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思いを言葉にして伝える大切さと、それを受け止める苦しさと

高畑充希×岡田将生×今泉力哉監督 インタビュー

思いを言葉にして伝える大切さと、それを受け止める苦しさと

他人に不安や不満、価値観のズレを感じても、伝えるのを避けてしまうことがあります。大切な相手ならば尚のこと、今の関係性を守っていきたいがゆえに、本心に踏み込むのを躊躇います。でも、言葉を尽くし、相手と対峙することを諦めない人たちの姿を、作品を通して感じることで、私たちは「その先」の可能性を信じられるかもしれません。
親愛と信頼で繋がっている、だけど一緒にいることが難しくなってきてしまった。結婚7年目を迎えた夫婦が、“婚外恋愛許可制”という秘密の取り決めによって、「二人でいること」に向き合い続ける姿を描いた連続ドラマ『1122 いいふうふ』。現代の夫婦の本音に切り込んだ描写で話題となった、渡辺ペコ原作のコミックを映像化した本作は、相手のことが大切だからこそぶつかり合ってしまう、不器用で真っ直ぐな夫婦を描いています。
この作品で、一子いちこ二也おとやという夫婦を演じた高畑充希さんと岡田将生さん。そして、時に傷つけ合ってしまう二人の会話劇を、繊細にユーモラスに描き出した今泉力哉監督に、対話を軸にしたコミュニケーションや、自分の思いを言語化することについて伺いました。
高畑充希×岡田将生×今泉力哉監督 インタビュー

逃げ場のない状況で向き合うのが、家族や夫婦

今日の衣裳、素敵ですね。まるで、ドラマの中の一子と二也を見ているみたいです。

今泉ドレッシーにも見えるし、カジュアルさもあっていいですね。

高畑これウェディングドレスなんです。もっとブライダルっぽい衣裳も準備してくださってたんですけど、ガチガチのドレスよりこっちの方が作品に合うかなと思って。

岡田確かに。

作品だけでなく、お二人が演じた夫婦のイメージにも合いますね。今作は、仲を円満に保つため“婚外恋愛許可制”を選択した夫婦・一子と二也が、そこから起こる関係性の変化に迷い、悩みながら、「夫婦のかたちとは?」を考える姿が描かれていました。それは二人がこれまでの「夫婦像」にとらわれず、柔軟に関係性を一緒に考えられる二人だったからとも言えると思います。

連続ドラマ『1122 いいふうふ』場面写真
©️渡辺ペコ/講談社 ©️murmur Co., Ltd.

人と人が向き合い、徹底して対話を重ねていくドラマでもありましたが、一子と二也という夫婦の会話、例えばその間合いや掛け合いは、何を起点につくられたのでしょうか?

今泉どうでしたっけ? 撮影からだいぶ時間が経っていて…。

高畑半年以上前の撮影だったんですよね。

岡田そうだったね(笑)。

例えば、第一話で、二也が婚外恋愛の相手である美月(西野七瀬)に会うため、一子との結婚記念日の温泉旅行を「延期したい」と言い出す場面。

高畑和食料理屋さんのカウンターで、並んでお刺身食べてる時の。

今泉あー!!

岡田撮影の初日だ!

初日だったんですね! 「外での恋愛事情は家庭内に持ち込まない」という二人のルールを破ろうとした二也に、一子は「最近なんか雑になってない? 調子に乗ってるっていうか」と不満をぶつけ、婚外恋愛を選択した二人の関係に初めて波紋が広がるシーンですが、二也は不機嫌になる一子にさりげなくお酌をしたりしていて、その後険悪な空気は穏やかさを取り戻していくんです。

岡田そうそう(笑)。

あの一連の会話から、「この二人は、こういう二也のどこか憎めないキャラクターによって、円満に続いてきたんだろうな」と感じました。あの会話はどうやって?

