目次
移り変わる「街の記憶」
― 今作は、下北沢を舞台に、そこで住んでいる人や働いている人たちが描かれていましたが、皆さんは生活するなら「こんな街がいい!」などありますか?
穂志 : 住むなら、外で遊んでいる子供の声が聞こえる公園とか小学校が近くにあると嬉しいですね。小学校とか。あと、街を通る人がせかせかしてないところがいいですね。住民の表情とか、歩くスピードとかを見てしまうかも。私、千葉県出身なんですけど、千葉の人に似た顔つきの人がいると安心するかも…。
一同 : (笑)
萩原 : 「千葉の人」特有の顔つきがあるの!?
若葉 : それって「千葉に住みたい」でいいんじゃない?
穂志 : 都内に住むとしたら! あんまりせっついてない、ゆったりした雰囲気のところがいいっていうことです(笑)。
若葉 : 僕は住むならライフのある街が良いですね。
― 近畿や関東圏を中心に展開されているスーパーマーケットの「ライフ」ですか?
若葉 : ライフって、お惣菜が美味しいんです。よくそこで買って、家に持ち帰って食べるんで、ライフが家の近くにあると良いなって思います。
穂志 : 江頭2:50さんも同じことおっしゃってました! ライフのお惣菜よく食べるって(笑)。
萩原 : 私は銭湯です。サウナがあるから。
若葉 : 岩盤浴とかじゃないの?
萩原 : いーじゃないですか!「サウナー」(サウナ愛用者の事)が今流行ってるんです。
若葉 : へー、そうなんだ。
萩原 : サウナには週3、4回ぐらい行っていて。なんか落ち着くんですよね。わざわざ電車乗って行ったりもします。でもやっぱり家から一番近いサウナには、行けるなら2日に1回は行きたい。
一同 : へー!
萩原 : サウナに入りながら考え事してる時間が好きで。あと、汗を出している時が一番健康になってる気がする。お酒飲んだりとか、不健康なことも楽しみたいんで(笑)。だから、一旦サウナで健康になって、その後にお酒飲んで。で、またサウナ行って…っていうサイクル。
若葉 : おっさんや…(笑)。
中田 : 私は今、都心に比べておじいちゃんおばあちゃんが多く暮らしているような、大きい商店街がある街に住んでいるんですけど、すごく気に入ってます。地方から上京してきたので、東京って物騒なイメージがあったんです。でも、商店街があれば夜でも電灯が点っていて安心する。次も引っ越すなら、商店街があると街がいいなって思っています。
若葉 : その商店街ではどういうお店に行くの?
中田 : お店はあんまり行かずに、その商店街を“通る”のが好きなんですよね。「あのたこ焼き屋さん、あんまりお客さん入ってないけど大丈夫かな?」とか思いながら…。
萩原 : 買ってあげて!(笑)
古川 : 私は、カフェが欲しいな。個人で経営してるようなカフェ。あんまり混んでいなくて、ゆったり自分の時間をくつろげるような空間だったら、なおいいなー。考え事したい時とか、本読みたい時とかに行きたくなるような、行きつけにできるカフェがあったら、その街はいい街だ! って思います。
― 今作の劇中にも、登場人物たちをつなぐひとつの場所として、下北沢にある個性的なカフェやバー、居酒屋などの飲食店が沢山出てきました。「Propaganda」や、シンガーソングライターの曽我部恵一さんがオーナーを務める「CCC(CITY COUNTRY CITY)」などは、まさに古川さんのおっしゃるような場所でしたね。
萩原 : 私は今回の舞台のひとつでもある居酒屋の「にしんば」に最近よく行ってます。
― 劇中で、登場人物たちの打ち上げ場所になっていた、創業40年以上になる老舗の居酒屋ですね。実際に、劇団や映画祭などの打ち上げ場所としてもよく使われていると伺いました。お店の壁にはライブや映画、演劇などのチラシやポスターが沢山貼られていて、様々なカルチャーが生まれる下北沢ならではの場所だと感じます。
穂志 : 撮影終わりにみんなでご飯食べに行こうってなったら、今泉監督がすぐ「にしんば」ってお店の候補を出してたよね。
萩原 : 隣の席との距離が近いはずなんだけど、程よくガヤガヤしてるので、ちゃんと自分たちのプライベート空間が生まれるんですよ。だから、すごく居心地が良くて。今まで下北沢にはあんまり行ってなかったんですけど、撮影後は週1、2ぐらいで行ってます。
穂志 : 私もまた「にしんば」行きたい。何でも美味しくて。色々食べてみたいです。
中田 : 「珉亭(みんてい)」に行きたい! 私はお店の前で撮影をしたんですけど、店内には入ってないんです。でもメニューはしっかりチェックしたんで、次は食べに行きたいですね。ピンクのチャーハン食べてみたい。
