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やっぱり大切な誕生日
2021年の秋、はじめて配信の映画を購入した。
ミランダ・ジュライが監督・脚本を手がけた映画『さよなら、私のロンリー』が配信スルーでしか観られないというので、きっと繰り返し観るだろう自分の行動を想定して、レンタルではなくて、購入を選択した。
お気に入りの映画は、DVDやBlu-rayで購入するというマイルールがある。嵩張るけれど、円盤が、デザインをあしらわれたケースに入っていることも、私にとっては大いに意味がある。形がないものにまだまだ不安を感じる昭和生まれの自分に何度も言い聞かせて、ついに20年近い個人的しきたりを打破する、記念すべき1作となった。
どこにでもありそうなのに、どこにもない世界。
それが、ミランダ・シュライがつくる物語の世界。
『君とボクの虹色の世界』『the Future ザ・フューチャー』に次いで三作目となる本作にもその世界は健在だ。
彼女のつくる物語に触れると、人が生きる姿を俯瞰して観る感覚へ誘われる。人生って、簡単そうなのに複雑だよねって代弁してくれて、物語に登場する生きものすべてに、少しずつ自分が投影されているようにも感じる。おじいさんもおばあさんも、子供も青年も動物も、誰もがみな私みたいだなって思えて、まるで物語の主人公のような体験をしてしまうから、何度も何度も再生する中毒性がある。
『さよなら、私のロンリー』は、ロサンゼルスを舞台に、母親と父親と娘一人からなる三人の家族が、生きるために詐欺や窃盗を繰り返して暮らす姿を描く。
宝くじが当たったホームレスの恩恵にあやかり、彼の名前がつけられた娘のオールド・ドリオは、両親から「普通」に愛されることなく、詐欺や盗みの共犯者として育てられてきた。25年の歳月で、自分が置かれた環境に疑問を抱くことはなかったが、飛行機の中で知り合ったメラニーが、一家の犯罪計画に加担するようになることで、家族の関係に変化が生まれるのだ。
自由な身のこなしで人生を楽しむ、メラニーという新しい価値観に触れたオールド・ドリオは、心の奥の方に眠っていた両親への違和感を口にする。ハニーと呼ばれたこともなければ、誕生日プレゼントをもらったこともないし、一緒にパンケーキを作ったこともないと…。
ある日、メラニーの家に匿われるようにして家族から離れたオールド・ドリオの元へ、17個の誕生日プレゼントが届く。そして、18歳の誕生日は一緒にお祝いしようと、両親からディナーに招待される。生まれてはじめての誕生日会だ。
今度の誕生日で26歳になるオールド・ドリオをおちょくっているのか、本当に正しい年齢を知らないのか、不可解ではあるが、とりあえず向かった高級レストラン。約束通り着席していた両親が、突然、ぎこちなくバースデー・ソングを口ずさみ、1本の蝋燭が灯された1ピースのケーキが、小皿に載って彼女の前へと運ばれてくる。そうして、念願の“誕生日会”を終えた一つの家族は、次の日から新しい家族の物語を紡ぐのかと思いきや…娘は、両親から見事な裏切りに遭うのだ。
思い返してみれば、そのケーキは、なんだか腑に落ちない佇まいだった。スポンジとスポンジの間にベリーソースと生クリームが遠慮がちに顔をのぞかす。小さなお皿に頼りなく立たされているけれど、形が四角柱なものだから、三角ピースにある倒れてしまいそうな危うさの不在が寂しい。それに、蝋燭は一1本。
25年の時間をかけてふくらんだ妄想のバースデーケーキは、もっとおおげさに気取ったものだった。「プレゼントのオーラ」をきらきらと纏いながら、丁重に運ばれてくる。そっと目の前に置かれたところで、目を瞑って蝋燭を吹き消して…。緊張しながらナイフを切り入れ、人数分のお皿にとりわけたら、一口食べてにんまり。そのあと、家族や友人と目くばせして、甘さやおいしさを分かち合う。誕生日会の風景ってそういうものだと思っていた。
なんて、オールド・ドリオが心の中で話す声が聞こえたような気がして。
完全に私の妄想だけれど、でもきっと、静かに自分の誕生日を嘆いた彼女に、私の妄想を捧げたい。この映画をみ終わって、私はまず、そう思ったのだ。
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おまけの話
“パティスリーの時代”だった15年くらい前、私が可愛い! って思うケーキは、世の中にそんなに多くはなかった。そんな中出会った「ベルグの4月」のアントルメグラッセ(アイスケーキ)。サーティーワンくらいしかアイスクリームケーキを知らなかった私に、雷が落ちた瞬間だった。
子供の頃から私の誕生日は、いつもアイスクリームケーキだった。当時スポンジ生地が食べられなかった私が唯一食べられたケーキだったから。ケーキが食べられない私でも食べられるケーキがあることにすごくすごく感謝していた。(サーティーワンよありがとう)
漠然とお菓子の仕事をしようと考えていた頃、自分のブランドのアイデアの一つにアイスクリームケーキ専門店があった。けれど、ベルグの4月に出会って、もうこんなに素敵なアイスケーキを作るお店があるなら、私がやる必要はないって、そう思ったことを今でも覚えている。
ベルグの4月さんへ、ずっとずっと、アントルメグラッセを作り続けてください。
ケーキが好きな人も、ケーキを食べられない人も、楽しむことができるケーキがあるって、なんて幸せなことだろう。
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◯今回ご紹介したバースデーケーキ:
「ベルグの4月」のアントルメグラッセ サンモレ
◯店舗情報
住所:神奈川県横浜市青葉区美しが丘2-19-5
電話番号:045-901-1145、0120-444-148(フリーダイヤル)
FAX:045-904-4652 営業時間:9:30~19:00
休業日:設備点検のため、1月1日と年2回お休み有り
住所:神奈川県横浜市青葉区美しが丘1-1-2 たまプラーザテラス1F
電話番号:045-904-3844(TEL/FAX)
営業時間:10:00~20:00(2021年1月8日より当面の間)
休業日:たまプラーザテラスの休館日に準ずる
※新型コロナウイルス感染拡大により、営業時間・定休日が記載と異なる場合がございます。ご来店時は事前に店舗にご確認ください。