岡田お酌するのは、台本に書かれてましたよね。

今泉書いてありました。妻が脚本を書いたんですけど、不思議な部分ですよね、確かに。

今作は、今泉監督のパートナーであり、映画監督でもある、今泉かおりさんが脚本を書かれています。

今泉あの場面は二也の憎めないキャラクターがよく出ていますよね。一子に「は?」って言われて、あそこまで突っ込まれたら、普通は動揺しそうなものだけど、「あ、ほんとに?」くらいのテンションだし(笑)。

連続ドラマ『1122 いいふうふ』場面写真
©️渡辺ペコ/講談社 ©️murmur Co., Ltd.

高畑そうでした。

岡田僕はあのシーンを初日から撮ることが結構怖かったんですよ。だから、高畑さんや今泉監督と事前にお会いする時間をもらって、撮影に入る前に関係性をつくらせてもらいました。だからこそ、あの自然な空気がつくれたんだと思います。

なるほど、事前に関係性をつくられた上で撮影に臨まれたんですね。

今泉あそこで覚えてるのは、一子が二也に怒って一回険悪になった後に、「よし、じゃあこの話は終わり」と喧嘩モードから切り替えて、再び料理を食べ始めた場面。そこで「美味しい」っていう言葉をどちらから先に言いだすかというのは、結構話したかも。

最初は二也が先となってたんだけど、それだと自分の発言が原因で揉めたのに、さすがに厚かましいかもね、とか(笑)。それで一子が言うことにした。

切り替えた後、二人で刺身を食べて「美味しい」と言い合い、空気が元に戻る感じが、一子と二也らしさが出てましたよね。

連続ドラマ『1122 いいふうふ』場面写真
©️渡辺ペコ/講談社 ©️murmur Co., Ltd.

このドラマには、食事シーンが本当に多く登場しますが、二人で向き合ってお茶を飲んだり並んで餃子を包んだりする時の幸せな空気や、一人でインスタント食品を食べる時の寂しさなど、食卓を通して心情が見えてくる演出が多くありました。

岡田それこそ、食事の時の二人の並び方って、その都度結構話しましたよね?「このシーンはこういう感情だから、向き合うよりも隣に並んだ方がいいかな?」とか。

高畑ダイニングの私が座ってる椅子が、「一人掛け」じゃなくて「ベンチチェア」だったのがよかったですよね。その時の感情によって、二也が隣に座ったり座れなかったり、私が膝を抱えて座ったり、いろいろできて。

向き合うか、隣に並ぶかで、会話は変わってきますよね。

高畑よく食べた撮影でしたよね! すごく美味しかったです、フードスタイリストの飯島奈美さんの料理が。

どの食事も二人が美味しそうに食べていて、一緒に食事をすること、「美味しい」という気持ちを共有することは、二人の中でとても大切にしている時間なのだろうなと感じました。

岡田俳優からすると、食事のシーンって難しいんですよね。食べながらおしゃべりをするというのは普段からしてるはずなんだけど、それがお芝居になると、「このタイミングで口に入れて…」とか考えてセリフが出てこなかったり、ずれちゃったりして。

でも今回は、一連の会話をワンカットで撮ることが多かったからか、食事のシーンでやりづらいことが一切なくて。楽しくおしゃべりしたり、時に喧嘩したりしながら、自然に食べていた気がします。

では「緊張して味がしなかった」というシーンは…?

高畑そういえば、全然なかったです! 全部美味しかった(笑)。

岡田ドラマの中で言ってる「美味しい!」は、全部リアルな「美味しい」だよね。

何度も出てくる、夫婦で「美味しい」と言い合うシーンでは、二人の波長がぴったり合ってましたよね。

今泉ああいう掛け合いも、食べながらのリアルな間でやってるんです。さっきの撮影初日のシーンも、いきなり会話の本題に入るんじゃなくて、「アオリイカっ」「真鯛っ」とか言い合ってる時間がめっちゃある。

それができたのは、時間を贅沢に使える配信ドラマだから、二人のテンポで好きにやってもらうことができました。

今作では、キッチンやダイニングなど、家の中の狭い空間で向き合って会話をするシーンが多くありましたが、そういう逃げ場がない、追い込まれるようなシチュエーションで対峙することは、演じる上でも、より感情が引き出されていくのでしょうか?

