目次
『愛がなんだ』
四者四様の愛の形。
― 今回は「私にとっての“愛とはなんだ?”」をテーマにみなさんに語っていただければと思うのですが、まずは、みなさんがプライベートで“愛”を感じる瞬間について教えてください。たとえばどんなときに、周りの愛を感じますか?
若葉 : うーん……恥ずかしいですね、そんなこと言うの。みなさん、何かありますか?
成田 : はい! 俺からでもいいですか? 今度、友達の結婚式があるんです。で、式に参加するみんなが当日の天気をめちゃくちゃ気にしてる。天気予報を毎日チェックして「雨になった、やばい!」とか「晴れてきたよ」とかって言ってそわそわしてるの、愛だなって思いますね。
深川 : 確かに、それは愛だね。私は、スノードームを集めるのが趣味なんです。そのことを知っている友達が旅先とかで思い出してお土産に買ってきてくれたりすると、すごくうれしいし愛を感じますね。そうやって私の好きなものを覚えててくれて、自分の時間を過ごしてるときに思い出してくれるのって、感動しちゃいます。私の誕生日でもなんでもないのに。
岸井 : 私は『愛がなんだ』の撮影中に、成田くんのあることへの“愛”を感じた時があった! 麻布で撮影していた日、ちょうどサッカーの試合があったんだよね?
成田 : 日本対コロンビア戦がある日だったんです。僕サッカー大好きだから、歓声が聞こえて結果がわからないように、ずっと耳をふさいでたんですね。本番前後もずーっと外界の音をシャットアウトしてたのに、たまたま自分が台詞を喋るタイミングで「うわーっ!!!」って大きな歓声が聞こえてきて……点が決まっちゃったのがわかちゃったんですよ……。
岸井 : あの時は、並々ならぬサッカーへの愛を感じたよ(笑)。
成田 : そうだね、歓声のあと、頭真っ白になっちゃったもん。……愛ってそういうことですよ(笑)。
岸井 : 私は何だろうな……あっ、2017年に劇団☆新感線の舞台『髑髏城の七人“Season風”』で出演したときかも。この作品は舞台のかたちがすごく特殊で、中心にある観客席を360度ぐるっと取り囲んでいるから、役者全員すごくハードに動き回らなきゃいけなかったんです。殺陣もあって、4時間走り続けるような舞台で。
成田 : 観に行ったよ! 岸井さんはとくに走り続ける役だよね。
岸井 : あ、ほんと!? そうなの。主役のことを守りたくて一生懸命頑張る少女の役。ステージ数もたくさんあって過酷な公演だったから、この作品に関わる全員がケガをしないように一丸となって取り組んでいて。……その時は本当に「こんな私だけど、みんなのことを絶対に守る!」って思っていました。私のみんなへのこの気持ちって、愛かもしれないと思って、すごく泣いた!
若葉 : 泣いたの!?(笑)周りの人に対する自分の愛を感じたってことね。
岸井 : うん。「守りたすぎるのに、私じゃ守れない……!」とか思って泣いてたの(笑)。バックステージでアミノ酸を分け合いながら、1ステージ終わるたびに「今日もみんなを守れた、無事でよかった……!」って思ってウルウルしていました。みんな毎日頑張って、最後まで一緒に駆け抜けたなって(笑)。作品に関わったみんながみんな、お互いを守りたいっていう気持ちがありましたね。
若葉 : 僕は『愛がなんだ』のクライマックス近くで、テルコとコンビニの前で想いを語り合うシーンを撮影してるときかな。この作品にとって、それぞれの関係性に大きな変化が起きる大切な場面。なのに1テイク目で僕がいまいち集中できなかったなと思ってたら、今泉監督がなにも言わずに近づいてきて、僕の目を見てうなずいてくれたんです。多分、「もう一回撮るよ。わかっているよね」っていう無言の確認だったと思うんだけど……なんかその様子に、映画や役者に対する愛を感じたんですよね。
成田 : 今泉監督って、言葉数は少なくても役者のことをわかってくれてる感じが伝わるよね。
若葉 : うん。たぶん、役者をずっと見てくれてるからだと思う。ご一緒するのは今回が初めてだったんだけど、役者という存在そのものを、一緒に闘っている仲間として愛してくれてるんじゃないですかね。
ぐいぐいいくのも、
ちょっと引くのも愛かもしれない
― みなさんの話を伺うと、愛とは“強い想い”の体験である、ともいえそうですね。今泉監督は映画『愛がなんだ』について、「“強い想い”を持った人達の話でもある」とおっしゃっていました。
成田 : 僕が思い出すのは、作品の後半でテルコが親友の葉子ちゃんの家に行って、“ある想い”を伝えるシーン。テルコから強い言葉も出てくるけれど、それは葉子ちゃんやナカハラに対する“愛ゆえの行動”なんじゃないかな。
