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大勢の人にどう思われるかよりも、
大切な人といかに向き合うか
― 千葉さんは『ピーターラビット2/バーナバスの誘惑』の日本語吹替版で、前作『ピーターラビット』に引き続き、ウサギの主人公ピーターの声を担当されています。今回も、やんちゃで可愛いピーターを振り切って演じていらっしゃいましたね。
千葉 : ピーターは、笑ったり怒ったりと表情豊かで自由なキャラクターなので、僕も自分の気持ちを声に重ねて発散することができました。だから演じていて楽しかったですね。あと、今作のストーリーには個人的に、考えさせられるなと思う部分がたくさんありました。
― 考えさせられるというのは?
千葉 : バーナバスという新しいウサギのキャラクターが登場するんですけど、彼と出会ったことで、ピーターの価値観が揺れ動いていくんです。
― バーナバスは、人間に恨みを持ちながら、都会をタフに生き抜いているウサギでした。ピーターは、自分の亡き父の親友だったと語るバーナバスを慕うようになり、彼に自分のことを認めてもらいたい一心で、一緒に人間たちから食べものを泥棒するようになります。
千葉 : そうやってピーターは一度、本当に大事な相手やものが見えなくなってしまいます。新しい関係性の中で、周りが見えづらくなることってありますよね。
― ピーターがワルのバーナバスを慕うようになったのは、そもそも家族同然の仲になったマグレガーとの仲がぎくしゃくしたことがきっかけでしたね。マグレガーは前作でピーターの宿敵でしたが、今作ではピーターが大好きな画家の女性ビアの伴侶になるという、大きな関係性の変化がありました。
千葉 : でもピーターは失敗を通して、自分を見つめ直していく。その姿に、僕たち観客も共感できる部分がたくさんあるなと。つい突っ走って、家族や友だちを見失ってしまうような瞬間は、誰にでもあるじゃないですか。ビアも、ピーターたちのことを思ってした選択だったのに、気づけば自分の大切なものを見失っていた姿が描かれていましたよね。
― 大事なものを守ろうとして、かえって裏目に出てしまう。ピーターとマグレガーも心の底ではお互いを思い合っているのに、マグレガーが「トマトを盗んだのはピーターだ」と早とちりして叱ったことで大喧嘩に発展するなど、なかなか噛み合いません。
千葉 : マグレガーさんから一方的にガーッと怒られたから、ピーターは「僕のことを全然わかってくれていない!」と思って、ちょっとやさぐれてしまったんでしょうね。劇中では、ウサギにかけて「うさグレる」と表現されていましたけど(笑)。
でも今おっしゃっていただいたように、マグレガーさんとしても、ピーターのことをちょっと、大切に考え始めていたタイミングだったと思うんです。そうやって二人の関係性が変わる時って、やっぱり乱れるけど、うまく合うようになったら、次の一歩に繋がるんだなと。
― 大切に思う相手と真剣に向き合おうとするからこそ、ぶつかることもある、と。
千葉 : そんな気がします。ピーターは、マグレガーさんをはじめ、家族からどう思われているかをすごく気にしていますよね。
「自分が大切に思っている人からどう思われているか」というのは、「まったく知らない人からどう見られているか」を気にするのとはまた違って、より重要なことだと思います。これから仲よくなりたい人とか、家族や友だちに対しては、よりジレンマを感じてしまうというか。
― 相手が好きなのに、いや好きだからこそつい意地を張ってしまう、そういうジレンマってありますよね……。
千葉 : ただ僕はかけられた言葉の一片だけを切り取らないで、「この人は、なんでそういうことを言ったのかな?」という根本を見極めたい方で。やっぱりそういう作業が大事だなと。人に言われて、「自分ってそういうところがあるんだな」と気づくことも多いですし。
― たとえば周りからの言葉で気づいたのは、ご自分のどんなところですか?
