目次
ダメ男は愛せない。
魅力的な人は、好きなことを「好き」と表現できる人
― 今回、多部さんは映画『多十郎殉愛記』(2019)で、主人公・清川多十郎(高良健吾)を一途に愛する、訳ありの小料理屋女将のヒロイン“おとよ”をつとめています。タイトルには「純愛」ではなくて「殉愛」という言葉が使われていますね。その言葉が、それぞれの登場人物の思いを体現しているように感じました。
多部 : 「殉」という字なので、“死ぬ気で”愛するということですね。
― そういう愛し方は、多部さんご自身として理解できますか?
多部 : 私が演じた“おとよ”は多十郎やその弟・数馬(木村了)を支えることで、自分の居場所を見つけて強くなっていくという女性をイメージしていました。私自身も一途だと思っているので…といいますか、一途が普通だと思っているので、逆に目移りする恋愛にも少し興味はあります(笑)。ですが、多十郎のような根無し草で、いわゆる「ダメな男」に恋することはないですね、絶対。
― 「殉愛」は理解できるけれど、多十郎のような「ダメな男」に殉愛するのは理解できないと(笑)。
多部 : 危険な男性に惹かれる気持ちは理解できるのですが..(笑)。
― 今作を撮られた中島貞夫監督は、映画『木枯し紋次郎』(1972)『新・極道の妻たち』(1991)などの傑作を撮り続けてきた84歳の巨匠です。製作発表の会見で、多部さんは「中島監督のために頑張りたいという気持ちが湧いてきました。一種の恋だよねと、高良くんと話していました」とおっしゃっていましたね。
多部 : あれは恋だったと思います(笑)。スタッフさんもキャストの皆さんも現場にいる全員が、中島監督に恋をしていたのではないかと思うくらい素敵な監督でした。とてもキラキラされているんです。
例えば、現場にいる時に中島監督は杖を持っていましたが、撮影中、塗装されていない山道を誰よりも早くスタスタ歩くのです。杖は必要ないのではと思うくらい、とにかく快活でした(笑)。
― 杖を刀として使って“ちゃんばら”を指導されたそうですね。高良さんが、その様子を「『スター・ウォーズ』のヨーダが持つライトセーバー」と、例えられていました。
多部 : ちゃんばらを愛し、映画を愛し、今まで生きてこられた方。撮影現場にいる人を尊敬して、信頼していることが、一緒にいると伝わってきました。他の皆さんもそう感じていたと確信できるくらいです。だからこそ、「監督のためならやります」という気持ちがそれぞれすごく強かったと思います。
― 多部さんは今までたくさんの方と一緒にものづくりされてきたと思うんですが、中島監督はどこが違いましたか?
多部 : 「信頼されているな」というのが最初から伝わってきました。そういったことを何か言葉で言われたり、表してもらったわけではないのに、そう強く感じることができました。…不思議ですよね。
私が、現場で演技をしているのを見て、信頼していただいたわけではなく、“おとよ”という役に決まった時点から私をずっと信頼してくださっていたのだと思います。普通であれば、お互い探り探りのところから始まる関係性が、最初から全面的に信頼をしていただいていて、相手にもそれが伝わるということは、なかなかないことだと思います。
― 先ほどの話ではないですが、中島監督のような男性であれば一途に愛することができそうですか。
多部 : そうですね。中島監督のように、自分が好きなものに対して「楽しい」と素直に表現している人は素敵だなと感じます。魅力的ですね。
― 多部さんご自身も、そのように表現される方のように思いますが。
多部 : 私も好きなものは「好き」と表現してしまうタイプです。私がいつか愛する人も、そうであってほしいなと思います。
多部未華子の「心の一本」の映画
― 「心に残る一本の映画」を、PINTSCOPEではインタビューしたそれぞれの方に聞いているんですが、以前、女優の有村架純さんに伺った際、多部さんが出演されている『ピース オブ ケイク』(2015)を挙げられていました。
多部 : 本当ですか? とても嬉しいです!! 伝えていただいて、ありがとうございます。
― 多部さんの「心の一本」を教えていただけますか。
多部 : 『きみに読む物語』(2004)です。たまたまDVDを借りて家で観てハマった一本なのですが、どのシーンも美しくて何度も観たくなります。
― 身分違いの恋愛、そして純愛とは何か? を描いた映画ですね。『ラ・ラ・ランド』(2017年)での好演が記憶に新しい俳優ライアン・ゴズリングが主演です。人を愛することは、理屈ではないんだなと改めて思わされました。
多部 : 喧嘩するシーンがとても多い恋愛映画です。けれど何度喧嘩しても、好きだから二人はまた一緒になる。周りの人は二人を引き離そうとするのですが、二人は時間を経てまた出会って、恋をする。私も、こういう恋愛をしてみたいなと思います。
― 心の一本である『君に読む物語』を観たくなるタイミングってどんなときでしょう?
多部 : 「恋愛したいなぁ」っていう気持ちになった時ですね。だから恋愛映画は普段から結構観ています(笑)。私は、気持ちが沈んでいる時には「観たら悲しくなる映画」を観て、幸せな気分の時には「観たら幸せになるような映画」を観るんです。
― 自分のその時の感情を、映画を観ることによってマックスまで高めるということですか!? では、落ち込んでる時には…。
多部 : 映画を観て、とことん凹みます(笑)。そして、幸せな時はとてもテンションが高くなります! ですが、そんなに落ち込む方ではないので、よく家で流している映画はディズニーの映画です。幸せな気持ちを高めてくれるので、BGMのように流れていますね。
― 多部さんは旅先で写真を撮ることもお好きだと伺いましたが、写真を撮ったり映画を観たり、そして役者として演技をする。そのように表現のそばにいるということは人生において、どういう意味がありますか?
多部 : 挑戦ですね。「自分は何ができるのか」を問う挑戦。それらに関わることは、“楽しい”だけではありません。「これでいいのだろうか?」という不安にも直面しますし、自分にとってプラスになることばかりではないですが、そうでないと人生つまらないと思っていて。飽き性の私が唯一好きでい続けいられているもの、他に置き換えることができない存在ですね。