岸井 : 確かに。テルコがようやく周りに気持ちを伝えるシーンですよね。マモちゃんのことしか見えてなくて、毎日ふらふらしていたけれど、じつは周りとの関係も含めていろいろ考えてるんだってわかる場面。
でも何が一番強い想いだったかといえば、テルコのマモちゃんを思う気持ち。やっぱり愛ですよ。あれは愛でした(笑)。
― テルコは、マモちゃんに平日の朝いきなり動物園に誘われても、仕事をサボって行ってしまう。ついには会社をクビになっても、マモちゃんの家の雑事を嬉々としてこなしていますね。一日の時間のすべてがその人のためにある感じ。
成田 : あれはもう「好き」とか超えて「愛」だよね。
岸井 : うん。テルコは目の前の、マモちゃんのことばっかり見てる感じだったから……演じながら「これは愛だな」とか「あれも愛だ」とか思うことはなかったんだけど。でも、改めて思い起こしてみると、結果的にはやっぱりマモちゃんへ向けていた気持ちがすべて愛だったなって思う。
深川 : 映画の序盤でテルちゃんが、マモちゃんとの幸せな未来を思い描く場面もすごく好きです。「きっと半同棲になるかもだからお鍋買っちゃおう」なんて、二人の未来を勝手に想像しての行動が、かわいくて愛おしい。動物園の象の檻の前で、想像して泣いちゃうところもですね。
― この「原作にはない、象にまつわるエピソード」が、作品内で印象的に使われています。それは、「群盲象を評す」というインドに昔から伝わる寓話(数人の盲人が象のそれぞれの部位を触って「何を触っているか」の感想が異なり、対立するという話)からきているそうですね。テルコがマモちゃんを思うと「視野が狭くなる」ことを、例えたと。
深川 : テルコとマモちゃんも想いがすれ違って、現実はそうハッピーにならないから切なかったんだけど……。
成田 : マモちゃんはテルコに対して、なんとなく自分の気持ちを態度で示してるんだろうけどね。
岸井 : そうだねぇ。でも、言ってくれなきゃわかんないんだよ、テルちゃんは。幸せの直後にいきなり部屋を追い出されるシーンでは、演じていて本当にさみしかったもん。「なんでこのタイミングで、急にいやだとか言うの?」みたいな。
成田 : 逆にマモちゃんはマモちゃんで「気づいてるだろう」って思い込んでるから、余計に腹が立つんだよね。
岸井 : 二人にはそういうすれ違いがあったよね。私個人としては「テルコ、わかりなさい?」って思ってました(笑)。だけどマモちゃんは、怒っててもコーヒーだけは淹れてくれるとか、妙に優しくしてくれるのがずるいですよね~。
― マモちゃんのずるい優しさといえば、“追いケチャップ”。テルコをマモちゃんがバックハグしていちゃつく場面です。ネタバレになるので詳しくは言えませんが、今泉監督はあのシーンを「成田凌が出ちゃってる」とおっしゃっていました(笑)。
岸井 : そう! あれはもう~……びっくりしました。
若葉 : ねぇ、あれは演出なの?
成田 : (にやりとしながら、首を横に振る)
若葉 : すごいね!? 観ながら俺、これは演出とアドリブどっちなんだろうって思ってた!
深川 : 私も!
― 脚本にはないセリフだったそうですね。今泉監督が「あんなことはモテる人にしか言えないでしょう?(笑)」と。
岸井 : 私の肩にマモちゃんが顎を乗せるところまでは、今泉さんの演出だったらしい。監督、けっこう片方だけにそういうこと言うんですよね。
成田 : 今泉監督が「岸井さんの肩に顎乗せてよ」って指示があって、一瞬戸惑ったんだけど…。
若葉 : やだっていう選択肢があったんだ(笑)。ケチャップ自体は?
成田 : やってるうちに僕のテンションが上がっちゃって、そこにケチャップがあったから、アドリブ(笑)。
若葉・深川 : すごいな~……!
成田 : あと、マモちゃんとテルコが一緒にお風呂入ってるシーンで髪を洗われてるときの岸井さん、顔が最高だったよね。照れまくってて(笑)。
岸井 : いままでにない感情だったもん。とにかく恥ずかしくって……!
成田 : 俺は「照れてんな~」って思いながら、髪とか立てて遊んでた(笑)。
深川 : 立てた髪が倒れてくるのもよかったよね。
岸井 : もう一生ないと思います……“追いケチャップ”されることも、美容師さん以外に髪を洗ってもらうことも。
若葉 : そんなことないでしょ。
岸井・深川 : え!? うそでしょ!? あるの!?
成田 : あるかもよ~。
岸井・深川 : ないよ! なんで!?
若葉 : いやいや……(笑)。だって、この先もずっと生きてくわけでしょ? 可能性はあるかもよ。
愛ってなんだ?
