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家族は小さな社会。 理想にとらわれないために、竹内結子が心がけること

竹内結子 インタビュー

家族は小さな社会。
理想にとらわれないために、竹内結子が心がけること

「このオファーを受けることは、挑戦でした」
厳格な父が認知症になったことから、ひとつの家族が、自分の人生や大切な人へと改めて向き合っていく姿を描いた『長いお別れ』(2019年5月31日公開)。認知症という、別れを予感させるシリアスなテーマながらも、笑いとユーモアにあふれ、人間の可笑しみや、人生の愛おしさが温かく描かれています。
この家族の長女役を演じた竹内結子さんは、両親の老いや、子どもとの関係など、これからの自分にも訪れるかもしれない家族の葛藤について、挑戦する気持ちで演じたと言います。
映画の中に流れる7年間という時間を体感したことで、竹内さんが感じた「家族のかたち」。そして、いつも笑顔を絶やさない竹内さんが、日々の中で大切にしている「笑い」や「ユーモア」について、お聞きしました。
竹内結子 インタビュー

「ちゃぶ台をひっくり返さないように」
日々の生活に笑顔を取り入れる

今作では、認知症の家族との向き合いや、夫婦・子供との不和など、長い時間を共に過ごす家族だからこそ訪れる関係性の変化が描かれていました。シリアスになりがちな場面も、常に笑いとユーモアであふれ優しい時間が流れていましたが、竹内さんの生活や仕事にとって笑いは大切ですか?

竹内なるべく、普段から笑顔でいようとは思っています。例えば、朝起きて気分が沈んでいたり体調が悪かったりする時も、とりあえず鏡の前笑ってみるんです。それでちゃんと笑えて「よし、いける」と思えたら大丈夫だと思っています。つくり笑いもできない状態だったら、誰かにSOSを出すようにしていますね。

笑ってみることで、気持ちは変わるものですか。

竹内変わりますね。そうすることで、切り替えができることもあるので。でも、最近は悲しい時や辛い時も、わりとすぐに誰かに話してしまうので、その線引きもなくなっているのかも。

竹内結子 インタビュー

自然に誰かに話していると。

竹内内容によっては相手を選びますけど、家族だったり友人だったり…。色んな人に連絡してしまうのは、家の中にゴキブリ(虫)が出た時ですね(笑)。

竹内さんが今回演じた麻里は、家族についての悩みに向き合ってくれない夫に対し、前半では気持を抑えていましたが、終盤では怒ったり泣いたりと、感情を爆発させていきました。

竹内私も20代の頃は、「ちゃぶ台をひっくり返すようなことはやめてくれ」って、周りから言われたことがありました。

竹内さんが若い頃は、役柄と同じように爆発させていたんですね(笑)。

竹内自分の中で我慢して溜め込んでしまって、「もうだめだ!」となった瞬間に一切合切ひっくり返してしまう、みたいなことがあったんです。結果的に周りに迷惑をかけてしまうので、なるべく我慢せず、少しずつ周りに自分の気持を出そう、と思うようになっていきましたね。

だから、麻里の夫のように正論しか言わなくて、「嘆いていても何の解決にもならない」という態度をされたら、しんどいですよね。「そうなんだけど、ひとまず最後まで聞いてよ!」って言いたくなっちゃう。

© 2019『長いお別れ』製作委員会 ©中島京子/文藝春秋

(笑)。妻を理解したいという気持ちはあるんだけれど、共感はしてくれないという役柄でしたね。

竹内でも、現場ではカットがかかる度に夫役の北村有起哉さんが「ごめんね」と謝ってくださって(笑)。そんな空気もあってか、この人だから最後は仲直りできるんだなと、感じながら演じていました。

竹内さんが一緒にいると自然と笑顔になってしまうような人は、周りにいらっしゃいますか。

竹内イモトアヤコさんですね! 芸能界に入って、こんなに気兼ねなく付き合える友人ができると思っていなかったので、本当にありがたい出会いだなと思います。エネルギーを分けてくれる人なので、元気がない時「お茶でも行きませんか?」と連絡してしまいます。優しいので、「もう、しょうがないな」と付き合ってくれているんだと思いますけど(笑)。

竹内結子 インタビュー

竹内結子の「心の一本」の映画

今回、竹内さんが演じた麻里は、実家だけではなく自分にも家庭があり子供がいる、娘・妻・母親という3つの立場を持つ女性でした。それだけに悩みも多い人物でしたが、そんな今回の役柄と、ご自身に重なるところはありましたか?

