そんな自分にとって特別な、そして誰かに語りたい映画体験記。
あなたが今映画を一緒に観たい、届けたい人は誰ですか?
この春、三年半勤めた会社を先の予定も決めぬままに退職しました。そんな新たな門出に待っていたのは、まさかの新型ウイルスの感染拡大とそれに伴う緊急事態宣言。属するところを持たない私は貯金を切り崩しながら少しずつ在宅で仕事をし、不安な気持ちを抱えながら引きこもり生活を送りました。周りを見渡しても、感染リスクと向き合いながら保育の仕事を行う妹や、生活インフラを支えるために出勤を続ける友人など、大切な人たちがそれぞれの場所で頑張っている様子が伝わってきます。近所の店も休業や短縮営業に入り、少しでも貢献するためにテイクアウトの利用やクラウドファンディングへの参加を行うなど、私も消費者としても試行錯誤しています。
変わってしまった世界で誰もが工夫しながら日々をおくるなか、充分な補償のないままに自粛を要請される現状へ、怒りの声が上がりました。しかし先の見えぬ生活に少しずつ消耗し、肩を落とす人は少なくありません。私自身、「どうせ何を言っても変わらない」と落胆し、情報を遮断して怒ることをやめてしまう日もあります。
そんな時に思い出したのが、『わたしは、ダニエル・ブレイク』です。イギリスのニューカッスルで大工として働くダニエル・ブレイクは、心臓の病を患い医者から仕事を止められるも、複雑な制度に阻まれて必要な国の援助を受けることが出来ません。悪戦苦闘する彼は、ある日シングルマザーのケイティと二人の子どもを助け、交流が生まれます。お互いに支えあい日々を送るダニエルとケイティたち。しかし彼らを待ち受けていたのは、厳しい現実でした。
劇中で描かれている社会システムの不条理は、この国で私たちが直面している現実にほかなりません。そして現在のような困難な状況で弱い立場に立たされたとき、わたしはつい無力感から口をつぐみ、真っ先に自分のことを責めてしいます。しかしダニエルは、どんな状況でも決して声をあげることをやめません。犬がアパートの庭に糞をしたにも関わらず始末をしない飼い主にも、ジョブセンターでケイティの話を聞こうとしない職員にも、思いのたけを壁に書きなぐるときも、彼はおかしいと感じたことにはためらいなく怒ります。たとえ下手くそでも無視されたとしても「おかしい」と感じたことを率直に伝え、自分の置かれている場所・環境から自らの権利を主張していく彼の姿は、「一人一人が声をあげることによって、社会や自分の生活を変えることができるかもしれない」という希望とその大切さを、私の胸に届けてくれます。
遠く離れて暮らす家族や近くにいても会えない友人たちと、映画を観たり直接会ってお喋りができたりする日はまだ先です。その日まで、声をあげられる元気のある人には、ちゃんとその思いを伝えてほしい。そして不安な気持ちで過ごす大切な人にも、ダニエルの強くて優しい姿が届いてほしい。そんなことを願いながら、私も狭いワンルームで奮闘しています。
- 介護の中、夢を捨てずにいられたのは、あいつの「ただいま」が希望に向かわせてくれたから。映画『大脱走』
- 眠れない夜に私を救ってくれたのは、70年前の名作ミュージカル映画だった 『雨に唄えば』
- ままならない家族への感情……それでも確かに愛してる。『シング・ストリート 未来へのうた』で描く私の夢
- 嘘の中の紛れもない「リアル」。 いつまでも彼の踊る姿を観たいと思った 『リトル・ダンサー』
- 「どんな自分も愛してあげよう」 肩の力を抜くことができた『HOMESTAY(ホームステイ)』
- 映画って、こんなに自由でいいんだ。そんなことを気づかせてくれた『はなればなれに』
- 日々の選択を、愛ある方へ。自分を大切にするための映画『パパが遺した物語』
- 大丈夫。あなたが私を忘れても、私があなたを思い出すから 『43年後のアイ・ラブ・ユー』
- どうしたら色気を醸し出せるのか!?核心を隠すことで見えてくる、エロティックな世界『江戸川乱歩の陰獣』
- 幸せになるには、まず「幸せに気づく」こと。こんな2020年を希望にかえて締めくくる『食堂かたつむり』
- 仕事も休めばいい、恋もなんとだってなる。人生の舵は、自分が握っているのだ『嗤う分身』
- 号泣したワンシーンが、思いを届けるきっかけになる『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』
- 「私の人生、まんざらでもないのかも」見過ごしていた“当たり前”に魔法がかかる『顔たち、ところどころ』
- 東京という大きな「生き物」が、 人生の岐路に立つ人を静かにつつんでくれる『珈琲時光』
- 狂気を殺さない!愛してみる。生きていく『逆噴射家族』
- 動き出さない夜を積み重ねて、たどり着く場所がきっとある『ナイト・オン・ザ・プラネット』
- 時代の寵児バンクシーの喜怒哀楽や煩悶を追体験!?観賞後スカッとするかしないかは自分次第… 『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』
- 「帰省」を疑似体験。離れて暮らす父親の素っ気なくも確かな愛情『息子』
- 90分でパリの100年を駆け抜ける!物足りない“現在”を笑って肯定しよう!!『ミッドナイト・イン・パリ』
- 映画の物語よりも、そこに流れる「時間」に没入する 『ビフォア・サンセット』
- 慣れない「新しい生活」のなかでも、人生に思いきり「イエス!」と言おう!『イエスマン “YES”は人生のパスワード』
- 夢や希望、生きる意味を見失った時、再び立ち上がる力をくれた映画『ライムライト』
- 人の目ばかり気にする日々にさようなら。ありのままの自分が歩む、第二の人生。 『キッズ・リターン』
- 人に嫌われるのが怖くて、自分を隠してしまうことがあるけれど。素直になりたい『トランスアメリカ』
- 成功は、競争に勝つことではない。 「今を楽しむ」ことを、教えてくれた映画『きっと、うまくいく』
- それぞれの場所で頑張る人たちへ 「声をあげよう」と伝えたい。その声が、社会を変える力につながるから『わたしは、ダニエル・ブレイク』
- 僕が笑うのは、君を守るため。 笑顔はお守りになることを知った映画『君を忘れない』
- 心に留めておきたい、母との時間 『それでも恋するバルセロナ』
- 「今振り返っても、社会人生活で一番辛い日々でした」あのときの僕に“楽園”の見つけ方を教えてくれた映画『ザ・ビーチ』
- “今すぐ”でなくていい。 “いつか”「ここじゃないどこか」へ行くときのために。 『ゴーストワールド』
- 極上のお酒を求めて街歩き。まだ知らなかった魅惑の世界へ導いてくれた『夜は短し歩けよ乙女』
- マイナスの感情を含む挑戦のその先には、良い事が待っている。『舟を編む』
- 不安になるたび、傷つくたび 逃げ込んだ映画の中のパリ。 『猫が行方不明』
- いつもすぐにはうまくいかない。 自信がないときに寄り添ってくれる“甘酸っぱい母の味”『リトル・フォレスト冬・春』
- 大人になって新しい自分を知る。 だから挑戦はやめられない 『魔女の宅急便』
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- 振られ方に正解はあるのか!? 憧れの男から学ぶ、「かっこ悪くない」振られ方
- どうしようもない、でも諦めない中年が教えてくれた、情けない自分との別れ方。『俺はまだ本気出してないだけ』
- 母娘の葛藤を通して、あの頃を生き直させてくれた映画『レディ・バード』