目次
「人と違っても、君はそのままでいいんだよ」
やさしい映画をいつも届けてくれた山田真歩さん
(かわぐち)
わたしが実現に向けてPINTSCOPEで初めて関わった企画が、女優・山田真歩さんのコラム連載「やっほー!シネマ」でした。以前から、山田さんのブログに載っているチャーミングな絵と文を見て、「高峰秀子さんや岸田今日子さんに続くような、“書く女優さん”を見つけた!」と感激し、いつか執筆のお仕事をお願いしてみたいと思っていたのです。そんな憧れの方に連載を依頼し、二つ返事でOKしてくださった喜びといったらありませんでした。
第3回までは、役者というお仕事に関わる文章を綴っていた山田さん。それももちろんおもしろいのですが、わたしがブログで特に好きな記事は、山田さんの日常のできごとや、日々感じていることが書き綴られたものでした。そこで一度、「お仕事から離れた、ご自身のことも書いてみてほしい」というリクエストをしてみました。最初、山田さんは「役者とわたしは切り離せないので…」と少しためらっていらっしゃったのですが、書きあがった原稿には、山田さんの子どもの頃についてが書かれていました。それが、第4回「子どもはどうでもいいことばかり覚えている」です。
文中では、両親の書斎を寝室にして『ハイジ』など児童文学を読みふけったり、映画『やかまし村の子どもたち』を観たりして作品の世界に浸り、想像力を培った子ども時代の思い出が、鮮やかに描かれています。
最新の第5回「未来よ こんにちは」では、幼ななじみの女友だちとのことが、ひとりの30代女性として等身大で書かれていて、これまた素晴らしいのです。『やかまし村の子どもたち』や『未来よ こんにちは』など、山田さんが連載のために選ばれた映画を観るといつも、「人と違っても、君はそのままでいいんだよ」と言われているようなやさしさを感じます。そのやさしさという魅力が、山田さんの紡ぐ文章というフィルターを通して、またさらに輝きを増すのです。
だからこそ映画のセレクトをはじめ、山田さんからのご提案が毎回たのしみで、まるでお手紙のように待ち遠しくて。山田さんは、連載の編集を担当するのが初めてだったわたしに、相談しながら作る連載のやりがいを教えてくださいました。
現在は、計9つのコラムがPINTSCOPEで連載されています。映画のセレクトも、それを見つめる視点も、文体の魅力も九者九様。ユニークな連載たちを2019年も、書き手のみなさまと届けていければと思います。
DVD棚で、その人に更に一歩近づくと、
創作のヒントが見えてきた
(あだち)
友だちの家に遊びに行くと、DVD棚を見せてもらうのが昔から好きでした。「最近、何の映画観た?」と話すことはあっても、お互いがどんな映画を観てきたのかについてを話す機会はあまりないものです。
しかも、映画をDVDという”物”として所有するということは、作品に対して個人的な想いが込められているということ。DVD棚は、過去にどんな映画を観てきたかという映画遍歴よりも更に一歩踏み込んだ、その人自身のルーツを垣間見ることのできる場所なのです。
PINTSCOPEが始まってから、たくさんのDVD棚を取材してきました。音楽や映像、絵画やお菓子など、様々な分野で活躍するクリエイターたちのインスピレーションの源が、棚の中には秘められていました。
自宅のリビング、アトリエなど、棚のある場所は人によってそれぞれですが、生活や創作の近くに、ごく自然に映画の存在があるということは共通していました。
家族と観た思い出の映画、怖くて夜も眠れなかった映画など、自分の心が動いた瞬間、その記憶をすぐに取り出すことができるDVD棚は、何か大切なお守りのようにも見えます。
同時にそこには、同じクリエイターとしての、映画の作り手に対するリスペクトや憧れも詰まっていて、それがバトンのようにつながり、また新しいクリエイションへと続いていくのだなと感じました。
