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透明人間だった私の輪郭が見えてきた
― 『Diner ダイナー』は「殺し屋専用の食堂」が舞台です。見た目も性格も強烈な個性を持つ殺し屋たちの中で、玉城さん演じるカナコは、唯一何の取り柄もない「普通の人物」として描かれていました。自分の存在意義を見出せず、友達もいない孤独な女性でしたね。
玉城 : 観客が一番感情移入しやすい役が、カナコなんじゃないかと思ったんです。彼女のように「誰からも必要とされていない。透明人間だ」と感じることは、思春期や大人になってからもふとした時に、誰もが感じることではないかなと。
― 監督の蜷川さんは、カナコの年齢を原作の30歳から20代に変えた理由として「もっと現代の若者が抱えている悩みや辛さを背負える役にしたい」と、おっしゃっていました。また、その役に玉城さんをキャスティングした理由として「あんなに可愛い子なのに、生きるのが辛そうな感じがしていたので、カナコの人生を背負ってもらえるのではないかと思ったんです。」とも語っています。
玉城 : いまの時代ってインターネットで誰でも簡単に繋がれる反面、特に若い世代はカナコのように存在意義を見失って、虚しさや孤独を抱えている人が多いと思います。私自身も、自分の無力さや居場所のなさを感じることはあります。それは、仕事を始める前も思っていたけれど、始めてからより一層強く感じるようになりました。「これからどう生きたらいいんだろう」と思う時もよくあるし。
― それはなぜでしょうか?
玉城 : 俳優という仕事は、一人でいる時と人前に立つ時とのギャップが大きいからかな…。その差を埋められない時にも感じるし、携わった作品が終わるごとにも感じますね。例えば、映画だと俳優やスタッフなどが一定の期間集まって撮影し、それが終わると一斉にバラバラに散ってしまう。それぞれが違う旅に向かうような気分になるので、孤独を感じるというか。でもそれは、この仕事の面白みと表裏一体でもあるんですけど。
あと、今回の豪華なキャストの中に放り込まれた私の気持ちと、普通の存在だったカナコが非日常な世界に足を踏み入れてしまった気持ちもリンクしているところがあって。
― 元殺し屋で天才シェフ・ボンベロを務めた主演の藤原竜也さんなど、豪華なキャストの中での撮影はいかがでしたか。
玉城 : 藤原さんが堂々と、みなさんを引っ張っていく様子が印象的だったんですけど、あるインタビューで「ボンベロという役がわからなかった」と話されていて驚きました。現場ではそんな様子を全く感じさせなかったどころか、むしろこの役は藤原さんにしかできないと感じていたので。それを周りに感じさせないのは、本当にすごいと思います。
キャストのみなさんとは、忙しい撮影スケジュールの中でもコミュニケーションを取り合っていましたね。武田真治さんは、休憩中もずっと筋トレをされていて。私はその様子を横目でチラチラ見たり(笑)。蜷川監督の作品に参加するだけでもプレッシャーなのに、この豪華なキャスト陣の中でやっていけるのか、ヒロインのお話をいただいた時は嬉しさより不安の方が大きかったです。
― 蜷川さんは、「ティナとなら心中してもいい」とおっしゃったそうですね。
玉城 : その「心中できる」という言葉は、私にとってこれまでにないほどインパクトが強くて、撮影を終えた今でも思い返します。蜷川さんの覚悟がひしひしと伝わってきたから、私もその意思に沿うように演じ切りたいと強く思いました。
蜷川さんは現場で決して弱音を吐かずに、常に明るい雰囲気を作り出してくださったので、そのポジティブな空気に影響され、私もどんどん前向きになっていきました。その姿勢で撮影に臨めたことが、役を演じきる上で大きな力になったと思います。
― 玉城さんが初めて蜷川実花さんとお仕事をされたのは、モデルを始めた14歳の時と伺いました。
玉城 : 私は14歳の時に、この仕事を始めるために沖縄から上京したんです。それは、私の人生の中でとても大きい変化で、その時に「ここで生きていくしかない」と覚悟が決まりました。
その14歳の時から蜷川さんとお仕事をさせていただき、こうして20歳というタイミングで蜷川さんの『Diner ダイナー』という作品を経験できたのは運命だと思います。14歳の時にはわからなかったことでも、今回のように年月を経て「私はこう思っていた」と伝えてもらえることで、自分に気づくことがある。そうやって監督や共演者の方など様々な人との出会いを重ねて、自身の輪郭ができあがってきたと、カナコを演じることで改めて感じることができましたね。
玉城ティナの「心の一本」の映画
― 玉城さんのSNSを拝見すると、よくプライベートで映画を観られているようですが、その中でも「心に残る一本」はありますか。
玉城 : えっ、難しいな……映画を観た本数は多いと思うんですけど、私にとって映画を観ることは日常に欠かせないもので、当たり前のことだから……「心に残る一本」とか優劣をつけるようなものではないかもしれません。
― なるほど。映画が日常の中に溶け込んでいるわけですね。
玉城 : 最近は家で観ることが多いのですが、ネット配信でも観ますし、「この映画いいよ」って友達に勧められる作品やネット配信にない作品はDVDを買うこともあります。そうやって、休みの日に「何しようか?」となると、気づいたら映画を観ていることが多いですね。
― なぜ、映画を観る時間を大切にされているのでしょうか。
玉城 : 私という存在が見えやすくなるからかな。例えば、「監督はなぜこの場面から撮り始めたんだろう」と考えることで、自分がどういう視点でものを捉えているかがわかるんです。
― 最近はどんな作品を観られましたか。
玉城 : 今年のカンヌ国際映画祭でポン・ジュノ監督がパルム・ドールを受賞されたので、過去作の『ほえる犬は噛まない』(2000)や『殺人の追憶』(2003)を観返しましたね。
玉城 : あと、最近はアジア映画をよく観ていて、エドワード・ヤン監督やツァイ・ミンリャン監督などの作品も観ました。イ・チャンドン監督の作品も好きです。そういえば、『シークレット・サンシャイン』(2007)は、すごく好きな映画でした。『バーニング 劇場版』(2019)も好きだったな…。女性の描き方が好きなんです。こうやって話していると思い出しますね(笑)。