連続ドラマ『1122 いいふうふ』場面写真
©️渡辺ペコ/講談社 ©️murmur Co., Ltd.

岡田なんか、その「逃げられない空気」というか、家の中だと「向き合うしかない」というのがあって。夫婦ってそういうことなのかなと思ったりしましたね。人との価値観のずれを合わせていくのは、とても体力がいることなんだなというのは、本当に体感できました。

そうだ、特にあれがすっごい怖かったんだよね、二也が絶対に一子に隠したいと思ってたことがバレた「剣山のところ」。

二也が婚外恋愛関係にあった美月に生花用の「剣山で刺されたことが、一子にバレるシーン」ですね。第4話の、物語中盤のハイライトのようなシーンでした。

岡田最初のリハの時も、一子の目が見れないくらいの緊張感があって…。

今泉ワンカットで一子と二也の会話をすごく長く撮ったところね。

岡田そう!! 恐怖でしかなかった…。

今泉二也の隠していた「剣山で刺された時の血のついた服」が一子に見つかり、そこから二也が問い詰められるシーン。「これは何?」って、服の入った紙袋を二也に見せるだけでもわかるところを、一子が紙袋を逆さまにして、バサバサって中身を落とすのが怖かったよね(笑)。

高畑台本にあの動作が書かれていたわけじゃなかったんですけど、私は読んだ時からそのイメージしかなくて。「怒って」というよりも、二也へシンプルに「問いたかった」というか。

でも怖く見えたみたいで、現場でも、「なんでそうやったの!?」「やべー!」ってみんながざわざわしてるのを感じました(笑)。

会話を軸に二人の関係が大きく動いていく場面でした。剣山で刺されたことを二也が明かした時の「一子の反応」が、二人の関係性をよく表しているなと。予想外だったので、一子の反応に胸がつまりました。

今泉一緒に泣いて悲しむというね。原作では、もっと詳しく描かれているシーンなんですよ。剣山で刺されたことを伝えた時の、一子の反応をいくつかパターン違いで二也が想像する場面が描かれていて。だから、その反応はまさしく二也が感じたであろう気持ちと一緒なんです。

連続ドラマ『1122 いいふうふ』場面写真
©️渡辺ペコ/講談社 ©️murmur Co., Ltd.

今泉あのシーンは、二人の演技が本当に素晴らしくて。今回、感情が荒ぶった方がいいのか、抑えらた方がいいのか、どのシーンでも結構迷いました。

このシーンも、テストよりも本番の方が感情が高ぶっていたので、少し抑えてもう一度撮るか、すごく迷ったんですけど、「きっとこれを撮り直しても、編集の時に俺は最初のを選ぶだろうな」と思ってワンテイクでOKにしました。

つられて二也も泣いてしまうというのは、現場で岡田さんの中から突然溢れてきたものだったんですか?

岡田あれ不思議なんですよねー。よくわかんなかった。

今泉二也、泣きすぎじゃない?(笑)

高畑充希×岡田将生×今泉力哉監督 インタビュー

傷つきすぎないように、全部の言葉を受け止めなくていい

客観的に見ると、二也は“婚外恋愛”などなかなか酷いことをしているのですが、第2話で、一子が自分の母親との関係で心に傷を抱えていることや、夫(高良健吾)が育児に向き合ってくれない美月の孤独が描かれていた時に、どちらを見ても「二也がそばにいてあげて良かった」と思ってしまいました。

連続ドラマ『1122 いいふうふ』場面写真
©️渡辺ペコ/講談社 ©️murmur Co., Ltd.

今泉あーそれはもう、完全に二也ファンになってますね。

高畑二也ファン(笑)。

岡田やったね…。

今泉この前取材してもらったライターさんは、その第2話を見て「二也はサイコパスだ」って話してましたよ(笑)。

岡田あははは!

