演作で、特にお好きな映画はありますか?
福士 : これも月並みなんですが…『パイレーツ・オブ・カリビアン』のシリーズです。この作品でも、ただかっこいいだけじゃなくて、コミカルな動きもしていて。そういう“ライトさ”が、自分にはないものだなと思います。もちろん、チャレンジしてみたいと思いますが、実際それを演技や現場でなかなか出せないので。魅力的だなと思います。
― 福士さんは、いろんな分野の人に知り合うことで、また、映画を観ることで、表現者としての自分を追求しているんですね。
福士 : 自分の好きなことを、追い求めていると思います。例えば、全体的なバランスを見て、「この役者もこういう役をやってるから、自分も挑戦してみよう」とか、「この仕事をしたら、自分が成長できるかも」とか打算でやるんじゃなくて、自分の内側から出てくる「好き」という気持ちを追求しようと思うようになりました。
熱い想いがあった方が、それを見た人の心も動くし、それが表現するということじゃないかなと。自分の好奇心を追い求めていく中で、好きなものがだんだんと明確にシャープになっていきますし、その瞬間が面白い。それを追い求めていく場所が、自分にとっては映画や俳優という仕事なんだと思います。