愛とは模索し続けるものなんだ
― 「群盲象を評す」ではないですが、登場人物それぞれの愛のとらえ方も、みなさんそれぞれの愛もさまざまということですね。着地点や正解のない“愛”を描いた今作も、登場人物のさまざまな想いが交錯していきます。
成田 : そういえば、ナカハラとテルコが二人で年を越すシーン。除夜の鐘が鳴って、二人が見つめあってるのに、なんにも起きないのがすごいリアルで。
岸井 : お互い「目の前のこの人ではない」って思ってるのが悲しいよね。演じてて切なかったなぁ。
若葉 : あと、そのとき食べてる餃子が冷たいのも切なかった(笑)。映画じゃ伝わらない部分なんだけど。
成田 : でも、餃子が温かかったら、ちょっとほっこりしちゃうんじゃない?
若葉 : そうかも。餃子が冷たくて、体もあったまらないからよかったのかもね。
深川 : 若葉さんが今泉監督の愛を感じた、コンビニ周辺でナカハラくんとテルちゃんが話すシーンも、それぞれの想いが交錯して観てて結構ぐさっときました……。テルちゃんがマモちゃんを想う気持ちも、ナカハラくんが葉子を想う気持ちも、それぞれに愛ゆえじゃない? 愛ゆえに二人の選ぶ道が違うのがまた切なくて……二人の想いのぶつかり合いを見て、すごく苦しくなりました。
成田 : あそこの岸井さんの「うるせぇバーカ!」もいいよね。
若葉 : 僕はどのシーンも愛を表現するというより、“誰かとつながろうとしている人たち”だっていうことを意識していましたね。「愛ってこういうことだよ」みたいな説教くさい映画ではないから、お客さんにもあんまりそういうことを考えずに観てもらえたらいいなって思う。
― この物語を演じた前後で、ご自身の“愛のとらえ方”になにか変化はありましたか?
成田 : そうですねぇ……。本人は誰かへの愛だと思って行動していても、そこには自分勝手な時間が結構流れているものなんだなって感じました。マモちゃんは、テルコからToo muchな愛情を向けられる役だったので。感情って、ついひとりでエスカレートしていっちゃうものなのかもしれない。そういえば僕も最近、大好きな辛いものを食べ過ぎて、エスカレートしてます(笑)。食べた瞬間に胃がぎゅっとならなきゃ物足りないというか。
― 愛も辛さも刺激だから、慣れてどんどん求めちゃうんですかね(笑)。
岸井 : 愛ってなんなんだろうね? 少なくとも『愛がなんだ』は、それがなにかわかる映画ではないよね。観終わったあとに、愛とは模索し続けるものなんだな、って改めて思う気がします。
若葉 : そうだね(笑)。たとえば、この映画のチケットを予約してある日に好きな人に呼び出されて、「こんな映画どうでもいいや」って思うことが愛。好きな人と過ごす時間のほうがよっぽど価値を持っていていいし、そういうふうに感じる人たちの支えになったらいいな、と思います。
岸井ゆきのと成田凌と深川麻衣と若葉竜也の
「心の一本」の映画
― では最後に、みなさんの「愛を感じた映画」を教えてください。
岸井 : 「愛を感じた映画」か……難しいなー。
成田 : やっぱり、題名に「愛」って入っててもらわないと~。
一同 : (笑)
― みなさんの「心の一本」が知りたいです。
岸井 : 愛の話とかじゃないんですけど(笑)、私は『奇蹟の輝き』(1998年)。死後の世界の物語で、天国の背景を油絵タッチのCGで表現しているのが本当に美しいんです。主演のロビン・ウイリアムズもすごく好き。愛し合う夫婦が、お互い全然違う容姿に生まれ変わって、また出会えるんですよ……あっ、これ愛じゃないですか!? やった!(笑)すごく好きな映画です。
深川 : 私は『トイ・ストーリー』(1995年)かな。小さいころから大好きなんだけど、とくに「3」はもう、開始10分くらいで泣いちゃいますよね。子ども心にも「身の回りのものを大事にしよう」って感じたけれど、大人になったらまた別の角度から感じ入ることのできる作品だなって思います。きっと、これからもずっと大好きなんだろうなぁ。今年の夏に「4」が公開になるのもめちゃくちゃ楽しみです!
成田 : じゃあ僕は……『ジム・キャリーはMr.ダマー』(1994年)。主人公たちが、犬のかたちをした改造車に乗ってるんですよ。それに敵を乗せて、両サイドから「世界で一番不愉快な音を出してあげよっか?」って言うシーンが好きです(笑)。何度も繰り返し観てます。そのぐらい愛している作品です。
若葉 : 愛を感じたわけじゃないけど、僕は『アイデン&ティティ』(2003年)ですね。すごくこの映画のファンで。DVDも持ってます。見る度に、共鳴するところや見え方が違ったりする映画で。たとえば18歳くらいで初めて観たときは、主人公の想いや衝動にすごく共鳴したんですよね。でもいまは、「とはいっても仕事なんだからちゃんとやらなきゃ」って人たちの気持ちもわかるし、「一人だけの思想でめちゃくちゃにしていいわけじゃないんだよ」っていう現実にも共鳴する。そうやって、何度も観たいと思う作品に、参加したいと思います。
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