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映画の言葉『小さいおうち』恭一のセリフより

「そんなに苦しまなくていいんだよ」

Ⓒ2014「小さいおうち」製作委員会
映画の中の何気ない台詞が、
あなたにとっての特別な“言葉”となり、
世界を広げ、人生をちょっと豊かにしてくれるかもしれない。
そんな、映画の中の言葉を紹介します。

そんなに苦しまなくていいんだよ

By 恭一

 『小さいおうち』より

「Truth or Dare?(真実か挑戦か)」というパーティーゲームをご存知ですか? “Truth”を選んで質問に正直に答えるか、“Dare”を選んで命令に挑戦するかを選択するのがルールです。例えば「誰にも言ったことがないあなたの秘密は?」 と質問されることがあるかもしれないこのゲームで、あなたは、躊躇なく“Truth”を選ぶことができますか?

『小さいおうち』の舞台は昭和初期。タキ(黒木華)は、赤い屋根の小さなおうちで女中として働き始めます。華やかで美しい雇い主の妻・時子(松たか子)を慕い穏やかな日々を過ごすタキ。やがて時子は主人の部下である青年・板倉(吉岡秀隆)と親密になっていきます。しかし、戦争は容赦なく時子と板倉を引き裂こうとしていました。ふたりの不倫を知るタキは大きな葛藤を抱えつつ、ある行動を取るのですが……。

数十年後。老人となったタキ(倍賞千恵子)は親戚の青年・健史(妻夫木聡)に言われて、自身の半生を文章にしていきます。しかし、ある場面を最後に執筆は止まり、そのうちタキは亡くなってしまいました。健史は時子の息子・恭一(米倉斉加年)を探し当て、一緒にタキの遺品の中にあった手紙の封を開けます。そして、タキが犯した小さな罪を知るのでした。

母親の不倫とタキの罪を知った恭一は、タキにこう伝えたいと語ります。

「そんなに苦しまなくていいんだよ」

誰にも打ち明けられなかったタキの密かな恋心と小さな罪。

「君の小さな小さな罪は、もうとっくに許されているんだからね」

この許しの言葉の力はとても大きく、健史はタキを想って泣き崩れます。何十年もタキを縛り付けていた後悔が、この短い言葉によって空に溶けていくような気がしました。

「Truth or Dare?」の選択を迫られたとき、「Truth」と答えることを躊躇するような秘密や後悔は、きっと誰にでもあるはず。誰にも伝えられないと心の中にしまいこんでいたあなたの想いを、勇気を出して誰かに打ち明けてみたら、苦しみが溶けていくかもしれませんよ。

↓『小さいおうち』の原作本を読む!

◎小さいおうち(文集文庫)

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BACK NUMBER
FEATURED FILM
小さいおうち
監督:山田洋次
原作:中島京子(文春文庫刊)
脚本:山田洋次 平松恵美子
音楽:久石譲

キャスト:
松たか子 黒木華 片岡孝太郎 吉岡秀隆
妻夫木聡 倍賞千恵子

2018年5月2日リリース
発売・販売元:松竹

Ⓒ2014「小さいおうち」製作委員会
昭和11年。田舎から出てきた純真な娘・タキは、東京郊外に建つ少しモダンな、赤い三角屋根の小さなお家で奉公することになった。そこには、若く美しい奥様・時子と、旦那様・雅樹、そして、可愛いお坊ちゃまが、穏やかに暮らしていた。しかしある日、一人の青年・板倉が現れ、奥様の心があやしく傾いていく。タキは、複雑な思いを胸に、その行方を見つめ続ける…。
それから60数年後の現代。晩年のタキが大学ノートに綴った自叙伝には、“小さいおうち”で過ごした日々の記憶が記されていた。残されたノートを読んだ親類の健史は、秘められ続けてきた思いもよらない真実にたどり着く。
PROFILE
映画・演劇ライター
八巻綾
Aya Yamaki
映画・演劇ライター。テレビ局にてミュージカル『フル・モンティ』や展覧会『ティム・バートン展』など、舞台・展覧会を中心としたイベントプロデューサーとして勤務した後、退職して関西に移住。八巻綾またはumisodachiの名前で映画・演劇レビューを中心にライター活動を開始。WEBサイト『めがね新聞』にてコラム【めがねと映画と舞台と】を連載中。
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