― 「珉亭」は、かつてミュージシャンの甲本ヒロトさんや俳優の松重豊さんなどがアルバイトしていたという事でも有名な、老舗中華料理屋です。お店が映画の撮影に協力するのは『街の上で』が初めてだそうですね。
若葉 : 僕も「珉亭」よく行きます。ピンクのチャーハンはあの店の看板メニューだよね。
― 若葉さん演じる荒川青がお店でラーメンを食べているシーンがありましたが、ピンクのチャーハンは、どんな味なんですか。ちょっと辛そうな…。
若葉 : 全然辛くないですよ。チャーハンに入ってるチャーシューの色がご飯に馴染んで、全体がピンク色になってるんですよ。ラーメンとそのチャーハンがセットになってる「ラーチャン」が人気あるみたいです。
古川 : 私は今回、古本屋の店員役だったんですけど、その時の撮影場所だった「古書ビビビ」という本屋さんにはもう一度行きたいです。
― 幅広い品揃えと自費出版物やZINEなどの独自のセレクトでファンが多い本屋さんですね。下北沢の観光スポットのひとつとしても有名です。
古川 : 撮影中に『調理場という戦場』(斉須政雄著)という本をお店で見つけて、思わず「この本知ってる」って言ったら、店長さんがご好意で私にくださったんです。それが、すーっごく面白くて! 日本を代表するフランス料理のシェフである斉須政雄さんという方が、23歳の時に単身でフランスに渡り、下積みをしていた修行時代の話なんですけど、自分自身で人生を切り拓いた方なので、それぞれの言葉に説得力があって凄く励まされたんです。「私も頑張ろう」って。だから、そのお礼を店長さんに伝えたくて、「古書ビビビ」に改めて伺いたいなと思っています。
映画というフィルターを透して見えてくる「街の魅力」
― 今皆さんにお話しいただいたように、『街の上で』を観ていると下北沢という街や場所を、登場人物たちを通して新たに体験しているような気持ちになります。そのように、劇中の舞台となった街や場所に「住みたい!行ってみたい!」と感じた映画はありますか?
若葉 : 高円寺が舞台になっている、田口トモロヲ監督の『アイデン&ティティ』(2003)ですね。近くに住んでた事があるんで、「あ! 高円寺のあそこだ!」とか、「あの店もう無いんだよな」とか、自分の記憶と重ねながら観ていました。
― みうらじゅんさんの実体験をもとに描かれた、漫画『アイデン&ティティ』が原作となっている作品ですね。日本で80年代後半から90年代初頭に起こったバンドブームを背景に、ミュージシャンの葛藤や青春を描いています。劇中では、峯田和伸さん演じる主人公の中島も高円寺にあるアパートに住んでいました。
若葉 : 舞台となったロケ地へ実際に行ってみたんですけど、もうなくなってしまっているものもあって。でも、街はそういう風に変わっていくものなんだというのを実感しました。「ああそうか、あの時の高円寺は、あの時しか映せなかったんだな」って。
― 映画は、その時やその場所の記録でもありますよね。下北沢も現在都市開発が進んで、大きく変化している街です。今作でも、下北沢駅前にかつて待ち合わせスポットとしてよく使われた「南口の階段」をすでになくなった場所として紹介されるシーンがありました。
若葉 : 下北沢って、「通過点」のような一面がある街だとも感じていて。
― 通過点ですか。
若葉 : 下北沢という街に憧れて、上京後住む人も多いじゃないですか。で、その場所を通して、劇中で描かれるような人との関わりが生まれて、そしてまたそれぞれ違うところに移動していくっていう、人の交差点のような。人やお店が多くて賑やかな街だけど、儚い一面も持っている街なんだなって、今作を通して思いました。
だから、僕が『アイデン&ティティ』を観た時と同じように、『街の上で』を観た人が、この時しか映し出せなかった下北沢の街並みや空気を感じてくれたら嬉しいですね。
穂志 : そういうことでいうと、最近観た『わたしは光をにぎっている』(2019)がまさに変わりゆく街を記録した映画でした。
若葉 : あの映画のロケ地、葛飾区の京成立石だよね。
― 自分自身と移り住んだ東京の街の変化に向き合う主人公たちを描いた作品ですね。この作品の中川龍太郎監督は、「どんなにネガティブなテーマの作品だったとしても、『この映画の中に入りたい』と憧れるような気分をもたせたいということ」を大切にしているとおしゃっていました。実際に再開発が迫っている葛飾区の立石という街で撮影され、劇中に登場する商店街のお店は、既に立ち退きが決定しているところもあったそうです。