ところで、いくつかのDVD棚を訪ねていると、前回の棚で見かけた映画が今回も並んでいるという偶然がよくありました。そして、かなりの高確率で多くの棚に並んでいた映画が、実は『グーニーズ』(1985年)でした。海賊の財宝をめぐる少年たちの冒険活劇。記事の中で特別にフォーカスが当たることはないものの、どんなDVD棚にも並ぶその存在感は不思議と印象に残っています。私も大好きなこの映画。いつか、大切な一本としてのエピソードが聞ける日を密かに心待ちにしています。
もがきながらも、光に向かって突き進む
その姿に勇気をもらった1年
(はさだ)
PINTSCOPEの取材を通して出会った方々はいい意味で、人間くさく、生きることに懸命。同時に、自分自身と同じような懸命な人が好きで、どんな人も「認める」広い心を持っていました。
特に、タップダンサー・熊谷和徳さんの言葉は力強いものでした。19歳で渡米し、現在41歳。実力主義のNYで世界トップクラスの表現者たちと切磋琢磨し、自分の生きる道を見出した熊谷さんのタップは、時に寂しく、時に喜びに満ちています。「自分にとって表現することは、精一杯生きること」「”命と光”というものをポジティブに共鳴させたい」病弱だった子どもの頃に救急車から見た星の輝きが表現の始まり、というエピソードの強さにはグッとくるものがありました。信じた表現に向かって進み続ける姿と言葉には嘘がなく、表現したいと願うすべての人によんでほしいと思ったインタビューです。
そして、スタート時から連載を担当している大下ヒロトさんも、東京と地元・岐阜の夜空を仰ぎ、日々の繊細な感情の揺れをひとりの表現者として書き残してくれています。いいことも悪いことも、世間に惑わされず、自分の尺度で言葉を見つけようとするそのまなざしの懸命さは、心震えるものがあります。「青春」や「友だち」など、青々しいテーマからつむぎだされる言葉は、きっと多くの人が見失いかけていた気持ちを思い出させてくれるだろう、と。
人の選択は個々のものであり、正解や不正解なんてない。もがきながらも見つけた、ささやかな光の方に向かって突き進む熊谷さんや大下さん、そしてお話を聞いたみなさんからとても勇気づけられました。そんな彼らを勇気づける存在として、誰しもに大切な1本の映画が存在しています。これからも、力となる大切な1本を、光の射す方へと導いてくれる映画との出会いを届けていきたいです。
2018年、わたしの初体験。
大人だからこそ、わかる「愛」があった
(すずき)
大人になっても初めてのことって、まだまだあるもので、2018年はわたしにとっての初体験がありました。それは「映画館でホラー映画を観たこと」です。
きっかけとなったのは、「愛しちゃったのよ vol.04 ホラー映画のない人生なんてムリ! 好奇心を刺激する唯一無二の存在」の取材に立ち会ったこと。
今まで映画は大好きなのですが、ホラー映画だけは気がすすまず、わたしの選択肢の中にありませんでした。ましてや映画館で観るなんて、とってもハードルの高いこと。なぜなら、小学生の時に日曜洋画劇場で観た『エイリアン』(`79)がトラウマとなっているからです。
得体の知れない者に追われ続ける恐怖(しかもエイリアンは全然死なない!)や、どんどん仲間が殺されて最終的に一人になってしまうという孤独という恐怖など、あの”不安しかない”体験が、幼い私には刺激が強すぎたようで、以降、ホラー映画を積極的に観ることはなくなりました。
このインタビューの企画が決まった時、「ホラー映画か…あんまり興味ないな…」と正直思っていたのです。
しかし、お話を伺った大久保さん(松竹(株) DVD/BD開発担当)と西川さん(DVD&動画配信でーた 副編集長)が目をキラキラさせながらイキイキとホラー映画を夢中で語る姿を見て、「今までホラー映画を避けて生きてきた私は、ひょっとしてすごく損していたの…!?」という気持ちに。特に大久保さんが語った、ホラー映画で描かれる「愛」の見せ方についてには感銘を受けました。そういう視点もあるのか!…と、いつの間にかホラー映画に興味が湧いていたのです。