高畑二也は、見る人によって受け取り方が分かれるんじゃないかな。

今泉一子は原作のイメージ通りだったと感想をもらうことが多いけど、二也は岡田さんが演じることで、間合いとか話し方がより甘い感じになって、それが憎らしく見えるという人も、優しく見える人もいるんだなと思いましたね。

連続ドラマ『1122 いいふうふ』場面写真
©️渡辺ペコ/講談社 ©️murmur Co., Ltd.

岡田でもこうしてインタビューを受けていると、自分の役を良く言おうとしてしまってる自分にだんだん腹が立ってきました(笑)。

今泉はははは! 「俺は悪くない!」って?

高畑現場でもずっと「嫌われたくない」って言ってたもんね。

今泉俺も、基本的には一子のスタンスで現場にいてしまうことが多くて。

5話で、二也が生け花教室を辞めずに続けていて、それを知った一子が二也に怒りをぶつけるシーンで、テストが終わって本番に入る前に、「こんなに一子の気持ちに気づけない二也って、一子にしてみたらやっぱキツいよね。ひどいよね」言ってたら、岡田さんに「監督、僕の気持ちもちゃんと考えてくださいよ!」って言われて(笑)。

高畑岡田さん、二也を守れるのは自分しかいないって思ってたんですよね。

岡田一応頑張ってバランスをとって演じようとしてたんですけど、シーンを撮るごとに、二也として感情が変わっていくのが自分でも面白くて。

連続ドラマ『1122 いいふうふ』場面写真
©️渡辺ペコ/講談社 ©️murmur Co., Ltd.

今泉二人とも、すごいバランスで臨んでくれていたと思います。それにしても、二也が泣きすぎだったけど(笑)。

「二也があんなに涙もろいキャラクターになったのも、岡田さんが本番で自然と泣いてしまったから」だと、今泉監督はコメントされていましたね。

今泉台本の1.5倍くらい泣いてました。後半で、一子に別れたいと言われるようなシーンでは、止まらなくなるくらい泣いてたから、そうじゃないパターンもお願いしようか迷ってたら、岡田さん自ら「すみません、もう一回やらせてください」って言ってくれて。

「あ、伝わってる」と思ったけど、次のテイクも泣いてた。

岡田(笑)!

今泉一子と正面から向き合うとだめだから、ちょっと視線を逸らしつつやってもらうとか、いろいろ考えたよね。

高畑ありましたね。どうやったら泣かせないでできるか、みたいな。岡田さんが、「他の現場では俺は芝居中に泣かないんだ」って言ってたけど、ほんとかなぁって(笑)。

連続ドラマ『1122 いいふうふ』場面写真
©️渡辺ペコ/講談社 ©️murmur Co., Ltd.

岡田それ言った30分後にめっちゃ泣いてたよね(笑)。「なんでなんだ!?」って俺もよくわかんなくて。多分、一子ちゃんのことがすごく好きだったから、傷つけたくないという気持ちになってたんですよね。

あとは、現場のみなさんが本当にいい空間をつくってくださって、その中でお芝居をしていたので、敏感になってたんだろうな…良くないなぁ。

高畑良くないことないですよ(笑)。

岡田初めての体験で、自分でも不思議でした。演じていくうちに、悪い、悪くないっていうことだけで判断できない、二人の関係があるんだろうなと感じて。複雑な二人ですよね。

先ほど岡田さんも「人との価値観のずれを合わせていくのは、とても体力がいることなんだなと体感できた」とおっしゃっていましたが、現実では、関係性を見つめ直すために、ここまで本心に踏み込んでいくということは、なかなか怖くてできないと思います。

高畑そうですよね。

本心を言語化して、対話を通して相手ととことん向き合う、というコミュニケーションを今作の中で体験されてみて、いかがでしたか?

連続ドラマ『1122 いいふうふ』場面写真
©️渡辺ペコ/講談社 ©️murmur Co., Ltd.