竹内息子がいることは同じだな、と。でも、私の息子よりも年齢が上の設定だったので、年頃になったらどういうことが起こるのかなと興味もありました。

この役で体験することは、自分自身の経験にないことが多かったので、認知症というテーマに踏み込むことも、ここまでストレートに「家族」を描いた作品に出演することも、覚悟がいりました。このオファーを受けたこと自体が、挑戦だったなと思います。

実際、役を通して経験してみていかがでしたか。

竹内クランクイン前に出演者が集まって、「お父さんの誕生日会」という設定でリハーサルをしたんです。その時「この母に育てられたから、麻里はこういう考え方なんだ」とか、「この妹がいるから、姉は多少ふんわりしていても大丈夫なんだ」と、家族の関係性が肉付けされていく瞬間があって。

家族って、これが正解というかたちはなくて、人間同士の関わりの中で、少しずつ出来ていくものなんだなと、改めて思いました。家族が年齢や状態と共に変化していくなら、それに合わせて自分も変化していきたいなと思います。

© 2019『長いお別れ』製作委員会 ©中島京子/文藝春秋

ひとりで「これが家族だ」という理想を追い求めると、自分も相手も苦しくなりますよね。

竹内そう、家族は小さな社会だから。小学校で習う標語みたいですけど(笑)。なんでも好きに言い合っていても関係は崩れてしまうし、相手に求めすぎたり、理想を作りすぎることも、そこにとらわれて苦しくなる。理想を作らずに、とらわれない関係でいられることが理想の家族かなと思います。

竹内さんは、ご自身の家族の記憶で印象に残っていることはありますか?

竹内私が小さい頃、父と母がよく映画館にデートに行っていたことは覚えています。映画好きな両親だったので、家でもテレビの横にはレンタルショップで借りてきた映画のVHSが積んであって、よくみんなで映画を観ました。

生活の中に、自然と映画があったのですね。

竹内結子 インタビュー

竹内誰かが観ている映画を自然と混ざって見ることも多くて、小学生の頃にうっかり目撃した『時計じかけのオレンジ』(1971)は衝撃すぎて。今思うとちょっと酷な映画体験でしたね(笑)。でも、そんな両親の影響もあってか、日常とは違うものが観れる、その世界にドボンと浸ることができるという意味で、昔からずっと映画は好きです。

好きなジャンルや、苦手なジャンルはありますか?

竹内苦手なジャンルは、ホラーですね。『SAW』などのサイコスリラーは好きなのですが、邦画のじっとりとした静かなホラーが本当に怖くて苦手です。

ホラー映画、いくつもご出演されてますよね(笑)。

竹内私、『リング』(1998)が映画デビュー作なんです(笑)。試写で観た時に「自分はなんて恐ろしいものに出ていたんだろう…」って、その時気づきました。

出演者でも怖いというのは、ホラー映画にとって極上の褒め言葉ですね

竹内『残穢 住んではいけない部屋』(2016)の時も、台本を読むことすら怖くて怖くて…でも、なぜかホラー映画にご縁があるんです(笑)。

では最後に、心に残る一本の映画を教えてください。

竹内『フライド・グリーン・トマト』(1991)です。これも最初は、家族が借りてきたもので、中学生くらいの時に意味がわからないまま観た映画ですね。

社会的な偏見や差別と対峙する、世代の異なる二人の女性の人生が描かれた映画ですが、これは、家族をテーマにした映画でもありますね。

竹内そうなんです。最初は「青いトマトを食べるって、どんな感じだろう」という、恥ずかしいほど単純な感想しか浮かびませんでした。…がっかりな感想ですよね(笑)。でも、自分が家庭を持つようになってから改めて観ると、「あの場面はこういうことだったんだ」と、初めて登場人物たちの気持ちがわかったりもして。今となっては何度も繰り返し観ています。自分の人生の移ろいと共に楽しめる作品ですね。

竹内結子 インタビュー
PROFILE
女優
竹内結子
Yuko Takeuchi
1980年生まれ、埼玉県出身。
96年に女優デビューし、NHK連続テレビ小説『あすか』(99)のヒロイン役で注目を集める。映画『黄泉がえり』(03)、『いま、会いにゆきます』(04)、『春の雪』(05)、『サイドカーに犬』(07)では数々の映画賞で主演女優賞を受賞。主な出演作に映画『ストロベリーナイト』(13)、『インサイド・ヘッド』(日本語吹替え版声優)(15)、『残穢(ざんえ)-住んではいけない部屋-』(16)、『クリーピー 偽りの隣人』(16)、『旅猫リポート』(18)、『コンフィデンスマンJP』(19)など。待機作に『決算!忠臣蔵』(2019年11月22日公開)がある。
FEATURED FILM
原作:中島京子『長いお別れ』(文春文庫刊)
公開日:2019年5月31日(金)全国ロードショー
監督:中野量太
脚本:中野量太、大野敏哉
出演:蒼井優、竹内結子、松原智恵子、山﨑努
配給・制作:アスミック・エース
©2019『長いお別れ』製作委員会 ©中島京子/文藝春秋
監督・脚本を務めるのは、初めての長編商業映画『湯を沸かすほどの熱い愛』(16)が、日本アカデミー賞主要6部門を含む国内の映画賞計34部門を受賞した、中野量太。原作は、「小さいおうち」で第143回直木賞を受賞した、中島京子の同名小説「長いお別れ」。
近い将来65歳以上の1/5が発症するという(出典:厚生労働省)今や他人ごとではない認知症。父の発症により、自分自身の人生と向き合う事になる家族の7年間を、あたたかな眼差しをもって優しさとユーモアたっぷりに描いた本作。 刻々と変化する時代に変わることのない大切なものを問う、昭和、平成、そして新しい時代へと繋がれる希望に満ちた作品が誕生しました。
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