その取材以降、すっかり考えが変わってしまった私はついに、今年の話題作である『へレディタリー/継承』を観に映画館へ足を踏み入れました。結果は、大満足。大人になった今だからわかるカメラワークや音響での恐怖の演出、そして「大久保さん視点」でこの作品に込められた「愛」も鑑賞。わたしはホラー映画を充分に堪能できたのでした。
2019年も、新たな世界が広がるきっかけとなる映画体験を、記事を通して読者の皆さんにお伝えしていきたいと思います。
わたしたちは生きている
それを受け止め、伝えるということ
(編集チーフ・おばら)
「どうしても映画の側で仕事がしたいんです」
36歳の彼女は私にそう言いました。
PINTSCOPEを立ち上げるにあたって、”映画が好きな人”という条件でスタッフを募集したところ、彼女がやってきました。これまで全く別の職種で、ある程度の地位を築いていたにも関わらず、それを全て捨てても映画に関わる仕事にチャレンジしたいと。
0からのスタート。その分、ひとつひとつの仕事も時間を要し残業つづき、給料も前より安い。それでも「楽しくて仕方ない!」と彼女は言いました。休みの日も、家の近くの名画座に足繁く通い、映画のイベントなどにも頻繁に参加している様子。
「……好きだねー、映画。」
PINTSCOPEで取材に立ち会ったり、原稿を読んだりするたびに、何度このセリフを心の中で呟いたことでしょう。例えば、インタビュー原稿は、取材した方へ確認を通すのですが、その際、こちらが伝えたいことを汲み取って、更に加筆して頂いた方が大変多いことに驚き、感銘しました。
「映画が好きだ」それは、監督や俳優といった肩書きは関係なく、また、これまで観た本数でも知識量に比例するものでもありません。強いていうならば「生きることに真摯」とニアイコールなのではないか、とさえ感じます。つまり、心に1本の映画を持っている人は、自分の心に感じたことを素直に受け止め、人生を歩んでいるように思ったのです。それは、言い過ぎでしょうか。
映画には人が映っています。そして、その一人一人に感情があります。それは橋口亮輔監督がインタビューでおっしゃったように、世界を越え、時を超える”普遍的なもの”です。つくられた時期や場所に関わらず、映画で描かれた人生に心を動かされ、それを栄養にして生きていく。映画のある人生って、なんて自由で素敵なんでしょうか!
「僕は僕は…」と謙虚ながらも、映画制作に対する想いは誰にも揺るがされることがない深田誠剛プロデューサー、80歳が近いにも関わらずまだまだ映画が撮りたいと語る木村大作監督、大作はちょっと疲れたと言いながらも、撮ってみたい作品には超大作の題名をあげる大友啓史監督、やってみたい職業はたくさんあるし、挑戦していきたいと語るオダギリジョーさん、人生に迷った経験を隠さず自分の言葉で語れる有村架純さん…。PINTSCOPEで様々な方にお話を伺えば伺うほど、こんな大人がいるなら未来は明るいと感じたのでした。
2018年PINTSCOPEでは、様々な方の心に残った270本の映画についてご紹介してきました。そのすべての映画を一覧“ALL FILM GALLERY”にしてみました。あなたの気になっていた1本が、誰かにとっての特別な1本であるかもしれません。このページはこれから、どんどん進化させていければと思いますので、これからも是非注目してご覧ください。
来年は、クリエイターの方々だけでなく、より私たちに近い「映画を愛する人」の物語も届けていければと思っています。2019年もPINTSCOPEは、今のあなたにとって特別な1本の映画に出会えるよう、人と映画の物語をひとつひとつ丁寧にお届けしますので、どうぞよろしくお願いいたします!
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