高畑確かに、普段ここまで言語化することって中々ありませんよね。私は、結構感情的な人間なので、山の天気くらい気分が変わるんですよ。現場ではそうならないようにしていますが。だから、今の自分の気持ちを全力で言語化しても、1時間後に同じ気持ちかと言われると、ちょっと保証ができないないところがあって(笑)。

だから、「私はこう思うからこうしてほしい」みたいな、自分の気持ちを言語化して相手に伝えるような人生ではなかったかも、と思いました。人と向き合うことって大事なんだなと、今回一子と二也からめちゃくちゃ教わりました。そもそも、気持ちを言語化するのって難しいですよね。

今泉うん。

高畑「うまく言葉にできないけど、こう思うんだもん」ということの方が多い気がします。

岡田僕は、思いを伝えるというのとは逆ですけど、人の言葉を聞き逃さないようにしているせいか、相手の言葉が自分の中に残りすぎちゃうんですよね。

言葉を受け止めすぎてしまう、ということですか?

連続ドラマ『1122 いいふうふ』場面写真
©️渡辺ペコ/講談社 ©️murmur Co., Ltd.

岡田はい。で、勝手に傷ついてるという。この現場でも、一子ちゃんのセリフが結構響いてずっと傷ついてて…。だから僕は、プライベートでも、もっと「聞き逃そう」と思うようになりました。それが、生きていくために僕には必要だなって。

今泉高畑さんの言う、“1時間後に変わるかもしれない”相手の言葉も、岡田さんは真剣に聞き続けちゃうんだろうね。

岡田そうなんです。時には「聞き逃す」ことも大事なことだと思いましたね。

高畑それでひとつ思い出したことがあって。さっき話題に出た、第4話の一子が二也の「剣山」を問い詰めるワンカットのシーンで、監督がしばらく悩んだ感じになった時に「良すぎて、もう一回撮るか迷ってます」って言ったこと覚えてますか?

今泉うんうん。

先ほど、今泉監督が、「感情を抑えてもう一回撮るか迷ったけど、結局OKにした」とおっしゃっていた、長回しのシーンですね。

高畑私は言葉のまま受け取って、「あ、良かったんだな。でも他の可能性もパターンとして見たいから迷ってるのかな」と思ってたんです。でも、後で聞いたら岡田さんは、「ああ言ってたってことは、良くなかったんだと思った」と言ってて(笑)。

同じタイミングで、同じトーンの言葉を聞いたのに、こんなに真逆に受け止めることある? ってびっくりしました。

岡田僕は、“監督は、俺たちにすごい気をつかって「良すぎて」って言ってくれたけど、本当はもう一回撮りたかったんだろうな”って受け止めたんですよね。控室の中で、すごい前向きな人と、すごい後ろ向きな人がいるという(笑)。

高畑充希×岡田将生×今泉力哉監督 インタビュー

今泉なるほど! それめっちゃ面白いですね。正直、もう一回撮るかこのままいくか自分の中に迷いがあったから、映像を何度もチェックしていて。それで、結構二人を待たせちゃったんですよね。その時に、なんとかフォローしなきゃと思って伝えた言葉が、「良すぎて、もう一回撮るか迷ってました」だったんだけど、「“良すぎて”って、疑われる言葉かも…」と自分でも言いながら思ってて。

その通り岡田さんは疑ってたんだね(笑)。一方で全く疑わなかった高畑さん、という。

そのお二人の対比が、直感型で前向きな一子と、細やかで感受性が強い二也という組み合わせのバランスをつくり上げていたのかもしれませんね。

高畑言葉の受け止め方って人によって違うし、あの瞬間ひとつとっても、会話って難しいなって思いました。

高畑充希、岡田将生、今泉力哉の「心の一本」の映画

では、最後にみなさんにとっての「心の一本」の映画を教えていただきたいです。最近ご覧になった映画の中で、特別な記憶として覚えている作品はありますか?

高畑『悪は存在しない』(2024)です。

岡田あぁ!