千葉 : 「せっかく褒められてるんだから、素直に受け取っておきなよ」と言われて初めて、褒められるのが得意じゃないんだなと気づいたりとか。本来褒められたいタイプなんですけど、実際に言われると「いやいや、そんなこと本当は思っていないでしょ」と感じてしまうんです。それで「違うんですよ」と、その理由を相手にまくし立てちゃう。
― 褒められたのに、「自分はそういう人じゃない」とまくし立てちゃうんですか?(笑)
千葉 : そうなんです。「こうこう、こういう理由だから違うんですよ」という説明を長々としちゃうし、なんでそんなこと言っちゃったんだろうって後悔するんですけど、今度はその後悔の気持ちまで相手に伝えちゃうので、帰り道に「あー自分って面倒くさい性格だな」って落ち込むんです。
― ご自分が「面倒くさい性格」だと。
千葉 : 思っていることの逆を言っちゃったり。たとえば「寂しい」と思うことだってあるのに、「ひとりでいるのが好きだし」と言ってしまうとか。そういう面倒くささが自分にはあると思います。
― メディアに出ていらっしゃる時の印象だと、何事にも器用に対応されるイメージがあったので、少し意外でした!
千葉 : 全然、苦手なんです……(笑)。
「同調だけだと物足りない」
新しい考えに出合える、ラジオという場
― 千葉さんは本、音楽、映画など、カルチャー全般がお好きだと公言されていますね。「自分は面倒くさい性格だなと落ち込むこともある」とおっしゃっていましたが、そういう時に、お気に入りの作品に支えられることはありますか?
千葉 : どうだろう……日常的なところでいうと、音楽の影響が大きいかもしれませんね。その時の感情に寄り添ってくれたり、気分を変えてくれたりするという意味では。最近は、アイナ・ジ・エンドさんの曲をよく聴いています。
― アイナ・ジ・エンドさんは、パンクな6人組ガールズグループ、BiSHのメンバーですよね。結構、激しめな曲がお好きなんですか?
千葉 : でも、BiSHではなく、ソロのアイナ・ジ・エンドさんの曲なので、そんなに激しくないんですよ。聴く音楽は、季節や天気によって選曲したりもするので、その時々で変わりますけど。
― シチュエーションに合う音楽を選ばれるんですね。
千葉 : それこそラジオって、そういう選曲の仕方をしますよね。「今日は雨なので、この曲をかけましょう」とか。その影響もあるのかもしれません。
― 千葉さんは大のラジオ好きで、ラジオネームを作って番組にメッセージを投稿されるほどだと伺っています。以前「ラジオに救われたこともある」ともおっしゃっていましたが、ご自身にとってラジオはどういう存在ですか?
千葉 : 今でもそうですけど、思春期だと特に、悩み相談って友だちにしたところで……っていうのもあるじゃないですか。わかってくれる人がいたらいいけど、もしわかってもらえなかったら、もう世界の終わりというか……。言い方が難しいけど、10代の頃は社会人よりもコミュニティが狭いから、本音を言うのがちょっと怖い部分もあって。
そういう時にラジオで、会ったこともない人たちのお悩み相談などを聴いていたら、いい意味での“掲示板感”があるというか、ある程度の距離を取りながら、共感したり励ましたりし合える、優しい空間だなと感じたんです。
― 面識のない同士だからこそ気負わずに、本音を伝え合えるというか。
千葉 : 僕も昔経験がありますけど、ラジオでならたとえ生相談でも、知り合いに聞いてほしいのに恥ずかしくて言えなかったことも、平気で言えちゃったりするんです。
― ラジオリスナーには老若男女、いろんな人がいますから、時にそれまで知る機会のなかった価値観に出合えることもありそうですね。
千葉 : 「共感」と「新しい考え」と、どっちもあるから面白いですよね、ああいう場は。同調だけだったら、僕は個人的には物足りないし。「なるほど、腑に落ちた」という新しい視点をもらえるのは楽しいです。
千葉雄大の「心の一本」の映画
― ここからは、千葉さんが好きな映画についてお聞きしたいです。先ほど「周りの言葉から、“自分”に気づくことも多い」と話されていましたが、主人公が自分を見つけていく姿が印象に残っている映画はありますか?