穂志 : ヨーロッパとかは古くなった建物でも、補修して長く使い続けるけど、日本だとなかなかなそうはいかない現状がある。映画を観ながら、作品に登場する老舗の銭湯とか、日本にある古き良きものをどうやったら残していけるんだろうと考えましたね。そして、あの街に行ってみたくなりました。
古川 : 私は、パリが舞台の『ポンヌフの恋人』(1991)に登場する“ポンヌフ橋”が印象に残っています。川沿いに飾られたランタンのような灯り越しに映る街がすごく綺麗で。橋には主人公のアレックスを含めたホームレスが住んでいるので、いわゆる“綺麗”ではないのですが、その“汚さ”も含めて好きです。映画で使われた“ポンヌフ橋”は実在する場所ではなく、セットとして作られたものなんですよ。
― パリの実際にあるポンヌフ橋を舞台に、橋に住んでいるホームレスの青年と、失明の危機が迫る女画学生との純愛を描いた、レオス・カラックス監督の作品ですね。撮影中に、資金繰りの問題や主演のドニ・ラヴァンの事故などで何度も撮影が中断になり、その間にポンヌフ橋の使用許可が切れてしまったので、巨額な資金を投じて忠実なポンヌフ橋のオープンセットを作ったそうですね。
古川 : 全くセットとは思えないですよね。沢山の花火が上がっている中、アレックスとミシェルが橋の上で感情を爆発させたように躍り狂うシーンがすごく印象的で、「あのシーンの中に飛び込んでみたい!」って思いました。
穂志 : 『君の名前で僕を呼んで』(2017)の舞台となった街も憧れます。大聖堂やお城があって歴史を感じる街だし、湖や自然公園とか、自然が沢山あるところも良いですよね。
― 2018年のアカデミー賞・脚色賞を受賞した、ティモシー・シャラメ主演の、男性同士の一夏の恋を描いた切ない物語ですね。イタリア北部のクレマという街を中心にしたロケ地も話題になりました。
萩原 : 実は…私プリンセスにかなり憧れがあって、『塔の上のラプンツェル』(2010)に出てくるランタンを空に飛ばすシーン、あれを一回体験したくて。実際に台湾でランタンを飛ばすお祭りがあるそうなので、死ぬまでに一度見てみたいです。
一同 : (笑)。
― 主人公・ラプンツェルは、閉じ込められた塔の上から、毎年自分の誕生日の夜に遠くの空に昇る沢山の灯りを見て、外の世界への憧れを強くしていきます。台湾で毎年旧正月の時期(2月頃)に行われる、「平渓天燈節」と「台湾ランタンフェスティバル」という、「2大ランタン祭り」で見ることが出来る景色はまさに、劇中の灯りが昇るシーンと重なりますね。
萩原 : 映画を初めて観た時、「自分の誕生日に灯りが昇るってなんて素敵なんだ!」って思って(笑)。だから、自分の誕生日に台湾へ行って、勝手にプリンセス気分を味わう計画は、死ぬまでに実行したいと思ってます。
中田 : 私も台湾行ってみたい。『千と千尋の神隠し』(2001)に登場する街が似ていると話題になった九份(きゅうふん)に行ってみたいです。
古川 : 私は『アメリ』(2001)を初めて観た時、「パリに行ってみたい!」って思ったんですよね。街並みや部屋のインテリアの色彩が素敵で。アメリの家を見て「ああいう家に住みたい」と思ったり、アメリが思いを寄せるニノとバイクでパリの街を駆け抜けていくシーンを見て「こういう街で暮らしたい」と憧れたりしました。
穂志 : 海外を舞台にしている作品だと『かもめ食堂』(2006)も好きです。あの映画でフィンランドのヘルシンキという街を初めて見たんですけど、海沿いにヨーロッパ建築の古い建物が並んだ街並みがすごく素敵で印象に残っています。高層ビルが無いので、空がとても広くて、素敵な街だなって思いました。映画に出てくる「かもめ食堂」にも実際に行ってみたくなりますよね。
― 映画をとおして舞台となった街の事を知り、興味を持つことってありますよね。『アメリ』ではノートルダム大聖堂など、多くのパリの名所がロケ地として使われてましたし、アメリの大好物「クレーム・ブリュレ」は、映画のヒットとともに日本で大流行。今となっては日本でも定番のスイーツになっています。『かもめ食堂』では劇中に登場するシンプルで温もりのある「北欧デザイン」が注目され、インテリアやトランクの形をした映画のパンフレットも話題になるなどして、日本の「北欧ブーム」のきっかけにもなりましたね。
中田 : 私は海外、一度も行ったこと無いので、まずはさっき話した台湾とか近場から攻めて、慣れてきたら他の映画に出てきた、もうちょっと遠い国にも行ってみたいです。もうパスポートは持ってるんで、あとは行くだけです!
若葉 : 海外は全く興味ないなぁ。俺はやっぱり日本が一番好き。ライフもあるし、牛丼屋もあるし。
萩原 : ライフと牛丼屋があれば満足だなんて、めっちゃいいじゃないですか(笑)。
若葉 : いや、サウナに言われたくない!