今泉不思議な映画でした。短編っていう印象の長編というか。

高畑あれが最近私の中でめちゃめちゃヒットでした。本当に面白かったです。

『悪は存在しない』は、昨年のヴェネチア国際映画祭で銀獅子賞を受賞した、濱口竜介監督の最新作ですね。静かな山間の町に持ち上がったグランピング施設の建設計画を起点に、人々の心に波紋が広がっていく様子を描いた作品です。

高畑密閉された映画館にいるのに、あんなに広く自然を身体で感じられる映画ってないなと思って。日光浴しに行ったみたいな気持ちにもなったし、でも最終的にはとんでもなく突き放される映画でもあって。

あんな読後感はなかなかないというか。突き放されすぎて笑っちゃうというか(笑)。

自然の中に突然放り出されてしまったような。

高畑そうなんです。森の中で失踪しちゃった、みたいな感情になって。でもそれも濱口監督が構造を考えてつくっていらっしゃったんでしょうね。それが大変新鮮で。あと、京都の小さな映画館で観たので、その体験も含めてすごく良かったです。旅先で映画を観た、ということが。

今泉京都のどこですか?

高畑えっと、京都シネマです。で、映画館出た後、普段買わないような小物とかいっぱい買っちゃった(笑)。そういう清々しさがありましたね。好きな映画でした。

岡田さんはいかがですか?

岡田もちろん『悪は存在しない』も観てますし、最近では『ありふれた教室』(2024)という映画もすごく良かったです。

『ありふれた教室』は、ある学校で起こった盗難事件が予想もつかない方向へと進み、学校内の秩序が崩壊していく様を描いた、サスペンス作品ですね。第96回アカデミー賞の国際長編映画賞にもノミネートされました。

岡田はい。素晴らしかったです。…でも、今ずっと頭の中に残ってるのは、配信で観た『MEG ザ・モンスター』(2018)なんです。

高畑・今泉

『MEG ザ・モンスター』は、200万年前に絶滅したはずの巨大サメに襲われた潜水艦を助けようと、ジェイソン・ステイサム演じるレスキュードライバーのチームの闘いが描かれたアクション・スリラーですね。

岡田もちろん『ジョーズ』(1975)とかも観てるんですけど、ここ数年そういうのを観てなかったから、すごいワクワクしちゃって。こんなにサメを待って、興奮している自分がいることにびっくりして。

『MEG ザ・モンスター』は、環境問題とかも含まれてる中で、圧倒的なサメの主役感がすごいんです。最後も、巨大サメと戦うジェイソン・ステイサムが素手なんですけど、「マジかよ!!」って(笑)。

今泉あははは!

岡田自分もこういう映画に出たいなって思いました。

高畑サメと戦う岡田将生、観たい!

岡田どコメディになるかもしれないけど(笑)。

高畑本当にサメ映画は、奥が深いからね。『シャークネード』(2013)を観てほしい。

今泉全然知らない(笑)。

高畑私、サメ映画がめっちゃ好きなんですよ。サメ映画しか観てない時期もあったくらいで。だから、海入れないんですよ、怖くて(笑)。

岡田どういうこと!?(笑)

今泉出てきそう、って思っちゃうんだ。

高畑そうなんです。

最後に、今泉監督はいかがですか?

今泉ちょうど昨日、三宅さんの…

高畑・岡田『夜明けのすべて』(2024)!

今泉そう、『夜明けのすべて』を観て。面白かったですね。

PMS(月経前症候群)とパニック障害を抱えた男女が、互いに手を差し伸べていく様子を描いた、三宅唱監督の最新作です。

今泉笑える場所も問題が起きる場所も、本当に静かな山が連なってるみたいな映画だったので、それがすごく良かったですね。三宅さんは元々面識もある監督で、その前の『ケイコ 目を澄ませて』(2022)も好きでしたけど、うん、最近観て一番好きな映画でした。

寄り添い方に、心地よい距離が保たれていましたよね。ポテトチップスの食べ方から、どう見ても恋愛に発展しなさそうな二人の関係性が見えたり。

今泉あそこもすごいですよね! 相手の前で、こんなに美しくない姿が見せられるんだ、というひとつの行動で恋愛感情のなさを示す。素晴らしい演出でした。相手を尊重しつつ、近づきすぎないところが良かったですね。

