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「ちゃぶ台をひっくり返さないように」
日々の生活に笑顔を取り入れる
― 今作では、認知症の家族との向き合いや、夫婦・子供との不和など、長い時間を共に過ごす家族だからこそ訪れる関係性の変化が描かれていました。シリアスになりがちな場面も、常に笑いとユーモアであふれ優しい時間が流れていましたが、竹内さんの生活や仕事にとって笑いは大切ですか?
竹内 : なるべく、普段から笑顔でいようとは思っています。例えば、朝起きて気分が沈んでいたり体調が悪かったりする時も、とりあえず鏡の前笑ってみるんです。それでちゃんと笑えて「よし、いける」と思えたら大丈夫だと思っています。つくり笑いもできない状態だったら、誰かにSOSを出すようにしていますね。
― 笑ってみることで、気持ちは変わるものですか。
竹内 : 変わりますね。そうすることで、切り替えができることもあるので。でも、最近は悲しい時や辛い時も、わりとすぐに誰かに話してしまうので、その線引きもなくなっているのかも。
― 自然に誰かに話していると。
竹内 : 内容によっては相手を選びますけど、家族だったり友人だったり…。色んな人に連絡してしまうのは、家の中にゴキブリ(虫)が出た時ですね(笑)。
― 竹内さんが今回演じた麻里は、家族についての悩みに向き合ってくれない夫に対し、前半では気持を抑えていましたが、終盤では怒ったり泣いたりと、感情を爆発させていきました。
竹内 : 私も20代の頃は、「ちゃぶ台をひっくり返すようなことはやめてくれ」って、周りから言われたことがありました。
― 竹内さんが若い頃は、役柄と同じように爆発させていたんですね(笑)。
竹内 : 自分の中で我慢して溜め込んでしまって、「もうだめだ!」となった瞬間に一切合切ひっくり返してしまう、みたいなことがあったんです。結果的に周りに迷惑をかけてしまうので、なるべく我慢せず、少しずつ周りに自分の気持を出そう、と思うようになっていきましたね。
だから、麻里の夫のように正論しか言わなくて、「嘆いていても何の解決にもならない」という態度をされたら、しんどいですよね。「そうなんだけど、ひとまず最後まで聞いてよ!」って言いたくなっちゃう。
― (笑)。妻を理解したいという気持ちはあるんだけれど、共感はしてくれないという役柄でしたね。
竹内 : でも、現場ではカットがかかる度に夫役の北村有起哉さんが「ごめんね」と謝ってくださって(笑)。そんな空気もあってか、この人だから最後は仲直りできるんだなと、感じながら演じていました。
― 竹内さんが一緒にいると自然と笑顔になってしまうような人は、周りにいらっしゃいますか。
竹内 : イモトアヤコさんですね! 芸能界に入って、こんなに気兼ねなく付き合える友人ができると思っていなかったので、本当にありがたい出会いだなと思います。エネルギーを分けてくれる人なので、元気がない時「お茶でも行きませんか?」と連絡してしまいます。優しいので、「もう、しょうがないな」と付き合ってくれているんだと思いますけど(笑)。
竹内結子の「心の一本」の映画
― 今回、竹内さんが演じた麻里は、実家だけではなく自分にも家庭があり子供がいる、娘・妻・母親という3つの立場を持つ女性でした。それだけに悩みも多い人物でしたが、そんな今回の役柄と、ご自身に重なるところはありましたか?
竹内 : 息子がいることは同じだな、と。でも、私の息子よりも年齢が上の設定だったので、年頃になったらどういうことが起こるのかなと興味もありました。
この役で体験することは、自分自身の経験にないことが多かったので、認知症というテーマに踏み込むことも、ここまでストレートに「家族」を描いた作品に出演することも、覚悟がいりました。このオファーを受けたこと自体が、挑戦だったなと思います。
― 実際、役を通して経験してみていかがでしたか。
竹内 : クランクイン前に出演者が集まって、「お父さんの誕生日会」という設定でリハーサルをしたんです。その時「この母に育てられたから、麻里はこういう考え方なんだ」とか、「この妹がいるから、姉は多少ふんわりしていても大丈夫なんだ」と、家族の関係性が肉付けされていく瞬間があって。
家族って、これが正解というかたちはなくて、人間同士の関わりの中で、少しずつ出来ていくものなんだなと、改めて思いました。家族が年齢や状態と共に変化していくなら、それに合わせて自分も変化していきたいなと思います。
― ひとりで「これが家族だ」という理想を追い求めると、自分も相手も苦しくなりますよね。
竹内 : そう、家族は小さな社会だから。小学校で習う標語みたいですけど(笑)。なんでも好きに言い合っていても関係は崩れてしまうし、相手に求めすぎたり、理想を作りすぎることも、そこにとらわれて苦しくなる。理想を作らずに、とらわれない関係でいられることが理想の家族かなと思います。
― 竹内さんは、ご自身の家族の記憶で印象に残っていることはありますか?
竹内 : 私が小さい頃、父と母がよく映画館にデートに行っていたことは覚えています。映画好きな両親だったので、家でもテレビの横にはレンタルショップで借りてきた映画のVHSが積んであって、よくみんなで映画を観ました。
― 生活の中に、自然と映画があったのですね。
竹内 : 誰かが観ている映画を自然と混ざって見ることも多くて、小学生の頃にうっかり目撃した『時計じかけのオレンジ』(1971)は衝撃すぎて。今思うとちょっと酷な映画体験でしたね(笑)。でも、そんな両親の影響もあってか、日常とは違うものが観れる、その世界にドボンと浸ることができるという意味で、昔からずっと映画は好きです。
― 好きなジャンルや、苦手なジャンルはありますか?
竹内 : 苦手なジャンルは、ホラーですね。『SAW』などのサイコスリラーは好きなのですが、邦画のじっとりとした静かなホラーが本当に怖くて苦手です。
― ホラー映画、いくつもご出演されてますよね(笑)。
竹内 : 私、『リング』(1998)が映画デビュー作なんです(笑)。試写で観た時に「自分はなんて恐ろしいものに出ていたんだろう…」って、その時気づきました。
― 出演者でも怖いというのは、ホラー映画にとって極上の褒め言葉ですね
竹内 : 『残穢 住んではいけない部屋』(2016)の時も、台本を読むことすら怖くて怖くて…でも、なぜかホラー映画にご縁があるんです(笑)。
― では最後に、心に残る一本の映画を教えてください。
竹内 : 『フライド・グリーン・トマト』(1991)です。これも最初は、家族が借りてきたもので、中学生くらいの時に意味がわからないまま観た映画ですね。
― 社会的な偏見や差別と対峙する、世代の異なる二人の女性の人生が描かれた映画ですが、これは、家族をテーマにした映画でもありますね。
竹内 : そうなんです。最初は「青いトマトを食べるって、どんな感じだろう」という、恥ずかしいほど単純な感想しか浮かびませんでした。…がっかりな感想ですよね(笑)。でも、自分が家庭を持つようになってから改めて観ると、「あの場面はこういうことだったんだ」と、初めて登場人物たちの気持ちがわかったりもして。今となっては何度も繰り返し観ています。自分の人生の移ろいと共に楽しめる作品ですね。