千葉 : なんだろう……あ、でも僕、ゴーイングマイウェイなだけの人って、あまり好きじゃないんです。肩で風切って歩いて、自分は気持ちいいかもしれないけど、人はそれにぶつかって痛い思いしてるからな、って思っちゃうんです(笑)。
それでいうと、『プラダを着た悪魔』(2006)のアンディとか、印象的ですね。
― アン・ハサウェイが演じた主人公ですね。ジャーナリスト志望のアンディは、キャリアのために、鬼のように厳しい編集長のもと、まったく興味のなかったファッション誌の編集部で働くことになります。
千葉 : アンディは、最初は「ケッ」と思っていたファッションの世界を、本当に知るにつれて傾倒していきます。それで仕事がうまくいき始めると、だんだんゴーイングマイウェイにふるまうようになっていき、ついに人間関係でほころびが出てきてしまって。かえってますます仕事で頑張ろうとするんだけど、ふと、自分らしくないことをしていると気づく。
するとアンディは、仕事をポイッと捨てるじゃないですか。そして、傷つけた相手に「ごめん」と謝り、自分の間違いを認めるんです。……まぁ、そうやって軌道修正できるんだからいいよなーとは思うんですけど(笑)。あとは、『わたしはロランス』(2013)も好きですね。
― 男性として生まれながら、女性として暮らすことを選んだ主人公ロランスが、社会から偏見を受けつつも、ありのまま生きようと模索する姿を描いたグザヴィエ・ドラン監督の作品ですね。
千葉 : ロランスには、支えてくれるパートナーの女性フレッドがいて。でも、彼女もロランスにつきっきりになっているわけじゃなくて、時に傷ついたり離れたりしながらも支えてくれる。そういうところが素敵だと思うし。
― ロランスもフレッドも、好き放題に突っ走るというより、どちらかというと、周りからどう見られているかも気にしながら成長していきますよね。
千葉 : そうそう。実際、ゴーイングマイウェイにだけ生きられたら、その本人は楽でしょうけどね。でも僕にとっては、そこはあんまり重要じゃないというか。「私はこういう人間だから」って開き直っている人を見ると、「じゃあひとりで生きていきなよ」と思うんです。僕はそうではなく、相手のことも考えた上で、「でも自分はこうだから」って言える人でいたいというか。ゴーイングマイウェイは“危険物取扱注意”だと思います!(笑)
― 生きるイコール、人と関わっていくことですものね。時には面倒くさいこともあるけど、その先に見つかるものがあるというか。
千葉 : そうですよね。人の意見は、ある程度は聞くべきだと思うんです。自分が傷ついたり、自分の軸からズレていると感じたりした部分はピューッと除き、必要な部分だけ残して取り入れる。そうやって、自給自足で生きていくしかないんですよね。
……あ、もう1作思い出しました。飛行機で観たんですけど、ちょっとぽっちゃりした主人公の女性が頭を打って気絶してしまい、目覚めて鏡を見ると、自分の姿がすらっとした美人に見えるようになっていたという……。
― 『アイ・フィール・プリティ! 人生最高のハプニング』(2018)ですね。主人公のレネーは、はたから見たら何も外見は変わっていないのに、すっかり自信に満ち溢れ、仕事も恋も絶好調になっていきます。
千葉 : この映画でも、結局人の目を気にしつつ自分を探していくしかない、という繊細なテーマが描かれていますよね。
― 人と関わりながら、時に周りの目も意識しながら、自分を見つけていく主人公に共感されるんですね。
千葉 : はい。でも、見つけていくのもそうなんだけど、「受け入れる」ことも大事だという気がします。その上での「これが私」だったらわかるんですけど、はなから「仕方ないよ、これが私だもん」と言うのは、ちょっと違うかなって。謙虚さも要るというか……、言葉が難しいですけど。その過程があっての、“自分らしさ”なのかなと思います。