一緒に帰ってるけど、忘れ物をしたから戻るねとなった時に、普通は待ちそうなところを「じゃあ」って先に帰る感じとか、「さすが、三宅さん!」と思いましたね。でも今日1日中はちょっと、俺の中で『MEG ザ・モンスター』がぐるぐるしそう(笑)。

FEATURED FILM
原作/渡辺ペコ「1122」(講談社「モーニング・ツー」所載)
脚本:今泉かおり 監督:今泉力哉
出演:高畑充希 岡田将生
西野七瀬 高良健吾

吉野北人 中田クルミ 宇垣美里 土村芳
菊池亜希子 内田理央 芹澤興人 前原滉 橋本淳
市川実和子 片桐はいり 森尾由美 宮崎美子/成田凌/風吹ジュン

主題歌:『i-O (修理のうた)』スピッツ(Polydor Records)
企画・プロデュース:佐藤順子
製作・著作:murmur 制作プロダクション:Lat-lon
Prime Videoにて世界独占配信中!
(c)渡辺ペコ/講談社 (c)murmur Co., Ltd.
PROFILE
俳優
高畑充希
Mitsuki Takahata
1991年生まれ、大阪府出身。
13歳で女優デビューを果たし、2007年から2012まで6年間にわたってミュージカル「ピーターパン」で8代目ピーターパン役を務める。その後「ごちそうさん」(13/NHK)や「とと姉ちゃん」(16/NHK)ではヒロインに抜擢された。近年の主な出演作にドラマでは、「過保護のカホコ」(17/NTV)、「ムチャブリ!わたしが社長になるなんて」(22/NTV)、「unknow」(23/EX)など。映画では『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』(18/前田哲監督)で第43回日本アカデミー賞最秀助演女優賞を受賞し、『ヲタクには恋は難しい』(20/福田雄一監督)、『キャラクター』(21/永井聡監督)、『怪物』(23/是枝裕和監督)、『ゴールデンカムイ』(23/久保茂昭監督)など多数出演。また現在放送中のNHK大河ドラマ「光る君へ」(24)に藤原定子役として出演中。
俳優
岡田将生
Masaki Okada
1989年生まれ、東京都出身。
2006年にデビューを果たし、初主演作『ホノカアボーイ』(09/真田敦監督)や『重力ピエロ』(09/森淳一監督)などで国内映画賞の新人賞を多数受賞。『告白』(10/中島哲也監督)と『悪人』(10/李相日監督)で日本アカデミー優秀助演男優賞を受賞し、その後もNHK大河ドラマ「平清盛」(12)、TVドラマ「リーガル・ハイ」(12,13/CX)、「ゆとりですがなにか」(16/NTV)、NHK連続テレビ小説「なつぞら」(19)、「大豆田とわ子と三人の元夫」(21/CX)、「ザ・トラベルナース」(22/EX)など映画やドラマで幅広く活躍。近年の映画出演作に『ドライブ・マイ・カー』(21/濱口竜介監督)、『1秒先の彼』(23/山下敦弘監督)、『ゆとりですがなにか インターナショナル』(23/水田伸生監督)、『ゴールド・ボーイ』(24/金子修介監督)など多数出演。2024年8月23日には『ラストマイル』(塚原あゆ子監督)、11月には『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』が公開予定。
監督
今泉力哉
Rikiya Imaizumi
1981 年生まれ、福島県出身。
2010 年『たまの映画』で商業監督デビュー。13 年『こっぴどい猫』でトランシルヴァニア国際映画祭最優秀監督賞受賞。主な作品に『サッドティー』(14)、『愛がなんだ』(19)、『his』(20)、『あの頃。』(21)、『街の上で』(21)、『窓辺にて』(22)、『ちひろさん』(23)など。また「時効警察はじめました(19/EX)や「杉咲花の撮休」(23/WOWOW)にも演出として参加するなど、精力的に活動している。最新作の映画『からかい上手の高木さん』が絶賛公開中。
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